レティの怒り再び
「なんでこんなパッとしない奴ばかり…くそっ。」
「お、俺のセレスティア様が…コ、コータとか言ったな。ユ、ユルサナイ。」
「僕の魅力にも靡かなかったセレスティア様が、あんな下品な顔に惹かれているなんて信じられません。これはきっと悪夢なのでしょう!」
おい!嫉妬というよりも俺の悪口大会みたいになってるぞ!
自分でもこの美少女の集まりに不釣り合いなことぐらい分かっているので外部からも心を抉るのはやめてもらいたい。時折ふと自分でも内部から抉ってしまうのだ。俺の心はプレパラートのガラス板よりも薄くなっているんだぞ!
それな最後のやつ、程々にしとけよな。
それにしてもセレスティアって人気凄いな。
セレスティアのキスから男子生徒の殆どが死屍累々としているぞ。
このドヨーンとした空気どうするよ。
「なんでみんな落ち込んでるんだ?今日は素晴らしい日じゃないか!だって、」
お、一人だけ元気な男がいるな。
「幼女がクラスの仲間になるんだぞ!素晴らしきかな!」
「お、おい。やめとけって。殺されるぞ、お前。」
「なんだよ、そんなおばさんの軍勢引き連れていい気になるなよな。恥ずかしくないのか、この熟女趣味!」
アホだ。アホがいる。
その中のセレスティアが考慮された言葉なのだろうか。
お前の所属する国の王女様だろ。
「そ、そ、それは誰のことを言っているのでしょうか?」
あ、セレスティアがピクピクなっている。
温厚そうなセレスティアがあんな表情をするなんて余程気に障ったのだろう。
「おやおや、セレスティア様。セレスティア様も少し前までは大変美しくあられたのですが、最近は肌の張り艶や純真さを失った瞳、衰えが目立ち始めてきましたね。いやはや、残念至極です。」
「え?うそ?」
こいつ不敬罪で処刑されないだろうか心配になるぞ。
セレスティアは言いながら顔を絶望に染め、自らの手を使って肌の張りとやらを確かめている。
「いやいや、セレスティアは十分以上に綺麗だぞ。そんなことないから戻って来いって。お前、どうなっても知らないぞ。せめて達観した先を見据えている瞳とか言えないのか。」
「はっ!所詮は熟女。何を言ってもその事実は変わらないのだ。このもっちりした肌や何者にも染められてない純真そうな瞳、好奇心旺盛でいつも後ろから離れずついてきて果てはお兄ちゃんなんて言われたりして。この熟女だらけの中でこの幼女は一層輝いているだろ?」
俯いているレティを両手でアピールするようにして言う男子生徒。
色々言いたいことはある。
俯いているんだから瞳なんて見えてないだろうとか、途中から妄想だろうとか、周りの女子生徒の異変に気付けとか、レティのオーラにも気付けとか、それはもう色々と。
だが、その中でもレティの雰囲気が過去最高にヤバイ。
「さあ、そんな熟女趣味の男なんかより俺の方が君の魅力に気づいてやれる。そんな程度の男は君に相応しくない。こっちにおいで、さあ!」
爆発寸前だった女子生徒達や落ち込んでいたセレスティア、こういう少なからず年齢の話になると落ち込み出すクオとリル、死屍累々としていた男子生徒、一生懸命止めようとしていたが誰も聞く耳を持ってくれなくてションボリしていたルロイ先生、誰一人の例外もなく後ずさり距離を取る。
もう誰も止まる気はないようだ。
さっきまで移動するはずがなかなか進んでいなかった道中を一気に進め出入り口で事の成り行きを見守る構えのようだ。
おい!俺を置いていくな!
でも、今ここで止められるのは俺しかいない。こんな奴助けようとは思わないし自業自得だと思う。だが、文字通り神の鉄槌を喰らえばどうなるか分からないし、それ以上に周りの被害が心配だ。
「レ、レティ?お、落ち着いて。あんな奴の言葉なんか気にするな。レティは立派なレディだよ。なんて、あはは。」
このタイミングでなに言ってんの俺⁈頭おかしいんじゃないのか、何がレティは立派なレディ、だよ!
それになんだよ、この空気。俺の寒いギャグに凍りつきすらしないこの空気が怖すぎて逃げ出したい。
「大丈夫。落ち着いている。周りに被害なんて出さないから安心して。」
俯きながらのそのいつもより平坦な音色の言葉は信じることを強要されていそうだ。
「で、でも。」
「大丈夫。光太は向こうで見てて。」
ゾクッ‼︎
な、な、な。なんだよ、これはヤバいなんてものじゃないぞ!
それは今見せるべき顔じゃない。決して今していい顔じゃない。
なんでそんなに満面の笑みを浮かべてるんだよ。
先日のフリーズとの戦闘の時も笑っていたが、今回はさらに異質だ。それは楽しい時に浮かべるはずの笑顔なのだ。
その時向けてくれた微笑みにはグッとくるものがあったが、この笑顔も同じように普通の時に見たかった。
しかし、あの時も幼女と言われ怒っていた記憶があるが、今回との違いが分からない。
だが、分かることもある。
「分かった。怒っていて止めて欲しくないのも分かった。」
でも。
「でも、な、レティ。その顔は駄目だ。俺を巻き込まない為に、離れさせる為に無理して作った笑顔なんて見たくない。もう止めないから今後、こういう時にそういうことはしないでくれ。見ていて悲しくなる。」
きっとこの笑顔を向けて俺が恐れを抱く事を考慮した上での行動だ。近くにいると危ないから。クオの側にいれば万が一はないから。
何がレティをそうさせたのかは分からない。ただ、レティはどこまでも思慮深い。その行動の結果は見えていたはずだ。
「その笑顔はレティが本当に幸せと思えたときにまた俺に見せてくれ。な?」
「ん。ごめん、光太。」
「俺の方こそ悪かった。もう二度と怖がったりなんかしない。許してほしい。」
体を九十度に曲げ謝る。
俺は本当に最低な奴だ。人の笑顔を怖がるなんて。
あとでエマにも謝っておこう。
「私も分かっていてやったこと。光太は悪くない。」
あの時もこうだった気がする。
フリーズの言葉にレティが怒り、レティを俺が励ましたら微笑んでくれたんだったな。
今回は説教がましくなってしまったが似たシチュエーションだ。
前よりも一段と慈愛に満ちた微笑みに思わず数瞬見惚れてしまったが、我に返って微笑み返しながら頭を撫でる。
「それじゃあ、俺は向こうで待ってるからな。気に障ったといってもやりすぎない程度にな。」
撫でていた手を離し、小走り気味にみんなのいる出入り口の方に駆けていく。
レティはなんだか名残惜しそうに自らの頭に手を置いたあと男子生徒に目を向ける。
途中までレティの声が聞こえた。
男子生徒に言っているようだ。
「光太に免じて多少は手加減する。死んでもどうにかなるけど、きっとそうなれば光太は怒る。だから死なない程度に止める。完璧。」
それは完璧なのか?とは思ったが、あまり口を挟みすぎるのもアレなのでスルーすることにした。
まあ、結局そこまではしないだろうと思うが。
「みんなそんなに離れて言ってどうしたんだよ。あっ!もしかしてアレか?気を遣って俺たち二人にしてくれたのか?いい奴だなぁ、みんな。」
おい!目の前でレティが話してるんだから聞けよ!
思いっきり戦闘意欲を爆発させている想い人が目の前にいるだろ!それに俺達の会話も聞こえてたはずだ。
こいつは相当な馬鹿なのは確定として、難聴気味なのか、現実逃避しているのかのどちらかだな。
早く試験終わらせろと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
そこは本当に申し訳なく思っています。
次か、その次くらいには終わらせるよう努力します!




