神崎の覚悟とキス
今回からはまた光太視点です。
「あの時セシルは気絶する寸前に、今まで通りこの世界を楽しめと言った。それが何よりこの世界に召喚してしまった我々の、自分勝手な願いだと。本当に自分勝手だと思ったよ。こんな体験して楽しむなんて難しいとも思った。でも、身を呈してまで守ってくれようとしたセシルの願いだ。俺はこの世界を全力で楽しんで、どんなことをしてでも周りのものは傷つけさせない。たとえその方法が人殺しであったとしても。そう誓ったんだ。そしてこれは全て俺の意思だ。」
日本では人を殺すなんてこと許容されるものじゃない。
だが、この世界では違う。理由さえあれば、大義さえあれば許容されてしまう。そんな世界だ。
俺だってそうだ、と思う。
クオやレティやリルが危険にさらされた時躊躇なんてしない。そう思っている。
でも、実際その場面に出くわしてあの平和な世界で無益に時間を浪費していた俺が出来るのかと同時に思ってしまった。
「お前のさっきのそれも同じだよ。魔法を使わないつもりだったなんてそれは甘えだよ。お前は俺に聞きたいことがあった、それを聞くには勝つしかない。なら、何が何でも勝てよ。」
確かに明確なルールとして定めていたわけじゃない。
俺にとってこれは必要なことだった。
自分の覚悟に揺らぎを感じ、こいつの覚悟に強さを感じた。
俺とこいつの差を知るのは必要なことだった。
なのに俺は変な制約を自分でつけて、最優先事項が何なのかを忘れていた。
「最後のあの力、確かにあれがあれば負けることなんてほとんど無いかもな。だけどな、その甘い考えがいつか取り返しのつかない事になりかねない事を覚えておいた方がいい。」
俺は覚悟以前に自分の、いや与えられた力の大きさに慢心していた。
今回は油断なんてものじゃない。相手の力を見誤り、侮った。その結果がこれだった。
「お前に丁度いいものを教えてやるよ。冒険者ギルドである依頼を受けるといい。その依頼でお前の悩みは全部解決する。」
「どんな依頼なんだ?」
「盗賊の討伐依頼だ。あいつらは悪人だ。誰が何と言おうと、な。だけど、俺達とは何も関係ない。悪人だが関係のない人間を殺せるか?この世界で生きるには防衛で仕方なくみたいな覚悟じゃ守れないし、仇なすものは許さないぐらいじゃないと守れない。」
言う通りだな。
「盗賊なんて百害あって一利なしだ。生かしておいても徳なんてない。もし甘さを見せて生かしたりなんかしたらまた被害者が出るんだ。今度はそれがお前の知り合いかもしれない。」
そうか。わかった。
俺とこいつの覚悟の違いが。そして感覚の差異が。
俺は殺人を許容出来るかを考えていた。しかし違った。
どの世界であっても殺人なんて許される事じゃないんだ。たとえ人を殺して感謝されたとしても。
この問題は人を殺した時にその責任を背負う覚悟を持てるかどうかだったんだ。
「やってみるよ、その依頼。俺は勘違いしていたみたいだ。覚悟なんて言ってその責任を、守るという言葉に押し付けていたんだな。」
人を殺す、その重みがどれほどのものなのか分からない。
しかし、ここで生き抜くために、みんなを傷つけないために、俺は俺の意思でその重みを知る必要がある。
本当の覚悟はその先にしかないのだから。
話が終わったのを感じ取ったのかレティが結界を解く。
すると誰よりも早く、大勢の野次馬の中から飛び出してくるものがいた。
「大丈夫ですか、ユウキ様。いつもいつも誰彼構わず女性を口説こうとするからですよ。たまにはいい薬になったでしょう。」
「酷いな、セシル。もうちょっと気遣ってくれてもいいんじゃないか?」
え?セシル?
普通に驚いてしまった。
「んぁ?そうか、話してなかったな。生きてるぞセシルは。この通りな。この世界の蘇生魔法は死後直後じゃないと間に合わないレベルのものばかりだしあの時死んでいたら間に合わなかった。でも、俺の固有スキルの起死回生のお陰で間に合ったんだよ。」
そういや、死んだなんてことも一言も言ってない。
勝手に殺してごめんなさい。
「手足もこの通り元通りです。その事だけは感謝ですね。」
うふふと笑いながら言うセシルさん。
何とも仲睦じい光景だ。
誰よりも早く駆けつけたことからも大事に思っていることが窺える。
「そうだな。このスキルをくれた神様には感謝しないとな。闇神レティス様に感謝だ。」
「その割には闇魔法のレベルが低い。感謝が感じられない。」
ドキッとしてしまう。
まさかのご本人登場みたいな感じで出てこないでほしい。
顔を見られてないとは言っていたが大丈夫なのか?
名前だって略しただけだし。
「そうなんだよな。レーヴァテインと相性の良いのが火と光だからそっちを優先してしまってな。俺は強くならないといけないからレティス様にはもう少し待ってもらうことになりそうだ。」
「ん。わかった。きっとその神様も理解してくれると思う。」
他の人から見たら何で上から目線なのか気になるぞ。
そしてクオ!一生懸命笑うの我慢してるんだろうが怪しいぞ。
「そうだといいな。弱いなんて言って悪かったな。その謝罪として何かあったら頼ってくれていいから。人も結構集まってしまったみたいだし、またな。セレスティアもお茶はまた今度。」
人混みの中に姿を消していく神崎とセシルさん。
「何度もお茶はお断りしていますのに。本当に困ったものです。早くセシルと二人でゆっくりして頂けると嬉しいのですけど。セシルもやっとしがらみから解放されましたのに。」
セレスティアが神崎に勇者を辞めさせようとしているのはセシルの為らしい。
セシルは昔の勇者から連なる家系の貴族で公爵家だったそうだ。だが、姉を殺されその仇を討つために地位を捨てたらしい。神崎が討ったのがその仇だったみたいだ。
昔はセレスティアとセシルは年も近いことから仲が良かったようで、セシルには幸せになってほしいと言っている。
勇者を辞めて一般人になって幸せにしてほしいそうだ。
都合よく?女性関係で問題をよく起こすのでそれを利用しようとするが、すぐ他の貴族に握りつぶされるとボヤいていた。
「じゃあ、俺達はこれで。ちゃんと約束は守るから、何かあったら言ってくれ。まあ、また会うこともあるだろうからな。」
二日後には魔法学園に行く予定もある。
「えぇ。約束は守ってもらいますよ。その時は白馬に乗った王子様のようにお願いしますね。」
頬にキスして去って行くセレスティア。
「それでは、また近いうちに。」
「なっ⁈クオもまだなのに!増やしていいとは言ったけどそれは許容できないよ!コーーーターーー!」
頬とはいえ初めてのキスにポケーッとしていると理不尽に怒ってくるクオ。
いつの間にか目の前にクオが。
空中に浮いているのでテレポートで飛んだらしい。
俺の方が背高いしな。
「ファーストキスはクオがもらうんだから!えいっ。」
そのまま首に手を回しチューッと長めのキスを。
「むぁっ!長いっ!暴走しすぎだ、クオ。ただでさえ羞恥で死にそうな事をこんな公衆の面前でやるか、ふつー⁈」
セレスティアもどういうつもりだよっ!
普段の暴走で慣れているとはいえ、これはそんなレベルの話じゃないぞ!街中で白昼堂々、しかも注目が集まる中でキスなんてどんな羞恥プレイだよ!どこのバカップルだよ!
後日聞いた話では、魔法学園で発行されている新聞がありそこには、
謎の結界現る⁈解けたと思ったら白昼堂々キス!セレスティア様に意中の相手か⁈
などと見出しが出ていたらしい。
そういえばセレスティアは第二王女だった。
注目度が半端ないに決まっている。はぁ。
その後は予定通り北側を回ったが、目ぼしいものといえば、魔法道具屋なんてものがあったぐらいか。
存在は知っていたが初めて入った。南にもあるらしいので今度探してみよう。
中は当然だが色々と魔法道具と呼ばれるものがあった。
魔法道具の殆どは魔方陣が刻まれたもので、電化製品の電気が魔力に代わったものみたいな印象を受けた。
ただすごく高いのでなかなか手を出せる値段ではなかった。
魔力を流せば誰でも水を出せる水筒は水魔法が使えない人には便利だし、風を生成する魔法道具は扇風機みたいなものかと思ったりもした。だが、注意書きとして魔力の流しすぎに注意と書かれていた。
他の店も見てまわったが、学生だと値引きになる以外は特筆するものはなかった。
その日の夜、宿に戻ると当然のようにレティとリルにキスをせがまれた。
恥ずかしかったがクオだけやってやらないわけにもいかないのでやろうとすると、クオから反論が。
曰く、レティとリルからやるべきだと。その後にまた今度は俺から一巡するべきだと言い出した。
何故か納得する二人に疑問を覚えたが、何とか最後までやり遂げた。
この日は悶々として眠れなかった事を追記しておく。




