魔法学園
名前考えるのが大変な今日この頃。
目の前には巨大な門がある。
門自体は大きく開け放たれているが回りは高い壁に囲まれていて入ることのできる場所は限られている。
大きすぎて見上げれば体が反り返りバランスを崩しそうになる程だ。
ほら、クオが後ろに倒れそうになっている。
「大丈夫か、クオ。」
後ろに回り受け止める。
「ありがとう、コータ。でも、大きいよね。この壁も向こうまで続いてるみたいだし。」
この大きな門もさることながら、門と繋がる壁も果てが見えない。
まあ、北区の散策の時に果ては見ているが。
「そうだな。この学園異常に大きいよな。それもそうだが、来たはいいけどどうやって連絡取るんだ、これ。」
北区に行った時に他の学業施設も見たが、魔法学園とは比べるべくもなく小さかった。
「クオ様、いつまでくっついてる。卑怯。」
「自然にイチャイチャするそのテクニック教えてほしいわよ。」
レティとリルに引き剥がされるクオ。
「対応が早いよ。もう少しゆっくりでもいいんじゃないかな。」
クオは抗議している。
あの倒れそうになるところから演技だったというのか⁈
いや、クオに限ってそんなことはないな。
どうせ、俺が受け止めた後にその状況を忘れていただけとかだろう。
「今失礼なこと考えてるよね?クオは受け止められた後に居心地が良くて離れなかっただけだからね!」
やっぱり意図的ではなかったか。
もしそうだったら病気かと疑っていたかもしれない。
「今になって思うけど、集合場所とか決めとけばよかったな。冒険者ギルドとかでもよかったかもな。」
今更言っても仕方のないことを言う。
あの時は色々あったし、そそくさと帰ろうとする爺さんを引き留めての約束だったからな。話を詰めることも出来なかった。
周りの目も気にせずに話していると、一人門の前で待っていた男の人がこちらに向かって歩いて来た。
いま門の前には疎らに数人いるだけなので分かりやすい。
もしかすると、学園関係者ではない俺達がここで騒がしくしていることをよく思わなかった人が注意しに来たのかもしれない。
「すみません。コータさんとクオさん、レティさん、それにリルエル様でしょうか?」
どうやら違ったようだ。
「はい。そうですが、貴方は?」
と話している後ろで、
「最近、名前で呼ばれることにも慣れてきたわね。コータに呼ばれるのは慣れることが出来てないけど。まだドキッとしてしまう時があるもの。」
「光太も分かってやっている節がある。」
「クオも耳元で名前囁いて欲しいよ。」
そんなことを人前で話さないでください。
恥ずかしいから!
だが、それに気にしたそぶりを見せることなく自己紹介してくる。
「私は魔法学園で教師をしているルロイ・フォン・キーツです。学園長から学園長室までの案内と大まかな施設の説明などを仰せつかっております。道中気になるものがございましたら気兼ねなく聞いていただいて結構です。それでは学園長も待っておられますので出発しましょうか。」
あんな爺さんいくらでも待たせとけと思わなくもないが、この人、ルロイさんにも用事があるだろう。
ルロイさんの先導に任せてついて行く。
門をくぐって正面には一般の長い道が続いており、その先には西洋の城と見紛うほどの建築物が建っている。
「正面に見える建物が本校舎になっております。そこの噴水から右に行けば実技関連の施設が、左に行けば研究関連の施設がございます。右は主に訓練場や魔法試射場、闘技場などがございます。左は個人に貸し出される小さな研究室から、集団に貸し出される大きな研究室、その他にもそれぞれが用途によって設備も異なった仕様になっております。」
門と本校舎の間にはちょっとした庭園があり、その中心に噴水がある。今いる道を外してそこから三本の道が伸びていて、本校舎に続いている真ん中の道の他に左右に道が伸びている。
「大きいな。ここまでくると学園というよりも城だな。」
「アビド王国の魔法学園と言えば世界的に見ても一、二を争う学園ですから。今日はこのまま学園長室に向かいます。」
噴水を素通りして城、もとい校舎に向かう。
授業中なのか人は少ない。
だが、その疎らな人は必ずと言っていいほど振り返る。それが美少女が三人もいるからなのか、最近街中で悪名を轟かせている俺がいるからなのか、この前の勇者との一件のせいなのかは分からない。
校舎の中も外見に劣らず凄い。
だが!凄いのだが!こんなものをここに置いては台無しだと思う。
入って正面には階段がある。その階段は突き当たりを直角に二手に曲がって二階へと続いている。
そしてその突き当たりの壁には巨大な人物画が飾られている。
まさかの爺さんである。
俺の感動を返してくれ。建物の凄さも半減どころか三分の一でも治らない。
「うわぁ。台無しだね。もっと何かなかったのか不思議だよ。」
「ん。魔法は良くも悪くも派手。見映えだけなら最高。」
「そうね。盛大な魔法が放たれている絵画とかでもよかったんじゃないかしら。」
おいっ!ここは魔法学園の中だぞ!その学園長の絵画を声に出して批判するのはやめなさい!
俺は小心者なんです!
思っていても口に出せない俺。
「や、やめとけって。いつも言ってるだろ?場所を考えろって。」
言外に他の場所なら言ってもいいと言っている俺。
「ははっ。大丈夫ですよ。私も魔法学園ならではの絵の方が良いと思いますが、学園長は賢者と呼ばれていますからね。そのような絵よりも象徴としては賢者の絵の方が価値があると考えるものが少し多いだけですよ。」
「そうなのか。てっきり俺はあの爺さんの趣味だと思っていたんだが。爺さんってやっぱり凄かったのか。タラタラと語っていた武勇伝を聞き流したのは間違いだったか?」
自分の紹介をするときに武勇伝を語っていたが聞き流したことを思い出す。
完全記憶があるので思い出そうとすれば思い出せるが、その少しの労力が勿体ない。
何故か先程よりも苦笑い色の強い笑いを起こすルロイさん。
「捉えようによってはコータの方が酷いと思うよ。コータも気にしない性格してるでしょ。人の事言えないと思うなぁ。」
あれ?俺も似たようなものなのか?
気をつけねば。
「今日は転移陣を使用して移動しますので、こちらです。」
階段の横に複数の部屋がある。
「この部屋は全て転移陣用の部屋になっています。魔方陣が大きくなりすぎないように複数に分けて作られています。更に、移動前、移動後の魔方陣を別にする事で魔方陣の縮小化を図るとともに、スムーズな使用を可能にしています。」
魔方陣は効果が複雑になればなるほど大きくなっていくからな。
それに、一つの魔方陣でどこにでも移動できるとなれば事故を減らすために細かく設定しなければならないし、他の場所からの同時使用なんてことも起こる可能性があるからな。
移動前、移動後の魔方陣をそれぞれ分けて設置するのは正解だろう。
ルロイさんは部屋の一つに入って行く。
中には人が複数乗れそうな大きい魔方陣があるだけの部屋だ。
「転移の魔方陣なんて簡単に見せていいものなんですか?」
「確かに知られては危険なこともありますが、古代魔法言語を覚えれば誰にでも作れるものですし、万が一にも他で作られることはありません。まず、古代魔法言語を覚えている人間は限られていますし、転移の魔方陣は複雑すぎて作ることのできる人は限られるどころの話ではないですからね。」
確かに複雑だ。だが、俺に見せたのは失敗だろう。
古代魔法言語はスキル効果で分かるし、魔方陣作成も刻印魔法と圧縮魔法でどうにかなる。
つまり、一度見てしまえば魔方陣に関しては俺はエキスパートなのだ。
魔方陣は起こしたい効果によって魔力の指向性が違い、魔方陣の形が変わったりするのでかなりの試行錯誤が必要なのだ。
それが完全記憶により見るだけで不必要になる。
もちろん新規に作ろうとすれば別だが。
「この魔方陣は学園長室の近くに通じています。みなさん乗ってください。」
言われた通りに乗る。
五人乗ってもまだ余裕がある。
このような効果の魔方陣は逆に効果が多いことがメリットになっている場合があるようだ。
大きい方が多く乗れる。
ルロイさんが魔力を流すと視界が光に包まれた。
だが、決して目が痛くなるようなものではなく、柔らかな包み込まれるような光だった。
強い光なのに目が痛くならないのは不思議な体験だ。
光が治ると先程と同じ光景。
「もう少しで学園長室に着きます。」
部屋の外は違っていた。近くの窓からは綺麗な街並みが見えている。
かなりの高さのようだ。
本当に少しだったようで、右に一分もしないうちに突き当たりにあたり、そこに上に学園長室と書かれた両開きの扉がある。
ルロイさんがその扉をノックする。
コンコンッ
「ルロイです。コータさん達をお連れいたしました。入ってもよろしいでしょうか。」
「よいぞ。」
中から爺さんの返事があったのでルロイさんが扉を開ける。
中で待っていたのは、爺さんと秘書っぽい人、何故かセレスティアとその侍女だろう人の四人が待っていた。




