再確認
「でも話すっていっても直近だと時間がないよなぁ。」
「いえ、明日にでも話すことにします。私たちは明後日が試練の日なので。」
「そっか。こういうのは早い方がいいもんな。」
明日は確か、他の諸学校の生徒達が試練を受ける日だったな。
ここが学園都市と言われているのは、何も都市の四分の一を占める魔法学園があるからだけではない。
西区を占める魔法学園の他にも、北区角には大小様々な学業機関があり、実際のところこの巨大な都市の半分を学業機関が占めているからである。
明日の試練初日はその魔法学園以外の学生達、この町以外の王都からの学生なんかもだが、彼ら彼女らが受ける日になっている。
俺たちが受けるのは明後日だ。
そして三日目、四日目に一般という枠が設けられ、数が多い時には五日目六日目と伸びることもあるらしい。
「それで今の今まで忘れてたんだけど…」
「なんでしょうか?」
「なんか転移した瞬間から衝撃的過ぎて忘れてたんだけど、俺ここに来る前クオ達と花火見てたんだよな。」
花火を一緒に楽しむ前に転移してきたのだが、今は外には綺麗な星空と夜の静寂が町が眠っているのではと錯覚させるほどである。
理由は多々あれど、どうやら長居し過ぎてしまったようだ。
「早く帰らないとなんと言われるか…」
「そうですか。そうですよね、とても名残惜しいですが突然お呼びたてしたのは私です。クオ達には申し訳ないことをしてしまいましたね。」
帰りづらい…
これはどうしたものか。
そうだ、空間魔法の遠話でクオと話してみるか。
何故すぐに思いつかなかったのかと自分に対して思わなくもないが、また自責の念にかられるのも嫌なのでスルーだ。
「ちょっとクオと話すから待っててくれ、ティア。」
「?分かりました。」
「あー、クオ聞こえるか?光太だけど。」
側から見れば変人確定だろうな。
虚空を見上げて大きな声とまでは言わないが、なかなかの声量で、しかもこの世界の人々からすればなかなか凄いらしい詠唱破棄。
影さん、どうか報告を控えてもらえると助かります。
「聞こえてるよー。大丈夫なんだよ、今日くらいそこにいてあげるといいんだよ。」
「どういう状況か理解してるのか?」
「詳しいことは分からないけど、ティアに渡したコータ作の魔法道具で強制召喚されたんでしょ?ティアが悪戯でするとも思えないし、こうしてコータが連絡して来るとしたら帰ってこられないか、帰りづらい状況にあると推測くらい出来るんだよ。」
クオが珍しく理知的に感じる。
「コ、コータはもうちょっと自分が使う魔法のことを知った方がいいんじゃないのかな?明日学園に行く前にそっちに寄るから、じゃあね!」
「あ、切れた。なんで最後怒ったんだ?」
「話は終わったようですね。ところで、コータ。今のは空間魔法の遠話ですよね?」
「そうだけど。」
空間魔法を得意としているティアだ。
その属性の魔法となれば気になったりもするのだろう。
「何故コータは話していたのですか?」
「そりゃ、話さないと始まらないだろ?」
「すみません、伝え方が悪かったようですね。何故、コータは言葉を口にしていたのですか?遠話は伝えたいことを口にせずとも考えるだけで相手に伝える、念話の能力も兼ね備えているはずですよ?」
「そうだったのか?」
いや、前にレティか誰かから聞いたような…
なかなか使う機会がないから忘れがちだな。でもそんな魔法を使えば考えが相手に読まれてたい、へ…ん………
あっ!
「ま、まさかとは思うけど、遠話を使ったら伝えたくないというか、自分がふと思ったようなことまで伝わるのか?」
「そうですね。そういう事例は報告されているようですよ。それで夫婦の仲に亀裂が入った、逆になかなか想いを伝えられなかったのに遠話のおかげで心がダダ漏れになりゴールインしたなど様々ですが。」
いや、それは。
なかなかの対極具合だけど、遠話で告白って自分でもびっくりのサプライズ告白だよな。
と、いうことはだ。
「さっきの珍しく理知的ってのもクオに聞こえてしまったということなのか…」
「そんなこと言ったんですか?クオはなかなか賢いと思うのですが。」
そんなこと近くにいる俺が一番知ってる。
まあ、客観的に見ても最高神という全ての上に立つ存在が賢くないわけがないんだけどな。
でもなんというか、クオは可愛さが際立ち過ぎて他の素晴らしい要素が全て可愛さの引き立て役になっているというかなんというか。
それにその枠はレティが陣取ってしまっている感が強い。
「ま、まあ、明日は平身低頭の構えで行くしかないな。」
「私も一緒に謝りますので大丈夫ですよ、きっと。」
一緒に謝られる意味がわからないが、そう言ってもらえると心強い。
最後のきっとで心強さが半減したりはしたがな。
「それで、クオから今日はここに居ていいとお許しが出たんだけどもう少し話さないか?」
「いいのですか⁈では今日は夜更けまで語り尽くしましょう!」
まあ、俺自身に言いたいことはただ一つだな。
何を?と問いたい。
俺にそんな話すようなことがあっただろうか?そうだな、ティアの話を聞くことに専念しよう、うん。
「そうですね、コータの昔話が聞きたいです!」
「いや、それはちょっと…」
俺の昔話は想像以上にこの場の空気を重くさせる予感しかしない。
となれば、俺の黒歴史の話しか残らないわけなんだが。それもなぁ…
「ダメ、でしょうか?」
「……分かったよ、俺の暗黒部分を聞いてもらおうじゃないか。」
そんな濡れた瞳で、更に上目遣いで、その上こんな美少女に言われたら断れようはずもないじゃないか!
卑怯だね!
「俺さ、この世界に来る前は時に世界最強の剣士だったり、世界を阿鼻叫喚させる魔王だったり、全てを支配する神だったりしたわけなんだけど。」
「コータのいた世界は魔物もいない、理知的種族は人族だけしかいない世界だと聞き及んでいたのですが違ったのですね。」
俺は何を言っているんだ…
それにティア、そんなに真面目に今の話を考えないでほしい。
「それにしてもやはり、コータはどこにいても凄い。そういうことですね。」
「違うぞ、断じて違うからな。という設定の元、毎日を消費していたというだけだ。」
おい、そこの端っこで今気配が揺らいだぞ!
今の今までどこにいるのか掴ませなかったくせに馬鹿にしてるのか!
「俺は自分が何も持っていないことを理解した上で、何も手に入れようとせず、その努力も怠って、ただ空想の中に生きてたんだ。」
「コータも私と同じだったんですね!」
こんな話にする予定ではなかったんだけどな。
それに俺とティアは違う。
ティアは立場も努力もあったししていただろう。だから勇者召喚という大義に強制参加なんてさせられてしまったんだからな。
これは努力したからいけないなんて言っているわけではない。
ただ、ティアは努力をしていた根拠として挙げただけだ。
それに対して俺は何か自分の欲しいもののために努力なんてしたことはない。
強いて言えばクオと出会ったあの日以来、クオを探すことに躍起になっていたあの頃だけは自分でも頑張っていたと思う。
だが、将来を、友を、居場所を手に入れたいとは思っていても、それに対して何か努力をしたかと問われればしていないと思う。
その点において俺はティアと同じとは到底言えない。
それはティアに対して失礼だ。
「俺の今ある立場って殆どが貰い物なんだよ。クオやレティ、リルが俺の居場所を作ってくれてるんだ。もちろんティアもだぞ。だから俺はみんなに恩返ししないといけないとも思っててさ。この世界に来て初めて努力しようと思えたんだ。」
何よりも諦めが勝ったあの頃とは違う。
今は諦めることを忘れさせてくれたみんなとの約束を守る為に努力しようと思えている。
「ふふっ。コータのその真剣な眼差し素敵ですよ。でもそうですね、私もまだまだ頑張らないといけないようです。」
「ティアは何を頑張るんだ?」
「内緒です。気を使わせるようではまだまだですから。一番に私の名前が出て来るまで、とは言いませんが、流れで出て来るようにはなってほしいものですね。」
あ、なるほど。
少し気まずいので触れないでおこう。
その後、お互いの過去について語り合い話しているうちに眠りについたティアに布団をかけ、外に控えていたメイドさんに客室へと案内してもらった。
これで客室なのかと驚いたりもしたが、なかなかの眠気に耐えきれずそのまま倒れこむようにベッドにダイブした。
ふかふかぁ…おやすみ。




