手の温もり1
レティの一人称視点です。
少し読みづらいかもしれません。
「ロアは人使いが荒い。帰ったら絶対抗議する。」
私は今、とある世界で起きた異変の原因を調べ解決する為に下界に降り立っていた。
「聞いてた通り。これは変。」
辺り一面の銀世界。今いるのは山の中腹あたりでなかなかの絶景。
綺麗だとは思うが、この景色を楽しむには長い時を過ごしすぎている。
しかし、その絶景から感じる違和感。
降り積もった雪を被った木々は、その葉を青々と茂らせている。それが針葉樹だったならば何も思わない。だが、それは広葉樹、大きな林檎でもつけていそうな立派な木。
確かに魔力の影響を受けた広葉樹は、時々枯れることがなくなったりすることはある。
しかし、辺り一面となるとそれはあり得ないこと。
それに何より、
「真夏でこれは流石にあり得ない。」
問題は広葉樹にはない。問題なのはこの銀世界の方。
こうなった原因を調べるのが今回の私の役目。
来るに当たってある程度の当たりはつけてある。
一つ目は何処かの国が何かを発明したかその失敗か。二つ目は人、魔物問わず強力な個体の出現。三つ目が精霊の暴走。
「三つ目であってほしい。」
私たち神々はメーティスの感知しない世界の異変を解決する役目がある。
その際、人災か自然災害で対応が変わる。
解決するといっても人災の場合は直接的な解決は行わない。あくまでも、そこで生活する人々の一助となる程度に止める。
大きすぎる個体による力での解決は、その後頼りすぎたりすることによりその世界を停滞させる要因になりかねない。
自然災害の場合は解決などはなく、それは自然の摂理として受け入れるべきもの。
何故三つ目がいいのか、それは対応が楽だから。
精霊の暴走には二種類ある。一つ目、他者からの干渉による暴走。魔物化みたいなこと。
二つ目が、自然的要因による暴走。精霊は極めて魔力に近しい存在、だから自然の影響を受け極稀に暴走する。自然の中に漂う魔素が自然災害など何らかの影響で精霊に悪影響を及ぼすこともある。
「精霊の暴走だったら、どちらにしても力押しできる。」
精霊は魔力の塊みたいなもの。
その暴走で起こった災害ならそれ以上の魔力で塗り替えてしまえばいい。
それがもし人為的に起こされていたとしても、時間が経てば元通りになる。
力押しか時間の経過か、どちらにしても時間のありあまる私たちからすれば同じこと。
一つ目と二つ目は面倒。
一つ目はどこの国がどんなことをやってどういう結果になったのかを詳細に調べないといけない。
そんな国家機密を知るのは容易ではないし、調べた後にもどういう対応を取るか考えないといけない。
二つ目はそれとなく英雄を用意したりする。その選出が面倒。ある程度の器がないと力に飲み込まれて、余計な二次災害を生む恐れがある。いなかったら勇者召喚なんてさらに面倒なことになりかねない。
「ん?あれは?」
考えながら目的地を目指していると、倒れている人族の老人を見つけた。
この雪の中を一人で歩くような歳でもないはず。
「仕方ない。」
完全な気まぐれ。人族を一人助けたところでこの異変の中では比にならないほどの命が失われている。
ここに来るまでに見つけた洞窟までその老人を運ぶ。
何か情報を持っているかもしれない。
洞窟に着いたので老人をそっと下ろす。マジックバックから出した毛布をかけて、側に火を起こす。
「休憩。急ぎすぎても仕方ない、」
この山に降り立った理由は、この世界で最大の力を持つ精霊がこの山に住んでいるから。
高位精霊には人格が宿る。
精霊のことは精霊に聞こうと思った。
ここにいればきっと向こうから訪ねて来てくれるだろう。
「少し寝る。」
洞窟の入り口に結界を張り少しの仮眠をとる。
外から魔物が来る可能性もある。結界は必須。
この老人が起きるまでは暇で仕方がない。だから寝る。することが特にない。
拾った手前、放置するのも気が引けた。
ーーー二時間後ーーー
眠っていると外から気配がした。
紛れもなくここに住む大精霊。結界を解く。
「妾の領域に無断で入り込む輩はおぬしかぇ。まだ乳飲み子を脱したほどの歳でよくぞここまで辿り着いたものよな。」
妙齢の女性にしか見えない精霊が入り口の外にはいた。
「しかし、ここは妾の領域。何人たりともここを侵すことは許さぬ。疾く出ていくと良いぞ。」
流石はこの世界で一番強い精霊。その魔力の圧は人間相手なら有無を言わせぬ迫力がある。
だが、私は上級神の一角。この程度何でもない。
「聞きたいことがある。この異変の原因は精霊?それとも人為的なもの?」
「妾に答える意思はない。疾く去れ。でないと、いくら幼子でも容赦はせぬぞ。」
精霊の周りに魔力の奔流が吹き荒れる。
「本気?精霊程度で勝てるつもり?」
仮にも私は属性神。他の上級神よりも魔力の多さには自信がある。
老人に被害が及ばないように周りに結界を張り、魔力の一部を解き放つ。
「なっ⁈何という魔力の奔流!一体何者じゃ!」
「質問しているのはこっち。答える。」
さらに少し魔力を解き放つ。
「くっ。分かったのじゃ、知っていることは話すからこの魔力を抑えてほしい。」
余りに強い魔力の奔流はさしもの精霊でも辛いものがあったはず。
「ふぅ。こんなことは初めてじゃぞ。それでこの異変のことよな。これは西の大精霊が人族国家同士の争いの魔力に当てられ暴走した結果じゃ。」
魔法による戦争は、局地的な魔素の増加を引き起こす。
大精霊が暴走するほどの魔素を引き起こしたとなれば、かなりの大戦だったことが伺える。
「西の大精霊は妾ほどではないがかなりの魔力量じゃった。きっと十数年はこのままであろうな。妾もどうにかしたいがこればかりは仕方がないことよの。」
このくらいなら力押しの許容範囲内。きっとロアも許す。
何より、早く終わらせたい。
「ん。ありがとう。思ったよりもはやく片付きそう。」
「何かの役に立ったのなら何よりじゃ。」
早速取りかかる。
暴走した大気中に荒れ狂う魔力。
本来、外に放たれた魔力は魔素に変わる。しかし、暴走した魔力は定型のない魔法となって全ての魔力が消費されるまで続く異変となる。
解決策としては至極単純。その残っている魔力を消し去るか、魔素に変えればいい。
「最近、ちょうどいい魔法が出来たばかり。試してみるのもいい。」
錬金魔法。必要なものさえあれば他の形を成せる魔法。
条件次第では、変えられるものを元に戻したり出来ないこともあるが、総体的に見ても便利な魔法。
神からすればだが、最近出来た魔法属性。
「『大気中の魔力を魔素に。コンバート。』」
錬金魔法は変えるものを魔法言語で必ず指定しなければならない特殊な魔法。
必ず詠唱が必要なこの魔法はとても珍しい。このような魔法は数えるほどしかない。
「これだけ大量の魔力を変えようとすれば、なかなかの大魔法になる。疲れた。」
流石に少し疲れた。
この魔法にも欠点はある。それは、先ほど言ったように何でもは変えられないこと。
例えば、今回なら魔力を元の魔素に変えることはできる。だがら魔素を魔力に戻すことはできない。それには他の素材が必要になってくる。
逆に言えば必要なものさえあれば何でも作れるのがこの魔法。それはものだけではなく知識も。
「少しだけこの老人をお願い。」
「え?ま、待たんか!なぜ妾が」
疲れてるので何事も早く終わらせたい。
何か聞こえたが気にせず神界に転移する。
「ロア、解決してきた。後はそっちで確認して。私はもう少し用事がある。」
「もう終わったのですか。相変わらず早いですね。分かりました、後はこちらで対応しますので。お疲れ様です、レティス。」
それだけの会話をして再び下界。
「もう帰ってきたのかの?まったく、忙しない奴よな。もう妾に用はないのじゃろ?帰らせてもらうからの。」
「ん。助かった。後三日もすれば元に戻るはず。私もこの人が起きればここから出て行く。ありがとう。」
「な、何回も言うお礼を言わなくてもよい。こちらこそ感謝する。神と会うのがこのような形で本当に良かったのじゃ。」
流石に素性はバレたみたい。
だけど、これ程の力の持ち主なら知られても問題ない。
「あまり言いふらさないでもらえると助かる。また会うことがあったらよろしく。」
「妾に友と呼べるものは少ないからの。心配する必要もない。妾の方こそお願いする。」
そう残してその場から消えた。




