入学
コンコン
「お連れしました。入ってもよろしいでしょうか。」
「よいぞ。」
俺だったら蹴破ってズカズカ入っていくかもしれない。
こんな爺さんに礼儀を尽くすなんてルロイさんは良い人だな。
「一応偉い人じゃなかった?賢者って人族の中じゃかなり強いらしいじゃない。」
「コータ声に出てるよ。わざとと言われても信じられるよ。」
そんな呆れた眼を向けてくるんじゃない。わざとなんて失礼だぞ。
しまった。どうやら声に出していたようだ。
「いかんいかん。つい思ったことが口から溢れてしまった。まあ仕方ないよな、だって不思議で仕方ないし。あの爺さんのどこを敬えって言うんだよ。」
「また声出てるよ。はぁ。」
ついにため息まで。
今回はわざと出しているので何も言えない。
「分かる。私もあの賢者嫌い。諸悪の根源。」
そ、そこまでなのか。
確かに騙そうとしてくるイメージしかないけどな。
俺たちの会話を聞いているルロイさんは苦笑いを隠しきれていない。
扉が開いているのに入らずに話し込んでいる俺たちを見て爺さんはピクピクしている。
話の内容が内容だしな。
これを機に少しは改めて欲しい。
さもなくばガレスと同じ運命を辿ることになるだろう。
「失礼しまーす。おはよう、爺さん。今日はこれからどうすればいいんだ?」
「お、お主、よく普通に会話しようとできるのぅ。」
「まあ、心配するな。それでどうすればいいんだ?」
何のことかわからんな。
「はぁ。儂を邪険に扱うのはお主たちくらいじゃぞ。」
そうか。爺さんの周りは酔狂な人間ばかりなんだな。
「まずはこの制服に着替えるのじゃ。学園に通う以上、最低限のルールは守ってもらうのじゃ。」
今日ここに来る時も好奇の視線を向けられた。
最初は何の視線がわからなかったんだが、学園に近づくにつれ強まるその視線の意味わ何となくわかった。
学生の登校時間と被っていたので、制服も着てない何の関係者でもない俺達が同じ学園に向かっていたからだろう。
転校初日の転入生はこんな気持ちなのだろうかと若干肩身を狭くしながら考えていた。
「どこで着替えればいいんだ?」
「嬢ちゃん達はそっちの部屋を使ってよいぞ。コータよ、お主はここでもよかろうて。」
入ってきた扉とは別の扉を指しながら言う爺さん。
「爺さん、俺には特殊性癖なんてないからな。俺を爺さんのアブノーマルな性癖に巻き込まないでくれ。」
冗談のつもりで言ったのだがみんなうわぁ。みたいな視線を爺さんに向ける。
「なっ⁈ちょっと待つのじゃ!儂にそんな趣味はないのじゃ!これでも若い頃は色んな女子を侍らせていたのじゃ。」
そんな情報に価値ないわっ!
「人って何だかんだ言っても変わるものなんだな。」
「何故信じんのじゃ。と、とにかく、マルティナよ、嬢ちゃん達を案内するのじゃ。」
「はい。皆さま、こちらです。」
爺さんの後ろに控えていた秘書っぽい女の人がクオ達を部屋の外に連れて行く。
「コータはその隅ででも着替えるのじゃ。」
「はいはい。」
言われた通りに部屋の隅で着替える。
なんだか制服に懐かしさを覚える。
別に中学、高校の制服に似ているとかではない。ただ、学校というものを制服から感じているのかもしれない。
ただ、そこまで感傷に浸る思い出もないのでパパッと着替える。
まず上を脱ぎ、カッターシャツを着る。ネクタイを締めその上から杖の三本重なったら徽章のついた黒のブレザーを着る。
そういえばこのマーク門の上にもあったな。このマークが魔法学園を示しているのかもしれない。
下は黒のズボンだ。特に何もないのでさっと着替える。
「サイズはそれで良かったようじゃな。」
「ああ。完璧だな。でもなんでこんなピッタリのやつ用意できたんだよ。」
測られてもないし、サイズを言った覚えもない。
「マルティナが昨日会った時に見て判断して用意したんじゃよ。儂の秘書は有能じゃろ?」
なんだよ、その特殊能力。
巷でよく聞くスリーサイズ当てるやつみたいだな。
よくは聞かないか。
少し待っていると三人も戻ってきた。
女子制服は男子制服と特に違いはないようだ。
ただ、ズボンがスカートになったくらいだろうか。
「三人の制服姿って新鮮だな。似合ってるな。」
何を着ても似合っているのだが。
「ありがとう、コータ。コータは制服姿が様になってるね。」
「本当に似合ってるかしら?こういう服を着るの初めてで不安ね。」
「大丈夫、似合ってる。」
レティは何やら胸に手を当てリルと見比べ落ち込んでいる。
着替えの時に何があったかは想像に難くない。
リルもそんなに大きいほうじゃないが、レティと比べると確かにな。
こういう時は不変なのが辛いのかもしれない。
見た目を変えることはできるが、普段の状態はデフォルトのままだからな。
「あまり気にするなよ。レティはその方が魅力的だぞ。」
俺は大き過ぎるのよりも小さい方が断然好みだ。
決して○リコンなどではない。
その人その人によってバランスというのもあるからな。
過剰すぎるのはちょっと。
「複雑。」
あまりコンプレックスを刺激しすぎるのもアレなのでこの話は終わりにする。
「あぁ、そうだ。クラスとかはどうなるんだ?」
「その話もしとかんとのぅ。この学園は初等部、中等部、高等部に分かれておるのじゃが、それだけの力を示せば飛び級はできる仕組みになっておる。クラスは三クラスあってA、B、Cと分かれておるのじゃが、そこも魔法力の強さで分かれておる。」
ふむ。なら、レティが違うクラスになる心配もないな。
「目的が目的じゃしセレスティア様と同じクラスにしたいとは思うのじゃが、それをすると他の生徒に示しが付かんからのぅ。一応、クラス分け試験は受けてもらうのじゃ。セレスティア様はAクラスなのでの。」
突然入学してきた連中が何の試験もなく一番上のクラスに入ったりしたら文句の一つや二つどころでは済まないだろうな。
仕方ないが受けるしかないようだ。
こうなってくると別のクラスになる可能性が高いのは俺だな。
「試験は簡易的な魔力量の検査、使用属性の数、魔法実技を行なってもらうのじゃ。」
魔力量の検査だけだとレベルアップしやすい金持ちが有利なので才能面を見るなら他の二項目が必要だろう。
逆に言えば、魔力量の検査は金持ち、身も蓋もない言い方をすれば貴族が落ちないようにする制度なのだろうと当たりをつける。
「それでは私についてきてください。」
ルロイさん、いや今日からはルロイ先生か。
ルロイ先生が担当してくれるようで四人でついて行く。
「じゃあまた後でな、爺さん。」
一言言ってから部屋を出る。
俺の年齢くらいの貴族がどのくらいのレベルなのか分からないが、話を聞く限りここはこの世界では超名門らしい。貴族であってもそこに受かるぐらいなのだから相応のレベルは要求されるだろう。
ならば、他二つでAクラス入りをもぎ取るしかないのだが、こうなってくると邪竜の魔石でレベルを上げておかなかったことを後悔せざるを得ない。
駄目元で聞いてみるか。
「入学する時ってどのくらいのレベルが普通なんですか?」
「そうですね。平民の生徒はレベルは低いですよ。彼らはお気付きの通り見込みがあるかどうかで入学しますから。」
想像力や属性数などだろう。
「聞いているのは貴族の子弟のことでしょう?彼らは上と下の差が激しいですからね。一概には言えませんが、低くても四十程はありますね。」
はい。驚きの答え。
貧乏貴族と同じくらいはあるようだ。
「それに、才能値の差もありますから。そこも遺伝というのもありますから貴族の方が高い傾向にありますけどね。」
そうだった。人族の才能値の平均は2だったな。
騎士団長レベルで平均5とか言っていた。
こりゃ魔力量も問題ないかもしれない。
「ここですね。ここの端を使わせてもらいましょう。」
話している間に着いたようだ。訓練場で行うらしいが使用中みたいだ。
それはともかく、転移陣の移動は楽でいい。
家とか買ったら絶対つけよう。色んな場所に拠点を構えても楽に移動できるのはいい。
でも、旅もしてみたいので一度は絶対に馬車移動だな。
「カルディナ先生、少し端の方を使わせていただきますが宜しいでしょうか?」
「そっちの方は使わないから構わないですよ。その子たちは?」
「入学予定の生徒です。」
「ほぅ。珍しいねぇ、この時期に入学なんて。」
興味深そうに見てくる赤髪の女教師。
うわっ。ニヤッて笑ったよ。この人あれだ。口じゃなく体で覚えさせるタイプの教師だ。
なんで魔法学園なのにちょっと脳筋感漂わせてるんだよ。
ガチムチってわけじゃないけど、魔法職より前衛職だろこの人。
「学園長のお墨付きでして。では、少しお邪魔いたします。」
端に移動するルロイ先生に着いて行く。
ニヤニヤとこっちを見ている前衛魔法使いは気にしない。
っと、そういえば魔法剣士もよく考えればそうだよな。
そう考えればあの人がここにいるのも不思議じゃないか。
「では、まず魔力量の測定から始めましょうか。」
そんなことを考えているとどうやら試験が始まったようだ。




