神崎祐樹 1
三話程神崎視点です。
その日は公園で恋愛ドラマの撮影だった。
正直あんまり面白いと思えない内容だからやる気が出ない。
相手役の女優が美人なのが唯一の救いだ。
今日は俺単独のシーンの撮影なので、その女優もいない。
周りのスタッフもむさいおっさんばかりなので気が乗らない。あぁ、違った。一人いたな、そういや。
メイク担当の漢が。
何かと理由をつけてはスキンシップしてくる。
「あー嫌だ。今日だけで何回触ってくるんだよ、あの野郎。人前だとニコニコしていないといけない自分のキャラが辛い。」
こんな現場は早く終わらせて、早く上がるに限る。
そんな時に限って、そう都合よくはいかないものだと常々思う。
スタッフが小道具を忘れてきたそうだ。
それを取りに行っている間、三十分ほどの休憩になった。
バスの中で一人休憩している。
何もやることはないので携帯を弄り、今日のニュースを確認する。
そこのトップ記事には、俺の所属するアイドルグループのシングルがミリオンヒット達成!と書かれていた。
これだけファンに応援されているのは、すごく嬉しい。
やり甲斐を感じるし、自分でも天職だと思う。
この顔に産んでくれたことは母さんと神様には感謝だな。
でも、気をつけなければならないこともある。
仕事が忙しすぎて今は色恋沙汰なんてない。なので記者なんてそれほどでもないが、今一番怖いのは一部の過激なファンによる追っかけだ。所為、ストーカーとも言う。
この前なんか帽子にサングラスマスクまで被って、変質者スタイルさながらだったのに家の近くまで追ってきていた。
一度、週刊誌に熱愛なんて報道された時には、何をトチ狂ったのか私のはじめ様なんて言いながらナイフを片手に突撃してきたのは一番の衝撃だった。
その時はボディーガード兼マネージャーが抑えてくれたのでなんとかなったが。
撤回だ。記者も怖いな。
暇すぎてそんなことを考えていると、突然足元が光り出した。
円の中に何やら見たことのない文字のようなものがびっしりと書かれてある。
「なんだよ、これ。最近忙しくてまともに休めてないからな。幻覚でも見てるのか?」
これはあれだ。魔法陣というやつか。俺も移動中なんかにラノベを読んだりする。
グループのメンバーに勧められて読んでみたんだがハマってしまった。夢を与える仕事の俺達は夢をみることはほとんどない。そんな俺達には非現実は夢をみるのにちょうど良かった。
驚きのあまり動けずにいると、段々と光が強くなっていく。
俺はやっということを聞くようになった体を動かそうとしたが遅かったようだ。
あまりの光量に目を瞑り再び目を開けた時にはよく分からない見渡す限り白い空間にいた。
「はぁ。俺の幻覚はフルダイブ技術搭載らしいな。」
そんなわけもないので状況把握に努める。
アイドルになってから冷静を心掛けるのには長けてきている自信がある。
目を凝らして、周りの状況を確認していると、
「面倒。次はロアに私の仕事押し付ける。私の横にクオリティア様もいたのに。」
なんだか不機嫌そうな女の子の声が聞こえてきた。
振り向くと、視点が定まらずぼやけてしか見えないが確かにそこに何かがいた。
唯一分かるのは俺よりも三十センチ以上は身長が低いことぐらいか。俺は百七十八センチだ。
「早く済ませる。貴方は異世界のある国に召喚された。」
その何かはそんな事を言い出した。
これって俺にいってるよな?
「俺に言ってるのか?」
「ん。貴方しかいない。」
そりゃそうだが。異世界ってなんだよ。
まあ、もしかしたらドッキリ番組の可能性もあるからな。乗っておこうか。
「異世界ってなんだよ。そんなものあるわけないだろ?」
若干期待している自分がいるが。
実際に体験して、今の技術ではこんな演出出来ないと思っているので、ドッキリも可能性は薄いだろう。
「ある。行けばわかる。でも、異世界は貴方の世界に比べてとても危険。だから出来るだけ死なないようにスキルを与えるのが私の役目。」
「スキルってなんだよ。」
「その人が出来る技能、ないし魔法。」
完全に信じるのは危ういだろうけど、魔法なんて熱いな。
「私が授けるのは三つ。【起死回生LV.EX】【破邪顕正LV.EX】【三面六臂LV.EX】。起死回生は自身又は他者を日に一度だけどんな重症からでもノーリスクで完全回復させるスキル。」
日に一度の制約があるけど初っ端からチートだな。
「破邪顕正は自分が悪と思った相手との戦闘でステータスが五倍になる。少しでも善と感じてしまえば効果は発揮しない。」
ステータスなんてのもあるのか。ゲームみたいだな。
「最後に三面六臂、これはステータスを超補正。それと自分の魔力を一パーセント消費することで自身のどんな行動でも同じ箇所に同じ瞬間で三度実行する。その他に腕を四本出したり、更に超補正をかけたりする能力。」
チートだな。
「貴方は勇者として召喚されるから、私が授けるスキル以外にもある。武器顕現。勇者の固有スキル。これは召喚された国で説明を受けて。他にも自力でも手に入れられるから頑張って。」
そのままその国とやらに送られそうだったので慌てて止める。
この時点で異世界転移を疑っていなかった。
「待ってくれ!勇者も気になるけど、言語はどうなんだ?」
「大丈夫。勇者として召喚された時点で言語理解のスキルがついている。他には?」
って言われたのでまたいろいろ聞いたのだが、行った国で聞けることや関係のない質問は却下された。
人間でも分かることで今必要ないことは向こうで聞いたり試したりしてくれと言われた。
ただ一つだけ答えてくれて、
「私は神。ついでだから加護くらいはつけておく。貴方が死んだらロアが煩い。」
だった。
神様だったらしい。ステータスの見方なんかは向こうで教われだと。
どうやら俺を召喚した国は殆ど善政を敷いているようだ。
ほとんどが気になる。
そうして俺は異世界に送られることになった。
「嫌々とはいえ、担当したのも何かの縁。死なないように気をつける。」
そんな言葉を聞いた後、また眩い光に耐えきれずに目を瞑る。
再び目を開けるとそこには、
「ようこそアビド王国へ。」
そこには老齢の魔法使い然とした老人と重そうな鎧を着た兵士数名、そして誰よりも目を惹く芸能界で活動していた俺ですら見たことのないような美少女がそこにいた。




