ハゲ
おはようございます。
今日も規則正しい生活を送っている高橋光太でございます。
目を覚ますと、両腕には美少女が抱きついている。
この至福を目に焼き付けるために毎朝早起きしていると言っても過言ではない。
クオとレティは、ロアが来ている時以外は大体俺より遅い。
まあ、俺が目を覚ますと抱きついているからか分からないが気づいて起きるのだが。
「おはよう。クオ、レティ。」
「おはよう、コータ。」
「ん。おはよう。」
昨日は、クオに帰ってくるのが遅いと怒られた。
俺も正直焦ったのだ。
あの後、魔物相手に魔法を試してから街道沿いの草原で基本属性の残りの一つ、火魔法を覚えることにした。
そこからが問題だった。
覚えるだけに飽き足らず、魔法作成までしてしまったのだ。
門が閉まる時間が迫っているのを忘れていた。
早めに切り上げていなかったら、今頃門の外で野宿をしていたかもしれない。
だって仕方ないじゃん?魔法を覚えただけで我慢できるわけないじゃん。
えぇ。色々と試しましたとも。『カタストロフィ』に火魔法関連の魔法をぶっ込んで新しい魔法を作ったりしましたとも。
魔法名は『ナチュラルディザスター』にしたけども。
だって文字通り天災だったから。天変地異だったから。
この魔法は今後も進化していくことでしょう。
その結果、怒られたというわけだ。
クオとレティは昨日は、久しぶりの下界をゆっくり見て回ったそうだ。
その途中で何人かのゴミの山を築いたらしい。
まあ、美少女二人が歩いていたらそりゃ絡まれるだろうな。
「昨日はクオリティア様が怒ってデレて終わった。だから、聞きそびれた。うまくいった?」
確かにデレていたが本人の前で言うことじゃないだろう。
クオが赤面してるじゃないか。
「あ、あぁ。結構上手くいったぞ。でも、基本的な魔法は聞いていけばよかったと作り始めて後悔したよ。案外難しかったからな。」
「そ、そうだね。教えておけばよかったよ。お、お腹減ったな。朝ご飯食べにいこうよ。今日のメニューは何かなー。」
クオは早く話題を変えたいらしい。
結構無理矢理に話を朝食にもっていった。
「そうだな。今日はワイバーン討伐に行く予定だし早めに用意しても得はあっても損はないだろ。」
「ん。朝食の席でも話は出来る。」
察してやってくれ、レティ。
ほら、クオが驚いた顔してるぞ。え、まだその話するの?的な。
自分のせいでできなかった話、それもデレたせいでなんて一度思い出したら忘れられないのだろう。
俺的には可愛かったのでよかったのだが。
「大丈夫だぞ、クオ。ばっちり可愛かったから。」
「コータのバカ!そんなこと気にしてないよ!」
どうやら俺はフォローの仕方を間違えたらしい。
「クオリティア様。魔法の内容を聞いてないと連携取れない。」
「うっ。わ、わかったよ。ちゃんと聞くから。うぅ〜」
レティに正論を言われて、羞恥との狭間での葛藤の後、話を聞くことにしたようだ。
少しの抵抗は残っているみたいだが。
それから、朝食の席で作った魔法について一通り話した。
他の人に聞かれると面倒なので、端の席に座り小声で話した。
他の客もいたが、疎らにいただけなので聞かれることはなかったと思う。
「へぇ。結構作ったんだね。その『ペルティングレイン』だっけ。人前で使えるの?」
「衝撃的な光景は、不名誉な称号がつく可能性がある。」
な、なんだと⁈
ジェノサイダーなんてついたら目も当てられんぞ。
目立つ行動をするつもりはないけど、それでもどうしてもという場面はあるかもしれない。
よし。ショッキングじゃない魔法の作成をしなければ。
でも、彼奴が倒した相手は外傷もなく不自然な死を遂げる。なんて言われても嫌だからな。
うーむ。難しいな。
「あまり気にしても仕方ないよ。もしかしたらその姿が救世主に見える可能性もあるんだよ。あんまり気にし過ぎると禿げるかもだよ?」
自分から言っておいて酷い言いようである。
流石に禿げるは洒落にならんぞ。
うちの父親は若い時からハゲ始めたと言っていた。
俺にはその血が流れているんだ。本当にハゲだしたらどうするんだ!
俺が謎の焦燥と戦っていると、
「大丈夫。神は自発的にしか姿を変えない。そしてデフォルトが今の姿。もしハゲても魔法でどうにかなる、かも?」
途中までは自信が持てたのに最後ので俺の自信は大暴落ですよ!
フォローするなら最後までしてくれませんかね?
「も、もう大丈夫だ。食べ終わったし、そろそろ準備を始めよう。」
これ以上変なフォローをされたら、逆に心配でハゲそうだ。
きっと今日は、皆話を無理矢理変えたくなる日なんだろう。
「準備っていっても部屋に荷物取りに行くくらいだけどね。」
「そ、そうだけど、部屋で少し食休みしてからの方がいいんじゃないか?」
なんとか部屋に移動することが出来た。
なんで今日に限って食堂にいる客は殆ど禿げてるんだよ!
示し合わせたかのようにハゲばっかだったから、めっちゃ焦ったじゃないか!
それから、部屋に戻って少し休んだ後、装備を整えて宿を出た。
ガレスはワイバーンは草原にいる奴を倒せと言っていた。
別に詳細な情報をもらいに行ってもいいのだが、ギルドは朝は人が多いらしいので行きたくないのだ。
それと、今更だが防具がないことに気がついたが、今回は見送ることにする。
「ワイバーンって言うくらいだから空飛んでるんだろうな。だったら魔法主体だろうし、防具も今度でいいだろ。」
「本当は防具をつけて欲しいけど、今回は仕方ないね。この報酬で揃えればいいよ。」
「クオとレティも防具必要だろ?」
クオは、木でできた一メートルくらいのシンプルな先のねじれた杖を装備している。芯には魔法の触媒として金属が入っているようだが。格好は、白いワンピースに黒のマントを羽織っている。
まあ、格好は魔法使いに見えなくもない。
レティは、木でできた杖の先に、大きい魔石が丸く加工されたものが付いている。格好は、ロープですっぽり覆われているのでよくわからない。
杖は、魔法の発動の手助けや威力の上昇の効果がある。
クオの杖は近接戦闘を視野に入れた作りとなっている。
レティの杖は純粋に魔法を追求した作りとなっている。
「このマントとローブは、物理耐性、魔法耐性共に最高のものだよ。隠蔽が付与されてるからパッと見じゃわからないと思うけど。」
多分、パッと見じゃなくても分からないんだろうな。
「そうだったのか。ということは、俺だけ無防備なのか。俺も防具手に入れないとな。うん。」
痛いの嫌だしね。
そんな話をしながら歩いているうちに門に着いた。
あっ。いつもの門番さんだ。
そういえば、昨日はいなかったな。非番だったんだろう。
「おはようございます。お疲れ様です。」
「あぁ、あんたらか。魔物の森にでも行くのか?草原の方に行くなら気をつけろよ。最近、ワイバーンが目撃されてるからな。襲われたって情報はまだ入ってないがそれも時間の問題だろう。この街にもう少し高ランク冒険者がいればな。」
今から倒しに行きます。なんて言えないな。
「まあ、もし街の方に来たら俺達が全力で守るから心配はいらないがな。」
頼もしい限りである。
「忠告ありがとうございます。もし見つけたら気づかれないようにやり過ごしますよ。」
「ああ、それがいい。走って逃げたりしたら、獲物と勘違いして追っかけてくるかもしれんからな。」
それなら、草原を走り回ってたら勝手に寄って来て探す手間が省けるかもな。
そんなアホなことを思いつく。
まあ、疲れるだけだからやらないがな。
「行ってきます。門番さんも頑張って下さい。」
「ああ、おまえらも気をつけてな。」
そう挨拶を交わし門に背を向けて草原を目指した。




