プロローグ6
大切な何かを失った後、
「それでね、クオは最高神なの。すごいでしょ~」
褒めて欲しそうにしとるんで、つい頭を撫でてしまった。
話は進まないがしょうがない。かわいいんだもの。
某ゲームがないと生きていけない系アニメでも言っていた。かわいいこそ唯一にして不変の正義だと。
「えへへ~。でねでね、クオは創造神なんだけど、司る対象で言ったらすべてなんだよ。すべての象徴、完全完璧。それがクオなんだよ」
ん?確かに可愛さは完全無敵だ。もうそれは、アリンコにミサイルくらいの無敵さだ。いや、もっとかもしれない。
しかし、だ。こう言ってはなんだが今俺の膝の上で笑っている彼女が完璧かと問われれば、疑問を覚える。
何度でも言うが、可愛さは完璧だがな!
「今、完璧?って思ったでしょ?」
「それはその…」
確かに思っていたので目を逸らしてしまった。
「別にいいよ。実際、その通りだもん。えっとね、この完璧っていうのは、世界に対して、すべてのありとあらゆるものが最適であること、なんだよ」
「うんうん」
て、適当なんかじゃないぞ!
決して、真面目に話しているクオも可愛いなぁ、で思考が埋め尽くされるとかそんなことは…あるところが恐ろしいところだな。
まあ、一応聴いているので許して欲しい。
「世界という枠組みの中で、そこからはみ出ないように、はみ出さないように。過分なものを切り捨て、必要なものを取り入れる。世界のその時その時のすべての最適がクオなの。だからすべてを司る創造神。無から有を、有を無に。それが役割」
正直、話が大きすぎて理解できない部分もある。
でも、見た目は変わっても最初のように神々しく、そしてその存在が大きく見えた。
ここでパッシブ説が浮上してきた、なんて考えてしまう俺はどうしようもないのだろう。
「泣いたりしてるのに本当に完璧?とか思うかもだけど、確かにこれはクオの感情。だけど世界が大丈夫な範囲内でしかクオの感情は動かないの。クオは創造神だから、何かの拍子に世界を消してしまうかもしれない。だからそのストッパー。大きすぎる力には代償が伴うんだよ。たとえそれが望まない力でも」
ーーーッ!!!
それは………。
もし大切な人が、家族が、友人が、そんな人たちがいなくなっても悲しむことができないかもしれないってことじゃないか。
そんなの悲しすぎる。
「そんな顔しないで?大丈夫になったんだ、さっき」
「どういうことだ?さっき?俺が来る前に何かあったのか?」
「ううん。それを話す前に、最初の質問に答えるね」
最初の質問に答える?
ここは神界なんだろ?それは聞いたじゃないか。
「世界にはね、意思があるの。クオ達神々はその意思のことを『メーティス』って呼んでる。メーティスは世界の移り変わりすべてを俯瞰し、最善を導き出す」
メーティスが導き出した最善、それがクオということだろうか?
もしくはメーティスが導き出した最善を扱うのがクオというところか。
「そんな世界の意思に選ばれて神界の私のもとに来たのが貴方。時々人が迷い込んでくることはあるけど、人が神を認知できたことはなかったんだよ。それはどんな下級神でもね。だから最初は見えてないと思ってしまったの。でも、あなたには最高神であるクオまで見えている。……それがメーティスがしたことなのか、あなたが特別なのかはわからないけど」
クオにはわからない?
どういうことだ?クオはすべてを司っているんじゃないのか?
まあそれもだが、俺が選ばれたってどういうことなんだろうか。
「大体考えてることはわかるよ。クオがメーティスの意思を知っちゃうとそれに抗うことができるから、その力を持っているから。すべてを司るが故に、だよ。だけどまったく分からないわけじゃなくて、大まかにはわかるの。あなたがどんな理由で来たのか、みたいな感じで。逆に、あなたが何で選ばれたのかとか分からないこともあるんだよ」
「それって意味なくないか?大まかにでもわかると結局...」
「そうだね。でも、これはお互いにわかるんだよ。クオはメーティスの意思がわかるし、メーティスはクオの感情が分かるの。メーティスは世界をより良く、そして存続させていくための意思。メーティスが導き出し、クオが対処する。神にも喜怒哀楽すべての感情があるのは存続させるだけじゃ意味がないから。使う側の意思も介在しなくちゃならないんだよ。だから存続させるためのメーティス、最高の使い手として神。世界の存続を考え、最高の使い手が何を望むのかを加味して最善を模索する。だからこれは必要なことなんだ」
なるほど。そういう構造なのか。メーティスだけでもいいと思ったが、ものがあっても使う側がいないとな。
「だけど、メーティスだって勿論より良くなることを望んでるけど、一番はやっぱり存続なんだよ。でもね、やっぱり使い手側はより良くなることを一番に考える。それが行き過ぎると破滅を呼ぶこともあるんだよ」
「それは、まあ、そうだろうな」
身の丈以上を望みすぎるのは破滅を招くことがあるのは理解できる。
歴史にも事実として残っているからな。
「だから、メーティスは世界の存続のため、より良くなるため、それ以上は危険だという警告の意味も込めて意思を伝えてくることもあるの。そして最後の砦として、事細かにすべては伝えない」
「保険、か」
「言い得て妙だね。たしかに保険、かな。これ以上やるとどうにかなるってことまでは伝わるけど、どういう対応をとるかは伝わらない。すべてがお互い筒向けだったら、完璧に対応されるかもしれないからね。だったら、不確定要素を与えることで少しでも優位性を保持しようってことだよ。メーティスにもすべてがわかるわけじゃなくなるけど、メーティスには世界のすべてが見えている。その時のことすべてが」
「デメリットがデメリット足り得ないわけか」
「存続できないような危険なものがつくられそうになったらつくっている段階で排除する。その前に警告の意思は伝わってくるけどね」
作り手と使い手の意識の差みたいなのと似ているかもな。
「でも、今までそんなに警告が出たことはないよ。世界って言っても、一つの惑星とか、一つの銀河とか、一つの次元とかを指してるわけじゃないからね。メーティスはすべての次元にある、すべての銀河の、すべての惑星、それを総称して世界と呼んでるの。その世界が、最適の状態で存続していくことを望んでいるんだよ。言い方は悪くなるけど、たとえ一つの惑星が減ろうが増えようがそこから最適化される。だから、すべてが消えかねない事態にならないと警告は出ないんだよ。そんなことそうそうあったらたまっものじゃないよね」
そんなにっていった意味は気になるが、なるほどな。
それよりも俺は何で呼ばれたんだ?
「それでも警告が出たことはあるの。すべてを司るのにクオにはなかったものがあることに気づいたから、それを欲しがった時にメーティスは危険だと判断し警告を出したんだよ。でも警告はしたけど今後また同じことがあるかもしれないとメーティスは考えたみたいなの。だから、呼んだ。欲しがったものを与え、破滅を防ぎ、最良の結果をもたらすものを」
なんだろ?クオにはなかったもの?
そしてクオは言った。それはもうたっぷりと間をおいて...
「それがね、貴方なんだよ」