熊さん再び
次の日の朝、目が覚めるとまたまたクオとレティはソファに座っていた。
今日はロアはいないが、二人は何だかげんなりした様子だ。
「おはよう、クオ、レティ。どうかしたのか?」
因みに今日は朝の鐘で起きたので今は6時頃だろうと思う。
何だか規則正しい生活を送っている自分に違和感がある。
「あっ、コータ。おはよう」
「おはよう。さっきまでロアがいた」
「そうなんだよ。ロア、自分で忙しい忙しい言っているのになかなか帰らないんだよ」
詳しく聞いてみると、昨日俺が寝た後にロアが来たようだ。
なぜ来たかというと、昨日ガレスに向かって放とうとした魔法がかなりヤバいものだったらしい。
そんなものを俺がいた方向に放とうとしていたのはさておき、この世界で賢者と呼ばれているものが見たことないとまで言っていたのだ。
噂が予想以上に広がっていき、大変なことになりそうなので、見兼ねたロアが対処してくれたらしい。
爺さんとガレス、見ていたもの達の記憶を改竄してくれたようだ。
改竄後の内容としては、『放とうとした魔法から今後自分に届きうる才能を感じた、と賢者が言った』という風にしたそうだ。
まあ、これでも面倒事になりそうだがまだマシだろう。
ロアに感謝だな。
それでその対処をした後にここに来たらしい。
その説教がついさっきまで続いていたので、げんなりしているようだ。
昨日の今日で問題起こされたらそりゃ言いたくもなるだろう。
「そうなのか。今度ロアにあったらお礼を伝えないとな」
「えー。確かに後始末してくれたのは感謝しないとだけど、ロアの長い説教聞いた後じゃ納得できないよ」
「ん。いつも長い。夜通しは辛い」
いつも、って。
どんだけロアを怒らせてるんだよ。段々長くなってきたんだろうな。
俺も怒られないように注意しないと。
「ちょっと寝てもいいかな。さすがに眠いよ。聞き流して寝ようとしたら説教時間伸びるから寝れなかったんだよね」
「ん。そんな事したら、その事も一緒に怒られる。逆に寝れなくなるからやらない」
多分過去に試したんだろう。
時々垣間見える残念さは神に共通しているのだろうか。
「わかった。じゃあ昼まで別行動しようか」
「ごめんね。金貨一枚渡しとくから何かあったら使ってね」
「いやいや、半分も要らないから」
「そのくらいすぐ溜まる。売ってない魔石もあるから大丈夫」
「そ、そうか。使わないとは思うが一応受け取っておくよ」
「魔物を狩りに行く前に武器とか防具とかちゃんとしたの見ておくといいよ。弱い魔物相手だと今の剣でもいいけど、強い敵を相手にすると木の枝の如く折れるだろうからね」
嫌な表現をしてくれる。
ハハハ、快く使わせてもらうしかないじゃないか。
「この金貨、有り難く使わせてもらうよ」
「うん。遠慮しないでね」
「じゃあ昼ごろ戻ってくるから」
「ん。後で」
俺は部屋を出て朝食を食べてから、熊さんのところへ向かった。
「くーまーさん。いるかー?」
「おう、いるぞ。朝早くからどうしたんだ。」
起きてたみたいだ。まだ冬眠していないらしい。
まだ夏前なんだが。いや、こっちの世界は違うのか?気温はあんまり変わってないから分からんな。
「クオが怖いこと言うからな。武器を見せてもらいに来た。それと余裕があったら防具も」
「クオっていうのはこの前の嬢ちゃんの片方か?その武器じゃ心許ないわな。でもいいのか、昨日の今日で」
「まあ、今日は買うか分からんしな。昨日ギルドで使ったけど、ある程度はこれも使えそうだしな」
「お前だったのか、昨日ギルドで暴れたのは。ガレスが昨日すごい奴らが来たって言ってたが、その安物で五人もぶちのめしたってことか。やるな」
「そんなことがあったのか?すげぇなそいつ」
遅い気もするが惚けとこう。
こんなに情報が出回るのが早いとは。
ガレスのやつ、秘密裏に処理しろといったのに。あれ、秘密裏に処理するのは依頼だけで昨日のことはノーカンかも知れんな。
まあ、いいか。ロアが改竄してくれた部分は伝わってないみたいだし。当然といえば当然だが。
「ガレスってギルドマスターのだろ?そんな奴がすごいって言うなんてよっぽどなんだろうな。でもなんでガレスが熊さんに言いに来るんだ?」
「シラを切るのか。まあいい。俺達は兄弟なんだよ。昔は一緒に冒険者をやっていた」
「確かに似ているな。ゴツいとことか、でかいとことか、ガタイのいいとことか」
「全部体じゃねぇかよ!他にあるだろ!顔とか強そうとか。」
「顔そんなに似てないじゃん。強そうってゴツい、でかい、ガタイがいいとそんなに変わんないだろ。強いていえば毛むくじゃらとかか?」
「熊に引っ張られてるだろ、それ。もういい。で、武器だったな。まず、種類はそれと同じ両刃の片手剣でいいのか?」
「ああ、剣とかよく分からんからな。魔法も使うから、片手は開けときたい。」
盾持ったりするかも知れんしな。
「魔法も使うのか。じゃあ剣の素材はミスリルが良いかもな。少し値は張るが魔法を使うならミスリルが良いだろう。金かけりゃ上位素材もあるが、ないみたいだしな。」
へぇ、ミスリルなんかあるのか。
「見せてもらってもいいか?」
「ああ。ちょっと待ってろ」
そう言って奥に引っ込んで行った。
昨日来た時は熊さんが印象的過ぎて店の中を見る余裕がなかったが、改めて見ると色んな武器が立て掛けてあったり、樽の中に突っ込んであったり、壁に飾ってあったり、当初想像していた武器屋そのもので、何か昂ぶるものがある。
「まあそれでもこの店、雑然とし過ぎだな。もうちょっと武器の種類かなんかで分けりゃいいのに」
いくら俺のもうそ...想像と同じで込み上げるものがあっても、店としてこれはいいのだろうか?
売る気あるのか?
「作ったやつからそこら辺に置いていくからな。一応納得いったのしか置いてないから、あるのは作った中でも一部だけどな」
「これ全部熊さんが作ったのか。冒険者だったのに、意外と器用なんだな」
「元々、鍛冶屋になりたかったんだよ。それで金貯めるのと、いい師匠を探すのと、自分でも素材探すために冒険者になってな。まあ、そんな事いいだろ。ほら、これ。ミスリルの片手剣だ」
ほう。いい師匠に巡り会えたのだろう。素人目から見てもいい武器に見える。
装飾はあまりなく、実用一辺倒のようだが、武器の性能を活かし切る形を取られているように思う。
よく見ると、周りの雑然と並べられた一つ一つも力強さを感じさせる武器ばかりだ。
「意外と軽いんだな。でも手に馴染むようだ。ほぼ初めて戦闘で使う剣としては身に余る気もするけどな」
あんな突発的なクソ野郎どもは別として、魔物との戦闘はまだしてないからな。
「初めてで使うような剣じゃないが、武器は自分や仲間の命を預けるものだ。その武器の特性とか色々、知っているのと知らないのじゃ戦闘で有利になるどころかそれが理由で敗北もあり得る。だから、使い慣れとくのが一番だ」
なるほど。
これから武器を変えることもあるだろうが、しっかりと武器の特性を把握するようにしないとな。
「それで値段だが金貨二枚でいいぞ。」
「高っ!何でそんなにするんだよ!今までの腹いせに俺から金をむしり取る気か?」
「バカ言え。これでも相当まけてるぞ。半額以下だっていうのに」
「そんなに安くしてくれてるのか。ここはいつから怪しい店になったんだ?」
「おい!人の善意に対して失礼すぎるぞ!まあ、売れ残ってたから鋳潰して作り直そうと思ってたやつだからっていうのもあるがな」
「まあ、色々言ったがそんなに金ないんだけどな。半分しかない」
マジックバックの中から金貨一枚を取り出してみせた。
マジックバックは留め具の内側の部分に小さなプレートが付いていて、冒険者カードと同じ様に、そこに血を垂らすことで個人識別ができる様になる。そうすると、識別した人間しか出し入れできない仕組みだ。
それともう一つ機能があり、血を認識させることでマジックバックとの魔力的なパスができ、取り出したいものが瞬時に出せるのだ。
出す時に、テレテテッテレー、タ○コプターとか言いたくなる。
まあ、某猫型ロボットみたいに、慌てると違うものを散乱させたりするような真似は難しいわけだが。
「これ以上は安く出来んからな。そうだな。だったら、今は金貨一枚でいいから、今度もう一枚持ってこい」
「ちぇっ。しゃーねーな。出世払いってやつか」
「違うからな!ちゃんと金入ったら払いにこいよ!出世するまで待ってられるか!」
「分かってるって。冗談だろ?全く熊さんは。次来た時にちゃんと払うから。ほらよ、金貨一枚」
肩を竦めながら金貨一枚を渡した。
「じゃあ、また来るよ」
「なんで俺は呆れられてたんだよ。最後までバカにしやがって、このヤロー!」
何か叫んでいるがいつもの事なので気にしない。いつもという程来てないが。というかまだ2回目だし。
きっと、客が帰るときはいつもこうなんだろうな。
そんな事してるから客足が遠のくんだぞ。
こうして俺はミスリルの片手剣を手に入れた。
「あっ、鉄の剣どうしよう。...予備として宿に置いとけばいいかな」
結構話していたみたいで大きな鐘が丁度なったので、今はちょうど九時頃なんだろう。
二、三時間ぶらぶらして宿に戻るか。
お金ないけど。




