入学?
「待っておったぞ。とりあえずそっちに座るのじゃ。」
言われた通りに爺さんとセレスティアが座るソファの対面に座る。
秘書っぽい人と侍女っぽい人は二人の後ろに立っている。
大きいソファなので四人でも座れそうだ。
じゃんけんの結果、レティとリルが俺の横になったようだ。クオはレティの横に座っている。
ルロイさんは俺達を案内すると部屋を出ていった。
軽く挨拶を交わし早速本題。
「早速本題じゃが、見学とはどういったことをしたいのか聞いてもよいかの?」
前に大まかには言ったが確認の意味も込めて詳しく聞きたいのだろう。
「まず、どの程度の魔法が教えられているのか知りたい。そして、魔法学園所有の魔法文献の閲覧許可、それと図書館があるならその利用許可も欲しいな。」
「そうじゃな、まずは魔法文献の閲覧許可じゃが、これは国家機密に関わるようなものでなければ大丈夫じゃ。本来じゃったら見せたりはしないんじゃがギルドでの約束もあるからの。」
「それでいいよ。」
別に見られなくてもこちらに支障はない。
機密なんて知っても厄介なだけだし、その程度のレベルならクオやレティが知っている。
「どの程度の魔法が教えられているのか知りたいとは授業を体験したいということでよいかの?」
そうなるのか。
視察みたいに見るだけでもよかったのだが、実際に体験した方が分かりやすいかもしれない。
魔法なんて込める魔力量一つで変わるものだ。それに想像力やINTなどもあるのだ。
細かく知れるならその方がいい。俺には知識も経験も努力も全てが足りないのだ。
「そうだな。それが出来るのならそれがいいな。」
「これは図書館利用にも関わることじゃが一つ提案がある。魔法学園に通ってみてはどうかの?」
「無理だな。」
この町にずっといるわけではない。
早く強くなるには知識や努力もそうだが、この世界ではレベルが何より優先されるのだ。邪竜の魔石があるとはいってもそれだけでは足りるはずもない。
レベルを上げるには町中では駄目なのだ。
それに、六龍のもとを訪れることになっている。
俺の勝手な用事でリルの用事を蔑ろにするわけにはいかない。
「即答ですか。何故かお聞きしても?」
挨拶以降沈黙していたセレスティアが口を開く。
「第一に俺達は冒険者だ。この町にずっと滞在するわけじゃない。いずれ出て行くだろうしそんなに遠くない日だろう。第二に他にも外せない用がある。第三ににメリットが図書館利用だけじゃ小さすぎる。それだけなら学園に通うことに時間を割くくらいならオークでも狩っていたほうが今の俺には実になる。」
何度も言うがレベル上げが急務だ。図書館じゃレベルは上がらない。
「通うメリットは他にもありますよ。教員は魔法に関してはエキスパートです。技術を身につけるのでしたらここ程適した場所はないと思いますよ。非戦闘面でも充実しています。ここの生徒であれば世界でも有数の蔵書数を誇る図書館を利用できますし、ある程度の報告義務はありますが最新鋭の技術を使用できる研究所の使用もできます。」
つらつらと利点を上げていくセレスティア。
何故そんなに入学?して欲しいのだろうか。
「戦闘面の強化は勿論、魔法技術も向上すること間違い無いと思います。」
「少し意地が悪いかもしれないが、俺の隣にいるのは誰だと思う。」
リルを見ながら言う。
当のリルは私?みたいな顔をしている。
「リルエル様ですか?」
「ああ。リルはユニスト竜王国の姫だ。そんなリルと俺は仲がいいのに、魔法学園で教師から学ぶことはメリットになると?確証はないけど、頼めば守護隊の訓練ぐらいなら混ぜてもらえると思うぞ。」
国の守護を行う人たちの訓練にそう簡単に混ぜてもらえないとは思う。
これはブラフだ。魔法学園に通わせようとする本意が知りたい。
「そ、それもそうですね。で、では、魔法技術の向上の方はどうでしょうか。最先端の技術を使えるのです。もし、魔法道具に興味がおありでしたらここ程快適な場所はないと思いますよ。」
「興味がないといったら嘘になる。けど、それよりも戦闘技術の向上の方が優先度が高いんだ。悪いな、セレスティア。」
耐えられる素材さえあれば、さっきの転移陣すら作れることは黙っておいた。
余計な厄介事の種にしかならない。
「そ、そうですよね。」
目に見えて落ち込むセレスティア。
なんだか悪いことをしてしまった気分だ。
セレスティアにも何かあるのかもしれないが、俺達にもやらなければならないことはある。
主に俺がやらなければならないことだが。
「コータよ。セレスティア様は」
落ち込むセレスティアを見かねたのか爺さんが何かを言おうとするとそれを遮りセレスティアが口を開く。
「大丈夫です、学園長。本当のことをお話してからお願いしなければならないところを私は間違っていたようです。コータ、聴いていただけますか?今の私の現状を。」
「分かった。聴かせてもらうよ。」
そうしてセレスティアはゆっくりと語り始めた。
「セシルのことを別にしても私は勇者召喚には反対派でした。昔からの習わしとはいえ現代ではその意味も薄くなってきております。」
勇者召喚は元はこの世界の住人では対応できない悪に立ち向かう為に少しでも可能性のある人物を時空を超えて召喚するシステムだ。
才能値という面なら勇者は騎士団長クラスだし、今の強大な悪のいない世界に召喚されてもやることは少ない。
本当に他国への牽制のためだけに召喚されているのが現状だ。
「そして私の異母兄の第二王子は賛成派の中でも勇者を利用して王国の拡大を狙う派閥です。我が国では勇者召喚に賛成する貴族は多くても、それを戦争に利用しようとする貴族は少なかったのですが近年第二王子の考えが広まりつつあり少なくない貴族が影響を受けています。」
「つまり、セレスティアと第二王子は敵対関係にあるのか?」
「いえ、第二王子は戦争さえできれば良いと考えています。そこに勇者がいればやりやすいというだけでそこまでこだわっていません。しかし、問題は第二王子の後ろ盾となっている貴族です。あの事件があって以来、私は事あるごとにユウキを勇者の任から解放しようとしています。」
あの事件とはセシルが死にかけた事件だろう。
「それを面白く思わない一部の貴族がすぐに揉み消してしまう。そして、どれだけ人道に反していようとやはりこの国に勇者は必要なのです。父、国王は立場故に感情で動くことはできないのです。勇者一人の犠牲で国民全てが安全に暮らせるのならそちらを優先できる人間なのです。」
揉み消されても動いてくれる人間はいないというわけか。
王としては賢王なのかもしれない。
何が優先されるべきことか、自分の感情を挟まない、判断を下せるのは上に立つものとして立派なことなのだろう。
それは一個人が納得できるかどうかではない。
「私も国民を蔑ろにしているわけではありません。この国にはそうできるだけの戦力があるのです。」
この国の騎士団は強いと何処かで聞いた。それにユニスト竜王国とも友好的だしな。
「多分、私は王には向いていないのでしょう。例え勇者でも、いえ親友には幸せになって欲しいのです。頭では理解していても、この二人を切り捨てることはできませんでした。」
そう思える人がいることは昔の俺からすればすごく羨ましい。
そして今の俺にはその気持ちが分かる。
少し違うかもしれないが、隣の三人には心の底から幸せになって、違うな。幸せにしてやりたいと思う。
「その結果、私は第二王子の取り巻き貴族から命を狙われています。今回の件は周りの目を引きすぎたようです。」
いきなりの本題だったが大体の予想はついていた。
しかし、邪魔だからと王族の命まで狙うとはこの世界はどこまでも物騒だ。
いや、この世界も地球もさほど変わりはしないか。
「ですので、お願いできませんか。私の命を救ってください。この件に関してはユウキやセシルに頼ることもお父様に頼ることも出来ないのです。」
立ち上がり見惚れるような綺麗な動作で頭を下げるセレスティア。
神崎やセシルに頼るということはセレスティアのやってきたことの意味を否定することだし、きっと神崎はそれを受け入れ戦争にでもなんでも参加するだろう。
そして、もしセレスティアが死んでしまえば今までセレスティアは抑止力となっていたはずだ。いなくなればすぐにでも神崎が利用される未来は見えている。
助けを求めることもできず、死ぬことも許されない。
俺の答えは決まっている。
色々とやらなければならないことはある。しかし、約束は守らないといけないだろう。
リルには謝らないといけないな。これは俺の勝手な都合だ。それでリルの予定を先延ばしにすることになる。
「俺は何をすればいいんだ?」
助けると約束した。
あの時のセレスティアが冗談で言っていたのだとしてもその約束は果たそう。
セレスティアが約束を守ってくれるのならば俺は喜んで助けになろうと思う。




