一日と約束の履行
今は、俺、クオ、レティの三人で待合室にいる。
リルも俺達と一緒に行動することに決まった後、少し家族だけで話し合いたいとフロード様が言ったので席を外したのだ。
「今日は怒涛の展開だったね。ワイバーンを倒しに行くはずが、最後には竜のお姫様と行動することになるんだから。」
「ん。しかもお姫様は光太にメロメロ。」
メロメロて。最近聞かないよな。
「そういや、最初の目的はワイバーンだったか。ワイバーンを求めて草原を数時間彷徨い、やっと見つけたと思ったらガレスの考えに気付きイラっとして目的変更。邪竜を倒すために山を一時間程探しても見つからない。仕方なく竜に聞くために祠へ。そこでリルとグレイスに出会い心配されながらも邪竜のいる場所に案内してもらう事になって。」
何度も来た道を戻ったりして大分気力を持っていかれてたな。
「その後、コータがリルを骨抜きにしたり昼食をとったりした後邪竜討伐に行ったんだよ。」
「そうだった。ちょうど今時間がある。約束を履行してもらう。」
「くっ、覚えてたのか。完全記憶は厄介だな。」
レティの発言であの時の約束を履行させられた。
恥ずかしすぎて悶絶しそうだ。
あの時の俺はこんなことをやっていたのか。勢いとは怖いものだ。
リルに行った言動を全てやらされた。
両手を肩に添え名前の部分以外一言一句違わず、その後抱きしめてまた一言一句違わず。
完全記憶は恐ろしい。少し違うとやり直しを要求された。
「何故俺はこんな約束をしてしまったのか。過去の自分を問い詰めたい。」
「光太は役得。こんな美少女二人を抱きしめることができるなんて。」
確かにそうだが何故か納得できない自分がいる。
「はぁ。まあ、これの後は邪竜討伐とレティとフリーズのバトルぐらいか。」
「意図的に目を逸らすのは駄目。公衆の面前で美少女三人に抱きつかれていた。しかもその一人はこの国の姫。全員に愛を囁いてた。」
別に目を逸らしているわけじゃないから。
あんなところでやることじゃなかったとか後悔してないから!
ディファードに来てからの俺は少しおかしいんじゃないだろうか。
「その後はさっきの話し合いがあったくらいかな。長い一日だったね。でも、色々経験できたから良かったんじゃないかな。」
「まあ、そうだな。色々ありはしたけど結果的にあるものが多かったのも事実か。改めて今日思ったけどレティの咄嗟の判断にはいつも救われてるよ、ありがとう。」
「ん。そのくらい別にいい。でも、これからも頑張る。」
そんな風に三人で今日の事を話していると一時間程経っただろうか、色々とあって時間がたっておりもう夕方の六時を回っていると思う。そんな頃にグレイスが来て、話し合いが長引いているそうだから今日は休んでくれという事だった。
なので家族水入らずの話もしばらく出来ないだろうから仕方ない事だと思いながら了解の意を伝えた。
そのまま客室に通されて、食事を出してもらった。
食事は何の肉かはわからないが塩、胡椒の味付けだけをした焼いた肉のみだったがかなり美味しかった。
レティの言っていたことが真実だった事に驚いた。
その後少し部屋を見て回ったのだが結構広い。寝室の他にリビングに小さなキッチン、トイレにまさかの風呂まであった。
風呂があった事には驚いた。別にないと思っていたわけではないが、こっちに来て体を拭くか水を浴びるかの生活だったので風呂に入れた事には感動ものだった。
生活魔法にクリーンの魔法があるのも悪い。クリーンは汚れを落とす魔法で、こちらの住人は使える人はそれですませる人も多い。
確かにそれで清潔は保たれているのかもしれないが、風呂に慣れてしまっていては違和感があったのだ。
風呂に入ろうとした時、クオとレティが先に入っていいというので入らせてもらったのだが、俺の後についてくるレティには困った。
一緒に入るなど嬉しい限りではあるが、逆に疲れそうなので遠慮させてもらった。少し後悔しているのは内緒だ。
交代で風呂に入った後は少したわいもない話をしてから長かった一日を終えた。
本当に今日は長かった。
この原因をつくったガレスにはたっぷりとお礼をしてやろうと思う。
次の日、目が覚めると隣に満面の笑みのリルがいて驚いてまどろむ時間さえなかった。美少女の笑顔は朝のコーヒーよりも効果があったと思う。
俺と目があった瞬間あたふたと赤面する様子は見ていて面白かった。
もうクオとレティは起きており、昨日の疲れが出たのか俺が最後だったらしく、さっと顔を洗いリルの話を聞いた。
「父様が一緒に朝食でもどうかって言ってるの。それを伝えに来たんだけどどうかしら。」
「お願いするよ。色々と話もあるだろうし。」
断る理由もないので承諾した。
昨日はあの話以外は特になかったしこれからの話とか邪竜の話とか色々とあるだろうからな。
「そう、よかった。それと、さっきのはコータの寝顔を見られて幸せを感じていたとかじゃないから。」
さっきのとは俺の隣に寝ていた事だろう。
なんだか、朝から和み、分かってるよと頭を撫でてしまいました。
「あー!リルだけずるいよ!クオにもするべきだよ。」
「ん。朝からイチャイチャしすぎ。私も混ぜる。」
「いや、でもフロード様達を待たせてるんじゃないのか?」
「そんなの待たせとけばいい。こっちの方が大事。」
「そうだよ。優先度の高さは月とスッポンなのは明白だよ。」
「この瞬間は誰にも邪魔させないから。たとえ父様であっても。」
リルまでこんなことを言っている。仕方なく交互に撫でる事になり、様子を見にグレイスが来るまで誰が一番長いやもっと丁寧になどあーでもないこーでもないと言いながら十五分ほど続いた。
グレイスに案内されてやってきた部屋の中は落ち着いた感じの装飾に、大きな窓からは朝陽が差し込んでいる。部屋の中央には洋風の長いテーブルが置いてあり、そこにはフロード様とオリヴィエ様、フリーズが座っていた。
テーブルの短いところにフロード様が、オリヴィエ様とフリーズは長い方の片側に並んで座っていた。
俺達は二人の正面に座るように促されたので俺、クオ、レティの順で座った。リルはフリーズの横に座るようだ。
「遅くなってしまい申し訳ありません。」
「いや、私達の方こそ昨日はすまなかった。朝からこんな話もなんだ。このくらいにして置いて、まずは食事にしようじゃないか。」
「そうですね。」
フロード様が手を叩くとメイド服を着た人達が昨日とさほど変わらない肉を運んできた。
昨日と変わった点といえば俺達の分にだけパンが付いていることぐらいか。
なんだか理解できてしまった。これまでの色々とこの料理で。
リルの私欲とは食べ物ではないのだろうか。
レティは言っていた。竜は料理というものをしないと。リルはあの時の話には私欲が入っていると言っていた。リルは俺達の出した食べ物を美味しそうに食べていた。今のリルはただ淡々と、食べるために食べると言った感じだ。
毎日三食この料理が続くとなると厳しいものがあるな。他の料理を知らなければ分からないが、知ってしまえばどうしても飽きが出て来るだろう。
レティは人族の料理を求めて街に来る竜もいると言っていた。
まあ、この予想が当たっていたとしても俺の考えは変わらないがな。
「すまないがここにはこれしかないのだ。私も食べられるなら食べたいのだが、こんなところに来る物好きな料理人は少ない。いるにはいるのだがここに来るまでの道中が危険過ぎて材料費が割高になる。ここで料理するぐらいならと他のところへ行ってしまうし、材料も毎日を賄える分を用意は出来ないのだよ。特に今は邪竜の問題で全く入ってこなくなってしまった。」
なるほど。材料の問題なのか。
確かにここは結構高い場所にあるし、空の上から見ただけだけど道中はワイバーンも結構いたし、危険そうな魔物もちらほら見た。
「しかし、光太のおかげでもう邪竜もいなくなったのでもう少ししたら入って来るようになるだろう。その邪竜の件だが協力するとは言ったが詳しくは何かあるのか?」
「そうですね、正直俺達は魔石さえ貰えればあとはどうでもいいんですが冒険者ギルドマスターに一泡吹かせてやりたくてですね。」
詳しく説明した。
何度か騙そうとしてきたこと、今回もワイバーンの依頼で説明が事実ではなかったこと。
「私の見立てではワイバーンも邪竜も素材の買い手を見つけているはず。しかも大商人や貴族や名のある冒険者。」
「では、こういうのはどうだろうか。」
フロード様の話をまとめるとこうだ。
まず前提として邪竜を倒すほどの力があると思われては駄目。なので、邪竜は竜に危害を加えたとして掟に基づき竜が邪竜を討伐。その際、危害を加えられた竜を助けたのが俺達三人。その報酬として邪竜の魔石を与えられた。報酬として多いのは助けたのが竜族の姫リルエルだったから。邪竜の素材は値段を釣り上げて売りつけてその後俺たちに払われる。これは内密に。
「ん。いいと思う。買取相手を見繕っていてそれが貴族相手なら買い取らざるを得ない。そしてもし買い取らなくてもこっちには被害はない。」
「そうだね。そろそろ痛い目を見てもらわないとね。後悔させてあげるよ。」
「それでお願いします。お金の方は一部お礼としてもらって下さい。」
そう申し出たのだがそれだったら今後リルの食費にでも当ててくれと冗談っぽく返された。
急に話題にされたリルは憤慨しているのか恥ずかしいのか顔を赤くして父様!と言っていた。
「すまなかったな、リルエル。それで今後の話だが予定などはあるのか?」
「そうですね。街に戻ったら少しあることにはありますがその後は特にはないですね。」
街に戻ったら魔法学園に行くことになっている。その後は特に決まっていない。
「では、一度神龍と六龍のところを訪れてくれないか。一応、リルエルが旅をしていることを知らせておかなくてはならない。まあ、竜の時は長い。急ぐ必要はないがな。」
「分かりました。場所はどこなんでしょうか。」
「アビド王国の王都と迷宮都市の中ほどに湖がある。そこに水龍がいる。詳しくはそいつに聞いてくれ。神龍と六龍が住む霊峰ゴーヴェルドは見ればすぐ分かるほどの所なんだがいかんせん六龍の結界が凄くてな。頼むから破ったりはしないでくれ。」
フリーズからレティの結界のことを聞いていたのか破るなと言われてしまった。
そんな面倒そうなことはしないが。
「振り?」
違うから!そんなに可愛く首を傾げながら言っても駄目だから!
レティは時々、恐ろしい冗談を言う。
しかしきになる単語が出てきたな。迷宮都市だと。レベリングにうってつけのような名前をしている。
「この前のクオの対龍結界みたいに素通りしたら駄目だからね。ね、コータ。」
いや、そこで俺に振られても。
クオが墓穴を掘ったとしか返せないんだが。
クオはレティを咎めたつもりだろうが、リルエルたち四人は驚いて固まっている。
そりゃそうだろう。いくら強いとは思っていても上位種族に対抗できるほどの結界を張れる人物二人にそれを素通りできる程の人物が少なくとも一人。
「そ、そんな冗談通じるわけないだろ。バカだなぁクオは。」
「ん。もうちょっと捻るべき。龍用の結界なんて素通りできるはずがない。」
すぐさま誤魔化すために行動に移る俺とレティ。
「え?だってこの…そ、そうだよね。誇張しすぎたよ。」
気づいたのか話を合わせるクオ。
普通だったら冗談として流されるだろうが俺達の力は四人からして見れば未知数だ。簡単に流すことはできないのだろう。
「はははは。すみませんね、クオは冗談があまり得意ではなくて、大きく誇張してしまうんですよ。」
乾いた笑いが出てしまう。
まだ疑っているようだが、引き下がってくれるようだ。
その後はどんなところは行くべきだとか、ここはこんな風に良かったとか観光するのに良さそうな場所などを聞いた。
旅をするならその場所の名所や特産品を知っておいて損はないしな。
食後にお茶を飲みながら少し会話は続いたがそのままその場はお開きとなった。
今回でちょうど50話です。
ここまで読んでくださっているみなさん本当にありがとうございます。
これからも頑張っていきますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。




