自重しない組
「勝手に仕掛けるからコウタの意思は関係ないんだがな。」
先に行ってるぞと出口に向かって歩いていくカルディナ先生。
戦闘中ではないので先生復活だ。
「それじゃ、俺達も行こう。流石に疲れた、主に精神的に。早く休みたいから早く行って早く終わらせようか。案内お願いします、ルロイ先生。」
「はい、こちらです。」
ルロイ先生に着いて行く俺達四人。
とその他大勢。
分かってはいたがやはりこうなるのか。
カルディナが連れて行けよな!
先生剥奪だぞ。
「それにしても凄かったですわ。魔術師団で撲殺拳闘士と恐れられたカルディナ先生に勝ってしまうんですもの。開いた口が塞がらないという表現がぴったりですわ。」
「本当に開いていたよ、ラヴィ。乙女なんだからあの間抜け面は気をつけないとね。ふふっ」
「ほ、本当ですの⁈」
金髪縦ロールの言葉にディアナが口を挟む。例えのつもりで言ったことが現実化していたことに顔を真っ赤にする縦ロールことラヴィ。
ラブィとは相性か何かだろうか。
それにしても魔術師団で撲殺拳闘士はないだろう。しかし、納得できてしまう自分がいる。
少し吹き出してしまう。
「ぷふっ」
「どうしたんですの?急に笑ったりして。」
「あれですよね、コータ。この前のキ」
振り返ると真後ろにいたセレスティアの口を振り向きざまに塞ぐ。
「何を言おうとしているんだ、王女様!」
大体、キスされたのを思い出すタイミングでもないし、されたことを思い出して笑った感じでもなかっただろ!
「王女様なんて酷いです。いつもみたいにセレスティアと呼んでくれて良いのですよ。もしくはクオ達みたいにティアも可です。」
しくしくと嘘泣きをやり始めたと思ったら、今度は親指を立ててティアを押してくる。
こんな大勢の前で呼び捨てになんて出来るはずないだろ!ましてやティアなんて愛称で呼べるはずもない。
「酷いと思うなら少し自重してくれ。こんな人前で何言い出そうとしているんだよ。まったく。」
「目が合いましたのに、気づかなかったように振舞われて少し傷つけられましたのでちょっとした意趣返しです。」
何言っているんだ、この王女様は。
生徒ABCの会話に生徒Dが割って入ったみたいな登場の仕方だっただろ?
そこに悪くも悪くも話の中心だった俺が、あ、セレスティアじゃん!おはよー!とか言えるわけないだろ。話の腰を折るにも程がある。
あの話の中で中心であったことは良い要素なんて一つもなかったと思う。
セレスティアがそういうなら俺も意趣返しだ。
「へー。そんなこと言っちゃうんだ。そんな意趣返しされたら」
不穏な気配を感じ取ったのかセレスティアは、あれ?なんで笑顔なんだ?怖い、何故かは分からないがこの後の言葉を口にしてはならない気がする。
だが俺の一度動いた口は止まらなかった。
「白馬に乗った王子様はまだ一時現れないかも」
このタイミングで口を塞ぐ意味はあるのか?という疑問よりもセレスティアの塞ぎ方に問題がある。
セレスティアは少し爪先立ちになりながらも俺の首に手を回し口で口を塞いできた。
「大丈夫ですよ、コータ。もうとっくに現れていますから。」
「どのタイミングで塞いでるんだよ、まったく。殆ど言い終わってからじゃ意味ないだろ!」
キスをされても何故か正常に働いている頭で反論する。
もしかするとこの前の突飛なキスで耐性ができているのかもしれない。顔は真っ赤だとは思うが。
「わざとです。」
一言端的に返してきた。
「自分でやって顔を赤くするならやらなければいいだろ!」
「仕方ないんです。去り際に見たクオとコータのキスが羨ましくて仕方なかったんですもの。」
仕方なくねぇ!公衆の面前で二度も同じことやるアホがどこにいるよ。あっ、俺の前に他にも二人いた。
しかし、こんなことやるから周りも唖然としている。
歩きながら言い合っていたのだが、周りの生徒は好奇の視線を送ってきていた。何名かは淀んだ視線を向けてきているが。
そりゃそうだろう。自国の王女が今日会ったばかりの奴と親しげに話しているんだから。
前を歩くクオ達三人は特に気にした様子もなく前を向いて歩いていた。ルロイ先生は多少気になったのかチラチラとこちらを見ていた。
ルロイ先生が立ち止まったことによりクオ達も気がついたみたいだ。何が起こったのかを。
あぁ。騒がしくなる。
「あー!またやってるよ。ティアって本当に隙あらば、だよ。」
「ん。油断も隙もない。」
「その行動力が羨ましくなるわね。」
クオとレティは俺をセレスティアから引き剥がそうとしているが、リルは呆れ半分で見守っている。
完全に離された後にクオが
「もうちょっと自重しないとダメだよ、ティア。クオ達だっておやすみのハグで妥協してるんだからね。」
はい、余計なことを言わないでほしい。
それに、
「自重なんてどの口が言っているんだよ。この口か、この口なのか!」
クオの頬をムニムニしながら言う。
得意げに論すように言うクオに若干イラッときた。
自重なんてしたことないだろ、この創造神様は。
「ク、クオだって自重してるんだよ!」
「一体何のことだかさっぱりだな。聞かせてもらおうじゃないか。」
「いいよ。街の中でももっとくっつきたいけどコータが歩きづらそうだから手を組んだりする程度に留めたり、夜寝る時も本当はピッタリ寄り添って寝たいけどこの前寝にくいって言われたしレティやリルもいるから自重してるもん。えっとね、他にもあるよ。」
なっ⁈何を言いだすんだクオ!
自重してあれだったのか。予想を上回る回答だ。
「わ、分かった。分かったから、もう大丈夫だ。俺が理解できていなかっただけみたいだ。」
ヤバイぞ。このままだと自重しない組が三人になってしまう。
何か策を講じなければ。
すると、もう一人の自重しない組が。
「ん。この前だっておやすみのキスは駄目だったからハグで我慢した。私達は立派に自重している。」
「そ、それは自重じゃないんじゃないかしら。妥協と自重は違うと思うんだけど。」
いいぞ、リル!もっと言ってやってくれ!
俺たちのパーティーの最後の常識という砦はここにあったんだ。
「違うリルエル。そんなことは百も承知。こういうのは一度認めると最後。認めないことが大事。それに光太は押しに弱い節がある。」
「そ、そうなのかしら。」
「ん。リルエルはもっと積極的になった方がいい。」
俺の目の前でそんな会話をするんじゃない!
「いやいや、リルはそのままが一番だ。おいレティ!最後の砦を壊しにくるんじゃない!」
危ないな、まったく。
油断も隙もないのはレティも一緒だ。
このままでは全員が自重しない組になってしまうかもしれない。リルに賭けるしかないが、俺も何か策を講じなければ行く先々で目立つことこの上ない。
「リル!俺はリルのことを信じているからな!」
リルの方に手を置き力強く言い放つ。
レティに唆されないよう頑張ってくれ。頼む。
「何なんですの、この超展開。またもや理解が追いつかなくなってきていますわ。」
「そうだね。まさかのティアのキスから始まって、コータ君だっけ?の淫らな私生活の暴露劇、レティちゃんの目の前で言い放つあの確固たる自信が伺える言葉。まさに超展開だよ。」
「おい!淫らな私生活なんて送ってないからな!」
そうだよ!もしそうであったとしてもそれは俺のせいじゃないんだ!
結局は折れた自分のせいだと自覚しながらも認めない。
だってさっき言っていたじゃないか。認めたら終わりなんだろ!
それにしても男子生徒の一部から呪詛のような言葉が聞こえてくる。
もう嫌になる。クオ達とイチャイチャできるのは俺としても吝かではないのだが、人前だとこの対応が面倒なことこの上ない。
俺はこのクラスでやっていけるのだろうか。
不安である。
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