プレゼント選び
ようやく本命。
昨日見たアクセサリーなんかの小物が置いてある露店に到着した。
「ここですか。私も最近はあまりこっちには来てなかったので知りませんでした。」
学園都市は大まかに区で分けられているとエマが言っていた。
俺が北側とか言っていたら教えてくれた。
「そうなのか。俺と同い年くらいにしか見えないけど、学校とかは行って、なかったな。」
「はい。一昨年まではこの近くの小さな学校に通ってたんですが、ウチは宿屋ですのでもう学校に行く必要はないかと。高等部は専門的なものが多いですし。」
「へぇ。職業とかでも行くか行かないか変わるのか。この歳まで殆ど村にいたから知らなくてな。」
同い年なのに全く事情がわからないのはおかしいので、怪しまれないための久しぶりの設定。
「そうだったんですか。村では誰かが教えてくれてたんですか?」
「あ、あぁ。レティのお母さんが昔教師をしてたらしいんだ。それで学習塾を開いてくれててな。ほら、レティって博識だろ?その影響だよ。」
無理矢理新たな設定を捩じ込む。
レティのお母さんだったらそれっぽいだろ?
逆にクオでもありか。クオのお母さん優しそうだな。
まあ、クオにしてもレティにしても母親はメーティスになる訳だが。
メーティス女性説。
「確かにレティって色んな事知ってますよね。この前私も魔力効率のいい魔法を教えてもらいました。生活魔法であんなに便利なものがあるなんて知りませんでしたよ。」
前使ってたフロートの魔法は浮かせるだけに対して、レティが教えたというキネシスの魔法は動かす自由度が大きいそうだ。しかも生活魔法なのでより大勢が使えるらしい。
「へぇ。ところでどんなのがいいんだろうか。花のアクセサリーが多いみたいだけど。」
店の前で他の話をするのもなんなので話を戻す。
「そうでしたね。じゃあなんでついて来たんだって話になりますが、コータさんの選んだものならいいと思いますよ。それに選んだ理由がキチンとしたものであれば尚良いと思いますよ。」
なるほど。
似合いそうとか映えるとかそれも大事だが、もっとどういう風に似合うとかどんな理由から選んだとか細かく個々人に対してあれば良いみたいな感じかな。
「俺に少しでもセンスがあれば良いんだけどな。せっかく花なんだし花言葉とかで選んでも面白そうだな。」
地球の花とは正確には違うかもしれないが、似てるのは多いからな。
「でも、ここでコータさんのセンスは問われるかもしれませんね。」
くっ。プレッシャーを掛けるんじゃない。
「そうだな。エマにはこんなのはどうだ。」
土魔法で即興で土魔法で作ったスカルリングに禍々しく見えるように闇属性の魔力を漂わせる。因みに魔力は属性を持たせて外に放つと色を持つ。闇属性は紫だ。
「酷いです、コータさん!私の印象はそんなにも禍々しいものだったんですか?」
「分かった、俺が悪かったから。大声で叫ばないでくれ。」
大声で周りにアピールでもするかのように言うエマ。
はぁ。また噂が増える気がする。
と即興スカルリングを砂のように崩しながら思った。
「冗談ですよ。でも、花言葉なんて知ってるんですね。」
「ここら辺のとは違うかもしれないけどな。村にいる頃に暇なとき読んだ本に書いてあったんだ。それで覚えててな。」
日本にいた頃は暇つぶしに色んな本を読んでたからな。その中の一つにあっただけだ。
それから記憶を探りながらどれがいいか選んでいく。
時間はあまりないが、しっかりと悩んで決めていく。
と言っても悩む材料も少ないので三十分ほどで決まった。
それでも三十分掛かったのは俺の思いの丈かそれとも俺のセンスのなさ故か。前者であってほしい。
「よし!これがいいな。」
「良いと思いますよ。結局私役に立ちませんでしたね。ごめんなさい。」
「いやいや、一人だったらもっと悩んでたと思う。ちょこちょこアドバイスくれたりしたから結構スムーズに選べたよ。それに楽しかったよ。お礼するって言ってたし好きなの選んでくれ。プレゼントするよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。そうですね、せっかくですから一つわがまま言っていいですか?」
「何だ?そんなに値段も変わらないし、どれも高いわけじゃないから値段とかも気にならないと思ったんだが。」
プレゼントを選びに来てそれより高いのを買ってもらうとかなったら気にする人もいるだろう。
「そうではなく、選んでもらえませんか。」
俺の酷使した脳をまた働かせろと言うのか⁈
それは冗談として今回選んだプレゼントはともかくとして、俺が選んだやつよりも自分で好きなやつ選んだ方が良くないか?
考えが顔に出ていたのかエマが
「いいんです。私はそっちの方が嬉しいですから。」
分からん。
「まあ、エマがいいなら俺も異論はないけど。」
そうだな。
俺が選ぶとしたらエマはこれだな。
「これはどうだ?」
「どんな花言葉なんですか。」
俺が選んだのはシンプルなネックレスで、スノーフレークっぽい花のやつだ。
「これは俺のいた所ではスノーフレークか鈴蘭水仙って呼ばれててな。花言葉はいくつかあるけど選んだ理由はみんなを惹きつける魅力だ。いつも笑顔で仕事しててそれを見てそう感じたよ。」
「そうなんだ。ありがとう、コータさん。どう?似合うかな?」
スノーフレークはその白さと先の緑の斑点が清楚さを際立たせることから純粋や純潔のような花言葉もある。
エマはクオ達が側にいるから目立ってないがかなりの美少女だ。そんなエマがつけると、いつもの快活な感じプラス清楚な感じが生まれてより一層美しさが増している。
「よく似合ってるよ。窓際に座ってれば深窓の令嬢だ。」
「それは静かにしていればってことですか?それとも普段は世の汚れに染まっているとでも言いたいんですか?」
ありゃ。恥ずかしかったとはいえ言葉のチョイスを間違ったようだ。
「違うよ。いつもの快活さに清楚さが上乗せされて一層美しさが増してる。なんて恥ずかしくて言えなかっただけだよ。」
せっかくのお礼で気を悪くさせてはいけないので観念して素直に感想を言う。
「そ、そうだったんですね。ありがとうございます。」
顔を見て仄かに赤らめてお礼を言ってくるエマ。
そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなる。
「どういたしまして。」
「初々しいねぇ。値段は銀貨一枚でいいよ。端数はおまけだ。」
露店のおっちゃんが言う。
均一で銅貨三枚なので、銅貨二枚まけてくれてる。
「ありがとう、おっちゃん。それとこれって同じのとかあるか?」
「おう。それなら三つならすぐ用意できるぞ。後は後日になるが。」
「いや、ちょうど三つ欲しかったんだ。それとこれを一つくれ。」
三つ頼んだのは上の部分がスターチスっぽい花の形をした指輪だ。もう一つは何の変哲も無い鉄のリングだ。これは銅貨一枚だ。
「はいよ、銀貨二枚だ。お幸せにな、お二人さん。また何かあったら寄ってくれ。」
何を勘違いしたのかそんなことを言ってくるおっちゃん。
面倒なので訂正しないが、他にもいっぱい買ってるから分かりそうなものなんだが。
「じゃあ、宿に帰ろうか。まだ時間はあるけどゆっくり行けばギリギリになりそうだ。」
帰りは他の露店を見たりはせずに話しながらゆっくり帰った。
宿には三十分ほどの余裕を持って帰ってくることができた。
「今日はありがとな。エマのお陰でいいのが選べたよ。」
「いえ。こちらこそこんな素敵なプレゼントありがとうございます。大切にさせてもらいますね。では、また後で。」
余裕があるとはいえ作ってもらった時間なので、急いで奥に行くエマ。
俺も部屋に戻ろうと思ったのだが、何やら視線を感じる。
恐る恐る食堂の方を見てみると、そこにはジト目のクオとリル、無表情のレティだった。




