悪いのは
「お姉様、お久しぶりです!」
「そんなことはどうでもいいんだ。」
ど、どうでもいいだって…
ああ、ヤバイ。俺の心は今、細い枯れ木のように寿命を終えようとしている…
「そんなことよりも怪我はしていないのか⁈突然いなくなったと思えば、一人で魔物の森へ行ったと聞いたぞ!それに昨日は賊の襲撃の場に居合わせたそうじゃないか!」
「も、もしかして心配で見に来てくれたんですか?」
「当たり前だろう。いくら強くなるためとはいえ、一人であの場所に赴くのは危険すぎる。本当は一昨日に無事を確認しておきたかったのだが、戻って来たという情報が私の所に入ったのは一昨日の放課後だったからな。昨日と一昨日は心配で夜も眠れなかった。」
で昨日は休みだったから無理だったわけか。
それにしても、こうも直接的に言われると恥ずかしくなるな。
なんだかこのお姉様の真面目さというか純粋さからくる素直さは、俺には耐性がないようだ。
枯れ木も今じゃ立派な大樹へと蘇生された。
「 あ、ありがとうございますお姉様。」
「やっと見つけたよ、コータ君!ミランダに色々と吹き込んだのは君だね⁈」
フェリシアお姉様の後ろからいきなり現れたグリター先輩。
いきなり何の話かとも思ったが、あれだな。ミランダ様にグリター先輩の女性関係をリークした話だな。
でも、生徒会長ともあろうお人が俺だと決めつけて来るとは。
だって発端は俺だったかもしれないが、取り返しのつかないことをリークしたのはウチの三人衆だ。
「俺はただ、グリター先輩は女の子で遊んでいると言っただけです。」
「なにその外聞のすごく悪い言い回しは⁈」
「え〜。だってお姉様を手玉に取って好き勝手遊んでいるじゃないですか。卑怯ですよ、先輩!俺だってお姉様と心ゆくまで遊び倒したいんですから!」
「おい!その言い方は私にも失礼だぞ!」
「俺とも今度遊んでくださいね、お姉様。」
「では誰が…」
その犯人達は今、パイセンの目の前にいますよー。
「仕方なかったんだよ。聞かれたから事実を話しただけだもん。」
「ん。嘘はついてない。誤解させるような言い方もしていない。」
「私も何か言わなきゃって焦らされたんだから逆に貴方が責任を取りなさいよ。」
あ、犯人グループが自首した。
俺の話の裏付けを行ってくれたのだが、別にミランダ様が話せと言ったわけではない。リルはともかく、クオとレティは完全に悪ノリだった。
それにリルの言い分もめちゃくちゃだしな。
「でも昨日も見たんだよ。紙束を女の子と一緒に運んでいるところ。」
「それは重そうだったから手伝っただけで!」
「こ、今回は私もちゃんと見たんだから!この前、食堂で食べさせあいっこしてたわ!」
食べさせあいっこ………リルが可愛いんだがどうしよう。
「私も見た。図書館で黒髪の私くらいの体格の女の子の頭を撫でようとして手で跳ね除けられてた。」
「ブフッ、な、なんだそれ…ドンマイ、先輩!」
「ま、まさか見られていたとは…ディムちゃんの頭って撫でやすいところにあるからつい手が伸びてしまうんだよね。毎回拒否されるけど。」
ん?誰かが同じようなこと言ってたような。
誰だったっけ?まあそいつも先輩と同じような奴なんだろうな。
まあ分かるのは、グリター先輩は悪気があってそんなことをしているのではないということだ。
この人、基本優しいからな。
「まあ、そんなわけで悪いのは満場一致でグリター先輩ってことですね。」
「釈然としないけど、これ以上話していても僕が一方的に不利になりそうだからやめておくよ、はぁ。」
ミランダ様に何されたんだ?
とにかく、俺たちは嘘も吐いてないし本当のことしか話してないので悪いのが誰かは一目瞭然だ。
え?俺は嘘はついてないけど本当のことも話してないって?
細かいなぁ。誰がなんと言おうと俺は悪くないんです!
「それでグリター先輩。用事はそれだけなんですか?」
「コータ君は僕に対して少し冷たいよね。いや、ここ数日ね、フェリシアが情緒不安定だったから心配だったんだけど。」
「情緒不安定?」
それはいけない!
お姉様に何かあったのか⁈
「君が休んだ日からかな、最初は心配そうにしていただけなんだけどね。急に怒り出したり、かと思ったら恥ずかしそうにしたり。暇な時には空を見て物憂げにボーッとしてたりもしたかな。」
「な、何を言っているんだ、グリター!私はいつも通りだったではないか!」
「どの口がそんなことを言っているんだい?この多忙な時期に生徒会の仕事が滞り始めているのは誰のせいかな?」
「うぐっ。仕方ないではないか!約束の予定を詰めようと思ったら休みだと、数日帰ってこないとまで言われれば怒りも湧く。その約束の内容を思い出すと恥ずかしくなるのも当然だろう!」
約束って素のお姉様を見せてもらうってやつと膝枕のことだろうか?
もしその予定ならいち早く詰める必要があるな。
きっとお姉様も俺に膝枕したいに違いない、うん。
「物憂げにボーッとって言うのはどうされたんですか?」
「そ、それはだな。約束の日のことを考えていると心が踊るように弾んだのだが、何故かコータがいない現状をふと思い出した時、心がすごく空虚になってな。」
キャー、恥ずかしい!
でも俺もお姉様信者ですから、そのくらいのこと毎日ですよ!
「それじゃあ、お姉様。今から日取りを決めましょうか。お姉様のご都合の良い日で構わないでs」
「何を言ってるんだよ。やっと見つけたと思えば即サボりか!ほら、試練の前日なんだから出来ることをやるぞ。」
「なっ⁈ラディック、テメェ!俺のお姉様との幸せライフを邪魔しようってのか!子々孫々呪ってやる!」
「お前が言うと冗談に聞こえないからやめてくれ。それでは会長、副会長。こいつ連れて行きますんで。」
こ、こいつ⁈本当にラディックか⁈
この有無を言わさない堂々たる立ち振る舞い。人は短期間でここまで成長するものなのか…
「私の用事は別に放課後でもいいから、今は君たちに譲ろう。頑張れよ、コータ。」
「僕も他に用事が山積みだからお暇させてもらおうかな。君が勝利することを願っているよ。」
まあ、ラディックが全面的に正しいので仕方ないな。
「で、何をするんだよ。草原での陣形の確認?それとも街道での?」
「全部だな。」
大雑把か!
でも、今出来る事は全て確認しないとな。




