エマとデート?
あくる日、俺は寝ずに朝を迎えた。
キスしてから今まで以上に意識してしまい、色々と抑えるのに苦労した。
それは今のみんなの位置にも起因している。
今まで通り二人は両隣から抱きついている。問題は残りの一人だ。
残りの一人だけ離れるのは不平等だとかで俺の上に寝ている。
寝づらいのもあるが上は流石に辛いものがある。
今までだって朝から猛り狂いそうな俺のブラザーを何とかして抑えていたのだ。それを上に乗られたら我慢するのも大変だ。
今日はジャンケンで勝ったレティだ。
うずくまって寝ている姿は抱きしめたくなるほど可愛い。だが手は固定されている。
一巡させないのは不平等とか言われそうなので、クオとリルが終わったら違う形にしてもらおう。
「おはよう光太。」
レティの顔を眺めていたら目があった。
「おはようレティ。」
「眠そう。寝られなかった?」
「ちょっと色々考えててな。」
昨日のことや盗賊のことなど考えていたのは本当だ。
内容が内容なので気を逸らすためにはちょうど良かった。
話し声で起きたのかクオとリルも目を覚ました。
「おはようクオ、リル。起こしてしまったみたいで悪いな。」
「おはよう。ううん、目は覚めてたの。ただコータにくっついて至福の時を味わってただけだよ。」
「おはよ。私もコータ成分の補充中だっただけだから。これで今日一日分の補充は完了したわ。今日も頑張れそう。」
コータ成分は活動エネルギーだということが判明した。
コータ成分は一日を頑張るためのエネルギーらしい。
やっと自由になったので固まっていた体を伸ばす。
やっとなんて言ってはいけないな。俺にとっても至福の時だ。
「なぁ、今日は別行動にしないか?申し訳ないけど、昨日は眠れなかったから眠くて仕方ないんだ。」
「あっ、ごめんね。クオたちがくっついてて寝づらかったよね。」
「違うよ。考え事してただけなんだ。ごめんな。」
クオが申し訳なさそうにしてるので訂正する。
まあ、その問題は前から抱えているので今回の事とは関係ない。
「ん。たまには私達だけもいい。光太も男の子。一人がいい時もある。」
違うから!違う意味にしか聴こえないから!
ま、まさか!俺が知らない間に俺のブラザーは猛り狂っていたのか⁈
違う事を祈ろう。
「そういう事なら仕方ないわね。秘密の特訓は見られたくないものよね。兄様もよく隠れて特訓してたわ。」
見つかってるぞー、フリーズ。
っていうか、それとこれを一緒にしたら流石に可哀想だから。
「ごめんな、せっかくの休日を。」
「大丈夫だよ。これからもいつでも一緒に居られるんだから、今日一日くらいどうってことないよ。」
「そうね。その為のコータ成分なんだから。足りなくなったら補充しにくるかもしれないけど、そーっとするから大丈夫よ。」
茶化すように言うリル。
「ん。ゆっくり考えるといい。焦らなくても大丈夫。私達は光太から離れて行ったりしない。」
俺だけに聞こえるように近づいてきて言うレティ。
本当にレティには感謝している。
あれは自分で思うが、相談できない人間だ。どれだけ頼りたくても最初の一言が出ない。全て抱え込んでしまう。
だから、俺の考えてる事を察してくれるレティには本当に感謝だ。レティがいなかったらこの異世界生活も、クオとの日々も、もっと違ったものになっていただろう。悪い方向に。
「ありがとな、レティ。」
三人が出て行く後ろ姿を見送りながら心の声を吐露した。
それが大体朝の七時ごろだ。
不便なので今度時計を買いに行こう。
それから十二時の鐘が鳴るまで睡眠をとった。
三人には悪いが、本当に熟睡できたのは久しぶりだったかもしれない。
下に降りるとエマがいたので追加料金を払い昼食をお願いする。
お金は全員が白金貨1枚金貨9枚銀貨10枚持ち歩いている。
残りは全部クオのストレージの中だ。
エマもちょうど昼休憩を取るらしく一緒に話しながら食事を取った。
「今日はお一人なんですね。喧嘩でもしたんですか?」
「ちょっと寝不足だったから別行動にしてもらっただけだよ。そうだな、何時頃まで休憩なんだ?」
「そうですね。仕込みなんかはお父さんがやりますし、何かあればお母さんもいますから三時くらいまでは大丈夫ですね。何ですか?デートのお誘いですか?いつもの女性陣がいないからってすぐに別の女性を口説くなんて最低ですね。」
「違うから!そういう不用意な言葉が俺の不名誉な噂に繋がるんだからやめてくれないかな⁈」
「なになに?エマをデートに誘ってくれてるの?この娘宿の仕事の手伝いばかりをさせてしまって男の影が見えなくて申し訳なかったのよ。」
エマの母登場だ。
「宿の客で言い寄ってきているのは見たことあるけどあんなのに靡くほど安い女じゃないのよね。でも、コータ君なら安心ね。結構強いみたいだし、クオちゃん達見てると甲斐性もあるみたいじゃない。何よりエマも気に入ってるみたいだしね。」
「何言ってるの、お母さん。この宿もっと大きくしないとお付き合いなんて出来るわけないでしょ。最近だってそのコータ君に普通だ何だって言われたばかりなんだから。」
コータ君を強調して言うエマ。そんなに普通を気にしているのか。すまんかった。
まあ、やめないがな!
「それにコータさんは冒険者なんだからこの町をいずれ離れるのよ。この宿もあるんだから駄目でしょ。」
「あら、私とお父さんはエマが幸せになってくれるならいいのよ。」
「そうね。この宿が軌道に乗って心配しなくて済むようになったらそれも悪くないかもね。ほら、お客さんが呼んでるよ。」
「はーい。」
行った行ったと母の背中を押すエマ。
「ごめんなさい。お母さんの戯言に巻き込んでしまって。」
「いや、別に気にしてないよ。エマが家族想いの優しい人だって分かったんだから、逆に得だったぐらいだ。」
「こんなの普通よ。そんなことより何の話だったっけ。」
照れているのか、いつもの敬語口調が崩れて家族に対しての口調に変化している。
「ん?何時頃まで休憩かって話だな。」
「そうだったね。三時までなら休憩貰えるって答えたんだったかな。」
「そうそう、それで暇なら付き合ってほしい場所があるんだけど。お礼もするから。」
「やっぱり口説いて…」
ジト目を向けてくるエマ。
「ち、違うって。みんなにお礼をしたいけどどんなのがいいか分からないし、俺なりに考えてありきたりだけどアクセサリーの類にしようと思ってるけどそれもどんなのがいいのか分からないから女性の意見を聞こうと思って。」
「そうだったの…あっ。そうだったんですね。それなら多少なりともお力添えできるかもしれません。でも、最終的には自分で決めないと駄目ですよ。」
やっと気づいたか。もう大分遅いがな。
「おぉ、ありがとなエマ。女性へのプレゼントなんて初めてだから全く分からなくて困ってたんだ。」
だけど無粋なツッコミはせずに敢えて流す。
気づいていたなら何でとか言われても困るからな。
「それでお店は決めているんですか?」
「あぁ。昨日町を散策している時に見つけたんだが、色んなアクセサリーを売ってたんだ。北側にある店なんだけど。」
「北区は学生が多いからそういった店は多いですからね。では、お母さんに話してきますので少々待っててください。」
それから十分程してエマが戻ってきた。
さっきまでは宿の制服にエプロンだったのに、ロングスカートに七分袖のTシャツに着替えてきた。
「わざわざ着替えなくても。」
「女の子には色々とあるんです。そんなこと言ってるとモテませんよ。」
何故か窘められ宿を出た。
その時、エマの母が
「今日は帰ってこなくてもいいのよ。」
と言っていた。
あなたの職場は宿です。
それから北区の方に向かいながら露店を冷やかしていった。
北区にはもう一つ用事があった。
それは、
「ちょっとここによっていいか?すぐ終わるから。」
「ここ図書館ですよ。図書館にすぐ終わる用事って何ですか?」
そう、俺はついに図書館を見つけていたのだ。
昨日は町を散策していた目的はリルの案内だ。その目的に図書館は合致していなかったので特筆することではないと判断した次第だ。
今日は時間がないので必要なことだけ済ませる。
因みにここは学生が利用しやすいように十八歳までは無料で利用できる。
置かれている本も写本だけらしいので紛失しても問題ないようだ。
えーっと目的の本はっと。あったあった。
魔法陣作成基礎と書いてある。
今回は試したいことがあるのでこれが必要だった。
こういう時は完全記憶が無双する。
なになに。
魔方陣、魔法陣には魔法言語が使われる。また、魔法言語は古代魔法言語を分かりやすくしたものなので魔法言語では難解なものは作り出せない、と。
その辺は問題ない。俺には言語理解のスキルがある。
魔方陣と魔法陣の違いなんかは流し読みする。後から完全記憶から読み取ればいいし、そもそも知ってるからな。
おっ、ここだ。
魔方陣、魔法陣のどちらも形状は決まっているように思われるがそんな事はない。決まっているのは魔方陣だけだ。魔法陣は、魔法言語で描かれるものは詠唱の代わりだ。詠唱とは魔法のプロセスの想像の手助けである。従って自らが分かれば形はどのようなものでも発動する。らしい。
因みに魔方陣は万人が使えるようにしないといけないので定型があるそうだ。魔力の流れやすさとかを考慮しないといけないともある。
おし、魔法陣の作り方は分かった。
これで目的達成だ。
椅子に座って暇そうにしているエマのところに戻る。
「悪い、待たせたな。」
「えっ?待ってないですけど。だって五分も経ってないじゃないですか。本当に図書館を利用する気ありましたか?」
コンビニにトイレを借りに行ったみたいなニュアンスで言わないでくれ。
「あぁ、もう終わったよ。今日は時間ないし、また今度ゆっくり来ようと思うよ。」
納得いかなそうなエマを連れて図書館を出る。
本目的の店を目指して歩き出した。




