ランク上げ
冒険者ギルドについた。
今日は用事といってもさほど大した用事じゃない。
とある依頼を探しに来たのだ。
入ってすぐの両側の壁にランク分けされて依頼が乱雑に貼られている。きっと冒険者が依頼用紙を見た後に気に入らなかったら粗雑に貼り直すのだろう。
最低ランクのFから見ることにする。
そのまま左奥のFと上に書かれた掲示板の前に止まる。
「まあ、定番だなよな。Fランクは街中の依頼ばかりだな。」
落し物探しや逃げ出した犬の捜索、庭の草むしりにお店の手伝いなど様々だ。
犬といってもジェントルドッグという人に危害を加えることがほとんどない魔物だ。この世界の動物は全て魔石のある魔物なのだ。その中でも温厚なものがペットとして飼われていたりする。
「へぇ。町案内なんて依頼もあるのか。学生の小遣い稼ぎか何かか?」
安い値段で案内してもらえるのなら観光に来た人たちには良いかもな。気安く観光できるような世界ではないが。
いや、転移魔法があったな。
「というか、俺はこんなのから受けていかないといけないのか。ランク上げサボってたから知らなかった。」
依頼はこなしたが押し付けられた高難度依頼なので依頼の実情を知らなかったのだ。
よく考えれば正規の手続き後にこなした依頼はワイバーンだけだな。
キング二種は事後報告で、邪竜は俺達が倒したことにはなっていない。ワイバーンはどうにかするだけの依頼だったので元の棲家に戻すことで依頼達成している。
これらも一応成功していることになっているが、極秘裏扱いにしてもらっているのでランクは上がらない。
隣のEランクの依頼に目を通していく。
ここは町中依頼でも重労働の依頼や町の外に出るような採取依頼、それと討伐依頼でゴブリンなどが入って来ている。
「大変になったり危険性が増したりする分、当たり前だけど報酬は少し上がったな。」
そのままD、Cと目を通していく。
「あった。」
小さく呟く。
この依頼はCランクの依頼なのか。
ここから指名依頼とかも受ける可能性があるとか言ってたからここが最初の難関なのかもな。
そこには盗賊関連の依頼が貼ってある。
内容は盗賊のアジトの発見及び組織の大きさの把握とある。
討伐となるとBランクになるようだ。
ここまで上げなければいけないとなると面倒だと思ってしまう。
しかし、これは焦っても仕方がないので地道に上げていくことにする。
ランク上げもサボってばかりはいられないな。
最近、やることが増えすぎだ。
いつもの受付嬢のところへ行く。
「えーっと。」
名前なんだっけ?聞いてなかったな。
「名前聞いてなかったな。あの、ランクってFから地道に上げていくしかないのか?」
「サシャです。そうですね、基本的にそれしかありませんが、各ギルドによってそのランクの難易度は変わってきたりしますよ。」
ん?
名前はサシャって言うのか。
それは分かったがどういうことだ?
「例えば、ここのギルドではFランクは町中依頼ばかりですが、迷宮都市のギルドでは迷宮内の採取や討伐依頼もあったりします。ランクは依頼を達成すると得られるポイントで上がっていきます。この場合うちのギルドのEランクと迷宮都市のFランクの依頼で得られるポイントが同じなこともありますので一概に高いランクの依頼の方がランク上げの効率が良いとも言えませんけどね。」
「つまりなんだ?そのギルドごとの冒険者の質が違うみたいなものか?」
「はい。拠点を変えた冒険者がすぐに廃業に追い込まれるなんてことも結構聞きますね。」
依頼失敗の際の違約金は結構高かったからな。三割だったか。
「危険性は増すけどランクは上げやすくなったりするってことか。」
「はい。ですので、実力のある方々は魔物が多く生息する地域や迷宮都市などでランク上げされる方が多いですね。でも、その分殉職者も多いんですけどね。」
自分の実力を図り違えて命を落としたってことか。
自分を過剰評価する奴は大抵人の話を聞かないからな。
「ありがとう、サシャ。助かったよ。」
ちょうど迷宮都市にも行くことになってるし、そっちでランク上げすれば良いかな。
それに、もしかすると迷宮都市のギルドの方が盗賊の依頼もランクが低いかもしれない。
ランク上げも出来て、盗賊討伐依頼も少しでも低ランクで受けることができるかもしれない。一石二鳥だしな。
「いえ、仕事ですので。他にはございませんか?」
おぉ。いつもの輝く営業スマイル。
「今日はこれだけだな。また来るよ。」
冒険者ギルドを出る。
さて、みんなは何処にいるかな。思っていたよりも早く終わってしまった。
盗賊なんて有限な存在はもしかしたら依頼も出てないかもしれないと思ったが、意外と多かったな。
それだけ貧困にあえぐ人たちが多いということかもしれない。
全ての盗賊がそうとは思わない。根っからの悪人もいるのだろうが、仕方なくやっている人もいるだろう。
ふと思った。
こういう風に勝手に人に情けをかけて、人を信じてしまうのは俺が平和ボケしているからなのだろうと。
悪いことを行う者をすぐに断罪する対象と断定せず、理由を考えて償う機会を模索してしまうのは俺の甘さなのだろうと。
だけど、いくら悪くとも無秩序に断罪することは俺には出来そうにないと。
やめだ、やめだ。今考えても仕方のないことだ。
きっとどちらも正しいのだと思う。
そんな連中を生かしておいてはさらなる被害者が増えてしまうと考え、許す必要はないという考えも。
そこに至った経緯や動機などを考えて許されることではないが、償う機会を与えるという考えも。
それは、実際に身に降りかからないと分からないことなのだろうから。
考えを打ち切り、胸元のネックレスに魔力を流す。
するとなんとなくだがセレスティアがいる方向が分かる。
こりゃ欠点だらけだな。彼我の間の建物なんかの存在も分からないし、ただいる場所が分かるだけだ。周りの情報も分からない。
改良の余地ありだな。
まあ、幸い近くなので良かった。
そこを目指して歩き出す。
どんな機能を追加するのがいいかな?例えば、周りの情報が把握できるようにするとか。念話機能みたいなのをつけてもいいな。
んーと、あとは。
「おっ、ここみたいだな。やっぱり予感的中か。そんなに時間経ってないもんな。」
目の前にはオシャレな建物の服屋がある。
俺が服を買ったような古着屋ではなく、新品の服の売ってある店だ。
うへぇ。軽く中を覗くと女性客ばかりだ。
この中に入って行く勇気はないな。
かといって外で待っているのも、今の覗いている格好からして不審者と見紛ってしまう。
そんな葛藤をしていると、
「あっ!本当にコータがいる!」
クオが奥から走ってきた。
店の中で走るのは迷惑なのでやめましょう。
突進して来るクオを受け止める。
「さっきぶりね、コータ。意外と早かったじゃない。」
「これなら待ってても良かった。」
レティとリルも出て来る。
「すごいですね、これ。こんな小さな魔方陣でこんな効果が発揮できるなんて。」
セレスティアもメアリーさんを伴って歩いて来る。
「いきなり光り出してびっくりしましたけどね。」
そこは目を瞑ってもらえると助かる。
魔方陣は使用すると光るものなのだから。
「そうか。セレスティアも使ったのか。入りづらかったから正直助かったよ。」
「クオはコータが不審者みたいでも気にしないよ。」
暗に不審者みたいだったと言ってくるクオ。
「ま、まだ見てたんだろ?中断させて悪かったな。中に入ろうか。」
話を逸らしたんじゃありません。
入り口で話し込んでいると迷惑になるからです。
それから一時間程滞在した。
また着せ替え人形になることを少しだけ覚悟していたが今日は大丈夫だった。
女の子同士でキャッキャっと選んでくれたので助かった。
リルは何処から見つけてくるのかまたデフォルメオークを見つけてきた。今回はTシャツだったが、セレスティアに苦笑いでキモかわいいですねと言われて若干ショックを受けていた。
その後は、セレスティアのオススメの店を紹介してもらったり、気になった店に入って見たり、露店巡りをしたりした。
それは最後の鐘がなる頃まで続き、そこでお開きとなった。
「今日は楽しかったです。久し振りに羽を伸ばすことができました。よければまたお買い物を楽しんだりしましょう。」
「俺も楽しかったよ。それに色々と案内してくれて助かった。ありがとうな。」
「こちらこそ。では、また明日お会いしましょう。」
「バイバイ、ティア。」
クオから始まりそれぞれが別れの挨拶を交わす。
宿に戻り、夕食を食べたら少し休んで早めの就寝。
まさか異世界に来てまで学校に通うことになるとは思わなかったが、明日から通うことになるのだ。
明日は八時に門前集合になっている。
不思議と楽しみだと思えている。きっと無気力に通っていたのとは違い、みんなが一緒だからだと思う。
あの頃は家よりも心が休まるからと通っていた。家にいても継母と兄達がいたからな。
だけど、今は違う。
学生生活を楽しむことが出来るなら楽しもうと思う。
せっかくの異世界だからな!
そう思いながら眠りについた。




