神崎祐樹 3
少しして野太い男の苦悶の叫び声が響き渡り出した。
その叫び声は一や二では済まない。
およそ十以上の苦悶の叫びが大合唱を終え、また静寂が訪れた。
微かにだがセシルの怒号が聞こえる。
こんなセシルの声音を聞いたのは初めてなので驚きを隠せない。
この馬車は余程建て付けがいいのか外の音は余程の大きさでなければ聴こえない。
かなりの大声で叫んでいるのだろう。
また剣戟が聞こえ始めた。
先ほどの比ではない絶え間ない音の連続にどんな激しい戦闘が繰り広げられているのか想像もできない。
俺はただ待つ。自分の情けなさに押しつぶされそうになりながら、すごく長いようで短い時をただ待つ。
すると、馬車に揺れが伝わった。それと同時に剣戟の音も無くなる。
馬車は今までも多少の衝撃はあったが、ここまでの衝撃は初めてだ。何かがぶつかったのだろう。
俺は気がついたら扉を開けていた。何故だか胸騒ぎがした。
そこにあったのは、
「はっ?何してるんだ?お前、何して、何してるんだよぉぉおおおっっ!!!」
血だらけになって馬車に寄りかかるようにして倒れているセシルとガタイの良い山賊のような大男が剣を振り上げている姿だった。そしてその男の着込んでいる鎧は薄汚れてはいるが紛れもなく騎士団の鎧そのものだった。
俺の叫びにセシルがやっとの思いで顔を動かし、
「な、何してるんですか?出てきては、ゴホッ、駄目と、言ったでは、ゴホッゴホ、無いですか。」
咳き込み血を吐きながらセシルは言う。
「ほう。お前が勇者か。召喚されたばかりでまだまだ弱いと聞いていたがレベルは高いようだな。流石は王国というべきか。」
俺が勇者だと知っているのか⁈
それに召喚された時期まで把握しているなんて、誰なんだこいつは!
そんなことよりもセシルだっ!
このままじゃ死んでしまうかもしれない!
数は進めば届く。
そして反射的に一歩踏み出そうとしたその時、
「くるなァァアアア!!!逃げなさいっ!ユウキ、貴方はこんなところで死んでは駄目です!」
その叫びに出し掛けた足が止まる。
「逃すと思ってるのか?憐れだなぁ。お前も姉と同じことをするのか。セシル・フォン・ブレイブ。」
ニヤけながらこちらに歩んでくる男。
思わず後退ってしまう。
「それは捨てた名です!私は貴方を撃つと決めた日からブレイブの名を捨てたんです!それは先祖の勇者の意思を受け継ぐもののみが名乗ることの出来る名なのですから!」
動かないと思われるような大怪我をしていたセシルが立ち上がり握っていた剣で斬りかかる。
それはそんな状態でも荒れることのない洗練された鋭い剣だった。
完全に不意を突いていると思った。
だが、
「お前の姉も同じ事をやった。お前ら姉妹は揃いも揃って愚かだなっ!」
まるで来ることが分かっていたかのように、振り向きざまに剣を振り抜く男。
「ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!」
飛び散る赤い飛沫。
そして空中には腕が一本舞っていた。
「え?」
理解出来なかった。いや、したくなかった。
そこに舞っていたのは紛れもなくセシルの腕だった。
「ハハハハハッ!肘から先で済んで良かったじゃないか。お前の姉は肩からだったぞ。次は右足だったな。こんな風にな!」
動けなかった。もう何も考えられなかった。
あったのは俺にとってこいつは絶対的な悪だという事だった。
「ァ゛ァ゛ア゛ッ!ゔっ、に、逃げてください!ここで、動かないのは、愚か者のすることです!」
動かないのは愚か者のすること、か。
じゃあ俺は愚か者じゃないな。俺は今からこいつを排除するのだから。
「お前、何したか分かってんのか?セシルはな、この世界での心の支えだったんだよ。どんな時でも側にいてくれて、どんな話でも笑って聴いてくれる。俺はセシルのいない世界なんかもう、考えられないんだよぉぉおおお!」
俺は無意識に使えるスキルを全て使った。
レーヴァテインを顕現させ、腕を四本作り出し、鬼の仮面を被り、更には今まで使うことの出来なかった破邪顕正まで発動させる。
破邪顕正は俺が相手を悪と認識する必要がある。認識すればステータス五倍だ。
三面六臂と比べれば少し低いように思うが、これは魔力でさえ消費しないノーリスクバフだ。
俺のステータスはおかしな事になっている。
元のステータスはこれだ。
神崎 祐樹 LV.128
種族:人族
年齢:18 性別:男
HP:251683/251683
MP:348750/348750
STR:763(15)
DEF:636(11)
DEX:636(8)
INT:763(12)
MND:890(10)
才能値
STR:6 DEF:5 DEX:5
INT:6 MND:7
固有スキル
【起死回生LV.EX】【破邪顕正LV.EX】
【三面六臂LV.EX】【武器顕現LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値五倍加LV.EX】
【取得スキル経験値五倍加LV.EX】
【言語理解LV.EX】
技能スキル
【鑑定LV.6】【剣術LV.7】【杖術LV.7】
【魔力操作LV.6】【魔力感知LV.4】
【MP回復速度上昇LV.5】
魔法スキル
【光魔法LV.8】【闇魔法LV.4】
【火魔法LV.6】【風魔法LV.4】
称号
【勇者】【異世界人】【闇神の加護】
そして全ての強化時のステータスがこれだ。
神崎 祐樹 LV.128
種族:人族
年齢:18 性別:男
HP:251683/251683
MP:348750/348750
STR:119734
DEF:87345
DEX:86940
INT:172631
MND:141750
才能値
STR:6 DEF:5 DEX:5
INT:6 MND:7
固有スキル
【起死回生LV.EX】【破邪顕正LV.EX】
【三面六臂LV.EX】【武器顕現LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値五倍加LV.EX】
【取得スキル経験値五倍加LV.EX】
【言語理解LV.EX】
技能スキル
【鑑定LV.6】【剣術LV.7】【杖術LV.7】
【魔力操作LV.6】【魔力感知LV.4】
【MP回復速度上昇LV.5】
魔法スキル
【光魔法LV.8】【闇魔法LV.4】
【火魔法LV.6】【風魔法LV.4】
称号
【勇者】【異世界人】【闇神の加護】
ステータスがバグったと言われても納得してしまいそうだ。
バフ内容は、レーヴァテインを所持しているとステータスに超補正が入る。そして、三面六臂で超補正が二回。破邪顕正で五倍の補正。闇神の加護でINT、MNDに高補正。他と比べて微々たるものだけど剣術、杖術でSTR、INTにそれぞれ微補正だ。
この力があればこいつを排除できる。
既にセシルの意識は朦朧としていていつ死んでもおかしくない。
「今度はお前の番だ。セシルの痛みを思い知れ。」
「おいおい、まさかここまで化けるとはな。いい手土産になりそうだ。」
冷や汗を流しながら言う男。
俺の中でこいつは絶対的な悪だ。許さない。百回でも千回でも一万回でも殺してやる。
俺は正義を行うスキルで憎悪に身を任せた。
正直、そこからの記憶はほとんどない。
一番苦しいはずのセシルが、這ってでも俺を止めてくれなかったらずっと斬り刻んでいたかもしれない。
周りを見ると、少し先にはセシルが倒したであろう汚れた騎士団の鎧を纏った人達が首を失い倒れていて、そこには護衛してくれていた騎士団の人たちも倒れている。
そして目の前には、もはや誰だかわからないほどの肉塊が転がっていた。
俺は自分がやったと理解した瞬間に吐却した。
それと同時に理解した。
大切なものを守る為には一切躊躇してはダメだし、努力を怠ってはいけないと。
気持ちだけでは成すことはできないし、意志なき力は暴走するのだと。
この世界は理不尽に命が奪われる世界なのだと。
自分の行動に迷った時、それは自分をひいては周りを危険に晒す時なのだと理解した。
光太との戦闘では破邪顕正は発動していません。
そして光太はこの戦闘では、邪竜の戦闘の時とは違い剣王スキルの超補正をSTRに受けています。




