神界再び
目覚めると見たことがあるような光景。
あの時はクオの超絶美人っぷりに他のことに触れる暇があまりなかったので特別な場所ぐらいしか触れてなかったが、こんな周りを見渡せば必ず白と答えが返ってくるような空間は忘れようもない。
建築物や小物なんかには他の色が使われたりしているが、空間自体はどこを見ても白だ。
ここも神界なんだろう。
クオと会った場所には建築物は愚か他にも何もなかったが、ここの白の空間と言って差し支えのない見た目と、神聖さをこれでもかというくらい感じることから同じような空間であることは感じ取れる。
というか、こんな生活感ありありな場所で神聖さを感じているのならそこはもう神界だろう。言い過ぎだろうか?
「嫌だー。宿に帰りたいー。俺は悪くないんだー。」
俺が今ここにいる理由なんて一つしかないのだ。
寝ていたら神界なんてありえないことが…
そうか!もう一回寝れば今度は宿かもしれない。
そんなアホ理論で地べたに寝る。
地べたと言っても下だけは雲のようになっているので、上下左右が分からなくなったりすることもない。雲みたいなのに硬いが。
俺自身は怒られたことがないが半日も怒られたくはない。
なので寝る。次は安らぎの宿で会おう!おやすみ。
「そんなところで寝てもディファードには戻れませんよ。向こうで起こされたら別ですがクオリティア様とレティには言ってありますので。」
瞑った目を少しだけ開けてみると、ロアが立っていた。
もう一人後ろにいるように見えるが半目のせいでよく分からない。
しかし、女教師を下から見上げるこの背徳感。最高です。
というか、向こうで起きたらって事はこれは夢見たいな感じなのか。
リル頼む!今回はクオとレティは敵みたいだ。
仕方ないので起きることにする。
「久しぶりだな、ロア。どこなんだ、ここは。」
何もなかったかのように振舞う。
「御察しの通り神界です。理由も大体考えておられることと同じと思います。」
「この方が光太さんなのね。いつもクオリティア様とレティスがお世話になってます。私は大地に関わる凡そのものを司っている地神プランです。プランって呼んでくださいね。」
おっとりした見た目で確かに普段はおっとりしていそうだが、理知的な印象も受ける。
そうだな、言うなればおっとりしたお母さんだな。
立派なエベレストを二つも持ってらっしゃる。
「ああ、よろしくプラン。」
「それでもう分かっているのでしょう?今回ここにお呼びしたのは刻印魔法なる魔法属性が新たに創造されたからです。」
「魔法っていうのも問題よねぇ。例外無く上級神だもの。」
概ね俺の、というかクオとレティの予想どおりだな。
「それに、この魔法が今のところ神を入れて三人しか使えないというのも厄介ですし、その魔法内容自体も厄介なようですね。」
「三人って俺とクオともう一人はやっぱり?」
「えぇ。新たに生み出された神です。」
「そういえば、光太さんのことをパパって言ってたわね。でも安心して、見た目は同じくらいで可愛いわよ。」
うわぁ。嫌な情報。そして安心できない。
何?同い年の子にパパって言われるって。何プレイですか?
「今回問題なのは生み出されたのが上級神であること。それと刻印魔法が厄介であること、です。それ以外はさほど問題ではありません。神なんてそこそこの頻度で生まれますし、魔法も固有魔法などで有れば問題はありません。ですが、今回は通常の属性魔法として発現しました。つまり、万人が使用できる可能性があるということです。」
「でも、刻印魔法の有用性から考えても上位属性以上のハードルはありそうですけどね。」
「まず上級神であることの問題性ですが、これは単純に力の強大さです。そして今回の最大の問題点、刻印魔法の厄介さ、良く言えば有用なところですが、この魔法は刻む対象を限定しないところです。」
よく分からんな。
「この魔法は魔力を模様のように刻印します。例えば物に使用した際にその物を削ることなく、模様として刻印します。これがただ描かれた模様で有れば効果は発揮されませんが魔力で描かれていることにより発動するのです。」
つまり、ただ絵に描いただけでは発動しないのか。普通の魔方陣は彫ってあるからその流れに沿って魔力を流すことで発動するけど、その彫りの部分を魔力の道で補っている形か。
「でも、それが何が問題なんだ?確かに魔方陣なんて掘れない俺が作ることが出来るようになるくらいは便利だったけど、それ以上に何かあったか?」
「この魔法の有用性は、魔力を刻印する点です。土魔法の場合、対象物を削りながら刻印します。手作業も然りです。しかし、刻印魔法は魔力の流れる道、魔力回路とでも名付けましょうか、魔力回路を刻印しているんです。魔力は物質と重なり合うことが出来ますから。」
削らなくていい点が有用なのか?
そこまでのものとは思えない。
「そして魔力回路は魔力であるが故に対象を限定しない。即ち、物でも、生物でも、果ては空間でさえも刻みつけることが可能だと推測されます。」
これがこの魔法の有用性か。
確かに土魔法だと空間なんかには刻めないな。
ぐらいにしか考えられない俺は浅はかなのだろう。
「この魔法は理解あるものが使うのならば有用性の塊でしょう。しかし、邪な心を持つものが使えば酷い結果をもたらすことは間違いないでしょう。」
「それはそうだろうけど、そんなのどんなものでも少なからずそうじゃないのか?」
使い手によって変わるなんてあり得ることだ。
「そうです。しかし、この魔法は現時点で三人の使い手しかいないのです。今は誰にも知られてないのでこの魔法が広まっていくのはまだ先のことでしょう。しかし、広まってからでは遅いのです。なので、光太さんにはこの魔法の全容を把握していただき、何かあった時に対応が取れるようにしたいのです。」
「なるほど、俺が今後意識的にどんな魔法か解明していけばいいのか。というか、それだけか?もっと怒られたりするもんだと思ってたんだが。」
「え?なぜ私が怒らないといけないんですか?今後も頻繁に上級神が増えるなんてことはやめてほしいですが、たまにこういったことは起こります。プランの言っていた厄介も色々と教えることが多いという意味です。上級神はやらなければならないことも多いですからね。」
あれ?俺は勘違いをしていたのか?
「たまにというのも神にとってのことですので、人族に換算すれば何百世代、何千世代ぐらいの感覚でしょうか。前回は何万年か前に錬金魔法が生まれたと記憶しています。」
ロアは一体何歳なのかという無粋な質問はしない約束。
「ですので、私に怒る理由はないのですが。今回は刻印魔法の全容の解明に協力していただきたかったのでこの場を設けた次第です。」
「てっきり俺は忙しい時期に仕事を増やしてくれたなこの野郎!的なことを言われると思ってたよ。」
「クオリティア様とレティスですか?そうですよね?あの二人は私をそういう目で見ていたのですか。私も感情というものがありますので今後は少し厳しめになるかもしれないと二人にお伝えください。」
すまんな、クオ、レティよ。否定することが出来なかった俺を許してくれ。
「大丈夫よ。いつも怒った後に鏡の前で怒りすぎてなかったかとかきつく言い過ぎてなかったかとか気にしているようなロアだもの。これ以上厳しくなることはないわ。厳しくなる余地が無いともいうのだけど。」
そう言うプラン。
あれ?最初はフォローになってたんだが、最後の一言で台無しになっているんだが。
怒ったらそんなに怖いのかと逆に思ってしまう。
「それはフォローなんですか、プラン。まあ、いいですよ。それと最後になりましたが、刻印神は色々と学ばなければならないことがありますので会うのはまた後日になります。多分ですが、あの頑張りようですとそう遠く無いと思います。」
今来られても色々と間に合っていないので、完全にキャパオーバーです。出来るだけ先延ばしにしてください。
とも言えないので、
「お、俺も早く会いたいよ。俺も刻印魔法の全容解明を頑張るから頑張れと伝えておいてくれ。」
本当は色々と片付いてからにして欲しいなんて言えない。
相当頑張っているみたいだしな。
「では、用事も全て終わりましたしそろそろディファードにお返しいたします。今後もクオリティア様とレティスを宜しくお願いしますね。」
「俺がお世話になっている側だけどな。だけど、クオとレティを大切に想っていることには変わりはないから俺が出来ることは精一杯やるつもりだよ。それじゃ、ロアもプランもまたな。」
そのやりとりを最後に意識が途絶えた。
再び目を覚ますといつもの宿のいつものベットだった。
今日は上にはリル。一番成長が良い、どことは言わないが。
左右にはクオとレティ。
まだ少し起きるには早い時間なのでみんなスヤスヤと穏やかに眠っている。
いつもの光景に少しだけホッとしながらもう少しだけ微睡みに身を任せることにした。




