有能メイド
ティア視点です。
「付き合っていただきありがとうございました。楽しかったですよ、コータ。ではまた明日。」
「ああ、また明日な。」
「バイバーイ、ティア!」
「また明日。」
「じゃあねー」
挨拶を交わし去っていく四人の背中を見ながら思います。
早く私もあの輪の中に入れたらどれだけ幸せだろうか、と。
「セレスティア様。時間が押してますのでお急ぎ下さい。」
「わがままを聞かせて申し訳なく思っています、メアリー。急ぎましょうか。」
この後のパーティーに私が欠席するわけにもいきません。
無理を通して今ここにいるのですから、その対処をしてくれたメアリーには感謝ですね。
「いえいえ、どうぞセレスティア様。それでどうでした?楽しまれましたか?」
「ええ、存分に。今からの面倒を処理できるくらいには満足できました。」
メアリーが開けてくれた馬車の扉を潜りながら答える。
貴族の開くパーティーなんて打算に打算が重なり合い、陰謀に陰謀が絡まり合う。そんな場所です。
そんな中に王女たる私が行けば、不本意ながらその中心になると言っても過言ではないのでその対処が面倒なのですよね。
ですが、クオとリルエル様の言うコータ成分とやらの補充は済ませたので何とかなりそうです。
「皆さんお早いですね。」
「はい、セレスティア様。明後日には死力を尽くさなければいけませんし、明日も一日その訓練。最後に英気を養っておこうかと。」
こんなパーティーで養われる英気があるのでしょうか?私には理解出来ません。
パーティーは王家が所有する屋敷に会場が用意されているので、即ち私は今そこに住んでいるのですが、帰ってきた時にちょうどクレイを始めパイロ、ウィテラ、ブリーシアと会いました。
着飾った姿は立派な紳士淑女です。
「セレスティア様は今帰りですか?あの後から今までコータ達と見物?」
「はい。と言っても少しアーンしたりされたりしただけですが。」
「コータもよく照れずにやるよな。俺だったら恥ずかしくて出来ないな。」
パイロがそんなことをやっているところは想像出来ませんね。
「セレスティア様。急いだ方がいい。そろそろみんな集まり始めてる。」
「本当ですね。では皆さん、また後で。」
ブリーシアの言葉に後ろを振り返ると、馬車が次々と入って来ています。
急がないといけませんね。
先程からなんだ同じことを思っていることか分かりませんが、これはパーティーに参加したくない私の心の表れでしょうか?
「カレン王女殿下、ミランダ王女殿下、セレスティア王女殿下のご入場です!」
パチパチパチパチ
品の良いリズムで刻まれる音はさすが貴族だと思います。
そういうところは厳しいですからね。
そんな音に包まれながらゆっくりと階段を降りて行きます。
階下の会場に着いたと同時にカレンお姉様が大きな声で語られました。
「今日はお前達の成人を祝うと同時に、明日から始まる試練への英気を養う場だ。存分に楽しんでくれ!」
パチパチパチ
始まりました。今から色々な方々が挨拶に参られるでしょう、実に憂鬱です。
まだ貴族の子弟ということもあり、そこまで気を研ぎ澄まさなければならないということもないのですが、それでも中には一人二人お腹が真っ暗な方々はいらっしゃいます。
「お久しぶりです、セレスティア様。」
「ええ、お久しぶりですね……」
これだけの人々の名前を覚えている自分を賞賛したいくらいです。
さあ、蓄えたコータ成分に働いてもらう時間がやってまいりました!
「……そうなのですね。はい、ではまた。」
ふぅ、これでやっと終わりでしょうか。
「セレスティア様、果実水をどうぞ。」
「ええ、ありがとうメアリー。」
実に有能なメイドですね。
時に姉であり、時に有能なメイドであるメアリーは私にはなくてはならない存在。
今まで精神的な面で何度救われたか分かりません。
昔から一番身近にいてくれたのはメアリーでしたからね。
「お疲れ様です、セレスティア様。一度退室されて休まれますか?」
「いえ、大丈夫です。いつものことですから。」
いつもの方が今日の上位互換だとも言えるので今ので休まなければならないほどではありません。
「少しよろしいでしょうか、セレスティア様。」
「はい、大丈夫ですよ。あなたは…初めましてでよろしいでしょうか?」
「はい、お初にお目にかかります。ゲラル男爵家長男の」
と会話の途中でマイクの音が入り会話は中断されることになりました。
「毎年恒例の花火の時間がやってまいりました!奥の方にいらっしゃる方々はどうぞ、窓際の方に移動されてください。」
花火が始まるみたいですね。
私も見るのは数年ぶりなので楽しみです。
王都ではあまりないですからね。
「あ、すみません。ゲラル男爵家の…あれ、聞いたことないのですけど、どこの領地の家名でしょうか?」
「ハハハ、セレスティア王女殿下がご存知ないのも無理はありません。」
私が知らない家名などあるはずがありません。
これは、そういうことでしょうか。
「『切り裂け』!そんな家名は無いんだからなぁ!」
「危ない!がぁっ!!!」
ひゅ〜……ドーン!
「キャァァァア!!!」
え………メ、メアリー?
この傷は回復魔法の得意なミランダお姉様でも無理でしょう。
ど、どうすれば!このままではメアリーは、メアリーは死んでしまう!
「ミランダお姉様!延命だけでもお願いします!」
「わ、分かりました。任せて下さい!」
あとはこの傷を治せる人物…
「チッ、邪魔が入ったか。でも、さすがは王女様。敵を前にして無視とは余裕ですなぁ。『切り裂け』!」
「お前、誰の妹に手を出しているのか理解しているのか?ハァ!」
また魔法を放ってきたようですが、今度はカレンお姉様が手で振り払うだけで魔法を消してみせました。
さすがカレンお姉様。コータの魔法も凄いですが、カレンお姉様の体術は魔法をかき消すほど…
「そうです、コータを!お願いです、コータ!メアリーを、メアリーを救って下さい!」
コータに前に貰ったネックレスへと魔力を流しながらありったけの想いを込めます。
すると、一瞬の閃光ののち目の前に。
「ろうからな。」
「コータ!メアリーを助けて下さい!早くしないと死にそうなんです!」
「は?」
来てくれました。
まだ状況を掴めてはいないようですけど来てくれました。
メアリーはこれで助かりそうです。本当に良かった…
「………メアリーさんはどこに?」
「ここです!」
私は試練という大事で、他への意識が疎かになっていたのかもしれません。
すみません、メアリー。
メアリーが目覚めたら心から謝罪しよう、そう思いました。




