襲撃者に対しての
今は学園からの帰り道だ。
出来ることは全てやったし、あとは明日に備えて早めの休息を取るくらいだろう。
「いよいよ明日なんだな。」
「そうね、応援してるわ。」
ん?なんだか上の空だな。
「どうかしたのか、リル?」
「え?何か言ったかしら?」
「いよいよ明日なんだなって言ったんだけど。考えごとか?」
ぼぉーっとしているリルは珍しいように思う。
本当に何かあったのなら心配だ。
「違うのよ。みんな明日が試練当日で、今日は気合の入りようがいつもより凄かったじゃない?それを見ているとね。」
「そうだよな。」
レティもそうだが、リルは受けることができない。
モチベーションの違いというか、自分だけ蚊帳の外だった現状が辛くあったのかもしれない。
「いよいよデートが現実味を帯びてきたというか。」
「えっ?」
「あっ、それ分かるんだよ。なんか、こう、どんなところに行きたいかとか考えてしまって少し上の空で迷惑かけてなかったか心配なんだよ。」
「室内デートで十分満足。」
いや、え?違うだろ?
大体、なし崩し的にデートに行くことになってしまったが、その約束を最初にしたのはクオだったわけで。
リルとの最初の約束は証明することだろ?
上の空になってしまう順序を間違ってるんじゃないか?
「だ、だって二人きりでデートなんて緊張しちゃうに決まってるじゃない。それが一層現実味を帯びてきていっぱいいっぱいになったというか…」
「なんだか心配して損した気分だな。」
「失礼ね。コータとのデートのことで悩んでるんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ!」
理不尽すぎる怒りをぶつけられたんだが。
いや、俺のことで、というか俺とのことで悩んでくれているのは嬉しいが、悩みの種類の違いに動揺してるというかなんというか。
「いや、もっと自分だけ試練に参加できないとかで悩んでいるのかと。」
「そんなことで悩むはずないでしょ?そんな子供じみた悩みを持っていると思われたのなら心外だわ。何年生きてると思って、いる…のよ……」
駄目だ。ついに自分の言葉で落ち込み始めてしまった。
リルの説明に納得してしまったが、この話題を続けるのは危険過ぎる。
さらにリルを不用意に慰めるのも愚策だ。
こんな時、慰めの言葉が裏目にでることなんてよくあることだ。
話題のすり替えを。
「あ、明日はレティとリルはどうしてるんだ?」
「私は少し神界で用事を済ませてくる。」
「私はどうしようかしら。兄様か父様に頼んで試練を観るのもありね。」
リルが観るとなると、結果だけではなく内容も気にしないといけないな。
まあ観てなくても酷い内容にはしないけどな。
「でも学園には行かなくていいのか?」
「賢者の許しはもらった。それに、私達みたいな参加しない、出来ない生徒は元々自由登校になっているみたい。」
「前例あったんだな。」
でもそうなると明日は朝から別行動になるわけだ。
「リル、祠まで送ろうか?」
「試練を受ける人間にそんなことしてもらえないわよ。あそこまで十分もかからないから気にしないでいいわ。」
その言葉は受験者にとっては目が点になるほどの話じゃないか?
数時間かけて行くような場所に、転移を使わず十分弱で移動するというのだから。
まあ、レベルやステータスが上がれば副次的に移動速度も上がるわけだけどな。
「そうか?リルがそう言うなら。レティは何時ごろ帰ってくるんだ?」
「多分、コータたちの試練が終わるより早く帰ってきていると思う。終わったら学園に行くようにする。遅くなるようなら連絡をいれる。」
どんな用事で神界に行くのかは知らないが、予想するとカマス達に俺のいないところで釘を刺しに行くか、ロア達からの情報収集とかだろう。
「じゃあ、心配いらないな。ところでさ、明日の試練の最中の話なんだけど。」
「どうしたの?」
これは正直言うか迷った。
俺が考えつくくらいだからみんな予想できていると思ったし、本当にそうなった時にどれだけ面倒か。
だけど、みんなが気にしていてくれたら心強いからな。
「もし、昨日のティアを狙った相手が他国の間者だったなら明日こそが本気でくると思うんだ。」
「何故他国だと襲ってくるのかを聞きたい。」
「まず国内のティアの敵はとても愛国心が強いらしい。国の為を想い、自国の王女を暗殺出来るほどには。」
ここら辺の話はカレン様とミランダ様から聞いたものなので詳しくは答えられないが、そんな連中が国の一大イベントである試練を壊しにくるとは思えない。
それに戦争がほぼ確定している今、襲う理由もない上に、竜族との関係悪化は避けたいところだろう。
と言う俺の浅い考えを話す。
「他国の間者であれば昨日襲ってくるよりも、今日襲ってくる方が成功する確率は高いもんね。でも、それだったら昨日襲ってきたのは失敗じゃないのかな?」
「それも王女が参加を拒否するという結果招くことができれば多少なりとも関係悪化は望めるわけだし、そうでなくとも参加してくればそこでもう一度襲えばいい。ただ。」
「敵の全ての失敗の原因は私がここにいるってことね。」
そうなのだ。
全てを知っている竜族の姫がここにいる。
ティアがどういう判断を下そうとも関係悪化は望めないし、ただ単に警戒を強めさせるだけ。
敵の思惑は全て裏目に出たことになる。
「そこで提案なんだけど、リルには警戒網を強めてほしいんだけど手は出さないでほしいんだ。確実に捉えて少しでも情報を得るために。」
「危険よ?昨日は瀕死の怪我人が出たって話じゃない。もっと強くて厄介な奴を送り込んでくるのは明白だわ。」
それでもだ。
国内の敵は敵でなくなる可能性が高いし、その詳細もティア本人に聞けば分かるだろう。
しかし今回の敵はまだどこの国かも分からない、敵の詳細を誰も把握していないのだ。
多少危険でも守ると公言した以上やるべきだろう。
「それでもだ。そのかわりやるからには必ず成功させるし、必ず守る。」
「ん。コータがここまで言うのは珍しい。私は上から見てる。何かあればすぐ行くからやらせてあげてほしい。」
俺は必ずや絶対みたいな断言する言葉はあまり使わないようにしている。
気持ちを表現する上で使う分は推奨できるが、思い込んでの言葉はいつか失敗を招くと思っているからな。
俺もあまり気負い過ぎて失敗しないようにしないとな。
「レティが見てくれているなら安心だね。」
「ありがとう、レティ。」
本当に襲ってくるかは分からないがキャロルとラディックにも話とかないといけないだろう。
もし嫌がったらこの作戦とも言えない作戦も変更せざるをえないな。




