リルエルの過去
リルエル視点です。
結構長くなってしまいました。
×××は名前です。
もし、きちんと名前を考えた方がいいなどの声が多ければ修正したいと思います。
小さい頃の私は自由奔放で元気に宮殿内を走り回っていた記憶がある。
よく兄様達に遊んでもらっていた記憶もある。
「兄様、兄様、何をやっているの?私も一緒に遊んでいい?」
「今みんなで魔法なしの鬼ごっこをやっていたんだ。この前ありでやってたら母様に怒られたな。」
鬼ごっことは昔の人族の勇者が伝えたとされる遊びだ。
そう言った兄様や兄様の友達の顔は物凄く青くなっていた覚えがある。
この頃から母様は怖かったことだけは追記しておく。
「だからってわけではないけど、今回のはリルエルでも危なくないから大丈夫だ。一緒にやろうか。」
「負けませんよ、リルエル様。僕は足には自信がありますから。」
どうやら兄様の友達が鬼らしい。
この人は風竜で魔法がなくても速さには自信があるらしかった。
「リルエル様、こんなやつコテンパンにしてやりましょう。今日こそは負けないからな!」
兄様の友達はみんな言葉には配慮しているようだったけど一緒になって遊んでくれた。
その後は母様が来るまで泥だらけになりながら遊んだ。
また怒られることは予想できたけど楽しかったので途中からは忘れていた。
でもいつからだろう。少しずつ周りから人が離れていった。
ある時、兄様と別れた後だったのだろうか。兄様の友達が何か話し合っていた。
最近、兄様の友達を見ていなかったので久々に遊べるとその高揚感からすぐに駆け出した。
そこに兄様はいなかったけど時々いない時も遊んでくれていたので今日も遊んでもらおうと話しかけた、その時だった。
「×××、今日は兄様はいないの?今から何かするなら私も混ぜて。」
「すみません、姫様。私たちもそうしたいのは山々なのですが今少し手が離せない状況でして。また今度、機会があればでもよろしいでしょうか。」
いつもよりも堅苦しい印象を受けたけど、この時の幼い私には少しの違和感と姫様と呼ばれた時のなんだか虚しい気持ちしかなかった。
これ以降はどこで見かけてもはぐらかされるだけで一緒に遊んでくれることはなかった。
これは兄様の友達だけではなく、周りにいた人達の殆どがなんだかよそよそしくなっていた。
次第に私も孤独を感じるようになって、自分の何が悪いのか考えるようになった。
その時の私は答えを出せなかった。
少し大きくなった。
この頃には少し前とは見違えるように物静かになっていた。
部屋で読書ばかりしていた記憶がある。
何故か冒険譚ばかりを読んでいた。もしかしたら自由に行動できて、仲間達と協力しながら苦難を乗り越えていくあの感じに少し憧れていたのかもしれない。
ある時、パーティみたいなものが開かれた。
そこに私も出席した時のことだ。
「お久しぶりです、姫様。更にお美しくなられて、普通に立っておられるだけでもまるで名画から飛び出てきたようで思わず二度見してしまいました。」
話しかけてきたのは昔の兄様の友達だった。
よそよそしくなったあの頃から兄様の側で見かける事はなくなっていた。
今思えばあの頃から兄様は強くなることや国の為に躍起になって頑張るようになり、兄様の周りからは同年代のもの達は消え、偉い人達ばかりになったように思う。
この頃から、この男に限らず他にも男の人が話しかけてくるようになった。
初めはよく分からず久しぶりに向こうから寄ってきてくれたので嬉しかった。
「えぇ、久しぶりね。×××は見違えるようね。少し面影があるけど、身体つきが昔よりも良くなっているせいかしら。」
「そうですね。今は守護隊に入れるように努力の日々です。それはそうと姫様。久しぶりに積もる話もありますし今度お茶でも如何ですか?」
だけど、話していくうちに分かるようになった。目が違った。その時の私には何を考えているのかは分からなかったけど、その目が怖くて仕方なかった。
急な事に戸惑っていると兄様が話に割って入ってきた。
「久しぶりだな、×××。いい身体つきになったじゃないか。それなら昔からの夢だった守護隊も現実味を帯びてきたな。」
そういって半ば強引に連れ去っていった。
その頃から兄様が私を守ってくれるようになった。
その姿は時には王族としての風格があり格好良くも感じた。
兄様は周りからよく慕われており私もこんな風に立派になれれば昔のように戻れるのかと思い竜族の姫としての志を新たにした。
これがこの時の私が出した答えだった。
人族でいえば成人を迎える一歩手前ぐらいになった。
この頃になるとあの目の正体がなんとなく理解できてきた。
あの目は私を女性として見ていた目だった。
あの舐め回すような視線は恐怖でしかなかった。まだ幼い私をあんな目で見るなんて今でも理解できない。
しかし、最近はその目も減ってきた。兄様のおかげだ。
でも、兄様は私が話しているのが男だと見ると徹底的に排除しにかかるようになったのが玉に瑕だ。
この頃から、女性でさえ私の名前を呼ばなくなった。
この時私は少し兄様に苛立ちを覚えた。
いくら頑張っても昔に戻れる兆しさえ見えてこなかったのも要因だろう。
そんな時だった。見た目壮年の男性が話しかけてきた。
「少しよろしいですか。姫様の最近の活躍には眼を見張るものがあります。そこで折り入ってご相談があります。」
あの目は無くなったけど、今度は別の目が私を貫いた。
この時の私は姫としての責務を躍起になって頑張っていた。
国の環境がより良くなるように務めたり、その為にも人族との交友を深めていったり、何か異常があれば改善されるように方々に働きかけたり。他にも色々とやった。
そしてその別の目は、そんな私を利用しようとする者たちの目だった。
あの目に晒されていなかったらここまで敏感にはなっていなかったのかもしれない。
この時の私は男の人が怖くて仕方なかった。
それから少し時が経ち、人族でいえば成人を迎える頃になった。
この時に一度だけ、姫として人族の町に赴いた。
「はじめまして。私はセレスティア・アリシア・フォン・アビド。この国の第二王女です。今回のご訪問大変嬉しく思います。」
年齢は今の私の外見と比べて同じくらいなので成人したころなのだろう。
少し動くたびに美しい金髪が陽光を反射し輝いているように見えた。
美しい容姿と相まって女性の私でもとても幻想的に見える光景だった。
「はじめまして。私はリルエル・ユニストです。今回は竜王代理として訪問させて頂く事をお許しください。」
定期的にアビド王国とユニスト竜王国とでの交流が行われているのだが、いつもは父様が直接赴いている。
その必要はないのだが、いつも何かと理由をつけてはこの時だけは自ら赴く。
今回はどうしても外せない用事があり、代わりに私が来ることになった。厳格な父様のあんな表情を見るのは新鮮だった。
「いえ。いつも竜王様が直接赴いて下さるのはこちらの方こそ恐れ多いことです。なので構いませんよ。さあ、いつも竜王様がおいでになる時に向かうところへ案内します。」
そうして案内された場所はとても良い匂いのする場所だった。
今まで肉類しか食べたことのない私だったが何故だか嗅いだこともない匂いなのにとても食欲をそそられる匂いだ。
そこで出された食べ物に驚きを隠せなかった。
竜族は普段、人族が野菜と言っているものには手をつけない。
竜族は料理というものをしないので、しても焼く程度なので食文化が進んでいないことにも要因はある。
しかし、話には聞いていたが野菜など、と話半分にしか聞いていなかったがいざ目の前に出されるとよだれが出てしまいそうになる。
葉っぱや根と肉を一緒に炒めたり、油の中に突っ込んだり、スープにしたものまで、他にも色々と初めて見るものばかりなので私の語彙力では表せないようなものばかりが出てきた。
普段食べる肉も美味しいのだが、これらは別の美味しさがあった。
普段の肉は強い魔物から取れる肉なので素材が良いのもあるが、これらは予想だが普通のものだ。それを勝るとも劣らない味にまで引き上げる人族の凄さに驚いた。
これを食べてからは、肉に飽きを感じることもしばしばある。
町に戻った後、父様に何故竜は肉を焼いたものしか食べないのか聞いた。
すると、
「竜族は食に関しては肉さえあれば耐えられるのだ。現にリルエルも料理を食べたことがなかったとはいえ耐えることができていただろう。それに全ての竜達の分を賄う量の素材をここまで運んで来るのは途方も無い労力が必要となる。なのでこの町でも一部出している店はあるが大体のものは食べたくなったら町に降りている。皆が食べられないのに私達だけそれを享受するのは竜王として示しがつかんからな。」
と言われた。
あの時の父様の悔しそうな顔の理由が理解できた。
私もまた、すぐにでも食べに行きたいぐらいだ。
でも、私達は日々王族として多忙な毎日を過ごしているのでそんな時間は殆どない。
今度、時間を見つけて町にあるという料理を出す店に行ってみようと思う。
それから三ヶ月ほどしてやっとまとまった時間を取れた。
躍起になって時間を作ろうとした矢先に、住処を追い出された邪竜が流れてきたり、黒髪の人族が祠を訪ねてきたりと次から次に問題が重なった。
人族が祠を訪ねることは珍しいことではないが、その黒髪の人族に問題があった。
私には分からなかったが、父様が言うには異世界から召喚された勇者らしかった。
称号が高位のマジックアイテムで隠されていると言っていた。
その時に父様が小さく呟いた
「意義のない勇者など勇者ではないがな。」
と言う言葉が印象的でよく覚えている。
その後は周りに人がいるにも関わらず私を口説き始めたり、かと思ったら別の竜族の女性を口説きはじめたりと、別の意味でも問題だらけだった。
私はまだ男の人を信じきれないので全く靡くことはなかったし、他の誰もそうなることはなかったが、暴走を始めたので兄様が丁重にお帰り願っていた。
結構コテンパンにやられていたので大丈夫なのかと思ったが、この前のセレスティアからこうなるかもしれないと聞いていたらしく王国の許可は取っているようだった。
そんなことがあり三ヶ月後にようやく訪れることができた店だが、なんと料理は一品もなかった。
理由を尋ねると、
「最近やってきたあの竜達がどうやら邪竜になったみたいで人族では危ないらしく材料が全く入ってこないんですよ。私達は掟がありますから手を出せませんし、他のお客様からも悲しい声を聞くことになってます。」
確かに聞いたような気がする。
その時の報告では食べ物のことは触れられたなかっけど、王国からの物資が途絶えていてこちらから一部だけでも取りに行くような事態になっていると言っていた。
その時は掟のこともあるし人族が対応してくれるのを待つしかないという結果になった。
だがこの時、私自身がその問題に直面してやっと本当の意味でその問題を理解できたような気がした。
物資が足りないということはこの国にいるもの達は今の私のようにこんなにも切ない気持ちになってしまうのかと。
竜の姿になればその物資のほとんどは必要なくなるだろう。でも、竜の姿は燃費が悪いので殆どの竜は普段は人化状態なのだ。
そう思った瞬間、何故禁忌を犯して自我を失い魔物にまで堕ちたもの達に気を遣い、今まで頑張ってよくしてきた町に住む人たちが、何もしてないのに我慢をしなければならないのかと思った。
私は道を踏み外して迷惑をかけるもの達より、今ここにいるこの国のもの達に幸せになってもらいたいと思う。
全てを救おうとしない私は酷いのだろうか。
父様や兄様に訴え出たりもした。
「直接的な被害は出てないけど、間接的な被害は被っているじゃない。掟の範囲外よ。この件に私の私情が入っていることは認める。けど、それ以上に堕ちた竜のせいで真っ当な竜が被害を被るのはおかしいじゃない。」
その時の父様と兄様の反応は、
「掟を破るわけにはいかない。一度の前例は今後に大きく関わってくる。邪竜を倒せる人族もいる。その人族が来るのを待とう。」
そう言われた。
逆に前例を作ってしまってもいいんじゃないかと考えた。
恐らく、それをしたら幾ら竜族の姫という立場にあろうとも処罰は免れないだろう。
でも、やっぱり何度考えても理解できなかった。
私自身も浅はかな考えだと思う。
この掟の成り立ちは邪竜は竜族を殆ど攻撃しないという特性と、竜族の住処の近くに棲むというワイバーンと同じ特性を持っていることから、まだ竜族が他の種族と敵対していた時代にその特性を生かし防衛に役立てていた為だと言われている。
はっきり言って今の時代には必要のない掟なのだ。
この国の敵対国といえば王国の逆側に位置する帝国ぐらいだ。
私は処罰を覚悟で祠へと赴いた。
邪竜の居場所の詳細を聞く為だ。父様はそれを予想していたのかそこでも父様と同じことを言われた。
そのまま口論していると、この時の私はそうは思わなかったが運命とも言える出逢いが訪れる。
黒髪黒目の人族でどこか勇者の顔立ちと似ているが、昔から勇者は召喚されているので珍しい顔ではない。その中でも平凡な顔立ちだった。
他にも二人の人族がいるが、この前会った王国の王女よりも美しい、芸術品とも取れるような美少女だった。
私は男の人に苦手意識があるが、この人族には不思議と苦手意識が湧かなかった。
それは目が昔のみんなと同じ目だったからかもしれない。
そしてその人族、コータと関わっていく内に昔に失われた、取り戻そうとしていた感情が再び芽生えたような気がした。そして初めての感情も一緒に芽生えた。
それが恋だとすぐに理解出来た。
だって景色がこんなにも違って見えるのだから。




