才能
「なあ、爺さん。入学することに対してはもう何も言わないよ。だけど、授業免除されたりしないのか?これから数年間授業に大半の時間を割くわけにはいかないんだよ。」
セレスティアの為にも入学はする。だけど、その授業が実技ならともかく座学なんて完全記憶がある俺にはほとんど必要ない。
俺が学園に通うとなると三人も通うことになるだろう。
勝手に決めたのではなく、首肯だったが意思確認はしている。
その場合、クオとレティは言わずもがなだがリルも伊達に竜族ではない。こんな年相応の美少女に見えても実年齢は…ゴホン。
睨まれた。怖い。
と、とにかく、リルも何かと博識なのだ。
クオやレティと比べてはいけない。
と言うわけで俺達に座学は必要ないのだ。
「そう言われてもじゃな。多少の免除は出来るじゃろうが完全免除はなかなかのぅ。一つだけないこともないのじゃが。」
「おっ!あるんじゃないか。勿体ぶるなよ、爺さん。」
面倒なことはしてくるくせに肝心なところで勿体ぶるなよ。
「簡単なことじゃ。免除されるだけの功績を挙げることじゃ。いつの時代も、どんな場所でも、才あるものを縛ることは愚行にすぎんのじゃ。武の才でも、技の才でものぅ。」
こんな世界だ。前の世界よりもその存在意義は顕著に現れるだろう。
強大な魔物が現れた時にそれを倒せる人材は諸手を挙げて欲しがられるだろう。
技術躍進が起これば便利になることはもちろんのこと、戦闘に関わるものであれば死者を減らすこともできるだろう。
死が常に密着している世界だ。そんな愚行は許されることではないのだろう。
「かと言って何かをやれと強制は出来ないのじゃ。じゃから、それが出来る人材にはこちらも支援をする。いやらしい話じゃが、こちらの支援に対して答えてもらう。利用し利用される関係じゃな。」
身も蓋もないがそれが真実だろう。
お前は天才なんだからやれよ。と強制しても絶対にどこかで皺寄せが来る。だからといって野放しに好き放題やらせるわけにもいかない。必ずしもそれが良い方向に進むとは限らないからだ。
得てして強大な力は身を滅ぼす危険性があるのだ。
自分で言っていてなんだが耳が痛い話である。
だから、やらせるだけではなくこちらも相手が利益になることをする。
よく言えばwin-win、悪く言えば利用し利用される関係だ。
「じゃから、ある程度の成果を示せば授業なんぞいくらでも免除されるし、見合った成果が示されればこちらが用意できるものであれば用意するのじゃ。」
「いいじゃないか。なんで言い渋ったんだよ。」
「お主、自分の言ったことを忘れておらぬか?」
「何か言ったか?」
ん?俺何か言ってたっけな。
「成果を示す、貢献する、功績を挙げる。これは全て光太が嫌ったこと。つまり、目立って面倒なことになる可能性がある。」
「コータって時々抜けてるよね。もっとクオみたいに考えて行動しないとね。」
イラッ。
確かに考えついたらすぐ行動してしまってる感は自分でも否定できないがクオに言われたくない。
いや、もしかしたらいつものほほんとしているクオだが頭の中では膨大な計算式が流れているのかもしれない。
まあ、ないと思うが。
「大丈夫だぞ、クオ。クオはきっと俺と同じだ。でも、よく考えなくてもそうだな。示すっていうのは人にっていうのが頭について来るのか。才能を示すなんて言ってるんだから目立つこと請け合いだな。」
クオは何か言ってきているが無視です。
今は真面目な話をしているのでふざけるのは後にしてください。
「そうじゃ。入学する以上、クラスメイトと顔を合わせる事もあるじゃろうし、授業が免除されていればその理由が気になるのも道理じゃ。こちらにも説明義務というものがあるのじゃ。」
そいつだけ贔屓してるんじゃないかとか疑われてもたまったもんじゃないからな。
説明しないといけないだろうな。
「それにお主、ゴブリンキングやオークキングもその歳なら賞賛されるべきことじゃ。それを儂らに黙らせておる時点でこの話はないと思ってあったのじゃが。」
そうか。邪竜の件はフロード様のお陰で俺たちは関係ないことになっているのか。
だから俺達が倒した最高難度の依頼はキング二種ということになっているのか。
「そうだな。セレスティアの問題が解決するまでは側を離れるわけにはいかないし、これを考えるのは夏休みが明けるまでの間でいいかもな。今考えてもいい考えは出てきそうにないからな。」
「そうじゃな。儂も何かないか考えておくのじゃ。」
セレスティアの王女権限でなんとかしてくれないものか。それも目立つか。
はぁ。今更感の強い目立つ問題に頭を悩ませているのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
だっていつも一緒にいるクオやレティ、リルは美少女揃いだし、セレスティアは王女様だ。これから共にいることになるのだから目立たないわけがない。
もういっそ新しく覚えた刻印魔法とかですごい魔法道具使ってしまおうかと浅はかすぎる考えが頭を過る。
「通うのは明日からでよいのかの?」
「いくらなんでも今日からはちょっとアレだし、そうだな。明日からにしてもらおうか。」
「では、この後は私が校内を案内いたしましょう。ある程度の施設は覚えてもらっておいた方がよろしいでしょう。」
と話はひと段落済んだのでそういうことになった。
明日はまたルロイさんを門前に迎えに出してくれるそうだ。
学園長室を出た俺達はまた転移陣を使って元の場所へ。
教室とかは別にいいのでパス。本校舎は巨大だがそんなに案内するほどの場所はないそうだ。
無料と有料の二箇所の食堂、教員その他が待機している教員室、学園で必要なものがある程度揃う購買、そして一番知りたかった図書室。
「ここにはお世話になりそうだな。町にあった図書館より貯蔵数多いんじゃないのか?」
本を読むことは結構好きなのだ。
それにこの世界の知識を取り込むのにも最適だしな。
「そうですね。世界でもトップクラスでしょうね。」
本校舎内の主要施設には案内してもらったが、広すぎて疲れるということもなかった。
転移陣の性質上、いくつも作らなければならないことから転移用の部屋で嵩張ってしまっているのではないかと思ったが、入り口のところ以外は違った。
移動したいときは入り口の転移陣を経由して移動するようになっているようだ。
つまり教室から移動したい場合、教室→最寄りの転移陣→入り口付近の転移陣→移動したい場所に通じる別の転移陣→移動したい場所という風になる。
これで入り口付近に固めて全て置いておくことで、他の場所には一方通行の行きと帰りようで二つ置いておけばいいようになっていた。
「次は外の施設を案内しましょうか。昼食にもまだ早いようですから。」
少し話し込んでたとはいえ朝早くから来ていたのでまだ十時くらいだ。
そのまま外の案内に移った。
だだっ広いだけの訓練場、様々な用途に合わせたそれぞれの訓練施設、どこの世界もこれなのかと思ってしまう闘技場。
技術方面では研究施設を軽く流し見程度に最新鋭だという機器を見せてもらったりしたが、正直何が何だか分からなかった。
一通り回るとお昼時に差し掛かったので昼食にすることにした。
セレスティアが一昨日行けなかったということでまたあの店に行くことになった。
また同じような甘いやつを食べると息巻いているクオとレティを見ていると、正気を疑ってしまう。
特にレティはあの巨大なのは数日単位で食べるものではないと思うのだ。




