レティvs
ちょっとだけ長いです。
「やっときたね、コータ。レティ、珍しく随分と怒ってたよね。」
「そうね。兄様も危なかったわね。こうなる一歩手前まで来ていたってことでしょ。」
「そうだよな。あの時も怒っていたけど、今回は何か違うんだよな。何か分かるか?」
するとクオ、リルをはじめ周りにいたセレスティア達からもえっ?みたいな顔をされた。
逆に俺がえ?なんだが。
なんであの時いなかった奴まで理解している感じなんだよ。俺が変なのか⁈
「コータが時々見せる変な鈍さは何なの?」
「ホッント、それ!そこまで分かっていて何で最後まで分からないのよ!」
「私はあの時というのは分かりませんが、レティがなぜあれほどまでに怒っているのかぐらいは分かります。」
クオ、リル、セレスティアの順で責めるように言ってくる。
セレスティアは言うと同時にチラッと男子生徒を見たが分からなかった。
「そのくらい分からないとダメですわ。誰の為に怒っているのか理解してあげないと不憫でなりませんわ。」
「なんだよ、つまり俺の為だって言いたいのか?俺あいつに何かされたっけな?」
あいつ散々女性諸君のことは馬鹿にしていたが俺って何かされたか?
「分かりましたわ。このコータという男は、周りの人を優しく助けようとするのに、自分の事となると本当に無頓着になるタイプですわ。」
「あっ、それだよ。コータはいつも誰かを助けようとしたりするけど、自分に何かやられてもその場限り。ずっと怒っているところって筋肉の人の時しか見た事ないよ。あれも半分くらい楽しんでるみたいだったもん。」
「そうね。私の時もこの厄介な立場の私をすんなり受け入れてくれたわね。本当ならもっと悩んでもおかしくないはずなのに。」
「私の時もですね。条件だ、取引だと言ってはいましたが、それを建前にして私が頼みやすくしてくれている節がありました。」
何故か女性陣がウンウンと納得している。
「何言ってるんだよ。みんなの助けになることくらい当たり前だろ?それに、野郎を助けたりなんかしないぞ。俺だって怒る時もあるしな。」
「どうだろうね。」
「どうかしら。」
「どうでしょうね。」
百歩譲って男の娘ならあるかもしれない。
なんて馬鹿な事を考える。
「何の淀みもなく当たり前と言えるその気構え。格好良すぎますわよ。全てでなくともそれが一因ですわね。」
「も、もういいだろそんな事。ほら、レティを見ないと。」
恥ずかしすぎる。本人の目の前でそういう分析はやめてくれないか。
それに、おい!お前らさっきまで俺のこと目の敵にしてただろ!何がメモメモだよ、アホかっ!
あ、こいつらの事か?俺のことを馬鹿にしたからとか。それなら辻褄があうかもな。
ここにいる奴らは大抵俺の顔が平凡だとか下品だとか言いやがったが、アイツだけはその程度とか言われたような気がする。
「なあ、一番酷かったアイツを見せしめとしてってことか?」
「やっとわかったの?遅いよー。クオ達三人でどうするか話してたんだけど、今回はレティがやるっていうから任せたんだよね。」
「そうそう。いい加減コータのこと馬鹿にされて堪忍袋の尾が切れそうだったのよ。まあ、予想以上にレティが怒っててビックリしたんだけど。」
今日はやけにくっついてこないと思ったらそういうことか。
いつもなら右にも左にも誰かいるので寂しかった…とかではないが、前で三人で歩いていたのはそういう事だったのか。
「まあ今日は見てなよ、コータ。レティの単独戦闘の基本戦術は見たことないでしょ?リルのお兄さんの時は軽くいなしてただけだからね。」
へぇ。そういえばみんなのソロは見たことないな。
そう言われると楽しみになってきた。
「に、兄さま。何故か兄さまに同情してしまうわ。」
竜族でもかなりの強さらしいからな。結構己の強さに自負もあるだろうからな。
「始まるみたいだね。」
クオのその言葉を合図にしたようにレティの目の前の地面に魔法陣が現れた。
ーーーレティ視点ーーー
「謝るなら今のうち。始まったら最後、見せしめとして踊ってもらう。」
「何のことかな?ああ、うちのクラスの女子のことなら心配いらないさ。俺は嘘は言っていないからね。」
思ったことを全て言ってしまうのもどうかと思う。でも正直そんなことどうでもいい。
「違う。光太のことを馬鹿にしたこと。その程度と侮蔑したこと。それを取り消して謝る。私のことを幼女扱いしてることにも怒ってるけど、それは光太を馬鹿にされたことに比べれば些細なこと。」
「何かと思えばそんなことかよ。悪いな、いくら愛しの幼女の頼みとはいえ自分の考えを曲げることはできないね。」
なに?安いプライドでもあるの?
「アイツはどこまでいっても底辺顔だし、俺からしてみればその程度と揶揄されるのも仕方のない男だ。」
この男は佇まいから貴族であろうことが伺える。そして顔もそこそこいい方だと思う。
一度口に出した言葉を貴族として取り下げることもできないし、変な自尊心があるのだろう。
「そう。私も努力するけど死なないように貴方も頑張るといい。」
どんな理由から引けないのだとしても私には関係ない。
引き返すチャンスは与えた。選びとらなかったのはこの男。
これ以上の情けはない。見せしめとして頑張ってもらおう。
「ははっ。いくら冒険者でもそのステータスではね。貴族との格の違いを教えてやるよ。きっとこの勝負が終われば俺の虜になっているさ。」
ステータスは隠蔽してある。本来のステータスは見えるはずがない。
見えているものを疑わない時点で実力はたかが知れている。
「君からでいいよ。俺は優しいからな。遠慮なんていらないよ。」
「そう。元から遠慮するつもりはない。『契約に従い召喚に応じ。死を司る鎌で我が敵を八裂きにせよ。汝の名はグリムリーパー。』」
目の前の地面に魔法陣が現れそこからこれでもかというほど禍々しさを漂わせる骸骨が現れた。
手には二メートルを超える巨大な鎌、そして全身を覆うローブ。ボロボロに見えるがそれが禍々しさを増長させている。
さらに、眼はないが眼孔の奥が赤く光り、グリムリーパーの周りには黒い靄が漂い、より一層不気味さを引き立てる。
「敵はあの男。でも殺したら駄目。恐怖を植え付ける程度に止めて。」
「グ、グ、グリムリーパー⁈何でそんなバケモノを使役できている!」
それは私が強いから。とでも言えば納得してくれる?
それに、グリムリーパーはそこまで強い魔物じゃない。
死神といっても神ではなく魔物。本物の死神は別にいる。強さだけなら神の中でも五本の指に入る強者。
「いや、待てよ。さては本物ではないな?虚仮威しか。まったく、こんな戦術にはまってしまうとは俺もまだまだだ。」
「そう思うなら試してみるといい。でもグリムリーパーだけに気を取られてるとすぐ終わる。せめて見せしめになる程度には頑張って。」
あっけなく終わってしまえば、この男が弱かったということで片付きかねない。
せめて抑止力となるくらいには踊ってもらわなければ。
それに遠慮はいらないと言われた。それなら、召喚はこれだけでは終わらない。
「『契約に従い召喚に応じよ。」
私が再び詠唱を始めたと同時にグリムリーパーは大鎌を振り上げながら突撃する。
人族の学生程度ではその光景は、死という絶望が迫ってきていることに他ならない。
「時に恵みの雨をもたらし、時に未曾有の水害を齎す大精霊。汝の名はナイアス。』」
「久しいな、レティ。妾を呼ぶとは珍しいこともあるのぅ。」
ーーー光太視点ーーー
「何だよあのガイコツ。俺の中の怖い方の死神像そのままだよ。おっかねー。」
今にも誰かを死に誘いそうな見た目だ。
あの鎌なんだよ。黒を基調としたデザインに赤黒い色の意匠だ。角度によっては血のように見える。
「あれはグリムリーパーだよ。まあ、名前だけのただの魔物なんだけどね。でも、なかなか強いよ。」
「怖い方って。怖くない方はどんなのなのよ。」
呆れたような顔をして聞いてくるリル。
そりゃ決まっているだろう。
「死神って言ったらめちゃくちゃ怖いか、死神なのに可愛いというギャップがあるかの二択だろ?」
他にも死神的要素はあるだろうが、俺の中ではこの二択だ。
ジト目を向けてくるリル。
ふっ、俺は正しいはずだ。だからリルが間違っているんだぞ!その目はやめてもらおうか!
俺の考えが偏見の塊ということは自分でも分かっているので心の中で思っても声が出てこない。
「くっ。そ、それで?召喚がレティの基本戦法なのか?」
「そうだね。今回はやりすぎない程度に止めるために召喚数は少なくするみたいだけど、概ねその通りだよ。」
よかった。無理矢理気味に話しを逸らしたけど、クオが乗ってきてくれて本当に良かった。
「レティの基本戦法は、大量に召喚した軍勢を操って自分は魔法で状態異常を引き起こすことに徹するという戦法。近接戦を召喚で補っているんだよ。」
「軍勢か。それに攻められながら状態異常で身動きもしづらくなるなんて地獄だな。」
前に召喚魔法は一応闇属性に属している魔法と聞いたことがある。
それを司っているレティだ。軍勢というのも想像もつかないような大軍なんだろう。
グリムリーパーの動向を注視していると、再びレティが詠唱を始めた。
それと同時にグリムリーパーも動き出す。
ブォォオオンッ!
最初の一撃は間一髪で避ける男子生徒。
ここまで響いてきた音に驚きを禁じ得ない。あんなの当たったら即死だろう。
レティの方を見ると、レティの前の魔法陣の中に水色髪の女性が立っていた。
「あの精霊は初めて見るよ。でもあの強さ、精霊の域を超えてるよ。」
クオが小さく呟く。
精霊?たしか高位の精霊は意思を持っているんだったか?まさか、人型だったとは驚きだな。まあ、この精霊が人型なだけかもしれないが。
それからは一方的な展開になった。当たり前だが。
グリムリーパーが近接戦を仕掛け、躱したところに精霊が水属性魔法を放ち退路を断つ。
武器も魔法も決して当てず、掠めるようにして横を通り過ぎる。わざとやっているのだろう。
そしてレティは麻痺の状態異常などの行動阻害系の魔法を使いさらに精神的な追い討ちをかけていた。
それでも、そんなに長くは続かなかった。
あまり長く続けるとこちらが悪いような気分になって来そうだしな。
そうしてこの戦いは終わりを告げた。
男子生徒は傷一つ追うことなく地に倒れ伏し白目を向いている。
他の男子生徒達を見ても、今回は三人の見せしめという思惑は叶っているのかもしれない、
男子生徒を放置して、精霊を引き連れこちらに戻ってくるレティを見ながらそんなことを思った。
すみません。
明日、明後日の二日間の投稿はレティの過去の話を入れるので試験終了は三話以降になります。




