真実と神龍
「少々不便なので呼び方を変えさせてもらおう。これからは光太と呼ばせてもらおう。光太も竜王様などではなく名前で呼んでくれて構わない。お互いに信頼の証だ。」
そう言われたので俺は公の場以外ではフロード様と呼ばせてもらう事になった。
「私はフリーズと呼んでくれ。様など不要だ。妹を任せる事になるんだ。だが、手を出したりしたら許さんぞ。」
「あらあら、では私はお義母さんなんてどうかしら。男に興味を示さなかったあのリルがここまで懐いているんですもの。」
ウフフと笑いながら爆弾を投下してくるお義母さん、ではなく多分だがこの人がオリヴィエ様でリルの母親なんだろう。似てるしな。
ここで慌てふためくのはリルだ。
「か、母様?じ、冗談もほどほどにして下さい。私とコータはま、まだそういう関係では。」
「あら、公衆の面前で愛を誓い合いながら抱き合っていたそうじゃない。そうでなくても心配だわ。この歳まで男の影がまるで無いんですもの。誰かさんの所為でもあるのでしょうけど。」
言い返せなくなり赤面して黙りこくってしまうリル。
最後の言葉はフリーズの方を向きながら言っており、フリーズが冷や汗を流している。
もしかしたらおっとりしている感じに見えるがとても怖いのかもしれない。
まあ、フリーズは自業自得だろう。
「冗談はこれくらいにしておいて、私はオリヴィエ・ユニスト、好きに呼んでくれて構わないわ。もちろんお義母さんでも可よ。」
「父様!母様を止めて下さい!」
自分では止められないと感じたのかリルはフロード様に助けを求める。
「オリヴィエ、そのくらいにしておけ。その話は追い追いだ。」
この場で否定的なのはフリーズだけのようだ。
「父様まで。」
リルは呆れた感じで言っているが何故か顔をニヤつかせている。
このタイミングでニヤつく意味がわからん。
「話を戻そう。光太は竜族の事についてどのくらい知っている。」
「そうですね、寿命が長いこと、他の種族と比べて数が少ないこと、才能値が高いこと、魔物化すると邪竜になること、人化できること、ですかね。」
「ほう、邪竜が竜からなるものということは一般常識レベルのことだが、魔物化という単語を人族が知っているのは珍しい。だが後一つよく知られていることがある。それはどんな竜でも魔法属性が一属性であること、だ。」
そういえば、邪竜を鑑定したときも上位属性を持ってはいても他属性はもったいなかった。
「これは誰もが知る一般常識だ。伝説の竜でさえ、多くの物語の竜でさえ、果ては龍でさえそうだと言われている。」
ん?事実じゃ無いのか?
「だがこれは事実じゃない。竜は才能値の高さと引き換えに単属性しか扱えないと言われている。殆どの竜は単属性であることは間違いではない。ただ、数千年単位で現れることがあるのだ。複数属性扱えるものが。」
この部屋の中で唯一リルだけが驚いている。
俺はそんな常識知らなかったし、へぇそうなんだ程度の感想しか出てこなかった。
「これは竜族の中でも一部しか知らない事だ。他種族にも知っているものはいるだろうがそれこそもっと少ないだろう。後は少数の物語に創作として出てくるくらいか。一つ疑問に思っていることがある。リルの封印しておいたステータスを見て疑問に思わなかったのか?もし思っていたならリルやグレイスに聞いたりしてもおかしくないはずだ。」
確かに竜族は単属性という常識を持っていてリルの本来のステータスを見たのなら疑問に思い周りにいたものに聞いてもおかしくないか。
「原初の龍、最古の龍オルデスト。彼も複数属性を操っていたと本で見たことがあった。だからそういうものだと思った。それに冒険者は柔軟性が大事。町の人々より固定概念に囚われていなかっただけと思う。」
いつもながらレティの回答は早くてなんだかそれっぽくて感心する。
現に通用しているからなお凄い。
「あの物語を見たことがあるのか。多くの人があれも創作だと思っているだろう。脚色もあるがあれは事実を基にしている。レティといったか。君は本当に柔軟な思考をしている。」
本当にレティにはいつも助けられています。
「ただな、竜族の中でだけの話なんだが、例外があると考えられている。それが神龍だ。他の種族には六龍の存在しか知られてないだろうが、神龍と呼ばれるものがいる。」
「確かさっきフリーズが言っていたのを聞いたような気がするな。」
「六龍とはそれぞれの基本属性を操る龍の中で最強のものをそう呼ぶ。そして神龍は儀式を行い、単属性から複数属性になったものをそう呼ぶとされている。神龍はその代に一人とされ、いないときもあると言われている。だが実際は複数属性を持って生まれたものを隠すための隠れ蓑だ。」
「隠す意味があるんですか?」
複数属性持っていることは竜族の中では周知の事実となっている。それが産まれた時からか、産まれた後の儀式で得たのかの差だ。
「産まれた時からだと可能性を感じてしまい力を求め邪竜になる竜が多く現れた。色々と試す時間が多いのが竜だ。だが、儀式を行えば全員失敗する。可能性をそこだけに留めることによってその数は激減した。」
多くの可能性を残すよりも少ない可能性に留めるため、か。
それにも問題がないわけではないだろうが。
「儀式は長い時を費やして作られた極限まで複雑化された効果の読み取れない魔方陣に魔力を流すだけだ。万に一つも成功することはない。読み取れはしないが効果なんてないからな。時々、力を求め過ぎて神龍を直接狙う愚行を犯すものも現れたが魔方陣と神龍は六龍が護っている。これでこのことに関しては問題がないと考えられていた。」
可能性を一つに絞りその問題点も解決した。
他に何かあったのだろうか。
「今代の神龍は今、六龍達が護っている。リルとそう歳の変わらない女の子だ。ここで問題が起きた。この子が神龍になった後すぐにリルが産まれた。」
あぁ、そういうことか。
数千年単位で産まれてくる天才。だから一人と定めていた。そんなのが複数いたらせっかく神龍という存在を作り上げて抑えていたものが溢れ出すかもしれないからな。
その後、フロード様が言ったことは想像通りだった。
「リルエルは複数属性を持って産まれてきた。神龍がいる代にもう一人現れた。幾ら寿命が長いといえど平均一千年程、龍になれば寿命が延びたりはするがそれでも三代間に一人現れるほどの確率だ。今まで一世代に二人と現れることはなかった。だから六龍達と話し合い、その結果リルエルが力をつけるまでは内緒にしておくことになっていたのだ。このことを知っているのは六龍と私達三人それに一部の老龍のみだ。」
「力をつけた後はどうすればいいんですか。私は結構頑張ってきているつもりですが。」
リルは驚いたり戸惑ったりはしているようだが、受け入れて先を見据えることにしたようだ。
こういう判断の速さは凄いと思う。
「ああ、リルエルは強くなった。だが強くなりはしたが、まだステータス的なところが大きい。だから、いい機会でもあるし光太達と旅をしてこい。人族の知恵・技術は龍さえも凌駕することがある。それに先程、光太は約束してくれたからな。その過程で神龍や六龍に会いに行くのも良いだろう。」
まあ、本人が力をつけるのが一番手っ取り早いだろうな。
「コータは私が旅について行っていいの?多分、面倒事になると思うけど。」
「何言ってるんだ?確かに面倒事は嫌いだが、それがリルの為なら進んでやるに決まってるだろ?」
「決まりだな。一応、方針は決めてあるが前提として強くならなければいけない。まずは龍を目指してみろ。」
そう簡単に上位種族を目標に設定するフロードであった。
まあ、この場の半分以上が上位種族以上なのは余談である。




