ワイバーンと事実
草原についてからかれこれ二時間になる。
ワイバーンのワの字もない。
空を飛んでいるなら簡単にわかると思ったが甘かったのかもしれない。
ガレスに聞きに行けば良かったかもしれない。
でも、混雑しているギルドの中になんて入りたくなかったので仕方がない。
「本当にどこにいるんだよ。歩き回っても疲れることはなくなったけど精神的にくるものがあるぞ。」
もしかしたら、ワイバーンはすごく狡猾なのかもしれない。
だってそうだろ?今のこの状況がワイバーンの作戦なのだとしたら、それは成功している。俺達は隙だらけだろうからな。
そんな馬鹿なことを考えているとレティが、
「山脈側の森の方に行ってみる。なにかいるかもしれない。」
山脈の手前にも浅いが森が広がっている。
「そうだな。ここでダラダラしていてもしょうがない。明日もワイバーン探しなんてのが一番嫌だからな。」
「あそこの森は試練の森って言われてるよ。竜王は人族に友好的って前に言ったでしょ?」
たしか、友好的だけど同族を殺すほどでもないってやつか。
「この国の戦闘を志す者は成人を迎えた年に試練を受けるの。」
この世界の成人は16歳かららしい。
なんでも、この世界の人々は全員が教育機関に行くわけではなく、初等部、中等部、高等部とあるが、大体平民はよっぽどな才能や資金力などがなければ中等部までしか行かないようだ。
なので中等部を卒業した次の年から働き出す。
そこを成人とみなすようだ。
「その試練っていうのが、竜を前にしても果敢に挑めるかっていう内容なんだけど、竜は攻撃しないんだ。それは周知の事実として広まってるよ。16歳なんてまだ大人と言うには幼い。攻撃してこないってわかってても怖くて逃げ出す者も多いんだよ。」
「その試練はこれから魔物と戦っていく者の心構えを試す試練というわけか。しかし、竜も大変だな。怯まない奴からは攻撃されるんだろ。痛そうだし、何より気分のいいものではないよな。」
「ん。でも、生半可な攻撃じゃ竜には傷一つつけられない。攻撃してくるのは将来有望。竜たちはそういうの喜ぶ。もしかしたら、戦えるかもしれないから。」
竜はバトルジャンキーだったようだ。
あー、いやだいやだ。
絶対に絡まれたくないね。強かったら喜ぶなんて俺には分からんし、分かりたくもないな。
痛いの嫌いだし。
「竜は人化スキル持ってる。友好的にする事で人族の街に正面から入れるのも大きい。竜は美食家。でも、料理したりしない。焼くくらい。それも理由の一つ。」
「竜にもメリットはあるわけだ。俺には釣り合っているようには思えんが。そろそろいいかな。ここら辺で待ってみるか。」
「そういえば、そろそろ試練の時期だったね。夏休みに入る前だったからもう直ぐじゃないかな。」
この世界に来たのが六月中旬、こっちに来てから十一日目になる。そろそろ七月になる頃だろう。
話をしながら一応周りを警戒し歩いていると、森の近くまで来た。
「森の中には、ウルフ系の魔物がいるよ。試練はまず、この森の中を進んでいって奥にある祠まで行くの。そこで竜と対峙する。逃げ出したり、気を失ったりしなければ合格。別に不合格だから何があるってわけじゃないけど、そこで戦闘職に就くのを諦める人も多い。職を決める上で早めに向き不向きを気付かせる為にやるものだからね。不合格になってもそこから立ち直ることが出来るなら、可能性アリってことだよ。」
五年、十年経ってから冒険者なり兵士なりをやめて職に困るよりも、職を決める最初の段階で見極めるチャンスを作るってことか。
合理的だが、竜相手にそれをやるとなると過剰な気もするな。
いや、一生戦闘を、殺し合いを生業として生きて行くならそのくらいの心構えは必要なのかもしれんな。
「光太、クオリティア様。森の方から何か来る。」
レティの忠告通り、森の方からガサガサガサと大きな音を立てて上空に身を乗り出したものが目に入る。
初めてみるが、こいつが竜種であることは間違いなく分かる。
蜥蜴のような顔、大きな翼に、木でも切り裂きそうな鋭い爪の目立つ後ろ足。長い尻尾は当たればひとたまりもなさそうな印象を受ける。
GYAAAAAOOO!!!
すごい雄叫びをあげる。
俺は今、凄くムカついている。怯えたり怖くなったりという感情は一切ない。断言する。
何故かというと、試練の話を聞いて、ワイバーンの現れたタイミングを見て気が付いてしまったからだ。
ガレスの奴がまた嘘を吐いていたのだと。
いや、嘘ではないのかもしれない。
門番さんも言っていた。草原にワイバーンが現れていると。
だが多分違うのだろう。
邪竜によって追いやられたワイバーンは試練の森に棲み家を移した。しかし、ウルフを狩りに来た冒険者や、そろそろ試練なので場所の下見に来る者もいるだろう。
ワイバーンからしたら、また棲み家に侵入者が来たと思うのも道理である。
だが、人間側からしたら試練を行う時期に邪魔でしかないし、もしかしなくても森の中に入れば多分襲われるだろう。
なので、排除することにした。
しかし、その為の戦力がいない。
竜たちは人族に危害を加えた者が討たれることは仕方ないと思っているが、自分達では手を下さない。
ならば、自分達でやるしかない。そこに俺達が来た。
ガレスは思っただろう。ちょうどいい、こいつらにやらせようと。
別に倒すこと自体に何かを感じるわけではない。
確かに、邪竜に追いやられてその上、人族に狙われまでするんだから同情はする。
しかし、俺はもう強くなる為と割り切ったのだ。
実際はどうかは分からないが、多分俺はクオやレティ、これから親しくなっていく者達に危害を加える者だったら人でも容赦はしないと思う。
だから、討伐に行かせられることにはどうとも思わない。
だが、ガレスはワイバーンが草原に出現していつ冒険者や街道を通っている冒険者が襲われるか分からない。みたいな感じで話していた。
でも、実際はワイバーンは自分達の棲み家を守る為の威嚇行為だけ。
何度も言うが、討伐することは別にいい。しかし、俺達を騙した事は許せない。
どうしようか。なにか一矢報いてやりたいな。
そうだ。こうしようか。ククッ。
「コータどうしたの?めちゃくちゃ悪そうな顔で笑ってるよ。」
「ん。やり返すべき。三回目だから。」
クオは分かっていないようだが、レティは気が付いたようだ。
「よし、こいつらは倒さないぞ。だが、ここにいたら他の奴らに倒されるだろうから元の場所に帰してやろう。」
ガレスの奴は多分、ワイバーンの素材が自分の元に入って来ると思っている。
それを捌く準備もしているはずだ。
だから、倒さない。
予想だが、邪竜の方もそうだろう。だが、ワイバーンを倒さずに元の場所に帰すなら邪竜は倒さないといけない。
今回の大元の原因は邪竜だしな。
なので、邪竜は倒す。しかし、その素材は売ってやらない。
それか二倍の約束だったが、もっとふっかけて売ってやる。
クオは分かっていなさそうだったので説明してやる。
「そうだったの?それなら、やり返してあげなきゃね。」
「ん。いいと思う。ワイバーンや邪竜を捌くなら高ランク冒険者か貴族。それが無くなれば失うものも大きい。だから、ふっかけられても買うしかない。」
俺はそこまで考えつかなかったが、ガレスは買うしかないらしい。
渋りに渋って、超ふっかけてやろう。
「じゃあ、邪竜を倒しにいくか。でも、場所が分からんな。」
「それは大丈夫。ワイバーンに聞けばいい。」
「ん?ワイバーンは意思疎通できないんじゃないのか?」
「召喚魔法には、契約対象を召喚する魔法と、意思疎通する為の魔法がある。召喚魔法で契約するのは大体が魔物みたいな意思疎通出来ない生き物。だから、必須能力。」
「そうなのか。便利だな。」
「ん。でも、普通は相手に話す意思がないと出来ない。」
一方的にすることは出来ないらしい。
「今回は元の棲み家に帰すのが目的。だから大丈夫と思う。」
そしてレティは目を瞑り口を閉じた。
念話的なアレなのだろう。
「レティはああ言ってたけど、神だから無理矢理にでも聞く方法はいくらでもあるよ。だけど、それをやらないのは召喚魔法を使うからなのか、コータを意識してなのか。どっちなんだろうね。」
クオは今日の朝の仕返しをしているんだろう。
悪い顔をしている。
だが、俺を巻き込むのはやめてほしい。
レティの眉がピクピクなっているじゃないか。
表情に出るなんて珍しいな。
おっと、終わったようだ。
なにかオーラを纏っているようで気迫を感じる。
「聞いてきた。あっちの方みたい。」
そう言って、山脈の左の方の他よりも少し低めの山の麓を指した。
あれ?普通だな。なんとも思ってないのか?
「光太。私は確かに光太を意識した。だから、なんと言われても別にいい。」
レティはしっかりと目を見てそう言い、抱きついてきた。
最近、こういうことが多いので慣れてきている自分がいる。
この場合のレティは、開き直ってクオに態と見せつけているのだ。
これが結構効果があって、
「レ、レティ⁈な、何してるの!いつもいつもくっつき過ぎだよ!クオだって!」
クオはその光景を見ると我を忘れて自分も飛びついて来る。
俺としては幸せだが、慣れてきたと言っても理性がガンガン削られるし少しは控えてほしい。いや、うーん。もっとという気持ちもなくはない。
ゴホン。
そして、終わった後にクオは赤面して羞恥に悶える。
それを見てレティは勝ち誇った顔をする。
この時だけはレティの表情も分かりやすい。
「名残惜しいが今日は後にしてくれ。ワイバーンも困ってるぞ。」
いつも、街中でもやり出す時があるので外でというのは慣れてきたが、それでも恥ずかしいが、ワイバーンが戸惑っている。
戸惑うワイバーンは希少種ではないだろうか。
「ん。仕方ない。宿に帰ってからにする。」
「はっ⁈またやってしまったよ。レティのバカ。」
クオはしゃがみこんで顔を抑えている。
今にも転がりだしそうだ。
「ほら、いくぞ。さっさと邪竜倒してガラスに仕返しするんだから。」
戸惑うワイバーンと赤面する美少女と勝ち誇る美少女。
なんともシュールで奇妙な空気が流れる空間がそこにはあった。




