勇者召喚とその理由
夕食を終え部屋に戻ってきた。
食事は美味しかった。転生・転移によくある文字通りのメシマズじゃなくて本当に良かった。
内容的には、パンとシチュー、それとサラダ。飲み物は色も味もリンゴのようなジュースだった。近い味覚でよかったと思う。
そして今、何をしているのかというと、やっとレティの話を聞くことになった。
食事の時に聞けばいいとも思ったが、どうやら人に聞かれては不味い話らしい。
「じゃあ、聞こっか。レティが来た理由」
「ん。クオリティア様、この世界は勇者召喚の時期。ロアに言われてそれを伝えに来た」
「なるほどね。確かに食堂ではできない話だね」
「どういうことだ?勇者召喚なんて一大行事だろ。民全員が知ってるんじゃないのか?」
「それ自体はさほど問題じゃない。今からの話が重要」
「コータはどういう時に勇者召喚が行われると思う?」
どういう時...そりゃあれだろ?
「魔王退治とかじゃないのか?」
「そう。普通はそういう特別な理由で召喚されるんだよ」
「でも、この世界は違う。魔王はいる。だけど、今は世界征服とか、暴虐破壊の限りを尽くすなんて事やらない」
じゃあ、何のためかさっぱりだな。
「コータ、創造神は全てを司るって言ったよね」
「あぁ、言ってたな。だから最強なんだろ?」
全てを最善の状態で扱えるらしいからな。無敵も無敵、超無敵。
無敵に素敵にスキップだ。意味わからんが。
「でもね、実は司って無いものがあるんだよ」
「え?それじゃあ、『それ』の神はどうなるんだ?」
その実、弱点になりうるんじゃないかとも思う。
「メーティスは『それ』の神を創らなかったんだよ。神にするにはメリットがないと判断した。でも、『それ』は神の唯一の敵になった。......『それ』の正体はね、悪だよ。」
「悪って事は、悪神とか邪神とかはいないってことか?」
「ん。だから時々私が間違えられる。面倒」
確かに名前的に似てるというか、捉え方によってはそっち側だしな。
「悪のメリットって何だと思う?」
「悪にメリットなんてあるのか?考えた事なかったな」
「悪はよく争いを生み出すんだよ。そこに生まれる技術発展が唯一と言っていいメリット」
「あぁ。確かに聞いたことあるな。戦争なんかが技術を発展させたって」
それが良いか悪いかは別として、事実技術発展は起こっているのだろう。
「でも、神にとってそれはメリットになり得ない。だから、メーティスは創らなかったんだよ。…でも、創らないことにデメリットもあった。それは、限界が分からないこと。神は到達点、言ってみれば限界点なんだよ。でも、悪は神がいないからこそ、そこが未知数。だからといって、最大を創って世界の存続の危機を招くよりも、創らないことを選んだ。創った場合、クオも悪を司るからね」
なるほど。メーティスは世界の存続をまず第一に考えるんだったな。
「だから神にはいないけど、別に悪意がないわけじゃないの。剣神が剣だけじゃなく、努力すれば魔法も使えるように、神も悪意を内包することがあって、それが肥大化してきたら止めるのがクオたちの役目なんだよ。これが人間規模になったとき、それを止めていたのが勇者や英雄だったの」
なるほど。
悪意に類する感情はあるけど、その限界が分からないから、唯一の敵になる訳か。
「そして勇者なんだけど、確かに昔は、この世界が危機になった時、自分達で対応できなくなった時、勇者召喚が行われていたの。今もその側面がないとまでは言わないよ。でも、目的が変わってきていることは確かかな。…一連を説明するにあたって、まず勇者召喚っていうのは、魔力のない世界からのポテンシャルの高い人間の召喚なの」
行方不明のニュースとか時々見たけどこれが理由の人達もいたのかもな。
「ポテンシャルが高いって言っても、この世界の英雄クラスは殆どいないかな。せいぜい騎士団長程度で、具体的には才能値平均5とかなんだけどね。じゃあ何で召喚するのかなんだけど、まずトレーニングとかでステータスが上げやすいからだよ。レベルアップでステータスも上がるから、それが作用しあって相乗効果を生み出すの」
そうだな。俺だってレベルが7上がっただけですごい実感したんだ。あの持久力で走り回ってるだけでも効果ありそうだ。
鍛錬による上昇が、ステータスの上昇で起こりやすくなったりもするのかもしれない。
例えば、普通の筋力では持ち上げられないようなダンベルとかをステータスで無理矢理とか、ステータス任せの無限ジョギングとか。
鍛錬補正が付きやすい魔力のない世界の住人。
これだけで異世界から召喚するだけのメリットになり得る。
「もう一つが、神からの、別世界の勝手な都合で死なないように、って付与するスキル。これは戦場に向かうものが死なないように、だけどバランスが崩れないように与えるスキルだよ。力を与えすぎてその勇者が支配しそうになった時もあったからね」
いきなり強大な力を与えて狂う人がいてもおかしくないか。
「これが勇者召喚のシステムだよ。そして今の状況として、魔王とかの共通悪が居なくなったこの世界で、勇者召喚の魔法だけが残ったってところかな。勇者召喚の魔法に使用される魔力は膨大ですぐに賄えるものじゃないから、神に祈願することでそれを賄うという構図が出来上がっていたの。…だけど、悪が居なくなった世界では勇者召喚に急を要する必要がなかったんだ。だから、今度は自分達で年月をかけて魔力を貯め出したの」
なんとなく読めた。
「最初は何処かが勇者召喚を行なって、その勇者を使って悪巧みをし始めた。それを別の国が勇者召喚を行なって食い止める。段々とその連鎖になっていくのは必然だった。そして、更に月日は流れ、お互いの牽制のためだけに召喚を行うようになったの。これが勇者召喚の現状」
「そして、その勇者召喚の時期が今。私はそれを伝えに来た。あと、クオリティア様だけずるいから一緒に行くことにした。神界、暇」
いいのか神様、そんなんで。
同僚の神様に心の中で合掌しておく。レティとクオのサボり分まで頑張ってください。
「このくらいかな。まあ、でも神もただ与えるだけじゃ暇だって言い始めてね。いつからか、勇者召喚は神の暇潰しの側面もあるね。人数多くなってからは、誰が一番勇者っぽいスキル与えられるか、なんてやってるよ」
ホントに大丈夫か?
「前の時はギャグに走ったのが人気だったよ。聖剣スキャンダルとかだったかな?不壊属性じゃなく、不快属性とか言ってたよ。ちゃんとしたスキルも一緒に与えてるから止めてないけどね」
その聖剣の持ち主の勇者可哀想だな。合掌。
「眠くなってきちゃったよ。そろそろ寝よっか」
「そうだな。じゃあ、俺は端の方で」
「真ん中。じゃないと不平等」
え、なにが?不平等ってなんですか?
「そうだよ。クオかレティのどっちかが隣で寝れないじゃん」
「いやいや、駄目だって」
「いいから真ん中」
えっ?力強っ!
改めて神のすごさを実感した。…けど、今じゃない感が半端なく微妙な気分だ。
くっ、もう覚悟を決めるしかないのか。果たして俺は我慢できるのだろうか...
「えへへ〜。おやすみ、コータ」
「ん。おやすみ、光太」
「あ、あぁ。おやすみ、クオ、レティ」
二人の美少女が両隣から抱きついてくる。
あぁ、天国はここにあったんだなぁ。
しかし、両手に抱きついているので身動きできないね。
変な気を起こす余地もなかった。
惜しいような、ありがたいような。
目を閉じるとすぐ意識は闇の中に沈んだ。
慣れないことの連続で、結構疲れていたみたいだ。
おやすみ。
こうして異世界1日目が幕を閉じた。
勇者っぽいスキルの捩りをじゃんじゃん募集します。作者の気に入ったものは作品に登場させますのでどしどしお願いします!お待ちしてます。
手違いで二話投稿してしまいましたが、明日の投稿は通常通り行います。




