賢者と怪力暴鬼
何故かギルドマスター室で例の二人と対面している現在。
「まずは自己紹介だな。俺はガレス・フォン・ラース。この学園都市の冒険者ギルドのギルドマスターをしている」
「儂は魔法学園の学園長、エドワード・フォン・グリモワールじゃ」
「俺は光太。そしてこっちがクオとレティだ」
苗字は名乗らなかった。この世界では苗字は貴族くらいしか持たないのだそうだ。しかも、この世界の人からしたら姓名逆の変な奴だそうで。
もしかしたら、そんな種族や部族もこの世界にいるかもしれないが、知らないので無難に名前だけ名乗ったのだ。
そして案の定というかなんというか厄介事になりそうな種を蒔いてきた。
「それで提案なんだが...賢者が見た事ない魔法を操るんだ。いきなりSランクは無理だがB程度なら俺の権限で上げられるぞ。楽に上がれて良いんじゃないかと俺は思うんだが」
「丁重にお断りします。そんな事したら、またさっきの奴らみたいなのが来るじゃないですか。さっきの出来事を見た者は極少数でしょう。冒険者は自分で見た者以外は信じないと聞いた事があります、変に絡まれるのは嫌ですので」
まぁ、聞いた事があると言っても、向こうの世界のラノベの中だけどな。
「別に敬語じゃなくていいぞ、これから長い付き合いになりそうだからな。まあ、確かに自分の命を預ける情報をどれもこれも信じる馬鹿はいないから、ああいうアホどもが襲って来る可能性は否定できないな」
なりたくありません。
ほら、言わんこっちゃない。俺は一から地道にいくんだ。
「じゃあタメ口でいくが、俺も分かっていてそんな事はしたくないんでな。楽な道も捨て難いが地道にいく。今後目立つことはあるかもしれない。でも、自分から目立つのとそれは違う」
「それは無理じゃな。こう見えても儂等はこの学園都市で一、二を争う程に名が知れておる。賢者エドワード・フォン・グリモワール、怪力暴鬼ガレス・フォン・ラースと言えば、この街のものなら誰でも知っておる名じゃ。そんな儂等をこのお嬢さん方二人が黙らせたんじゃ。しかも魔法学園長で賢者の儂相手に魔法でな」
クオとレティは凄く申し訳なさそうにしている。
「大丈夫だ、二人共。守ってくれてありがとうな。二人が守ってくれなきゃこの筋肉ダルマに何をされていたか...」
「おいっ!筋肉ダルマって俺の事だよ?!敬語は許したがそこまで許してねぇぞ!」
「ガレス、落ち着くのじゃ。本当の事しか言っておらんではないか」
「なっ、エド爺まで言うのか。そんなに酷いのかこの筋肉...」
筋肉をピクピクさせて落ち込んでいる。
気持ち悪いからやめて欲しい。
「ガレスが落ち込んでしまったから儂が話すが、冒険者が幾ら信じなくとも絶対に噂は広がるのじゃ。そこで早くランクを上げる事で厄介事を回避出来ると言うわけじゃな。それでさっきみたいな輩が出て来るのは仕方ないじゃろう。どの道ランクを上げていけばそういう輩は必ず出てくる」
こいつら絶対何か企んでやがる。
こっちにだけ都合が良いのはおかしすぎる。
だが一理あるように聞こえるから面倒なのだ。難しい判断だが...
「厄介事なんて全部潰すから関係ない」
レティは攻めの姿勢のようだ。
だがレティ、そんな事したら別の意味で目立つのでやめて欲しい。出来るだけ避ける方向で。
「ま、まあ待つのじゃ。儂等が言っておるのは貴族や王族絡みの厄介事じゃ。この国では少ないがそういう面倒な貴族がいないわけではない。得てして、そういう貴族は悪知恵がよく働く。冒険者の比にならんくらい面倒じゃぞ」
うへぇ。貴族なんて関わりたくないベストスリーに確実にエントリーしてくる輩じゃないか。
「貴族と対立することになった時、ある程度の地位は必要じゃ。冒険者でもランクが高く知名度があれば少しでもマシになるはずじゃからの。Sランクともなれば国賓並みの対応を受ける場合もあるのじゃ」
「すげぇなSランク。でも、そこまでなるのにどれだけかかるか分からんしな。それに貴族の厄介ごとに巻き込まれる前提で話すのはやめてもらいたい」
「そうだよ。大体、受付で指名依頼があるとか言ってたけど、あれって貴族とかが知ってる冒険者とか、有名な冒険者指名するためのだよね。今、知名度がない状態でそんなの受けたら逆効果にしかならないよ」
「うぐっ。な、なんのことかなお嬢さん。最近、物忘れが激しくてのぉ」
「おいっ!糞爺、お前騙そうとしてたのか。せっかく1%くらいは信じていたのに」
「なっ、糞爺じゃとっ!仕方ないではないか、まさか断るとは思わなかったんじゃから!ここは学生か、さっきのようなゴロツキばかりじゃから高ランク依頼が溜まりっぱなしなのじゃ。今いる戦力は街防衛の為の戦力を除けばBランク五人、Aランク一人しかいないのじゃ」
急に本音を吐露しだした。
「知らねぇよ。最初からそう言ってりゃ考えたかもだが、あの後の状況からそれっぽい事言って騙そうとしやがって。自分で行ってこい、糞爺」
糞爺と言い合いをしているとレティが服を引っ張ってきた。
「なんだレティ」
「ちょっと失礼する」
そう言って部屋の隅に三人で移動した。
「これはチャンス。レベル上げにちょうど良い。滞っているということは高ランク依頼の中でも危険なもの。人目を憚らずレベル上げ出来る上に、困ってるから条件つけ放題。例えば、依頼を片付けるが秘密裏に処理してくれ、とか。ランクを上げるの断れば目立つことなくなる。ランクは地道に挙げていけばいい。」
「なるほど。確かにいきなりレベル上がってたら何処で上げたか追及されるかもしれないな。...面倒かも。それを此奴らを理由にできるのは大きいか。まあ、その場合秘密にする必要は無くなるが、バレた場合の保険ってやつか」
「クオはそれでいいと思うよ。ここら辺の敵ならワイバーンとかだと思うし」
おいっ、それは大丈夫なのか?!
ワイバーンって亜竜ですよね?まだ俺、レベル低いんですけど...
「クオとレティが言うなら大丈夫なのか?...おい、糞爺。こっちにも条件がある」
そう言ってこちらの条件を話してからそれを呑ませた。
条件は全部で4つ。
一つ目と二つ目はレティが言っていたやつだ。
依頼は片付けるが表には出さないこと。
ランクは今のままで地道に挙げていくこと。
三つ目。これは渋られたが、じゃあ無しだなと言ったら渋々了承していた。
もしも面倒な貴族が喧嘩を売ってきたら後ろ盾になる事。
この爺さんは伯爵位らしい。昔、偉業を成したのだとか。聞き流したが。伯爵なんて俺の後ろ盾をする為になったのだろうな、きっと。
話の最中に糞爺、糞爺と言っていたら、せめて爺さんにしろと言ってきたので今はこれで落ち着いている。
最後の四つ目は、爺さんが学園長をしているという学園の魔法資料の閲覧と授業内容の確認。
これを言った時、ガレスと爺さんは何でだと聞いてきたが面白そうだからの一点張りで通した。
魔法に関しては、確かにクオとレティは最高の教師だが、この世界のレベルを知っておかないといけない。
そうしないと今回みたいな事になったら面倒過ぎるからな。
「魔法学園でのことは問題ないんじゃが、一つだけ気をつけて欲しいことがあっての。今、魔法学園には勇者がいるのじゃ。そやつがもしかしたらお前さん達に粗相をするかも知れん。じゃが、少しで良いから多めに見てやってくれんかの」
「それは場合による。勇者かどうかなんて関係ない」
「そうだよ。勇者なんて今時どの国にもいるんだから、そんな事で許す義理はないよ。今の勇者は勇者の意義を失ってるからね」
「なっ?!どこでそれを!勇者が召喚されていることはどの国でも国家機密だぞ!意味のない勇者召喚は国に疑心暗鬼を齎す。だから、国の上層部か、勇者本人しか知らないはず...どこで知った、いや、どこの国が漏らした!」
ガレスふっかーつ。急に復活するからビックリするじゃないか。
しかし、なるほど。勇者召喚がされていると知れば、普通の人は何か危機が迫っていると思うよな。
それだけでも国に不和を齎すのに、それがないと知れば、ただの拉致でしかない勇者召喚に民衆達は、王族に疑いの目を向けるだろう。
国家機密。確かにそうする必要があるだろう。
「ここに来る前に別の勇者に会った。その勇者が言っていた。勇者は勇者の牽制のために召喚されると」
「...そういうことじゃったか。じゃが、その話は安易に他言しない方がええぞ。今聴いたことは忘れてやるのじゃ。じゃから、もうするでない。そうでないと、あらゆる国から追っ手がかかるのじゃ。」
うわぁ。超面倒じゃん、勇者案件。
っていうか、レティは何でそんなに咄嗟に出て来るんだ?めっちゃ助かるけど。今度レティにはお礼しないとな。
でも、クオにもしないと拗ねそうだな。一緒にいてくれるだけで幸せだからいいか。クオにもお礼をしよう。
「わかった。忠告は感謝するが、その勇者くんと今回の話は別だからな。勇者の方に釘を刺しとくんだな」
「ふぅ。仕方ないのじゃ。ガレスは他に何かあるかの?」
「そうだな。いつから依頼を受けてくれるんだ?」
「依頼の数と内容によるな」
「お前達にやって欲しいのは今の所四つってところか。一応、さっき言った冒険者六人はいるからな」
「じゃあ一週間くれ。こっちにも準備がある」
「わかった。それじゃあ、一週間後に受付で名前出したら伝わるようにしておく」
「じゃったら学園に来るのもその後かの。ガレスの方が終わったらガレスから連絡してもらおうかの」
「じゃあ、帰るから。また」
そうして俺たちはギルドマスター室から出て行った。




