勇者
はぁ。やっと解放された。
前回よりも疲れたかもしれない。前回はクオの着せ替え人形になってげんなりするだけだったが、今回はそれプラスにリルのこれ似合うかな攻撃を食らった。
こういったことを一緒に楽しめるのが甲斐性というものなのかもしれないが、俺はオシャレになんて全くもって興味がないのだ。
休みの日に誰かと出かけることなんて本当に稀だったし、休みに外に出ることなんて気分転換の釣りぐらいだった。
釣りもジャージでいいので服なんて数えるほどしか持っていなかった。高校生だったし、お金もなかったので遠出なんて出来なかったしな。近くの野池でバスフィッシングだ。
正直、バイト代も携帯代や趣味だったラノベや釣り具などに使っているとすぐ何処かへ消えていったので服などに費やすお金がなかった。
でも、
「うーん。こっちの方がコータにあってると思うんだけど、こっちも捨て難いなぁ。コータってシンプルな方が似合うと思うんだよね。」
俺の為に楽しそうに選んでくれている姿を見るとちょっとは服などに気を遣ってもいいのかもしれないと思えてくる。
リルは最初は色々と合わせてみては俺に感想を聞きにきていた。
「これはどうかな?やっぱり私には似合わないかな?」
リルが持っているのは白いワンピースだ。
正直、リル程の美少女だと何を着ても似合うと思う。
だが今回はその中でも、だ。
道ですれ違ったら二度見した後ガン見するレベルで可愛い。さらに言うと、今のしおらしい感じがすごいマッチしている。
「そんなことないぞ。超可愛いよ。今のそのしおらしい感じと相まって清楚さが爆発的に上がってるぞ。」
「そ、そうかな?可愛いって、もう。ん?普段はどうなのよ、清楚さは。」
最初は体をクネクネさせて照れていたのだが、急に元に戻ってしまった。
「お、俺は普段の明るくて活発なリル好きだなぁ。い、いつものリルなら清楚さなんていらないと思うぞ。」
どもってしまう。
「ふーん、へー。そんなものないことぐらい自分でも分かってるわよ!これから努力するから別にいいのよ。いつか、きっと、あっと驚かせてやるんだから。」
いつか、きっとは駄目な思考だと思うとか無粋なことは言わない。
期待しておこう。今回だって垣間見えたからな。
普段のリルの清楚さとは違うが気品を感じられたのは、食事の時に綺麗な所作で高スピードで食べていたのが驚きだったなぁ。と現実逃避してみる。
「今変なこと考えたでしょ。」
睨まれてしまった。女性の感は怖いです。
途中レティの着てきたゴスロリが印象的だった。
幼くみられるのが嫌と言いながら着てきたからだ。
レティ曰く、
「コータが好きなら着てもいい。」
と言っていた。
可愛いかったのだが、レティが嫌なら着る必要はないと思う。
「俺はレティが好きな服を着てくれた方が嬉しい。けど、俺の好みを言わせてもらうならレティは大人しい感じの服がいいと思うな。」
俺は服の良し悪しなんて分からないから着ているのを見て可愛いとかの感想しか出てこないから、詳細な感想を求められたら困ってしまう。
でも、三人とも何を着ても似合うからいつも目の保養をさせてもらってる。
「ん。わかった。私の好みでコータを魅了する。」
そんなことしなくてもいつも魅了されてます。
結局購入したのは、赤色の無地のTシャツを三枚とに適度なゆとりがある黒のストレートパンツを買った。それと四人お揃いのTシャツに、リルのわるあ…ゴホン、白いワンピースだ。
似合っているのでいいと思います。はい。
本当は上はクオが選んだのだけを買うつもりだった。
クオは、ワンポイントハートマークがあるTシャツで、それを着るのは恥ずかしくはあったがせっかく選んでくれたのでそれにしようと会計を済ませようとしたら、後ろからスッと同じものが三枚出てきた。曰くお揃いだと。
普段着にするには恥ずかしすぎるので、適当に無地のTシャツを数枚買った次第だ。ハートのやつは戻そうとしたら無言でひったくられ、会計を済まされた。
少し御負けしてくれたが、銀貨四枚の出費となった。
赤T、黒パンに着替えた後、レティがローブをくれた。
「そこら辺の防具よりも防御力高い。何より軽くて自動温度調節付き。最高レベルの隠蔽が施されてるからローブの能力がバレる心配もない。」
上半身部分は体に合わせた感じになっていて、腰から下が広がっている感じだ。
所々に金の刺繍が施されていてなんだかカッコいい。
他にも効果があるらしく、闇属性魔法を手助けしてくれたりするらしい。
防具は先延ばしになっていたので有難い。
こういう効果の付与されたものを作るにはやり方は複数あるそうで、これは魔方陣を刻み込んでいるんだそうだ。
今の格好は、赤Tに黒のストレートパンツ、靴はそのままで黒赤のスニーカーで、上からレティにもらったローブを着ている。腰にはミスリルの剣を帯剣して、ちょっとはマシになったと思う。
今までは、町に出てきたばかりの村人で、村にあったミスリルの剣を分不相応に帯剣している新人冒険者。みたいな感じだっただろう。
だが、高橋光太 は レベル が 1 上がった 。
テレテテッテテッテー。
以上、俺の予想する周りからの評価である。
「次はどこ行こっか?少し早いけどお昼にする?」
そういえばもうすぐ十一時に差しかかろうとしている。
そんなにあそこにいたのか。
「そうだな。本格的に混む前に昼食にするか。前見た喫茶店に行ってみるか?」
ということで、冒険者ギルドのある通り、メインストリート、中央通り、大通り、いろんな呼ばれ方をしているが、北から南を分断するように通っているその道の割と中心地に近い場所に面していて、一等地にある喫茶店にやってきた。
ここは魔法学園が近くにあるので、もう少しすると女学生でいっぱいになる。
そうでなくても、学園が休みの日でも女性ばかりなので男は入りにくい場所だ。
「まだ人もまばらだな。入るか。」
「昨日食べたのとは違った料理を提供する店だよ。」
「へぇ。せっかく外の世界に出たんだからいろんなものを食べてみたいわね。」
テラス席があったのでそちらに座る。
円形のテーブルなのだが、席順はじゃんけんし始めた。
クオが負けて俺の正面に座ることになり最初は不満そうだったのだが、席に座った途端に正面も案外、と言い出し不満はどこかへ消え去ったようだ。
店員さんがメニュー表を持ってきてくれた。
へぇ、色々あるな。女性人気が高いだけあって甘いものが多いようだ。
「どれにしようかしら。名前だけじゃ判断しづらいわね。確かこのベリーって酸味と甘みのある果物?だったわね。私はこれにしようかしら。」
名前である程度わかることから決めたようだ。
どんなものか教えようかとも思ったが、メニュー表を見ているリルの目が輝いて見えたので、メニューを選ぶことから楽しんでいるリルを見るとなんだか無粋な行為に思えてやめた。
みんな決まったようなので店員を呼ぶ。
「すみませーん、注文いいですか?」
「はーい。お伺い致します。」
「俺はサンドイッチと紅茶で。」
「クオはふわふわパンケーキ生クリーム増し増しでバニラアイスをトッピングで、それとアイスココアをお願いするよ。」
元々一つ付いているところにバニラアイスを追加するクオ。
甘いのは別に苦手ではないが、これは胃がもたれそうである。
「超特大パフェ。」
うわぁ。
写真とかそう言ったものがない中で唯一概要が分かるメニューが超特大パフェだ。
内容は分からないのだが、パフェに使われるグラスが飾ってある。大体グラスの高さは三十五センチ程だ。
更に注意書きとして盛り付けたら七十センチ程の高さになると書いてある。
驚きで目を見開いてしまった。
「私はベリーをふんだんに使ったふわふわパンケーキと紅茶をお願い。」
そのくらいだったら俺もいけそうだ。
「はーい。少々お待ちくださいませー。」
店員が去っていった後、レティに食べられるのか聞いた。
「余裕。甘いものは正義。」
だそうだ。手を目一杯伸ばして親指まで立てている。
少しウキウキしているように見えるので本当に甘いものが好きなんだろう。
レティが目に見える程表情に出すのは珍しいからな。
甘いものが好きなのはクオもらしいが、クオは食べた後顔を真っ白にしているような気しかしない。
この後どこに行くかなど話し合っていると、
「お待たせしましたー。お先にお飲み物とサンドイッチをお持ちしました。」
たくさんの野菜とハムや卵のサンドイッチだ。
少し足りないかもしれないと思っていたが、結構数があるので大丈夫そうだ。
その後すぐにみんなの分も揃った。
ホットケーキとパンケーキの違いがよく分からないのだが、パンケーキは糖分控えめで食事に合って、ホットケーキは甘いとか、厚みの違いとか聞いたことがある。
このパンケーキは甘さはどうかわからないが、リルのを見る限り薄いのが重なっている。
クオのはパンケーキの上にバニラアイス二つと生クリームがこれでもかというくらいに乗っている。パンケーキが隙間から少ししか見えない程の量の生クリームが使われている。
リルのは、積み重なったパンケーキにベリーがふんだんに使われていて、ソースもベリーソースだ。
レティのパフェは間近で見ると、見ているだけで甘いものはしばらくいらない気分にさせてくれる。
高さも横幅もあるので、正面のリルはレティが見えていないのではないだろうか。そのくらいでかい。
「じゃあ、食べるか。いただきます。」
「「「いただきます。」」」
「んー!美味しい!このくらいの甘さが丁度いいかも。」
一口食べたリルがそう言う。
気に入ったようで何よりだ。もっと色んなものをこれから食べて好きなものをたくさん見つけていって欲しい。
「毎日でも食べたいぐらいだよ。コータも食べる?」
クオはそう聞いてくるが、そんな甘過ぎるものはいらないとも言いたいがそれ以上にやはりという結果を生み出しているクオにため息を禁じ得ない。
席を立ってクオの方に回る。
「はぁ。ちょっとじっとしてろよ。ほら、これでよし。」
生クリームで顔をデコレーションしていたので綺麗に拭ってやる。
「んっ。ありがと、コータ。お礼に食べさせてあげるよ。」
なんとも素晴らしい申し出だがそれはいらない。
他の食べ物だったら喜んでやってもらうんだが。本当に残念だ。
「いや、それはクオのだからな。全部食べていいぞ。俺はサンドイッチで充分だ。」
「そう?アーンしたかったんだけどな。」
か、かわいい!
「それじゃあ、今日の夕食の時にでもしてもらおうかな。約束だぞ。」
「うん!コータこそ忘れないでよね。」
「二人だけで盛り上がらない。私もやる。」
俺は自分の目を疑った。
レティは少し目を離した隙に半分平らげていた。
どうやって食べたのか疑問である。リルの品格ある所作で高速で食べるあの珍技と同じくらいどうなっているのか不思議だ。
「わ、私もやるから。昨日食べさせてくれたお返し。」
段々と人が多くなってきた中で今の一連の会話は、周りが女性だらけで学生も混じっていることもあり注目度マックスだ。
「ん゛ん゛っ。そうだな。また夜な。俺も早く食べないと一番食べやすいのに最後になりそうだ。」
話を強引に切り上げて席に戻る。
いつもの如くクオとレティは気にしてないが、リルは少し顔を赤らめている。それが昨日のことを思い出したのかどうかは分からないが。
また午後のことを話し合いながら食事を続けた。
せっかくここまできたので、このまま北エリアに行くことにした。
あっちの方はまだ行ったことがないのでリルと同じく初見だ。
量的な問題でやはりレティが少し食べ終わるのは遅かったが、それでも殆ど変わらなかった。
少しゆっくりしていると混み始めてきたので店を出ることにした。
あのボリュームと一等地の店ということで値段は結構行くと思っていたのだが、銅貨六枚と安くはないが立地と内容的にはリーズナブルだと思った。学園の生徒だったら少し安くなったりもするらしい。
「どんな店があるんだろうな。学生用の店が多いって話だか、ら…」
俺は今日一の驚きに足を止めずにはいられなかった。
店を出て北エリアの方に足を向けて歩き出した時にいつかの金髪美少女を見つけた。
周りの学生と同じ服を着ていることから、魔法学園の生徒なのだろう。
それだけだったら驚きはしたかもしれないがそこまでの事ではなかっただろう。
別に偶然二回あっただけで運命なんて言うほど壊れてはいない。
「どうしたの光太?そんなに驚いて。」
「ん?なるほど。驚いても仕方ない。」
問題はその隣にいる奴だ。
俺はそいつを見たことがある。実際にあったことはないので向こうは俺のことなんて知らないだろう。
そいつは黒髪黒目でこのレベルの高い世界でもイケメンと言っても過言ではない容姿をしている。
あの金髪美少女は迷惑そうにしているが、それにも臆さず話しかけている。というか口説いている?感じだ。
この世界の人々は髪などの色は色とりどりだ。黒髪黒目は珍しいがいない訳ではない。昔から極少数だが黒髪も黒目も居たそうだし、長年の勇者召喚で増えたとも言っていた。
この話を聞いた時点で薄々は気づいていたのでいつか会うとは思っていたが、実際目にすると驚きを隠せない。
会うとは言っても特定の誰かではない。
しかし、このタイミングでか。この町にいる以上、爺さんの話から会う可能性は充分にあったがせめて明後日の見学の時にして欲しかった。
これまでのモノの名称や冒険者ランクからでも殆ど確信していたと言ってもいい。
勇者の殆どは地球から召喚されると。更に何故かはわからないが殆ど日本人である、と。
そう。そいつは確信が持てるほどに日本人そのものであった。
こいつが勇者かどうかはまだ分からないが。まあ、タイミング的にほぼ確定だろう。
テレビで見たことがある。それ以上に最近ニュースで連日報道されていたので印象深かったので覚えている。
人気アイドルが神隠しにあったと騒がれていた。
バスが突然光り出していなくなったらしい。
ドラマの撮影の休憩中にバスで一人休憩していたのに居なくなったんだと。
バスの周りには撮影スタッフが大勢いたので居なくなるのに誰も気づかないはずはないと言っていた。舞台裏映像みたいなのでカメラも回っていたらしく証拠として流れていた。
似ているだけかもしれないが、その顔は報道されていたアイドルの顔そのものだった。




