歓迎会
俺たちの目の前には様々な料理が並べられている。
と言っても材料は限られているのでできる範囲内で、だが。
今いるのは俺達の泊まっている部屋だ。今回は特別に部屋に料理を運んで貰っている。
部屋は広いからいいのだがいかんせん三階だからな。大変そうだったので運ぶのを手伝ったのだが、エマは魔法を使ってスイスイ運んでいくので途中からは俺は必要ないんじゃないかとすら思えてきた。
因みにエマが使っていたのは風魔法の『フロート』だ。ただふわふわと浮かせるだけの魔法なので使い道は少なく、重さによって加速度的に魔力消費が激しくなっていくらしいので更に使い道が限られるそうだ。こういう時は便利みたいだが。
「よし。これで全部だな。結構作ってもらって悪いな。」
「いえ、こちらも沢山材料を提供してもらいましたので。食べ終わったらドアの前にでも出して置いてください。回収しておきますので。では。」
そう言って足早に階段を降りていくエマ。
他の客の対応もあるだろうしな。こっそりとエンチャント・ウォーターを掛けておく。器用さを上げておくのが一番今の状況的にもいいと思ったからだ。
急に力が上がって皿を割ったり、スピードが増してバランスを崩したりしてもいけないからな。防御なんて言わずもがなだ。
因みに今回の主役リルはクオとレティと隣の部屋にいる。宿泊客がいないらしいので一時的にだが貸してもらった。
どうせなら全部揃って見せたいからな。
並んでいる料理は、手の込んでいるものより数を増やしてもらった。まだどんな料理が好きなのか分からないからな。
まず町の中で結構見かける串焼き。肉が豚肉か猪肉しかなかったのだが、宿側がなんの鳥かはわからないが鶏肉を提供してくれた。タレでも塩でも様々な串が並んでいる。
次に一般的な肉野菜炒め。少し肉を多めにしてもらった。今まで肉だけだったらしいのでいきなり野菜ばっかりもな。
なのでステーキなんかも用意してある。一応な。
そして豚肉の野菜巻き。色んな野菜を豚肉で巻いてあるものだ。
猪肉の時雨煮や提供してもらった鳥の唐揚げ、豚肉の生姜焼きなんかもある。
肉ばかりではなく、サラダなんかも用意されている。
飲み物はお茶や果実水、水を用意してもらった。お酒も飲んでダメなことはないのだが今回は料理を楽しんでほしいからだ。
俺もこの世界じゃ違法じゃないけどな。成人は十六です。
これだけの料理が並べられると圧巻でたいそう大変だったことが伺えるので追加料金を支払おうとしたら断られた。なんでももらい過ぎているぐらいなんだと。
なのでまた食材になりそうなものが手に入ったりしたら渡すということで手を打った。それでも渋っていたが。
「それじゃあ、冷める前にリルを呼びますか。」
隣の部屋に向かう。
部屋に料理を運んでいることは言ってないが匂いとかで分かっているかもしれないな。
コンコンッ
「光太だ。準備ができたから呼びに来た。」
ノックをしてから声を掛けるとレティが出てきた。
「結界で匂いを遮断してる。きっとリルエル驚く。」
「さすがレティ、抜かりないな。」
「もっと褒める。行動で示さないと伝わらないこともある。」
そう言って頭を差し出してきた。
「そうだな。ありがとなレティ。」
頭を撫でる。
レティは身長的にも頭の位置が撫でやすいのでつい撫でてしまう。手持ち無沙汰になったら大体レティを撫でているような気がする。
それに怒るクオの頭も撫でているので大体両手は塞がっているのだが。
これからリルが加わってどうなるのかが不安だ。俺に手は三本ないからな。
「主役を呼んでくる。」
ある程度撫でたら奥に小走りで駆けていった。
「どうしたのよ。急に別の部屋に移動させたりして。」
「まあまあ。隣の部屋に行けば分かるよ。」
まだ匂いは遮断されているらしい。
「そうだな。早く行こうか。」
クオはリルの背中を押して強引に移動させる。
リルはなんだか分からずに戸惑っているようだ。
部屋の扉の前に着き、先回りしていたレティが扉を開けた瞬間、戸惑っていたリルの顔が一変する。驚きと共にうっすら涙を浮かべている。
「えっ?どうしたの、これ?なんで、匂いもしなかったし。」
「今日はリルの旅立ちと俺達のパーティ加入を祝しての歓迎会だ。リルの好きなものが分からなかったから取り敢えず色々作ってもらった。存分に楽しんでくれ。」
「ゔ、ゔんっ!あ゛りがとゔみんな!」
泣いてしまった。まあ、嬉し泣きだろうからいいだろう。
「今日は仕方ないからコータを貸してあげるよ。特別だからね。」
「ん。仕方ない。一日限り。存分に堪能するといい。」
はっ?えっ?なんだそれ?聞いてないんだが。
「ほらコータもエスコートしてあげないとダメでしょ。」
「ん。アーンとかしてもらうといい。あっ、それいい。今度私もやってもらう。」
背中を押すクオと手をポンッと叩いて名案だとでも言うように発言するレティ。
「今日ぐらいはな。何かして欲しいことはあるか、リル。」
「じゃ、じゃあこれをア、アーンしてもらおうかしら。」
そう言って差し出してきたのは豚肉の野菜巻きだ。
この世界にも箸がある。そんなに普及してないようだが、便利なので雑貨屋でマイ箸を買っておいた。
それで一口サイズのものをリルの口まで運ぶ。
リルの顔も真っ赤だが俺の顔もそうなっているだろう。
ようやく口に届いた豚肉の野菜巻きは口の中へと消えていき、妙に色っぽく見える唇が咀嚼のたびにこれでもかというくらいに色気を放つ。
何故か目が離せないでいると、
「駄目ね。恥ずかし過ぎて味なんてわからなくなるもの。また今度お願いしようかしら。」
はっ!意識が固定されていた。
正直、ここでリルから断念してくれて助かった。
「あれは凶悪。私には出せない色気。」
「そっかぁ。今日は楽しみたいもんね。でも次してもらう時はクオもだからね。」
唖然とするレティと楽しそうに笑うクオ。
大丈夫だぞ、レティ。レティにはレティの魅力がある。
心の中でそっと励ましておく。
ここで余計なことを言うと墓穴を掘る気しかしない。
それからは賑やかな時間が過ぎていった。
リルの心からの笑みを見ていると一緒に行動することになって本当に良かったと思える。出会えて良かったと思える。
三人が楽しそうにしている姿を見ながら、時々会話に入ったりしながら俺も楽しんでいたのだがいつのまにか三人とも寄り添いながら眠っていた。
どうやら寝落ちするぐらい楽しかったようだ。こんなに笑顔になってくれるならまたやりたいと思えてくる。
三人をベットに運んで、食器を片してドアの横に置いてからソファーで眠りについた。
今日はいい夢が見れそうである。




