邪竜
俺が静かに決意を新たにした後、魔物化の話も終わったので本題の通常や傾向と意味のわからない、不安要素しか生まない言葉の話に移った。
「竜族が邪竜になる場合、その殆どが若い竜がなる。ある程度年経た竜は急ぎ力を求め、精霊に手を出すことが愚行だと知っている。」
「もちろん、若い竜も教えられてるよ。だけど、神と違って下界の種族だと、その方法では経験値が得られないんだろうと予想はできるけど、絶対と断言できないんだよ。年経た竜は生きた年月故に経験から判断力に長けてその愚行を起こすことは滅多にない。だけど若い竜は焦りなんかから判断を誤って起こすことがあるんだよ。」
「つまり、若い竜、力のつけてない竜が邪竜になる傾向にあるってことか。でも、滅多にとか言ってるから時々強いのが邪竜になることがあるのか。」
「それが通常の部分。強い竜が邪竜になった時、場合によっては龍よりも強くなる。そしてそれは直接的にも間接的にも竜族に危険を及ぼす。それは掟の対象外。竜族に危害を加えることになるから。」
「なるほど。竜族が邪竜を討伐してないならそれは強い邪竜じゃないってことか。ちゃんと聞けて安心したよ。」
「ん。それならよかった。」
話が終わった後は少し穏やかな時間を過ごしリルが復活するのを待った。
その間にクオに聞いたら最低限の食料を残して全て出したらしい。
あまりにも幸せそうだったのでつい出してしまったと言っていた。
ついと言っているが、三人で優に一週間は過ごせる量はあった。
まあ別にまた買えばいいし、お金もガレスからたんまり搾り取るので問題ない。
食べていた場所はそんなに離れているわけではないが、休憩している場所は少し離れている。
リルは俺達が見ていることに気づいたようであの量を食べた後とは思えない軽快な足取りでこちらに来た。
「結構食べていたみたいだけど休憩はもういいのか?」
「ええ。こう見えても竜だからいくら人化していても食べられる量は多いのよ。」
リルの後ろをついて来ていたグレイスがやれやれとでも言いたそうな感じで首を振っている。
どうやら竜族の中でも食べる量は多いみたいだ。
「姫様、嘘は良くありませんよ。竜族は人化するとステータスが制限されたりもしますが、その分消耗品のコスパが良くなるんです。物理的に体が小さくなるというのもありますが、消費されるエネルギー量が少なくなるというが大きいですね。」
俺はリルにジト目を向ける。
何故かは知らないが嘘だったようだ。
「グ、グレイス!余計なこと言わないでよ!コータ違うのよ。その、理由もなくいっぱい食べる女とか思われたくなかったから…」
理由とか全く気にしてなかったが実際思っていたのでなんとなく気まずい。
するとクオとレティが励ませとでも言うように背中を押してくる。
ちょっと待てよ!
俺は二人のせい?おかげ?で女性と接することには慣れてきたが励ますなんてことはあまりやったことがないから自信ないぞ。
くっ、仕方ない。別によく食べる女性は素敵だと思うが気にしているようだし俺ができることを精一杯しよう。
しかし、こんな状況をつくったグレイスにはいつか仕返ししてやる。
「よく食べることの何がいけないんだ?別にリルはスタイルいいし、綺麗だし、何よりあんなに美味しそうに、幸せそうに食べている姿は周りまで笑顔にしてくれるから素敵だと俺は思うぞ。」
このなんとも言えないありきたりな言葉を並べた感じの小並感。
いや、中学生くらいの感想だから中並感か?
などと現実逃避をしてみる。だって人を慰めるの難しいし恥ずかしい。
穴があったら入りたいとはこういうことなのか。
「ほ、本当にそう思ってる?」
「ああ。その食べるっていう一つの動作ですら周りを笑顔にできるのはリルの魅力の一つだと思うぞ。それに美味しいものを仏頂面で食べる奴より、幸せそうに食べてくれた方が嬉しいし、出されたものを遠慮して食べない奴より、美味しそうにいっぱい食べてくれる奴の方がいいと思うぞ。」
言っていて自分でもよく分からなくなってきた。
早く立ち直ってくれ。
「そ、そうかな。た、確かに人族の料理が美味しいのがいけないのよね。あんなのいっぱい食べちゃうもの。うん。悪いのは美味しい料理で私は悪くないのよ。きっとそうよ。」
謎の立ち直り方だが立ち直ってくれたようだ。
一安心である。
これから邪竜と戦闘だというのにその前に精神的ダメージが蓄積されているような気がする。
いや、気がするのではない。蓄積されているのだ。
ちょっと格式張った感じになってしまっているがこれも精神的ダメージによるものだろう。
はぁ。早く帰って休みたい。
「それじゃあ、リルも元に戻ったし邪竜の所に行こうか。グレイスよろしく頼む。」
最初はグレイスさんとか言っていたのだが、姫様を名前で呼ぶなら自分も呼び捨てでいいと言ってきた。
あんまり押し問答をしているのも億劫なので、早々にグレイスと呼ぶことにした。
「ええ。ここからだとそんなに遠くはありませんのでもしかしたら途中で現れるかもしれません。一応私が気づくとは思いますが皆さんも注意しておいてください。」
えー。そんなに遠くないらしい。
もし、本当に近いなら俺たちの労力はいったい。
「それと姫様。何度もしつこいようですが、ここまで来たらご自身が本当に危ない時は別ですが邪竜に直接的な攻撃は控えてください。お願いしますね。」
これはあれだろう。
別に助けることはいいが、攻撃をするなということだろう。
「もう、分かってるわよ。コータ達も本当に危険なんだから諦めるなら早く判断しなさいよね。死んだら終わりなんだから。」
「ああ、心配してくれてありがとう。俺達が戦ってるのを見て危険だと判断したら遠慮なく止めていいから。」
負けるつもりはないけど、せっかく心配してくれているんだ。無下にすることもないだろう。
「出発しますね。おっとそうでした。最後になりましたが確認できている竜は三体です。元々この邪竜はユニスト竜王国に住む竜ではないので正確なことは分かりませんが、少なくとも邪竜として確認できていない竜がもう一体いる筈です。確認できている邪竜は邪竜の中でも弱い部類になります。では今度こそ出発しましょう。」
そうして出発した俺達は一度見た場所を登っていき、更に登っていった。
大体、中腹あたりだろうか。
この山は木が乱立しているというほどではないが、ちょうど視界が遮られる感じで間隔をあけて木が生えている。
なので最初三人で麓を探した時は木を避けながら探していたのだが、グレイスはこの山を熟知しているのだろう。
最初の時ほど時間も労力もかけずに登ってきた。
ここにくる途中、気になった事を聞いてみた。
まず、ユニスト竜王国とは竜が他の種族と友好を深めるのに必要だったからつくった国らしい。
といってもそこらへんの国よりも歴史はあるらしいが。
なので、他のところにもここほどではないが竜の住む地があるらしい。
二つ目がここの邪竜が竜王国の竜ではないことだ。これは、元の住処でどんな事をしたのか分からないが追い出されたとのことだ。この山に突然来て棲みつき出したらしいが竜に迷惑をかけることはなかったので放置していたら、いつの間にか邪竜になっていたようだ。
そして、今俺達がいるのは木が薙ぎ倒されたようになっている結構広い空間だ。
奥の方は直角の岩壁になっており、上に進むには迂回しないと進めないようだ。
ただ、そこには家一軒入るのではないかと思うほどの大きな穴が空いていた。
どれくらいの深さなのかは、少し遠いのと暗いので確認できない。
こんな迂回しないと登れないような行き止まりに、熟知しているものが連れてくるとも思えないのでここが邪竜の棲家なのだろう。
「ここです。あの洞穴の中か上の方にいると思われますが、ここで待っていれば現れるでしょう。」
やはりここが棲家らしい。
「ん。わかった。二人が気づかれてそっちにいっても面倒。来る前に先に隠れてて。」
なるほど。どんな対策があるのかと思っていたけど、それなら自然に感じる。
「ええ、わかった。だけど危なそうだったら直ぐに止めに入るから。」
そういって木が残っている方に消えていった。
「離れるだけで大丈夫なのか?」
神化は聞いた話だけで周辺被害バンバンな気がするんだが。
「ん。大丈夫。邪竜が現れたら結界を張る。周辺被害は問題ない。」
それってあれですよね。
竜程度とクオが言っていたような結界じゃなくて、神の力に対抗する対神結界とやらですよね?
俺はまだ弱いから完全な対神結界ではないにしてもそんな結界張ったら怪しまれるんじゃ。
「その結界怪しまれないのか?」
「邪竜を倒す時点で今更。それなら、ギリギリ壊せそうで壊せない結界を張る。」
同じぐらいの力だけどこちらの方が少し上みたいな感じに思わせるのか。
怪しまれる中でも最小限に抑えるわけだな。
まあ、確かに今更感はあるな。
そんな話をしながら待つこと三十分くらい。
急に空が暗くなった。
いや、違う。何かが上にいる。
真上にいて、巨大すぎるので全容は分からないが多分邪竜だろう。
それが目の前に降り立つ。
ワイバーンなんかとは比べ物にならない。翼を広げれば優に二十メートルはあるだろう。
それが目前に三体もいる様は圧倒される他なかった。
その容貌はワイバーンと形的な違いで言えば腕があることだろうか。
だが、その厳つさが違う。
鱗は何物をも通さぬような堅牢さを、腕と足の爪はどんなものでも切り裂きそうな鋭さを、腕と足自体はどんなものでも掴めば握りつぶしてしまいそうな力強さを、翼はその存在の大きさを知らしめるかのような威圧感を感じ取らせる。
また、顔は邪竜であることを忘れて見入ってしまいそうなほどに洗練された格好の良さがある。
その全てが竜が強者であるとどんな者にでも納得させるような風格をしている。
俺はこの邪竜を見て倒してしまうのが勿体無いような感覚さえ覚えさせられた。
そう、俺の中ではもう倒す一択である。
負けはない。決意を新たにした俺に負けは許されない。
もう待たせるわけにはいかない。
俺にはそれを成し遂げる力があるのだから。
まず、邪竜のステータスを確認する。
-- LV.123
種族:竜族
年齢:172 性別:男
HP:1065670/1065670
MP:737978/737978
STR:1587
DEF:1343
DEX:977
INT:1099
MND:1343
才能値
STR:13 DEF:11 DEX:8
INT:9 MND:11
固有スキル
【人化LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値1/2倍加LV.EX】
【狂化LV.EX】【飛翔LV.EX】
技能スキル
【格闘術LV.6】【魔力操作LV.5】
【威圧LV.6】
魔法スキル
【火魔法LV.10】【炎魔法LV.3】
【竜の息吹LV.4】
称号
【堕ちし竜】【邪竜】
ステータスが低いように思う。
このステータスなら今の俺と同等ということはないと思う。
クオとレティがあんまり的外れなことを言うとは思えない。
そう思いながらステータスを注視していると急にステータスが変わった。
-- LV.123
種族:竜族
年齢:172 性別:男
HP:1065670/1065670
MP:737978/737978
STR:4761
DEF:4029
DEX:2931
INT:3297
MND:4029
才能値
STR:13 DEF:11 DEX:8
INT:9 MND:11
固有スキル
【人化LV.EX】
特殊スキル
【取得経験値1/2倍加LV.EX】
【狂化LV.EX】【飛翔LV.EX】
技能スキル
【格闘術LV.6】【魔力操作LV.5】
【威圧LV.6】
魔法スキル
【火魔法LV.10】【炎魔法LV.3】
【竜の息吹LV.4】
称号
【堕ちし竜】【邪竜】
HP、MP以外の値が三倍になっているようだ。
どうやら、ステータスが常時三倍になっているのは【狂化LV.EX】の効果のようだ。これが邪竜になった影響で知性、理性と引き換えに力を得るというものだろう。
魔法やスキルで強化されているとステータスはその値と切り替えができるようだ。
名前が無いのも、スキルが少ないのも気になる。
他の二体も魔法属性が土や水に変わったり、才能値に少し差があったりするがほとんど同じだ。
色々と疑問もあるが聞くのはあとでいいだろう。
俺はこのステータスを見て無意識に笑っていた。
倒すべき強者を見つめて。これを己の糧として自信が強者になっていくことを確信して。
邪竜たちも気づいたようだ。
こちらをまるで羽虫を見るかのような目で見下ろす。
その目には知性など欠片も感じ取れない。
ただ欲望のままに弱者を甚振ろうとしているのがありありとわかる。
お前達がどう思っていようと関係ない。
蹂躙されるのはお前達だ。
「「「GYUWYAAAAA!!!」」」
「邪竜の蹂躙を始めよう。」
邪竜の言葉になっていない知性を感じさせない叫び声と俺の決意の表れの言葉が重なり、それを合図としたかのようにお互いが動き出した。




