派閥
俺は気づいてしまった。
さっきはレティの思惑通りになっているのかと思ったのだが、少数ではあるが男子生徒の中にレティに熱い眼差しを向けているものがいる。
気づいたばかりの時は、同じような奴がまだいたかなどと思ったのだがどうやら違うらしい。
何故なら、訓練場に白目を剥いて倒れている男子生徒に羨望の眼差しを向けているからだ。
「このクラスにはあんな奴らばかりなのか?何故かセレスティアに謝りたくなってくるな。」
俺は今、自分の顔の表情を誤魔化せている気がしない。
セレスティアを助ける方に大きく傾いていた天秤が、この男子達のせいで急速に傾きが戻っていっている。
「あの冷たい瞳を向けながらの容赦のない攻撃。更に心が折れて気絶するまで一切の隙を見せずに、攻撃は当たりそうで当てない。まったく、リロンコが羨ましいぜ。」
リロンコて。
あいつそんな名前だったのか。いくらなんでも自己主張が激しいのではないだろうか。
「お、お前、あれを見てこ、怖くなかったのかよ⁈それにお前、セレスティア様派じゃなかったか?」
「何言ってんだよ。あんな美幼女が冷徹な瞳で容赦のない攻撃をしてくれるんだぜ?むしろご褒美だろ!」
今、このクラスの男子生徒が二つの派閥に分かれている。
レティの容赦のなさに恐れを抱き、更にセレスティアの優しさに陥ちた、セレスティアに優しくされたい派。話を聞いていると、セレスティアは超優しいらしい。
もう一派は、今の攻防を見て恐れではなく羨みを覚えた、レティにお仕置きされたい派である。
まあ、少数まともな人達は残っているようだ。
「美幼女?何故か今までで一番嫌な響き。撤回して。」
美幼女発言をした男の影が伸び、それが襟元を掴み空中に吊し上げられる。
それをやったのはちょうど今ここまで来たレティだ。
「撤回しなかったらどうなるんですか、レティ様!むしろ撤回しません!」
「む、貴方達面倒そう。仕方ない、我慢する。」
影を操るのをやめ、男を解放するレティ。
関われば関わるほど面倒なことがわかったようだ。しかも様呼びだ。何が彼をそこまでさせるのか。
ドサっと落とされた男は甘い吐息を吐いている。やばい奴だな。
「おかえり、レティ。俺のためだったんだろ?ありがとうな。」
「大したことでもない。でも、どうしてもお礼というなら撫でて。」
「それで良いのか?そんなのいつでもやってやるのに。」
「それがいい。」
じゃあ、撫でさせてもらうぐらいの気持ちで撫でる。
優しく、髪を空くように。
レティは特に頭を撫でられるのが好きなようだ。俺も気がついたら撫でている時があるが、レティからせがんでくる時もある。
俺の場合は、撫でやすい位置に頭があるので手持ち無沙汰になったら撫でるのが癖になっている感じだ。
「ん、いつもと同じ。似ている。」
そうか?いつもより丁寧にしているつもりなんだが。
それに、似ているとはなんだろう。レティは撫でられている時、懐かしむような顔をする。
「ほぅ、あんなに迷惑そうに撫でられておったのに今では自分から撫でられに行くのか。変わったのぅ、レティ。」
「む。うるさい。未だに友達の少ないナイアスに言われたくない。変われないより、変われた方がいい。」
弄られるレティは新鮮だな。
「べ、べ、別に妾はそこまで必要としてないだけなのじゃ!」
「時々、遊びに行っている私に感謝するといい。」
「最近は来なかったではないか!妾は寂しかったのじゃぞ!」
「遂に本音を吐いた。私の勝ち。」
ニヤリとした笑みを浮かべるレティ。
こんな表情もするんだな。新たな表情を見ることが出来て嬉しい反面、それを向けられているのが俺ではないことが少し悔しくもある。
「計りおったな!くっ、まあ良い。それにしても、やっとレティにも妾以外に友らしい友が出来たようじゃの。メイダースも安心しとるじゃろうて。」
「仕返しのつもり?でも、多くないのは本当のことだから何も言えない。」
「そんなつもりはなかったんじゃが。メイダースも色々と知らなかったからのぅ。最期の時、レティのことを心配して妾に頼むと言われたが妾が頼まれてほしいぐらいじゃったわ。」
メイダースって誰だろうか。
でも、レティもナイアスも楽しそうに話してるからいい思い出なのだろう。
「最期くらいは教えて良かったかもしれない。だけど、メイダースも余計なお世話。大体、イリヤに頼まれたのは私の方。」
「そういえばそうじゃったな。妾はそろそろ戻るとするかの。レティよ、友かそれ以上かは知らぬが大切にするんじゃぞ。お主、名は?」
俺か?周りには俺以外いない。
今は、男子は二派閥であーだこーだ言い合っている。
残りの少数男子と女子生徒達はそれを呆れた眼差しで見守っている。
ルロイ先生は気絶した男子生徒を連れてレティと入れ替わるように何処かへ行った。今はそれ待ちだ。
クオ、リル、セレスティアとラヴィ、ディアナは耳を塞ぎたくなるような俺の様々なことについて話している。どんな所がいいとか、ここは少し直してほしいけどそこもまた、とか話し出したので逃げ出した次第だ。
「俺、しかいないな。俺は光太だ。」
「光太か。妾は水の精霊、ナイアスじゃ。レティを宜しく頼むぞ。ついでに妾とも友になってはくれぬか?レティが気に入っておるのじゃ、間違いない。」
「俺の方がお世話になってるんだがな。まあ、頼まれるよ。俺でよければ宜しく。」
「おぉ、そうかそうか。宜しく頼むぞ!」
承諾したらやけにハイテンションになったな。
そんなに友達に飢えていたのか?まあ、地球の頃にボッチライフを満喫していた俺からすれば分からなくもない。
ただ、この精霊然り、クオやレティ然り、その年月は俺とは比べ物にならないだろうが。
「結局ナイアスもメイダースと同じ。お節介。違うのは、ナイアスはメイダースより強欲。」
いたずら顔を覗かせるレティがそう言う。
「妾は今、すこぶる機嫌が良いのじゃ。何を言われようと許すのじゃ。今度こそ、本当に帰るのじゃ。最後になったが、」
今までの穏やかな話し方とは打って変わり、真面目な表情を作るナイアス。
「レティはこの世界でいっとき過ごすのかの?」
「ん、そのつもり。多分、メイダースの時よりも長い。」
「それならば話しておこうかの。今、ここより東側がきな臭くなっておる。帝国を中心として何かが起こりそうじゃ。この国も間に竜王国があるとはいえ何かしらの影響は受けるじゃろうな。」
また帝国か。名前を聞くときは絶対悪い噂だな。
「まあ、それくらいじゃの。この世界にいるのなら妾も会いやすくなるのじゃ。また近いうちに会おうぞ。またの。」
その言葉を最後にその場から消えるナイアス。
あー。帝国って敵フラグを乱立してくるよな。ここまであからさまだと、逆に清々しか思えてくるな。
それからは、まだ俺の話をしているクオ達の輪の中に入る勇気もなく、かといって未来?現在?どちらでもいいが名前も知らないクラスメイトに話しかけるコミュ力があるわけでもないので、そのメイダースの話、レティの過去話を聞いてルロイ先生が戻ってくるまで過ごした。
戻ってきてからはみんなで猛ダッシュだ。
カルディナが一人先に行ってしまったので待たせている。何言われるか分からないし、先に手が出てくる可能性大だ。
大体、一人で先に行くのも悪いと思う。
こうして、やっと訓練場を後にするのだった。
メイダースの知らない事とはレティの素性に関する全て、神であることなどです。




