圧倒と油断
今、邪竜のステータスが変わるのを見て驚いた。というよりもうちょっと早く知りたかった。
魔法のエンチャント系がステータスアップの効果だとわかったのは、魔法を鑑定すると自身の使える魔法の名前と大まかな効果がわかるのだ。それと、体感で少し上がったかなぐらいだった。
最初はどんな効果か分からずに失敗かと思ったが、色々試すうちにスキルを鑑定することを発見した。
発見があったから良かったものの、この情報はもう少し早く知りたかった。
邪竜は三体いるが、ステータスは一部以外は俺の方が高いのでまずはエンチャント無しで戦ってみることにする。
それと今回は剣は使わない。
剣を抜けば動きがある程度分かったり、ステータスが上がったりするが、今回は練習した魔法のみでやってみようと思う。
「さあ、やるか。俺一人で雑魚以外とやるのは初めてだから少し緊張するな。」
「気をつけてねコータ。大丈夫だとは思うけど油断しちゃダメだよ。」
「少し離れたところで見てる。危なくなる前に神化を使うといい。今回の目的は今の自分の力の最大を体験しておくこと。神化を使わずに倒せるならそれでもいい。他にも強いのはたくさんいる。」
よし!早めに神化しよう!
何だよ、強いのたくさんって。俺の異世界生活は先行き不透明過ぎて不安でいっぱいだよ。
「まあ、出来ることをやってくるから見といてくれ。後から駄目だったところとか教えてくれ。俺の豆腐メンタルが傷つかない程度に。」
その会話を後にクオとレティは少し後ろに下がった。
今の会話の間にも邪竜達に動きがあった。
一体が空を飛び、二体は俺を挟むような位置につけている。
どうやら手加減してくれる気はなさそうだ。
全員で本気でリンチするらしい。
「なあ、空なんて卑怯じゃないか?しかも一対三なんて。ちょっとは手加減しろよな。『ダウンバースト』『シャドウバインド』」
GIWYAAAA!!!
最初の力強い挑発的な雄叫びとは違い、悲鳴のように聞こえる叫びを上げる。
ダウンバーストは強い下降気流を相手に叩きつける魔法だ。
結構魔力を込めたので落ちるとは思っていたが、クレーターまで作っている。
そんな威力の魔法を受けても意識のある邪竜はさすが元が竜なだけあると思う。
想像以上の威力が出て誰よりも俺が一番驚いたが、他の二体も放っておくわけにはいかないのでシャドウバインドで拘束する。
その二体も羽虫程度の存在だと思っていたやつにいいようにやられ怒りが伝わってくるようだ。
必死にシャドウバインドから逃れようと暴れているが一向に溶ける気配はない。
「ステータス的にそんなに差はないはずなのに呆気ないな。いや、千の差は大きいのか?まあ、きっちり倒すまで油断はしないようにしないとな。『ペルティングレイン』」
ペルティングレインは貫通力の高い針型の水を空から降らせる魔法だ。
また飛ばれても面倒なので翼を重点的に狙っていく。
GYAWEYAAAA!!!
翼には無数の穴が空きもう飛べないだろうことが傍目から見ても明らかだ。
やっぱりこの魔法は生物に使うとたちまち十八禁映像と化すので控えた方がいいかもしれない。
邪竜達も最初の威勢は完全になくなり、今は痛みから転げまわりそうな勢いだ。
拘束された二体はそれも出来ず、抵抗することもできずに四肢で踏ん張り耐えている。
本来魔法は同時発動出来ないが、偶然手に入れた並列思考のおかげで出来るようになった。
今はまだレベルが低いので二つまでだが。
「よし。あんまり放置しておくのも可哀想だし、早く終わらせるか。でも最後は神化状態じゃないけど。今の最大火力を試そうか。『オールエンチャント』『フィジカルブースト』『スピリチュアルブースト』『フルブースト』」
オールエンチャントは単属性エンチャント一つ一つを言うのが面倒なので全部使うときはこう言っている。
別に一人で戦っているので言う必要はないのだが、こういうのは普段から慣れておかないといけないので一人でも言っている。
そして、フィジカルブーストが火と土、スピリチュアルブーストが光と闇、フルブーストが基本属性全ての複合魔法のエンチャントだ。
複合魔法にすると普通のエンチャントと重複できたので作った。
他の属性同士でも作れるのだが、種類が多すぎるとごちゃごちゃするし、多すぎると分からなくなってミスに繋がるかもしれないのでこれ以上は作らなかった。
「山だし火魔法を混ぜたら危ないからな。あれでいこう。まずは『ブラインドミスト』からのシャドウバインドをといて『カタストロフィ』」
ブラインドミストは指向性のある黒い靄を周囲に広げ、相手が接触するとその相手を盲目の状態異常にする魔法だ。
魔法による状態異常は時間経過で解ける。
カタストロフィは局地的な地震を起こすアースクエイクで行動阻害してペルティングレインで攻撃する魔法だ。
ペルティングレインだけで止めを刺してもよかったが、色々なパターンを試しておくことにした。
三体同時に巻き込めるよう広範囲に使ったので、土煙が舞い全く見えない。
作ったときみたいに小さい範囲で使っていれば分からないことだ。
これは状況を選ぶ魔法だな。
今回みたいに確実に倒せるときや相手の恐怖心を煽ったりするのには使えるだろうが、同格、又は自分よりも強者相手には視界を遮るのは愚策だろう。
或いはこんな状況でも把握できる何かがあれば別かもな。
「ッ!」
見えないので魔法の考察をしていたら、土煙の中からいきなり視界いっぱいの何かが突撃してきた。
速すぎるのと大きすぎるので何かは分からない。
もうそこまで迫っているので回避は間に合わない。
だとしたら迎撃。だけど速すぎて止めることができるか分からない。
どうする。何ができる。ワープホールはどうか。短距離だが強制移動させるが大きさが分からないから穴がどれくらいでいいか分からない。駄目だ。何かないか。
くっ。もう時間がない。
俺はできる限り多く魔力を注いだアースウォールを彼我の間にできる限り多く作っていく。
確実性はないが仕方ない。
厚さ五十センチ、高さ三メートルほどの土壁を十五枚ほど作った。
一枚一枚の強度も多分ジェット機が突っ込んできたって傷一つなく止められる程の強度はある。
だが、
ドゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
スピードは全く落ちているようには見えない。
くそっ!油断した!
三体の邪竜は確実に倒したと思い込んでいた。最後に確認するまで油断するべきじゃなかった。
少しでも威力を落とすために一番近い土壁に魔力を注ぐ。
そして最後の土壁に到達する直前、
「光太、油断は良くない。でも、今回は仕方ない。」
「そうだね。これは別の邪竜だしあの三体より段違いに強いからね。」
ドゴーンッ!
クオとレティが両横に現れた。
巨大な何かは目の前で見えない壁に阻まれたかのように止まった。
俺の張った土壁は瓦礫になっている。
止まったそれをよく見ると全容は見えないがさっきの邪竜より二回りほどでかい竜みたいだ。
あんな勢いで突っ込んできたのにすぐに体勢を立て直し距離をとった。
警戒しているようで再度突撃はしてこない。
「油断するなって言われたのに最後の最後でやってしまった。しかも助けてもらって、すまん。」
「ん。次から気をつければいい。それにこの邪竜は今の光太のステータスじゃ無理。」
こいつも邪竜みたいだ。
邪竜は三体だと言っていたが、一体確認できていない竜がいると言っていたのでそいつも邪竜になってしまっていたんだろう。
しかも邪竜になっているだけじゃなくて相当強いみたいだ。
「それとコータの戦いを見て思い出したんだけど、称号の説明してなかったね。最初から圧倒してるからどうしてかと思ったら称号の事すっかり忘れてたよ。」
「詳しいことは後で説明する。だけど、称号には効果があることを覚えておいて。神の加護は特定のステータスに高補正と神によって異なる効果、神の寵愛は加護の上位互換で特定のステータスに超補正と神によって異なる効果。そのせいで圧倒してた。」
なるほど。
創造神の寵愛がなんだか恥ずかしくて聞けなかったがそんな意味はないのか。
別の意味で恥ずかしっ!
しかし、その圧倒していた俺のステータスでも敵わない相手か。
ステータスを見てみる。
-- LV.211
種族:竜族
年齢:205 性別:男
HP:4302690/4302690
MP:3442425/3442425
STR:42538
DEF:24579
DEX:42538
INT:34033
MND:24579
才能値
STR:15 DEF:13 DEX:15
INT:12 MND:13
固有スキル
【人化LV.EX】【疾風迅雷LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値1/2倍加LV.EX】
【取得経験値2倍加LV.EX】
【狂化LV.EX】【飛翔LV.EX】
技能スキル
【格闘術LV.7】【魔力操作LV.7】
【威圧LV.8】
魔法スキル
【風魔法LV.10】【雷魔法LV.6】
【竜の息吹LV.7】
称号
【堕ちし竜】【邪竜】
このステータスは補正が全部乗った状態のものだ。
全体的にスキルレベルも高いがステータスがアホみたいに高い。
固有スキル【疾風迅雷LV.EX】の効果だろう。
【疾風迅雷LV.EX】
個人の固有スキル。
常時STR、DEX、INTに高補正。
更に魔力を一割消費することで、30分の間STR、DEXに超補正を掛ける。
一日に三度まで使用可能。
個人の本当の意味での固有スキルは初めて見た。
まあ、あんまり鑑定しないのも理由にあるだろうが。
しかし、個人の本当の意味での固有スキルは他のスキルに比べて強いな。
神化なんかは例外だが。
因みに今の俺の補正が入ったステータスだ。
コウタ タカハシ LV.46
種族:神人
年齢:16 性別:男
HP:9950260/9950260
MP:9950260/9950260
STR:18703
DEF:17812
DEX:17003
INT:26719
MND:26719
才能値《制限》
STR:100 DEF:100 DEX:100
INT:100 MND:100
固有スキル
【創造LV.EX】【最適化LV.EX】
【完全記憶LV.EX】【神力変換LV.EX】
【神眼LV.EX】【神化LV.EX】
【制限解除LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値10倍化LV.EX】
【取得スキル経験値10倍化LV.EX】
【言語理解LV.EX】【限界突破LV.EX】
技能スキル
【アビド王国語LV.3】【鑑定LV.3】【隠蔽LV.10】
【剣王LV.2】【魔力操作LV.10】
【並列思考LV.1】【MP回復速度上昇LV.2】
魔法スキル
【火魔法LV.3】【水魔法LV.5】
【風魔法LV.5】【土魔法LV.6】
【光魔法LV.10】【闇魔法LV.4】
【空間魔法LV.3】【生活魔法LV.2】
【複合魔法LV.4】【無詠唱LV.4】
称号
【創造神の寵愛】【闇神の加護】【異世界人】
【世界の外側に存在する者】【理に縛られない者】
【超えし者】【至りし者】
EXP:15190
確かに予想よりもかなり高い。
エンチャントとブーストだけではここまでならないだろう。
これが称号効果というやつだろう。
加護や寵愛の補正は常時みたいだから今までも掛かっていたのだろう。
神化みたいにHPやMPには影響はないようだ。
だが、
「俺のステータスも思った以上に上がっているけど、邪竜のステータスはもっとヤバいな。何故かは知らんがスキルが少ないことがせめてもの救いか。」
「それは魔物化の影響。邪竜になった竜は人化出来なくなる。自然と人化時に覚えたスキルも忘れる。使えないから必要ない。」
そういうことか。
確かに剣術なんかあっても竜の姿じゃ使えないことはないだろうが使わない方がいいだろう。
「どうする?私たちが戦うか、それとも神化して光太が戦う?」
「俺がやるよ。当初の目的もまだだからな。今度は油断しないから大丈夫だ。」
「わかったよ。じゃあ、神化したらクオ達は離れるから。まあ一瞬だろうけど頑張ってね。」
神化することを意識する。
やり方が分からなかったが神化すると思うだけで良かったみたいだ。
その瞬間、世界が一変した。
確かに、俺を中心に天変地異が起こったように地割れが起こり暴風が吹き荒れ周りにあった木や最初に倒した邪竜達が吹っ飛んでいってレティが張った結界に叩きつけられたりはしているがそういうことじゃない。
俺自身の感覚とでも言えばいいのか。
制限解除の時よりも大きな力が体の奥底から溢れてくる感覚、身を捩るだけでも何かが起こりそうな気さえする。
握りこぶしを作ったり手を開いたりして感覚のズレを確かめる。
何故かズレなどはなく逆に今の方がしっくりくるくらいだ。
つま先で地面を軽く叩く。
ドゴンッ!
盛大な音を立て大きなクレーターを作る。
「うおっ。こりゃまたすごいな。少し動くだけで天災が起こる。」
急な浮遊感。しっかりと着地は出来たけど、結構恥ずかしい。
冷静を装ってはいるけど顔に少し出てるかもしれない。
「調子はどうかな。違和感とかは?」
「神化前よりもいい感じだ。違和感も全くないな。」
「神化は本来の姿。言ってみれば戻っただけ。当然のこと。すぐ終わると思うけど頑張って。」
クオとレティは近くにいたので、地割れなんかの被害をモロに受けているかとも思ったが二人の周りだけなんの被害もないみたいだ。
二人は少し後ろに下がるだけにしたようだ。
まあ、地割れ酷くて行く場所ないしな。
邪竜の方を見ると、ギリギリ踏ん張っているようだ。
「さっきの不意打ちは焦ったぞ。今度はこっちの番だな。」
第二ラウンド開始だ。




