レベリングの余波
冒険者ギルドまでの道中は何事もなく到着した。
しかし、中に入るとイケメンがまたも話しかけてきた。
「やあ、この前はやってくれたね。おかげで財布が軽くなったよ。でも、今まで距離を感じていた冒険者達とも仲良くなれたから、お礼も言いたくてね。ちょっと複雑だよ。」
彼はやっぱり良い人らしい。
普通、話しかけただけで周りにいた全員に酒を奢らされる羽目になったのに、それが結果的に良い結果をもたらしても感謝なんかできない。
「そうですか。私もとても心苦しい選択でしたがあなたの役に立てるならと思いまして。あの時は申し訳ございませんでした。」
俺も良い人アピールしなくては。
別にクリフと話していたら自分が惨めになるから倦厭しているわけではない。
一人でそんな事を思っているとクオが、
「コータ、やってることが子供っぽいよ。もう少し大人にならないと。」
「なっ!クオに言われるとは。クオほどではないと思うけどなっ!」
「ク、クオは大人だもん。コータみたいなことしないもん。」
「お、大人はだもんとかいいませんー。俺の方が大人ですー。」
「うっ。コ、コータだって。」
「クオだって。」
「二人ともやめる。場所を考えて。」
「「ぐっ。」」
俺達の中で一番見た目が幼く見えるレティからの
苦言に俺とクオは黙るしかなかった。
周りにも少なからず冒険者はいるが呆れた視線を向けている。
「わ、悪かったクオ。その語尾も可愛くて良いと思うぞ。」
「クオもごめん。クオはどんなコータでも大好きだよ。」
なんか流れで告白されたが、そんなことが気にならないくらいの茶番だった。
俺はそう思ったのだが、周りの男性冒険者はこんな茶番劇にも歯噛みしている。
冒険者ってそんなに出会い少ないのか?
確かに、女性冒険者の割合は少ない気もするが、それでも気にならないほどだ。
もしかしたら、クリフみたいな奴が多いのかもしれない。
こんな優良物件があるなら、そりゃ普通の冒険者なんて相手にしないだろう。
「あれ?僕、空気感が半端ないんだけど。じゃあ、それを伝えたかっただけだから。また会ったらよろしく。」
それだけ残して、クリフは去っていった。
「じゃあ、行こうか。受付嬢に言えばよかったんだよな。」
ちょうど、この前の受付嬢が空いていたので声をかける。
「あのー。ガレスと約束してたんですが。」
「ガレス?あぁ。ギルドマスターですね。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「光太だ。」
「はい。確かに伺っております。ギルドマスター室にお連れするように言われております。どうぞこちらへ。」
ギルドマスター室は受付嬢のいるカウンターの中を通って奥の階段から上がった先にある一番奥の部屋だ。
受付嬢はノックをして、確認を取る。
「ギルドマスター。コウタ様方をお連れいたしました。」
中から、入れ。という声が聞こえてきた。
それを合図に扉を開けて受付嬢は去っていった。
「まあ、座ってくれ。」
片方の椅子に三人で座ると、ガレスは対面にドカッと腰掛けた。
「それでさっそくだが、受けてもらいたい依頼は全部で4つ。まず、魔物の森でゴブリンキング。」
あれ?この前倒したぞ。まだいるのかあいつ。あの森の魔物は、どこから湧いてきてるんだ。
「それってこの前倒したけどまだいるのか。」
「はぁ⁈そんなにいっぱいいてたまるかよ。魔物の森のゴブリンキングは今の所一体しか確認されていない。巣がでかくなりすぎる前に叩きたかったんだが。」
「じゃあ、一つは終わりだな。次はなんだ?」
「あ、あぁ。報酬は一応こちらで確認してから出そうと思う。秘密裏にやるから心配しなくとも大丈夫だ。それで次も魔物の森なんだが、オークキングまで倒しているとか言わないよな?」
「ああ。そいつも一体しかいないんだったら倒していると思うぞ。証拠を出せとか言われたら魔石は使ったし他も燃やしてしまったからないけどな。あっ、あいつらの持ってた武器ならあるぞ。クオ出してやってくれ。」
ゴブリンキングは剣、オークキングは斧を使っていた。
武器を鑑定したとき、ゴブリンキングの剣、オークキングの斧、とかなっていたからこの武器どっから湧いたんだよとか思ったが、魔物の中には王、キングなどと名前のついた支配種と呼ばれる魔物がいるらしい。
そいつらは漏れなく武器具現化というスキルを持っており、自分たちにあった武器を一つ作り出せるという。
それがこの剣と斧らしい。
「うん。これでしょ?別に使わないから引き取ってくれるなら歓迎だよ。邪魔でしかないからね。」
「これは十分証拠になる。これだけだと本当に魔物の森のやつなのか判別できないが、巣が壊滅していれば十分証拠になり得るだろう。これは引き取っていいのか?きちんと金は払うが。」
「あぁ。引き取ってくれ。俺達は誰も使わんから必要ない。」
「そうか。あとで受付で受け取ってくれ。一週間の準備で困っていた案件を二つも片付けてくるとはエド爺のお墨付きは違うな。」
ロアの改竄は上手くいっているらしい。
賢者が見たこともない魔法ではなく、お墨付きまで下がっているのだから良好と言えるだろう。
「次なんだが、竜王山脈の麓にいるワイバーンだ。」
竜王山脈とはこの世界に来た時に見えていた山脈だ。
魔物の森の草原を挟んだ対面に位置している。
「そのワイバーンが近頃草原に現れるようになった。だから、そいつらの討伐を頼みたい。」
飛行する相手は初めてだが、いい経験にはなるだろう。
「素材とかはどうすればいいんだ?」
「持って帰って来てくれればこちらで買い取ろう。無理なら、討伐証明の翼爪二本を持って帰って来てくれ。全部で8体確認されている。」
「わかった。それで最後は?」
「最後はワイバーンが平原にやってくるようになった原因のやつだ。そいつらは竜の成れの果てとでも言うべきか。」
こいつ。竜の討伐をやらせる気なのか。
「竜は知性がある。竜は成長というかもはや進化だが、一部の竜は龍に成長する。これはほんの一握りで、属性ごとに五体もいないと言われている。」
「なんの話だよ。関係あるのか、それ。」
「まあ、最後まで聞け。一握りしかなれない存在。でも、たいていの竜は目指す。その中でも行き過ぎた行動をする竜がいる。力を手に入れるためならどんな事でもする竜。そういう竜は大抵理性を失って力だけが暴走する。そういう竜を邪竜と呼んでいる。それが竜王山脈に現れた。竜王は人間に友好的だが、それで同族に手をかけるほどでもない。しかし、人間自身が邪竜に手を下すなら別にいい。というスタンスを取っている。」
「だから、倒してこいと?やだよ。めっちゃ強そうじゃん。」
「確かに、力を手に入れて理性が無くなっちまってる奴らだから、強さだけはヤバイな。そこらの竜とは比べられんくらいには強い。」
「自分で行けよ。そんなヤバそうなの無理に決まってるじゃん。」
「ん。結局またやった。私たちが倒せるかどうかは問題じゃない。常識的に考えて低ランクに無理難題押し付けた事が駄目。」
「わ、わかった。報酬を弾むから。俺は離れるわけにはいかないんだ。」
「3倍。」
「せめて、2倍で頼む!冒険者ギルドにもそんなに金がある訳じゃないんだ!」
「まあ、いいか。別にやるって決めてたしな。」
そうなのだ。
大体この辺の強い奴といったら絞られるらしく、クオとレティは大体予想していた。
邪竜もその中にいて、強いが今の俺達でも倒せない訳ではないのでやる事は決めていた。
しかし、常識的に考えて俺達みたいな冒険者なりたての奴にやらせる事ではなく、もしこれをやらせようとしてきたら腹いせに金でもむしり取ってやろうということになっていた。
「は?決めていた?じゃあなんで無理とか言ってたんだよ!」
「まさか、本当に邪竜とか言い出すとは思わなかったからな。ほんの少しの抵抗だ。」
「じゃあ、金もそのままでいいな。」
「いい訳ないだろ?きっちり2倍もらうからな。じゃないとやらないし。もし、帰ってきて払わなかったら、ギルドマスターは変態とか無い事無い事言い回ってやるからな。」
「無い事しかいってないじゃねぇか!くっ。仕方ない。2倍だな。わかった。」
「じゃあ、倒したらまた来るから。」
話が終わったので、ギルドマスター室から出て受付で武器の代金を受け取り冒険者ギルドを後にした。
ゴブリンキングの剣が金貨4枚、オークキングの斧が金貨6枚だった。
その日は街で過ごすことにした。
お金が入ったので熊さんに金貨1枚を払いに行き、街をぶらついて回った。
実に平和だった。




