迷子
約束の時間までまだあるので近くをウロウロしていると、裏路地の方から言い争う声が聞こえてきた。
大通りとそこから繋がっている通りは活気があっていいんだが、そこからさらに二、三本入っていくと急に人気がなくなる場所がある。
建物に挟まれており、光が入らず暗く不気味な雰囲気を醸し出している場所もあった。
そう、俺は絶賛迷子なのだ。
人はいないのに、視線は時々感じる。その度に背筋がゾッとするのでやめて欲しい。
なので藁にもすがる思いなのだ。
言い争っていてももしかしたら良い人かも知れないので、見に行ってみることにする。
「あー。なんで俺はこんな所に来てしまったんだろう。表通りで満足しとけばよかったのに」
ちょっと裏路地に興味をそそられたのだ。
仕方ないだろ。だって一回行ってみたかったんだよ。
「おっ、あれかな」
少し広場のようになっている場所で三人の男が壁際で一人を囲んでいる。
一人の方は外套のフードを目深に被っているので男か女かは分からない。
「おまえぶつかって来といて、すみませんだけってのはねぇんじゃねぇか。こっちは大分痛めちまって今日は何も出来そうにないんだが」
「有り金全部置いていけ。それで許してやるからよ」
「おまえら優しいなぁ。それだけで許してやるなんてよぉ」
前時代のヤンキーか!
お前みたいなガタイのいいやつが、そんな簡単に体痛めてたまるかよ。
ポケットに手を突っ込んで、ガニ股で、適当なことで恐喝して。
ここまで昔のヤンキーを踏襲したやつをリアルに見るの初めてだから笑いそうだ。
「ふざけないでください。一応、ぶつかったので謝りはしましたが、避けた所にさらにぶつかってきたのはあなた方じゃないですか」
声高いな。
っていうか、もう無理だ。笑いをこらえる事が出来そうにない。
避けた所にぶつかりに行くってアホだな。
俺には、テレビのワンシーンを見ているようにしか思えない。
「ぷふっ、あはははははっ!アホじゃん、自分からぶつかりに行って痛めたとか言ってんのか。ポケットに手を突っ込んで、ガニ股で、昭和のヤンキーかよ。映画の撮影とか言われた方がまだ納得がいくわ。アハハハハハ」
ついに吹き出してしまった俺は悪くないと思う。
ヤンキー三人組は最初は呆然としていたが、段々と理解できてきたのか、それともニュアンスからバカにされていると思ったのか顔を真っ赤にさせて怒り出した。
フードの方は表情は分からないが呆然としてしる雰囲気が伝わってくる。
「昭和だの、映画だのは分かんねぇが絶対バカにしてんだろ。ぶっ殺してやる」
ありゃ。懐からナイフを出してこっちに襲いかかってきた。
仕方ないので、対応する。
こんなはずじゃなかったんだけどな。道を聞きたかっただけなのに。
剣を抜いても三人組は何も感じなかったようだ。
弱いのか、ものすごく強いのかの二択だが、こんな所で恐喝しているような奴らが強いわけないだろう。
ステータスをみてもこの前のクソ野郎どもよりも弱い。
フードの方は驚いた風なのでちょっとは強いんだろう。強いのになぜこんな奴らに捕まっていたのかは疑問だが。いや、そういえば反抗していたな。
笑ってしまい怒らせたのはこちらなので怪我をさせないようにはしようと思う。
剣の柄の方で鳩尾に食らわせてやる。
それを三回やって終わりだ。意識はあるようなので大丈夫だろう。
「ふぅ。なんでこうも絡まれるんだ?一日一回一ヤンキーってかなりの確率だろうに...」
「た、助けて頂きありがとうございます。でも、どうしてこのような場所にいらしたのですか?」
「あぁ、道に迷ってな。人に聞こうと思っても誰もいなかったから、人を探していたら言い争う声が聞こえたんだ。だから、見に来てみたらこの場面だったってわけだけど。そっちこそどうしてここに?」
「それは歩きながらお話ししましょう。大通りまでご案内致しますよ」
「おぉ、ありがとう。このままだと約束の時間に間に合わないところだった!」
結構ギリギリだったので、嬉しくてついハグしてしまった。
「きゃっ!」
「きゃ?もしかして女なのか?そういえば話し方とかも」
恐る恐る離れると、フードを外して頷いた。
同い年くらいだろうか、すげー美少女だ。クオとレティを見ていても尚、美少女と表現出来るほどだ。
金髪の長いストレートはとても眩しく、この薄暗い路地でいっそう輝いて見える。少し汚れてしまっている外套を着ていても気品を感じさせるのは凄いと思う。
パッチリと大きな目、小さな口。小さな顔も相まって可愛らしさも感じられる。
しかし、将来は絶対に美人になるだろうと思われる。
「どうして、固まっておられるのですか?」
「わ、悪い。みと…ごほん。そういえば案内してくれるんだったな。お願いするよ」
「?はい。では、こちらです」
危ない、危ない。またクオの時みたいにナンパじみたことを言うところだった。
初対面どころか顔を見た瞬間に見惚れたなんて言ったら引かれること請け合いだ。
「で、どうしたこんなところにいたんだ?そんなに可愛いのに一人でいたらさっきの奴らみたいなのに襲ってくださいと言っているようなもんだろ?」
結局何言っちゃってんの俺?
俺はもうとっくに壊れていたのかもしれないな。
「可愛いだなんて、そんな。ここは近道なのでどうしても時間がないときは時々使ってたんです。こんな事になったのは今日が初めてで」
そんなに照れた感じはないので言われ慣れているのかもな。
こんな美少女なら言い寄ってくる男の一人や二人、いや百や二百はいるだろう。
「そうだったのか。急がば回れって言うし、ここはもう使わない方がいいかもな」
「はい、そうしようと思います。あ、見えましたよ大通り」
意外と近くまで来ていたらしい。
「お、本当だな。ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました。またお会いしましたらよろしくお願いします。では」
そう言って、またフードを被り人ごみに紛れるように歩いていった。
それを見送り、俺も急いで宿に戻ったのだった。
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質問なども物語の進行に差し障りのない範囲でしたらお答えしますので、そちらもお待ちしております。
今後ともよろしくお願いします。




