最終確認
予定より遅くなってしまい申し訳ありません。
本日二話目です。
「じゃあ、まずは移動中の注意事項から確認していくか。」
「今回は試練とはいえ、ほとんどが実戦経験は皆無といっても過言ではありません。休憩はこまめとまでは言いませんがある程度取ってもよろしいのではないでしょうか?」
ほとんどっていうか二人だな。
ラディックとキャロル。
今これだけ力を発揮できている二人も魔物相手の実戦となった時にどうなるか分からない。
俺の場合は思う所はあったものの思い詰めるほどではなかった。
だが、二人がどういう反応をするのかは分からない。
それにティアが言うように休息の取り方も考える必要があるだろうな。
「うーん、そうだな。二人はどれくらいの頻度で休憩を取ったら大丈夫そうかな?その後もあるから無理にならない範囲で、遠慮もしないでくれ。」
「祠までに通るのは街道、草原、試練の森だろ?少なくとも数時間は歩くことになるけど俺は一、二回で大丈夫だと思うけどな。それこそ、街道から草原に入る前に一回、試練の森に入る前に一回って位でいいんじゃないか?」
「キャロルはどうだ?」
それが理想かもな。
森の中で休息を取るよりも外で取った方が安全ではある。
まあ、街道と草原の合間で休息を取るということは魔物の森の真横で休息を取るということなのでそこは考える必要はあるだろうがな。
けど、森の中だって魔物の森の真横だってやりようはある。
必要なら取ることは出来る。優先度はこちらの方が高いだろうな。
「わ、私もラディック君と同じくらいで大丈夫かな。貴族様じゃないからレベルもまだ低いけど、そんなにすぐ疲れることもない思うな。」
「ちょっと心配だけど、じゃあその二回とその都度必要に応じてって感じだな。肉体的疲労は大丈夫でも精神的なものは必ずあるだろうからな。」
レベルが上がれば自ずとステータスも高くなる。
そうなれば持久力なんかも必然的に上がることになるから体力面の問題はさほど気にしなくても大丈夫だと思う。
しかし、初の実戦で精神的に辛いものは少なからずあるだろう。
そんな時に休息を取るのは絶対的と言っていいほど必要なことだからな。
それに不測の事態というものがあるかもしれない。
「そのかわりキャロル、キツかったらちゃんと言えよ?」
「う、うん。頑張るね!」
これは良く見とかないといけないな。
「次は行軍時の陣形ですね。今回は私たち四人なので先頭にラディック、その後ろに並ぶ形で私とキャロル、最後尾にコータ。この菱形の陣形ということでしたが変更はありますか?」
「試練の森の中に入ったら完全な縦列でもいいかもな。広がり過ぎは無理があるかもしれない。」
よくよく考えれば、森という狭い空間で二人並んで歩くのは無理が生じるかもしれない。
歩くだけなら何が無理なのかと思うかもしれないが、魔法という力を行使する際に近すぎる場所に人がいては何らかの不都合が生じる可能性がある。
それは縦列にしていても同じことが言えるのは確かだが、前にも後ろにも隣にも人がいるとなれば動きが制限されすぎるからな。
「鎧シリーズもあるから、何かあった時はラディックと俺が前衛として後衛の二人を一人ずつ守る形も取れるだろうからな。」
「あ、ああ!そのくらいやってやる!」
こっちもこっちで空回りしている感はあるな。
試練も前日となれば緊張が頂点に達しているのかもしれないな。
まあ、何か危険に陥ることがあればティアも試練の森のウルフくらいなら片手間で倒せるだろうし、俺も三人を守ることが出来るだろう。
キャロルもラディックも本来の力を発揮できれば相手にもならないはずだからな。
「コータ、私はか弱いですよ?きちんと守っていただかないと。」
「謙遜するなって。十分以上にティアは強いよ。」
昨日のこともあるから、こういう展開になると少々恥ずかしいな。
「そんなこと言って、昨日はキs」
「次は竜族と対峙してからのことだな!えーっと、なんだっけ?」
慌ててティアの口を塞ぎ、取り繕おうとする俺。
久々にぶっこもうとしてきたな、この王女様は!
本当に油断ならないな、まったく。
「そういえば、誰かさんが勝つ負けるって一人で盛り上がってたから肝心なそこは詰めてなかった気がするな。」
「俺のせいなのか?でも確かにそうだな。陣形で言えば菱形である必要はないよな。だって敵は確実に一人な訳だし。単純に前衛後衛で前後に配置するか、俺かラディックが遊撃として行動するか。」
「俺一人で耐えられると思っているのか?」
いや、そこは頑張れよ。
制限解除も神化もしてない状態の俺とどれくらいの差があるのかまだわからないんだよな。
相手も力を制限していることはほぼ確実なんだけどどうなのだろうか?
もし今の俺でも決定打が与えられない場合は裏をつく必要もあるかもしれない。
その場合、俺が遊撃に回ることも視野に入れたいのだが。
「どうなるにせよ、前衛に耐えてもらわないと総崩れになるのは目に見えています。勝とうと思うのならば、最初から諦めるなど言語道断だと思いますよ?」
「いや、俺はですね…」
「私も精一杯補助するから頑張ろうよ、ラディック君!」
言い淀んでしまうのもわかるぞ、ラディック。
だって勝つと宣言しているのは俺とティアだからな。
ラディックは試練に臨む姿勢こそ素晴らしくても、勝つなんて一言も言っていない。
「そ、そうだな。内気なキャロルをここまで突き動かすものが何かは知らないが、お前がそこまで言うなら。」
「わ、私だって怖いけど、コータ君とラディック君はそれ以上だと思うから。その後ろにいる私が怯えてたらおかしいと思って…」
「怖くても、怯えてもいいと思うぞ?どんな勇者でも、強大な敵を目の前にしたら怖がりもするし怯えもする。そんな時俺は逃げてもいいと思うんだ。そこから立ち上がる勇敢さこそが本当に必要なものだと思うからな。」
勝てないと分かっている相手に無謀に突っ込んでいくのは勇敢の意味を履き違えたただの馬鹿か、それでも挑まなければならない理由があった者のどちらかだろう。
そんな状態で後者は稀だと思う。
人生で何かから逃げることは誰だってある。
だから。だから、そこから立ち上がる勇気こそ本当に必要だと思うのだ。
俺は家族から逃げることを選んだ。そしてその後、家族と向き合う勇気を持てなかった。逃げ続けたのだ。
俺があの時持てなかった勇気を、今度は俺も。
「この試練、最初から立ち向かえた奴らは勇敢なのか、無謀なのか計りかねると思うんだ。でも、怯えて、怯んで、それでも立ち向かえたものこそが一番価値のあるものを手に出来ると思うな。」
「そ、そうだね。こ、怖くても、どれだけ怖くても、少しの勇気が出せるように頑張るよ!」
勝つことなんて本来の試練の目的ではないんだ。
キャロルのその決意こそが試練に求められた原初の意味だと俺は思っている。
何故なら、これは成人を迎えるとは言ってもまだ十五、六の少年少女達が挑むものなのだ。
それが百年単位で生きてきた竜族に勝つなんて考えられていようはずもない。
子供達が少しの勇気を得るための試練。それこそがこの試練の目的だろう。
「その意気だ、キャロル。じゃあ、次は…勝鬨の練習か?」
「いや、もっと練度を深めるとかあるだろ⁈」
分かってるよ!
「いいですよ、コータ。」
「何がだ?」
手を広げて案山子のように立つティア。
「何って勝った時の練習をするのでしょう?私を持ち上げてクルクルするのではないのですか?」
「……少し違う気がするんだけど。」
なんだかそれでは、あはははは、あははははって感じでおめでたいイメージしか湧かないのだが。
「背中を向けて決めポーズとかかな?」
「それもどうかと思うぞ。」
またどこかの勇者だな?
どこの戦隊モノを踏襲したのかは知らないけど、あまり異世界を染めないでほしい。
「じゃあ、各々が思う勝った時の為に勝てるよう作戦を考えるか。その後、連携を確認しよう。」
でも、勝った時ってどういう勝鬨を上げるものなのだろうか?
イマイチどれもしっくりこないな。




