祠
「ここ何回来ても遠く感じるんだよなぁ。」
リルと出会った祠の前の風景を眺めながら独り言ちる。
あの時は外観には特に触れなかったが、見た目ただの洞窟である。
なぜ洞窟が総称して祠と言われているのか。
それは奥にある魔法道具本体が祠の形をしており、洞窟全体を魔法道具の効果範囲としているからだそうだ。
それ以外にも洞窟全てに効果が行き渡るよう細かな魔方陣などが施されているからなど色々あるらしいが詳しいことは知らない。
「お前、前にも来たことあるのか?」
「だってリルと初めて会ったのここだからな。あの時はガレスのウンコ野郎に無理難題を押し付けられてここに来たんだけど。」
それも今となっては良い思い出である。
まあ、仕返しが出来たことが良い思い出になった一番の要因だろう。
リルと出会ったのはそれとは関係なく大切な思い出だけどな。
ナイスフォロー、俺!
「どうしましょう、キャロル!コータが脳内で自分で自分の手助けをしてますよ!」
「なんで分かるんだよ!ってか、何がいけないんだよ!」
「いえ、なんとなくですが。でも、それってすごく悲しいと思いますよ?」
「うっ。言われなくても自覚あるから放って置いてくれ!」
「本当なんだ…頑張ってね、コータ君。」
や、やめろ!そんな哀れむような目で見るな!
「いや、そんなコイツのアホなところじゃなくてもっと気にするべきところがあるだろ。」
「アホとは失礼だな、ラディックン。で、その気にするべきところとはなんだね。」
「その思い出したようにラディックンって言うのやめてもらえないか?その喋り方も。」
無理ですね。
だってもう君はラディックンなのだから!
「で、なんだよ。その気にするべき何とかは。」
「ガレスってあの怪力暴鬼のガレスだろ?グロウのギルマスの。」
「そうだけど。それがどうしたんだ?」
「はぁ。」
っんだよ!一丁前に溜息なんか吐きやがって!
お前どこのラディックだよ!
「ギルマスの無理難題ってのも気になるが、流石にウンコ野郎はやめた方がいいんじゃないか?ガレスさんに憧れている冒険者は結構いるからな。」
「いやいや。あれに憧れる冒険者が本当にいるなら、冒険者という職業をもう一回見直した後にあのウンコの胸筋を眺めてみるといい。」
あのウンコは根本的に色々と駄目だ。
何が駄目って、やはり一番はあの感情を胸筋で表す気持ち悪さだろう。
次いで懲りないところだな。
次俺を騙そうとしたら、少し負債を背負わせる程度では済まさないからな。
「冒険者の憧れはそんなところにはないと思うんだが。」
「…な、なんだか嫌だねその人。」
なんだよ、ラディック。
強く否定できないからそんな風に目が泳いだりするんだろ?
これに関しては俺が正解なんだ!
「知らないところで好感度を下げているとはあのギルドマスターも思っていないでしょうね。」
「おお!久しぶりだな、グレイス!」
「ええ、久し振りと言う程の時は経っていないように思いますが、コウタ殿お元気そうで何よりです。」
リルがユニストを旅立った時にグロウまで送ってもらって以来だから、ってそこまで経ってないな。
なんだか一日一日が濃密すぎると昨日のことでも遠く感じてしまいそうだ。
って同じことを日々感じている気もする。
「リルはもう来てるのか?」
「ええ。先程までフロード様とオリヴィエ様にコウタ殿のことを熱弁されておりました。残念ながらフリーズ様は所用で席を外されておりますので、今日リルエル様がいらっしゃったと知れば心底悔やまれると思いますよ。」
それはまた恥ずかしいな。
しかしあのシスコン兄はタイミングが悪い奴だ。
まあ煩くなくていいか。
「おい、このイケメン誰だよ。」
「ん?グレイスはユニストの守護隊副隊長だったか?肩書きはこれであってたよな?」
「ええ。私には勿体ない役職ですが。」
「は?え?守護隊副隊長?こ、これは失礼いたしました!先程までのご無礼お許しください!ほら、お前も頭下げるんだよ!」
急にどうしたんだ、こいつ。
初めての行軍で流石に疲れが出てきたか?
「コ、コータ君。は、早く謝った方がいいよ。」
「キャロルまでどうしたんだよ。疲れてるならまだ全員揃ってないみたいだし端の方で休んでるか?」
「違いますよ、コータ。彼の肩書きとコータのタメ口で罰せられるのではないかと思っているのではないでしょうか?」
なんでそんな事で罰せられないといけないんだよ。
竜族がいくら強大な力を持っていようともそこまで仕立てに出る必要ないんじゃないか?
「今から竜族と戦おうって言うのにそんなんじゃ持たないと思うぞ?」
「違いますよ、コータ。我が国では、ユニスト竜王国守護隊は例外なく国賓扱いになるからだと思います。」
ああ、なるほど。
平民が貴族にタメ口をきくようなものだろうな。
だが。
「既にリルとフレンドリー過ぎる会話をしているし、このタメ口もグレイスからこうしろと言われたからであって、今から敬語を使えと言われたら使うけどな。」
「そういうことですか。私は言葉遣いどうこうで罪を問うたりしませんので安心してください。まあ無遠慮に、何の脈絡もなくタメ口だと思うところもあるでしょうが。コウタ殿には許してありますのでご安心ください。」
許してあると言ったのはラディック達が気にしているからだろうな。
立場を明確化させておくことで言葉の重みを増させているのだろう。
「グレイスー!揃ったよー!ってあれ?ウチのお姫様を攫っていった坊やじゃん。こんなところで会うなんて…ってリルエル様が居たのはそゆこと。」
「攫っていったとは人聞きの悪いことを。」
「大丈夫だって。みんななんやかんや言ってたけど祝福してるんだから。リルエル様を救ったのは誰でもない君だったんだからね。」
どいつもこいつもイケメンぞろいでムカつくな!
それにこの童顔で可愛さの残るイケメン、話通じてなくないか?
俺は攫ったというのを訂正してほしいのであって、何が大丈夫なのか理解できない。
「そうですか。揃ったそうなので皆様もあちらに移動していただいてよろしいですか?今からの説明を行いますので。」
「了解。」
少しくらいフォローしてほしかったけどグレイスもまとめ役っぽいので仕方ないか。
「ロイはグロウに全員揃ったと報告を入れてださい。では皆様行きましょう。」
このイケメンの名前はロイか。
なんか迷惑被りそうなので覚えとこう。
俺たちはグレイスの後に続いて洞窟手前の少し広くなっている場所へ移動し言われた通り腰を下ろした。
さて、いよいよリルとの約束を果たす時。
ここまでがなかなか濃密ではあったが、本来のメインディッシュは今からだ。
さあ、勝利を頂きに参ろうじゃないか!




