乱入と過信
数日振りに定時投稿でけたー!
いや、ホント最近スンマセンm(_ _)m
今回の話に出てくるエンチャント各種の説明をあとがきに載せておきますので、お忘れの方はそちらをお読みください。
では、どうぞ!
さっきの問答でこいつらが帝国からの間者だってのは確定として神崎がそこにどう関わってくるんだ?
さらにティアまでとなると、俺の今ある情報からじゃとても導き出せそうにない。
ヒュン、ヒュヒュン
このかまいたち的な魔法、速度はもちろんのこと威力もありそうなんだけど如何せん直線的過ぎる。
「なあ、うちの国の大切な勇者様とティアの暗殺がどうか関わるのか詳しく教えてほしいんだけど。」
「うるせぇ!俺の魔法を剣なんかで斬りやがって!」
えー、さっきは教えてくれたのに。
急に意地悪になったな。ヤンキーって基本優しい設定だろ!見た目通りかよ!
って今は見えてなかったな、そういえば。
理不尽な怒りをぶつけても何も変わらないみたいだ。
「ティアとはまた随分と王女様と仲がいいみたいで羨ましいな。」
「モテない男の僻みは聞くに耐えないわよ?」
「なっ⁈お前はどっちの味方なんだよ!」
「アタシが誰の味方だって?この世界で生き残るためにあの男の下に仕方なくついているだけで、味方だなんて思ったことないわよ。協力者ってところかしら?」
後ろで高みの見物をと言わんばかりの二人。
こいつら一緒にかかってこないとは勝てるのか疑っている風を装うだけ装って、結局余裕綽々って感じだな。
その舐めた会話も、全てが物語っている。
ムカつくな。
戦う俺としては面倒が減って有難いが、人を殺しに来ておいて、ティアをその手にかけに来て。
目の前でぺちゃくちゃぺちゃくちゃと。
ああ。俺は戦いには向いていないのかもしれないな。
こんなにも頭に血が上っているのは久しぶりかもしれない。
逆に冷静であるような気さえするな。
『フルエンチャント』『フィジカルブースト』『スピリチュアルブースト』『フルブースト』『氷雷鎧』
「なあ、俺も話に混ぜてくれよ。」
「なっ⁈」
「キャッ!」
魔法使い然とした操られた六人を無視していきなり現れた俺に驚いているようだ。
そんなことお構い無しにスカした男の方には蹴りを、女の方には腹に剣を持たない左手で掌底を。
もう女の子なんて思わない。ティアを狙っている時点で敵なのだから。
敵はすべからく排除、または無力化だ。
「グハッ!」
「アグゥッ…」
男の方は木に打ち付けられてもなんとか意識を保ちこちらを睨みつけているが、女の方は気絶してしまったようだ。
「お前らさ、少しばかり舐めてないか?俺も含めてそうだけど、そんなんじゃ生き残れないに決まってるだろ。ティアの、俺の大切なものの命を狙っておいて覚悟はできているんだろうな?」
「な、何が起きやがった…なんだよ、その姿!おい、木寺!お前近接担当だろ、どうなんだ!」
「がはっ、ごほ。これは、ヤバイ、な。う゛ぐぅ、回復担当の針マニアは気絶してしまっている。正直、厳しすぎるぞ。」
次は…先にこの操られている人たちの無力化が先か。
この厄介な結界系の固有スキルをどうするにしても邪魔されながらでは無理だ。
「『アースアローレイン』」
「お、俺の駒が一瞬で…」
操られている人たちに怪我を負わせてしまうのはいけなかったかもしれないが、今の俺にそんな余裕はない。
俺も初の敵意ある対人戦に視野が狭まっているようだ。
「『シャドウバインド』。お前はそこで大人しくしていろ。動けば動くほど状態異常が強くなって衰弱していくから気をつけろよ。」
「あがっ、ぐぁ!」
あー、あと当然締め付けもするから。
これでやっとこの自己空間だっけ?に集中できるな。
「勇者が勇者でなくなったって意味がやっと本当の意味で理解できた気がするな。ほら、さっさと出て来いよ。お仲間はこの通り全滅だぞ。」
「だ、誰が出て行くかよ!くそっ、大毅さん必ず成功するって言ってたじゃねぇかよ!くそっ、くそっ!」
大毅って言うのが敵のトップか、それに近しい人物だな。
安全マージンはしっかりとって事で気絶している女の方にもシャドウバインドは使っている。
「……あなたも勇者なの?」
「俺は違うな。勇者でもないし、その末裔でもない。ただの転移者だ。」
「嘘をつくな!転移者は何の能力もないただの雑魚だぞ!それが一瞬で勇者を二人、いや三人も倒すことが出来るはずないだろうが!」
ほう。案外冷静というか、状況を受け入れることが出来るんだな。
自分が負けたという事実を否定するでなく、キチンと受け入れ次の思考に活かしている。
「……だったら何故そこの王女を守るのかを聞きたい。彼女も勇者という程のいい隠れ蓑に身を隠した誘拐犯の一人。もう戻ることのできないあの世界から私達を攫った、私たちの平穏を奪った共犯者。」
「俺は別にここに来たことが嫌なわけではないからな。むしろ向こうよりも幸せだ。逆に聞きたいが、ティアがどういう気持ちでいるかお前は知っているのか?」
ティアはそう、昨日までだ。昨日まで悩みに悩んでいたんだ。
いや、まだ完全に悩みは晴れきっていないのかもしれない。
こいつの言っていることは正しいのかもしれない。
だが、一方的にティアだけにそれをぶつけるのは間違っている。
「お前はこの世界に来て良かったと思ったことは一度もなかったのかよ。俺は幸い仲間に気付かせてもらったけどな。幸せは自分から手に入れに行くものだってな。」
俺はクオが、レティが、リルが居ればそれだけで幸せだと、それ以上を望んで壊れてしまうことが怖くて踏み込めずにいた。
だが、三人がそこから一歩踏み出す勇気を、力をくれたことで今俺の目に見えている世界はこんなにも広がっている。
「自分が悲劇のヒロインだとか思っているなら大間違いだぞ?お前はただの現実からの逃亡者だ。」
「っ!あなたが私の何を知っているって言うの!」
「知らない。だけど、この世界の理不尽さは理解しているつもりだ。この世界に元々いた人々はな、お前の何倍も理不尽を経験しているってこともな。」
あの鑑定役兼結界役、それと多分転移なんかも彼女の役目だと思うのだが、彼女のことなんて何一つ知らない。
この世界でどんな理不尽にさらされ、どれだけの苦悩に苛まれたのかも。
もしかすると、俺の悩みがちっぽけなくらいの何かにさらされたのかもしれない。
だが、この世界は毎日魔物の危険が隣にあり、貧困に喘ぐ人も圧倒的、理不尽な貴族の物言いに苦しまされている人だっているだろう。
「手を伸ばしたことがあったか?せめて幸せを掴み取ろうとしたことがあったのか?あったとして諦めて、それをティアにぶつけようとしているのか?」
「そ、そんなこと…」
「お前がどう思っているのか知らないけどな、もうお前は殺人未遂の共犯者だからな!人を殺すことがあの世界よりもどれだけ身近であろうとも、責任から逃れることは出来ないんだぞ!」
そういうことか。
ああ、理解出来た。俺は何を間違った解釈を。
責任、か。自分で言っておいて自分で納得するとは滑稽な。
俺が望んだ覚悟の正体。それは責任。
初めて訪れたギルドでの一騒動。あの時俺は、相手の手を斬り飛ばした。
それと人を殺すこと。大きな違いがあるように見えて、そこに大した差はない。
相手を傷つける、その一点において。どんな悪人であろうとも負うべき責任は付きまとうのだ。
それが罰であっても、賞賛であっても。
俺の中で燻っていた覚悟。
それは人を手にかける覚悟なんかじゃなく、負うべき責任から逃げない覚悟だったんだ。
「カッコいいなぁ、カッコいいねぇ。だけど、俺のたーいせつな仲間をこんなにしてくれちゃって何を宣ってんの、お前?」
「ッ⁈」
なんだ、こいつ⁈どこから湧いて出やがった⁈
「なぁ、まだ俺の仲間少ないんだわ。返してもらうぞ?」
「逃げきれるとでも?」
とは言ったもののこいつのスキル一つ分からない状況でそれが出来るかどうか。
「当然。こいつらの頭をやらせてもらってるんだ。それくらい出来て当然だろ?」
「じゃあやってみろよ!」
こいつは頭と言った。
ならばこいつが大毅とかいう男だろうな。
俺はさっきの比じゃない速度で突撃する。逃してたまるかってんだ!
「『同化・風』『纏・風』『アシスト・風』」
スカッ
「なっ⁈」
俺は相手を殺す覚悟で斬りかかった。
それはもう本気で。
しかし、それを躱しただけでなく両腕には俺が拘束しておいたはずの二人。
こいつどこまで速いんだよ!
「これかなり消耗するんだ!ボサッとするな、逃げられなくなるぞ!」
「す、すみません、大毅さん!今すぐに!おい、根暗!聞こえてんだろ、さっさとこれを解けや!」
いくら斬りかかっても躱されてしまう。
技量ではなく無理矢理感はあるが、それでも躱されては意味がない。
それにだ。スペーシャルイソリューションでシャットアウトされていたこの場所にどうやって入ってきたかも分からない以上、ティア達から離れすぎるわけにもいかない。
「手が塞がっている!どこでもいいからさっさと掴まれ!」
「はい!」
「………。」
男女二人が現れたかと思えば、男の方は何の躊躇もなく頭目らしき男の腰に抱きつく。
女の方は何かに迷っているのか立ち尽くしている。
「早くしろ!もう限界が近い!」
「……分かった。」
「行かせない。」
女が頭目の方に手を伸ばしたその時、その間に突如としてレティが現れた。
「あなた達のその力はこんなことをするためのものではない。この世界で生き残る為のもの。今すぐその悪行をやめることを進める。」
「誰だ、このガキ!くそっ、時間切れだ!自分を恨めよ、根暗!」
その言葉と一人の少女を残して敵は一瞬にして去って行ってしまった。
くそっ!俺が自分の力を過信しすぎていたせいで逃してしまった!
敵はこれ以上いないと勝手に思い込んでいた。
成果はあれど、ティア達を危険に晒したことに釣り合うほどのものではない。
俺は調子に乗っていたのだろうな。この貰い物の力を口では色々言っておきながら、結局は。
そして急激なレベリングでの過信。
「………。」
「………。」
少しの間、その場にいた誰もが口を開くことはなかった。
『フルエンチャント』
これは作者が各種エンチャントを書くのがめんど、並べて書くと読み難いかなという配慮の元、火、水、風、土、光、闇の個別エンチャントを纏めてしまったものです。こちらは複合魔法ではないので後に記してあるフルブーストとは別物です。
『フィジカルブースト』
火エンチャと土エンチャ、つまり物理ステ系のエンチャントを複合魔法で別魔法として光太が編み出したものです。
『スピリチュアルブースト』
光エンチャと闇エンチャ、つまり魔法ステ系のエンチャントを複合魔法で別魔法として光太が編み出したものです。
『フルブースト』
基本属性全てのエンチャントを複合魔法で別魔法として光太が編み出したものです。
フルエンチャントはただ個別に使ったもの、フルブーストは複合魔法化されたものという違いがあるので両方の恩恵が得られます。




