決意
「それで二つ目の理由なんだけど、これもエルフも同じなんだけど寿命が長いことだよ。寿命が長いとそれだけ色々な可能性が増えるのもそうなんだけど、上位種族っていう存在がいることがより身近に感じるようになるの。」
色々な可能性っていうのは、色々な経験を積むってことだろうな。
それが良いか悪いかは別として。
それにまた知らない単語が出てきたぞ。今度は上位種族か。
あからさまに俺の神族は上位種族だろうな。
「上位種族は産まれたときからなっている天才もいるけど、大体は一定の条件をクリアすると進化してなり種族。最初の種族は通常種族と呼ばれている。その主な種族は人族、獣人族、魔族、ドワーフ族、エルフ族、竜族。他にもいるけど主なのはこれくらい。」
「その条件っていうのは、レベル、ステータス、スキルの三つがあってそれぞれ種族によって変わるけど、どれも要求されるものがものすごく高い。レベルだと一番低い人族や獣人族でさえ2000必要なの。」
「なるほど。経験値はレベルが高くなってくるごとに必要とされるものはどんどん高くなっていくから、短い寿命じゃ届かないのか。そして寿命が長いとそれ相応にレベルも高くなってくるということか。」
「そう。寿命はレベルで左右されるから、人族でも五百年生きたり、レベルで若返ったりもする。だけど、竜族やエルフ族は平均がそれを優に越える。」
エルフや竜が寿命が長いことよりも人の身で五百年生きることの方が驚きなんだが。
女性には朗報だな。戦闘をして傷を負いたくないなら魔石を買い取ってレベルを上げれば良い話だし。
地球のよくわからない美容方よりもよっぽど確実性があるな。
「上位種族は才能値の上限が上がって自分自身の才能値も2.5倍くらい上がるの。だから、上位種族を身近に感じれば感じる程その強さを実感するし、それに畏敬の念を覚えたり強い憧れになったりするの。」
「そして寿命が長いと自分もその可能性があると感じるのか。」
「ん。可能性を感じて強くなる努力をする。だけど要求レベル、ステータス、スキル、どれも桁外れに高い。やがて我慢の限界がくるものがいる。」
「そいつらが早く強くなりたくて精霊に手を出すと。
可能性があるが故に、か。」
今思ったんだか、上位種族ってめっちゃ強そうなんだが。
まず話からしてデフォルトのレベルが最低でも2000あると。そしてあの言い方だとレベル2000で賄えるステータス以上が必要になるのだろう。レベル2000の時に賄えるのなら条件にステータス必要ないからな。最後にスキル、これもヤバいだろう。レベル2000に匹敵する何かが必要なのではないだろうか。
そんなのがいるなら先に言っといてほしい。もし敵対者にそんなのが混じっていたらどうするんだよ!
「はぁ。で、三つ目はなんなんだ?」
「急に陰鬱な感じになってどうしたの?もし敵にいたらとか心配しているなら大丈夫だよ。まずそうそういないし、クオとレティがいるんだから。」
「そ、そうだよな。レベル2000なんてすごい高いしそんなのが近くにいて堪るかって話だよな。まあ、なんだか自分が情けないがその時は頼らせてもらおう。」
俺自身が強くなる努力を怠るつもりはないが、今の俺じゃ絶対に無理な相手のように思う。
まだなった事はないが神化状態だとステータス的には勝てるかもしれないが、スキルもそうだし経験なんかで確実に負けるだろう。
「クオリティア様、忘れてる。この山脈にも、向こうの森にも上位種族いる。竜王だって水龍。」
「え?あ、うん。そうだったねー。あ、あはは。忘れてたよ。ごめんね、コータ。」
クオよ。こっちを見るんだ。
思いっきり棒読みで顔を逸らしクオ。
しかしここは周りが強者だらけの場所だったようだ。
あー、いやだね。そんな強い奴とは会いたくない。もし、機嫌を損ねたらとか神経質になるじゃないか。
しかも竜王だってよ。
リルよ、俺達はどれだけ離れていても友達だからな!
「リルエルは光太から離れないと思う。少し遅かった。光太も悪い。」
「ぐっ。な、何のことだ?リルは友達だぞ。離れるとか意味がわからないな。」
なぜ分かったレティ。
確かにあんなことしてしまったのは俺だが!竜王のことなんて抜けてたよ!考えてすらいなかったよ!
しかし冷静に考えれば、ここは竜王山脈で、竜が住む場所で、そこの姫なんだから竜王の娘ということになるよな。
まあ、そんなことで態度を変えたりはしない。
ちょっとの間、遠出したりするかもしれんが。少し長くなる可能性も…
「コータの自業自得だよ。時間ないし話を進めるよ。」
確かに場所的にも時間的にものんびりできない。
大体だが今は昼の一時頃だろうか。門が閉まるの夕方六時の鐘と同時だから帰る時間も考えたらそんなに時間がない。
クオに論されるのは納得いかないが正論なので仕方ない。
話の進め方として俺が思うに普通は、最後にインパクトだったり、重要なものだったりを持ってくると思う。
この場合、精霊や上位種族とか凄そうなものが登場した。なので話し手がクオじゃなかったら、次はどんな凄い理由なのかと期待すると思う。
だけど、話し手はクオなのだ。
予想だが、最後の一つは誰もが想像できる答えだと思う。
なので俺が期待するのはどれだけ当たり前で、どれだけ落としてくるかである。
「三つ目、これは竜みたいな大きな種族に言えるんだけど、」
はいはい、なるほど。
ここまで言われれば分かりますね。
さすがクオ、期待を裏切らないな。
それでは皆さんご唱和下さい。心の中でね。
「大きいと物理的に取り込みやすいからだよ。」
(物理的に取り込みやすいから)
やっぱり予想通りの理由だったな。
クオは本当であれば完璧なのだ。だが、俺の前では素に戻る。
本来この説明をするときも俺の想像のできない手法で、俺の想像の遥か先の驚きを与えてくれただろう。
だが、俺はこのレティにからかわれて慌てるクオや、今回みたいに少し残念なところを見せるクオ、時折見せる頼り甲斐のあるクオと色んな表情を見せるどこか人間臭いクオを愛おしく感じるのだ。
俺は最近人間臭いクオを見るといつも考える。
完全無欠なクオも素晴らしいとも思うが、俺は神界のあの時、こっちのクオを見ていなかったらこんなにもクオを愛おしく思っていなかっただろう。
クオが泣いたあの時、あの悲しそうな表情を、あの嬉しさの混じったような涙を見なかったら重ねることすらもなかっただろう。
別に忘れていたわけではない。ただ、最初会った時と神界で会った時は姿が違ったし、何しろ小さい頃だったから、話した内容は覚えているが姿が靄が掛かったように思い出せなかった。
だけど、悲しそうなクオを見てその靄が晴れていった。
涙を流すクオを見て完全に思い出した。
そして思った。
ああ、やっと会えたと。
俺はあの日から数日間は公園に通った。
居場所も名前すら聞いてないことに気づいたから。
その後も毎年同じ日には公園に行くようにしたし、色んな手を尽くして探そうともした。
それ程までにあの諦めたような悲しい顔が印象的だったから。
だけど、何一つとしてわからなかった。
だから再開した今、完璧ではない、人間臭いクオを見て思うことがある。
「遅くなってごめんな、クオ。」
目の前にある頭を撫でながらつい口が滑ってしまった。
「えっ?急にどうしたのコータ。」
「いや、なんでもない。クオが愛おしくてつい撫でたくなったんだ。」
地球にいた頃の俺だったらこんなこと言わないだろうが、本心からそう思い普通に照れもなく自然体で言えた。
だが、誤魔化した。
昔と今とじゃ違う。会いに行くだけじゃ駄目なんだ。
クオはあの時自分は一人だと言った。クオは自分は一人だからとメーティスに対等な存在を求めた。
そして俺がクオの前に現れた。
今の俺は弱い。
上位種族が敵として出てきたら負けるだろう。
今の俺は対等どころか守られる側だ。
俺は自分が情けない。
十年近くも待たせてまだ待たせる自分が情けない。
クオが泣いたあの時、最後まで言ってから気づいた。
あの時はまた会えたと嬉しさしかなかった。
だけど今は、弱いせいでまだ一人にしてしまっている自分が情けない。
クオはきっとそれでもいいと言うだろう。
だけど、今までクオは想像もできないほど長い間、妥協に妥協を積み重ねてきたんだ。
これ以上妥協をさせるわけにはいかない。
クオが世界の意思に反してまで望んだ願いなんだ。
我慢して我慢してそれでも欲した願いなんだ。
だから。
誰にも負けないくらい強くなって、クオが求めた存在になれたと心から強く思えた時に、もう一人にはしないと誓おう。そう決意した。
だから今じゃないんだ。
この魔物化の話を聞いていくなかで俺はメーティスに再度感謝した。
俺に強くなる、クオと対等になる方法を与えてくれてありがとうと。
この話を見てなんのことか分からない方がいらっしゃいましたら前の方の 涙の理由 を再度ご覧ください。
できるだけ早い内に光太が覚えていることを書いておきたかったのでこのタイミングで書かせていただきました。
邪竜までが長くなってしまい申し訳ありません。
あと一、二話で戦いますのでもう少しお待ちください。




