決着
「あー、もう!面倒な!」
ブレスに、多種多様な魔法、やっと近づけたかと思えば尻尾なんかを器用に使って躱しようのない攻撃を。
だったらとその尻尾を迎え撃とうとすれば四方八方から魔法の嵐を受けることになる。
くっそ、どうしようか。
全くもって倒す算段がつけられない。
ティア達は三人でどうにか攻撃を凌いでいるみたいだが長くは持たないだろう。
本当は四人で固まっておきたいのだが、水龍がそれを許してくれないのだ。
「ハッハッハ!面白いのう、ここまで耐えられるとは思ってもみなかったわい!お主はまだ大丈夫そうじゃが仲間の方が危うそうじゃのう。」
「出し惜しみしてる場合じゃないな。まだ完成してないけど仕方ないか。」
わざとらしく挑発してきやがって!
そういえば俺たちの勝利の条件ってなんだよ。
って、そんなこと気にしてる場合じゃなかった!
「『分解の鎧』!」
「まだ何かしてきよるか!どこまでも愉快なやつじゃて!」
鎧シリーズの崩壊魔法バージョンだ。
触れたものは次々分解されていく一見めちゃ強な魔法だが、そんなの身に纏っている俺だって例外ではないのだ。
なので、分解よりも早い速度で魔力障壁を体との間に張り続けなければならず今のところコスパ最悪の超強力な魔法になっている。
因みに、この魔法はまだ構想段階なのでぶっつけ本番だ。
「時間ないから一直線だ!はーい、通りますよー!」
「無茶な魔法ばかり使いおる。しかし、まさかまだ足掻くとはやるのう。」
水竜巻も、氷柱も、鬱陶しい雨も、歩きにくい凍った足場だって全てを分解して水龍の下まで一直線に進んでいく。
「特大のやつ行くぞ!『雷神の鎚』!」
「ぬぅぅおぅっ!!!」
超速で放たれた巨大な雷の鎚は、物理現象さえも引き起こし水龍を宙に浮かせた。
「どうだ、このやろ」
ドゴォォォオオンッ!!!
「少しは加減というものを覚えんかい、まったく。今のはやり過ぎに対しての罰じゃ。弱体の耳飾りも壊れてしもうて、どうしてくれるんじゃよ。」
イッテェな!あーあ、咄嗟に防御に使ったミスリルの剣が真ん中でポッキリと逝ってしまったじゃないか!
やっとの思いで一撃を入れたと思ったら尻尾の一撃を喰らってしまった。
しかし剣を間に滑り込ませて良かった。でないと代わりに腕が一本逝っていたような気がする。
そういや竜族って飛べるんだったな。空中での行動なんてお手の物か。
はぁ。気を抜いてしまった俺の失態とはいえ、これでまた振り出しどころか超不利じゃんか。
もう魔力が残り二割ちょっとしかない。
「イテテ。こんな漫画みたいに地面を割りながら滑るなんて思ってもなかったな。それに耐えている俺の体の不思議さと来たら。」
「まだ立つとはのう。本当にしぶとい奴じゃな。」
さて、と。
どうしようか。もうさっきのでお互いボロボロだ。
それでも魔力の残り少ない俺の方が不利なのは確実。
それにどうすれば勝利なのか分からない以上、水龍を気絶なりなんなりさせないことにはどうにも。
「「次はどう攻めようか(のう)。」」
「双方そこまで!この耄碌ジジイめ、きちんとルールを守らんかい!」
ドゴォ!!!
「ゴハァ⁈」
お互い今にも飛び出しそうなタイミングで待ったがかかった。
それと同時に綺麗なお姉さんが巨大な水龍の頭部を殴りつけたのだが、頭を殴って出ていい音ではなかった気がする。
「試練規定に則り勝者を挑戦者とする!異議のあるものは?」
「えっと、何がなんだか分からないんですけど。」
「試練規定第三項、挑戦者の勝利条件は有効打を一撃与えることとする。これは誰の目から見ても明らかなもので、長老の満場一致の意見の下、下されるものとする。」
いや、待ってくれ。
そんな規定知らないというのはともかく、こちら側が勝利することなんてほぼほぼないんじゃないか?
「お前は異議があるのかい?聞いてやらんこともないが、しょうもないことを言ったらアレと同じ道をたどることを覚悟して発言しなよ?」
「い、異議なんてそんな…た、ただ、勝利ってどういう…」
鼻から異議なんてないが、パンチ一発で水龍を伸ばしてしまう人になんて逆らえるわけがない。
「そのままの意味さね。実に二年ぶりの勝利、まともな勝利なんてどれくらいぶりだろうかね。」
「二年前、グリター先輩の。その勝利となんの違いが?」
「あん?まあ、勝ったお前になら教えても問題ないさね。あの坊主にはね、修羅が宿っていたのさ。どれだけ倒れても、負けることを許さない修羅さ。危うく感じたあたし達が勝利を宣言しなかったらきっと壊れてでも勝とうとしただろうね。」
何者だよ、あの先輩!
学園一ヤバイ人なんじゃないか?あの納得いってなさそうな表情はそれかよ!
「勿論強さという点においても、挑戦者としては近年稀に見る才能を持っていたのも嘘じゃない。ただお前と違って正規に勝ち抜いたものではないから記憶が残っていないだけさね。」
「ん?俺だけなのか?」
「誰が見てもお前だけの勝利、後のは自分達を守ることだけで精一杯だっただろう。どう譲っても他の三人をお前と同じところに立たせるのは無理ってもんだよ。」
そうか…
最後の方は引き離されてしまっていたということもあるが、一人で戦ってしまっていたからな。
申し訳ないことをしたな。
「そんなに暗い顔をしないでください、コータ。私はコータがもたらしてくれたこの勝利を心から嬉しく思います!」
「わ、私はコータ君がいたからここまで来られたんだと思ってるよ?少しでも変われたことは私にとって勝ちなんかよりもずっと大切なものだから!」
「お前が色々と言ってくれなかったらここまで頑張ることが出来てなかっただろうな。感謝してるよ…」
みんな…
でも、ティア。そんなに寂しそうな顔をしないでくれ。
「ティア、忘れてもちゃんと俺から誘うから。絶対だ。」
「っ!はい、約束ですよ?」
約束は約束だ。ティアが忘れたくらいでは無効にはさせない。
何がどうあれデートの約束をしたのは俺だ。勝った以上この約束は履行してもらうからな。
「さて、お前達三人はあの魔方陣の上に立つんだ。少しの間そこで待っていろ。お前はこっちだ。」
「わかりました。」
俺も頼みたいことがある。
少し離れたところまで歩く。そういえば、戦闘中は全く見えなかった観客席部分が見えるようになっている。
あっ、笑顔のリルはすごく可愛いな。
「リルエルからは聞いているがお前はどうしたい?この試練における記憶、情報。全ては勝者であるお前の思うがままだよ。」
「全てとはどの程度の範囲を示しているのですか?」
「今試練を見ているものも全て含めてさね。」
「では、今の試練の記憶を俺とリル以外例外なく封印、グロウに送る情報は俺を含めて負け。これでも大丈夫でしょうか?」
「問題はないが、本当にリルエルの言っていた通りになるとはねぇ。それで本当にいいのかい?」
「構いません。最初から決めていたことですので。」
リルとの約束を果たすことも出来た。
着実に強くなれていることの証明にもなった。
俺は結果として勝っている必要はどこにもない。事実として勝てていればそれだけでいい。
もっと言えば、勝ちという結果が残ってしまえば面倒なことになることは明白なのでできれば避けたい所存である。
「そうかい。じゃあお前も魔方陣にのりな。負けと偽りたいなら別々の帰還は疑念を抱かせるだろうからね。」
「そうですね。よろしくお願いします。」
そうして俺の試練は負けという結果で終わりを迎えることになった。
ティア達の待つ魔方陣にのり、怪力お姉さんが何やら詠唱を行うと魔方陣が輝きだし気づいた時にはグロウの真ん前に設置されたテントの中だった。
「お疲れ様です。怪我を負っている人はこちらへ、大丈夫な人たちもそちらでゆっくりとしていてください。」
出迎えてくれたのはルロイ先生のそんな言葉だった。




