面倒事
「えっ、嫌ですけど。急いでますのでどいてもらえますか?」
華麗なる計画が失敗に終わりイライラしている感は否めないな。
「ごめんね、クオのせいで」
「いや、クオのせいじゃないよ。気にするなって。悪いのは全部喧嘩吹っ掛けてきているこの下品なおっさん達だよ」
若干口が悪くなってきている気がするな。
99%気のせいだが気を付けなくては。
それに、新人にしては程度な筈なのでクオのせいなんてことは決してないのだ。
「あ゛ぁ゛?調子乗ってんのか?まあいい、俺は優しいんだ。大金入ったんだってな。なぁ兄弟、俺達にも分けてくれよ。しかも二人も別嬪さん連れてるじゃねぇか。俺達にも貸してくれよ、なぁみんな」
後ろの取り巻きどもが下品に笑いながらそうだそうだと言っている。
目の前のクソ野郎は近づいてきて肩を回そうとしてきた。
俺はこんなにも短気だったのかと自分に驚きつつも、クオとレティを貶されたようで我慢の限界なのでぶっ飛ばしてやろうかと思ったが俺より先にレティが動いた。
「《シャドウバインド》汚い手で光太に触るな」
一瞬にして取り巻き達を含め目の前のクソ野郎どもを拘束した。
目の前のクソ野郎は、手を回そうとした状態で固まっており、最初は唖然としていたが、段々と怒りの形相に変わっていった。
「おい、今の見たかよ。一瞬で拘束しちまったぜ」
「えぇ。無詠唱なのかしら」
「いや、ありえないだろう。きっと気づいていて先に詠唱していたんだよ」
周りでは色々な憶測が飛び交っている。
しかし、確信出来ているものはいな…いや、いるみたいだ。
奥の方で、白髪で如何にも魔法使い然とした格好の老人とゴツいおっさんがニヤニヤしながらこちらを見ている。
うわぁ、面倒すぎる。
しかし、ここまできたらお互いに収まりがつかないのも事実。ある程度、力を見せた上で必死感を出そう。
そうすればいい感じの実力に見えるだろうと思う。
俺の偽装前のステータスじゃ勝てないが、こいつらは才能値平均2のレベル25程度なのでクオとレティからしたら余裕だろう。というか、二人からしたら誰であれ、だろうが。
俺も早く強くならないとな。
「クオ、レティ、少しなら力を出していいぞ。仕方ないから、いい感じに必死感出して勘違いして貰おう作戦でいこう」
今度こそ上手くいってもらわないと、あの二人は絶対面倒事を持ってくる。
わかる。だって、爺さんの方なんか偉い感じがプンプンするもん。
「おい!何ごちゃごちゃ言ってやがる、離しやがれ!ぶっ殺してやる!」
おー、怖っ!
殺してやると言われて離すやついるんですかね。いるんですけどね、ここに。
こいつらのスキルは武器系スキルLV.2〜3、魔法系スキルLV.1、それ以外にそれぞれ補助系のスキルを持っている。
仕方ない、今回は特別に最適化を使おうと思う。
ステータスも負けていて、スキルもレベル差があってはいくら才能値高くても勝てんからな。
しかし、いきなり上がったらバレるのでまずは偽装を最適化して【隠蔽LV.10】に。
そして、隠蔽を使いながら表面上は変わらないようにして、光魔法を【光魔法LV.10】に。剣術を【剣術LV.10】にする。剣術が【剣王LV.1】に変わったので、取り敢えずそのままで。魔力操作も【魔力操作LV.10】にして、と。
ここまですれば完璧だろう。
そして今のステータスがこれだ。
コウタ タカハシ LV.8
種族:人族《神人》
年齢:16 性別:男
HP:588/588《1647/1647》
MP:294/294《775/775》
STR:42《56 (5)》
DEF:28《49(5)》
DEX:21《35(5)》
INT:28《42(5)》
MND:21《28(5)》
才能値《制限》
STR:6《8》 DEF:4《7》 DEX:3《5》
INT:4《6》 MND:3《4》
固有スキル
《【創造LV.EX】》
《【最適化LV.EX】》
《【完全記憶LV.EX】》
《【神力変換LV.EX】》
《【神眼LV.EX】》
《【神化LV.EX】》
《【制限解除LV.EX】》
特殊スキル
【取得経験値5倍加LV.EX】
【取得スキル経験値5倍加LV.EX】
《【取得経験値10倍加LV.EX】》
《【取得スキル経験値10倍加LV.EX】》
《【言語理解LV.EX】》
《【限界突破LV.EX】》
技能スキル
【アビド王国語LV.3】
【剣術LV.1】
【鑑定LV.1】
【魔力操作LV.1】
《【隠蔽LV.10】》
《【剣王LV.1】》
《【魔力操作LV.10】》
魔法スキル
【光魔法LV.1】
【無詠唱LV.1】
《【光魔法LV.10】》
称号
《【創造神の寵愛】》
《【異世界人】》
《【世界の外側に存在する者】》
《【理に縛られない者】》
《【超えし者】》
《【至りし者】》
EXP:990
剣王の効果は剣使用時の動きのサポート、STR、DEXに超補正だ。
初の戦闘なので加減が難しいが、結構頭にきているので腕の一本くらい我慢してもらおう。
そう考える俺は、異世界に来て少し舞い上がりすぎているのかもしれない。
「レティ、やっぱり俺がやる。魔法を解いてやってくれ」
「ん、頑張って」
レティが魔法を解く。
なんか結構ムカついているみたいだ。
ちょっとやばい傾向かもしれないな。少し力を手に入れてすぐにこれとは危ないような気がする。
もっと自制心を持たなければ駄目だろう。
「やり過ぎたら駄目だよ、死んだら面倒だもん。蘇生とか使い手少ないんだからね?めちゃくちゃお金掛かるんだよ」
クオもムカついているのかもしれない。
それに、死の身近さをここに来てやっと実感した。
「調子に乗るなっつってんだろ!今すぐぶっ殺してやる!決闘だ!一応は規則だからな、ルールの中でじっくりと殺してやる」
この煽り耐性の皆無さはどうにかならんものかね。
とも思ったが、面倒だからさっさとやっつけて宿で休もう。という気持ちの方が強かった。
「わかったよ。俺としては、別に1対5でいいぞ」
この言葉を聞いた時の周りの反応は、こいつ調子乗って死ぬつもりか、強いのは女の子達だろ。みたいな反応だった。
ステータスでも見ていた奴が居たんだろうな。
だが剣を抜いた瞬間、周りの空気が変わった。
後から知った話だが、冒険者同士のイザコザで武器が使用されることはよくあるし、ギルドも街中での武器の使用は禁止してはいるものの決闘などの形で許容しているという話だった。
実際に空気が変わったものは、白髪の老人とゴツいおっさん、あとは野次馬の中の二、三人だろうか。
野次馬の中の二、三人は自分の獲物に直ぐに手を掛けいつでも応戦できる体制をとっている。
白髪の老人とゴツいおっさんは真面目な顔になり、今更こちらに来ようとしている。
何故こうなったかというと、剣王には補正以外にも他に効果がある。それは王という名に相応しい威圧と畏敬を相手に与えること。
これはレベル差があり過ぎると効かない。高くても低くてもだ。
まあ、今更止められても収まりがつかないので、さっさと片付けよう。
そうじゃないとイライラは募る一方だ。
「じゃあ、こっちから行くぞ」
そう言って、突撃した。
まず取り巻きの腕と足を剣の柄で砕いていく。こいつらは目で追うのが精一杯だった筈だ。
その証拠に対応が遅れるどころか、動くことすらできていない。
スピードはSTRなどの影響を受ける。
STRとは力だ。筋力にも少なからず影響する。剣王の補正は馬鹿にできないのだ。
そして最後にリーダー格の男の腕を砕いた所でストップが入った。
止められて気づいたが、完全に必死感を演出するのを忘れていた。華麗なる作戦はまたも失敗したらしい。
「もう十分だろう。足くらい取っておいてやれ」
「じゃな。まあ、金があれば魔法で治せるじゃろ。自業自得という奴じゃな」
「まあ、もういいですよ。二度と俺たちの目の前に現れないなら」
報復になんて来てみろ。今度は切断することも厭わないからな。
「決闘で敗れたんじゃ。賭けの内容は決めとらんかったが、命のやり取りをしたという事は全部を賭けたと同義。即ちこのまま見逃すも奴隷に落とすもお主の自由。どうするのじゃ?」
「見逃せば報復に現れる可能性はないわけではないが、奴隷だったら二度と見ないというのは叶うかもな」
「じゃあ奴隷で。財産は迷惑掛けたんで冒険者ギルドに寄付しますよ」
こんな奴らに同情するような生易しい心なんて持ち合わせていない。
元の世界の倫理観がどうとか言われると痛いが、俺的には程度の低い輩はそれ相応の報いを受けるべきだと思っているからな。
「では、決まりじゃな。ガレスもそれでいいかの?」
「ああ。冒険者ギルドとしても、ギルマスとしても別に決闘を禁止なんかしてないが、迷惑料を貰えるなら万々歳だ。面白かったしな」
このおっさんはギルマスらしい。
あー、お偉いさんだー。面倒そうだなー。
「じゃあ、終わったなら俺達は帰るぞ。面倒なのに捕まったけど早く帰りたかったんだ」
「まあ、待つのじゃ。ちょっと儂等と話していかんかの?」
「嫌です。では」
即断って帰ろうとしたのだが。
「ガハハハ。まあまあ、落ち着け。久々に掘り出しモン見つけたから話してぇだけじゃねぇか」
このおっさん馬鹿力かよ。ビクともしない。
でも、俺の方もレベル低いままだからステータス的に差があり過ぎるからかもしれない。
なんて思ったが、この筋肉を見ればそんな感想も吹き飛ぶというものだ。
やっぱり、この筋肉ダルマが馬鹿力なだけだろう。
「光太を離す。じゃないとどうなっても知らない」
「コータを今直ぐ離さないと消し飛んでも知らないよ?」
ヤバい。クオとレティがマジだ。
クオは太陽を凝縮したような熱さを幻惑させるマグマ球を。
レティはどこまでも深い闇を想わせる闇球をガレスに向けている。
あれは果たして大丈夫なものなのだろうか。
俺の事を考慮してますかね?
ガレスはこちらに縋るような目を向けてくる。
流石にこれは俺もヤバそうなので止めることにした。
「二人共、大丈夫だから落ち着け。そんなもの射たれたら俺も死にかねん。あと、ロアに怒られても知らんぞ?」
最後のは小さい声で言った。
ロア効果があったのかはともかく、二人共直ぐにその如何にもヤバそうな球を消してくれた。
「ふう。ガレスよ、怒らせてよい相手ではなかったようじゃ。儂は魔法学園の長を長年勤めてきたがあのような強力な魔法見たことがない。それを無詠唱ときた。儂はこれ以上の詮索は止めることを提案するがどうじゃな?」
「俺は魔法の事はよく分からんが、エド爺、賢者であるあんたがそこまで言うなら相当なんだろうな。その提案に乗らせてもらおうか」
よく分からんうちに詮索されない事になったようだ。
やっぱり白髪の老人も偉い人だったか。
面倒事に巻き込まれないといいのだが...




