学園都市グロウ
今、俺達は街の門番の兵士達と話をしている。
主にレティが、だが。
何故こんな事になったのかというと、話は一時間前に遡る。
「これで街に行っても怪しまれないな。いや、普通の人から見たら怪しいのか?」
「ん。才能値それでも高い。街に入れるようになっただけ」
「それは、今後の為だからね。仕方ないよ。それよりも、早く出発しようか。街からそんなに遠くないけどそれでもあと二、三時間もすれば日暮れだし、それと同時に門が閉まっちゃうから」
「そうだな。じゃあ行こうか」
こうして、やっと街に向かって出発した俺達だった。
〜〜〜三十分後〜〜〜
道は踏み固められただけの道で舗装なんかはされていない。
なので魔物の森に来る時はとても辛かったが、今はレベルアップのおかげかスタスタ歩ける。レベルアップ様様だな。
「いやー、レベルアップしたおかげで全然疲れないな」
「でも、自分に見合う魔石でレベル上げないと足元掬われるんだよね。自分で倒さず魔石でレベル上げしてるとスキルが得られないし、高くなった能力に振り回されるから」
耳が痛い。
「はい。しっかりと精進します」
「うむ、よろしい。...なんちゃって。えへへ」
今日もクオがかわいい。
「それで、自分で倒した魔石でも自分よりも低レベルな魔物でレベル上げしてると上がりにくいし、いざという時に対応出来なくなる。安全マージンも大事だけど取りすぎも良くないってことだね」
なるほど。肝に銘じておこう。
「おっ、また魔物が出てきたな。やっぱり俺も戦ったら駄目か?」
街道は魔物の森の横を沿うように通っている。
魔物は頻繁には出てこないが、警戒していないといけない程度には出てくる。
最初は怖いかと思ったが、それほどでもなかった。クオとレティが出てきた瞬間に魔法で倒していくので、それも理由の一つかもしれない。
なお、倒した魔物は魔石を取り出して燃やしている。
放置すると、魔物が寄ってくるので後から通る人たちの邪魔になるようだ。
なので持ち帰らない分は燃やすか埋めるのがマナーらしい。
「駄目。街に着いて武器手に入れてから」
「そうだよ。コータ素手で戦えるの?」
素手なんて無理だ。かといってまだ魔法も使えない。
今の俺は、少女二人に戦闘を任せて後ろで踏ん反り返っている男だ。
周りから見てもクソ野郎だし、字面だけでもクソ野郎だ。
人目関係なく俺も居心地が良いわけではない。
「気にしなくてもいいよ。明日からはコータも戦ってくれれば良いだけだよ」
「ん。そんなに数も量も多くない。平気」
「そう、だな。明日からは二人を守る為に尽力するよ」
「期待してる。『シャドウバインド』」
「一緒に頑張ろうね!『ウォーターカッター』」
二人は敵も見ずに、こちらを向いて話しながら連携して敵を屠っていく。
俺は今言ったばかりだが、なんだか恥ずかしくなってくる。
今のは、レティが相手の影を鎖にして拘束し、クオが水の刃で首チョンパという容赦のないコンボだ。
なかなかショッキングな映像だが、最初こそ驚いたが今は何ともない。
これがMNDが上がった影響なのか、元からこういう人間だったのかは分からない。MNDの影響だと思いたい。
「よし、もう直ぐだね。ちょうど見えてきたんだよ」
「ん。もうひと頑張り」
「よし。ササッと行って早く休むか」
それから三十分程で街に着いた。
街は想像していた以上にとても大きかった。
周りは壁で覆われているので中は分からないが、とても強固そうだ。道中で襲ってきた魔物程度ではビクともしないだろう。
街に入る為の門には行列と言うほどではないが列ができている。
なので素直にそこに並んだ。
「もうちょっと小さいの想像してたけど、意外と大きいんだな」
「魔法っていう便利なものがあるからね。こういうデカイのとかコータの世界と比べて作りやすいんだよ。ただその分技術の進歩は遅いから、コータの世界の中世程度かな」
「ん。魔法は派手なの得意。でも、過去の古代文明は進歩し過ぎていた」
「自滅して今は面影もないんだけどね」
そんな話をしながら待っていると、後二、三組というところまで来た。
しかし、ここで重大な事実が発覚。
通行証がない、さらには金もない。
どうしたもんか...
「クオとレティはお金持ってるのか?」
「ないよ。完全に忘れてたね...。どうしよっか」
「私に任せて。クオリティア様、魔石を幾つか下さい。あとは話を合わせてくれればいい」
「うん、任せたよ。はい、魔石ね」
「今回こそ役に立ちそうにないから、邪魔しないように頑張るよ」
そうして順番がきた。
「通行証を見せてくれ。ない場合は一人銅貨三枚だ」
「......来る途中で魔物に襲われて逃げてきた。その時に一緒に通行証とお金を入れてた袋落としてしまった」
「そうか、入れてやりたいが規則でな...。あっちに詰所がある。あまり長くはおいてやれんが、そこなら居てもいいがどうする?」
この門番は良い人のようでよかった。
しかし、レティもよく考えつくな。俺だったら慌ててただけだっただろう。
「でも、もしもの時の換金用の魔石はある。これで足りる?」
「あぁ、これなら安い宿なら何日かは泊まれるぐらいは余る。ギルドとかで換金した方が高いがここで全部換金していいか?必要な分だけでもいいぞ」
「じゃあ、宿分も欲しいから一つ多くお願い」
「わかった。オークの魔石二つで銀貨二枚。通行料三人分で銅貨九枚。銀貨一枚、銅貨一枚のお釣りだな」
銅貨十枚で銀貨一枚か。
オークの魔石が高いのか安いのかは分からんな。
「ありがと。通っていい?」
「ああ、いいぞ。どこかで通行証発行してもらえよ。場所がわからないなら明日もここにいるから聞きに来い」
「大丈夫。今回は冒険者ギルドの登録に来た。魔物もキュクロプスだったから逃げただけ」
レティがそう言った瞬間周りがざわめき出した。
「おい嬢ちゃん。それはどこらへんだ?あいつら鈍いから逃げるのは簡単だがいかんせん馬鹿力だ。被害が出る前に倒さねぇと」
「ここから歩いて四十分くらいのところ。広場になってる場所」
キュクロプスってのはヤバい奴らしい。
全てが拘束からの首チョンパだったので、どれがヤバいやつか分からない。
「じゃあ、行っていい?」
「あ、ああ。教えてくれてありがとう。またな」
そうして俺は異世界初の街に足を踏み入れた。
綺麗な煉瓦調の建物がズラリと並んでいて、その間には綺麗に舗装された石畳になっている。
夕方前だからか家路を急ぐ人たちが多いように思う。
「クオが言った通り中世って感じだな。まあ、イメージでしかないけど。ていうか若い、学生?が多くないか?」
「ん。ここは学園都市グロウ。だから、学生が多い」
学生?じゃなくて学生で合っていたらしい。
制服のようなものだと思ったが、制服で合っていたみたいで、学園都市らしく様々な制服を身に纏っている。
「そうなのか。魔法とか学べるなら行ってもみてもいいかもな」
「そうだね。でもまずは宿とろうよ。何するにしても明日からだね」
「そうだな。見つからずに結局野宿とか嫌だもんな」
門から入ってすぐの場所でこの後のことを話し合う。
邪魔になっていると気づいて足を進めて少しして、
「見つけた。二件先の左側」
「安らぎの宿、いいんじゃないか?ザ・平凡って感じがいい」
「余り声出すと聞こえちゃうよ」
「俺は褒めてるんだ。エデンの園とか言われるよりも百万倍マシだな。」
「ん。普通が一番」
「もー。入るよー」
俺たちはスタスタ入っていき、
「ようこそ、ザ・平凡安らぎの宿へ。お泊まりですか?」
そこには笑顔がとても眩しい、同い年くらいの少女がいた。看板娘だろうか?
その笑顔が逆に怖い!という言葉がよく似合う笑顔だ。
どうやらクオの懸念通り聞こえていたようだな。
だがしかーし!俺は褒めたのであって、決して、決して貶めたのではない。
「すみませんでしたー!決して悪気があったのではありません!」
俺の体は直角九十度になっていると思う。
まあ、あれだ。潔さって大事だよな!
「別に怒ってませんよ。この店は普通を目指してますから。この店が普通で、尚且つ良い店であれば、それは周りがもっと良くなるということですから」
「何と素晴らしいお考え。貴方は心の師匠だ」
「もうわかったよ。ごめんなさい、色々と。それで、一泊したいんだけど」
「大丈夫ですよ。何人部屋ご希望ですか?二人部屋ですと一泊銅貨七枚。一人部屋ですと一泊銅貨四枚。銀貨一枚で三人部屋もありますが、どうなさいますか?食事は朝、夕がついてます。昼は別料金になっています」
「じゃあ、二人部屋と...」
「ダメだよ、コータ!節約しないと。換金しないとお金ないんだからね」
クオは何を言っているのだろうか。
美少女二人と同室なんて色々とキツイぞ?
「いやいや、あんまり変わら」
「光太は黙ってる。お金は大事」
有無を言わせぬ物言いだ。
結局二人に押し切られてしまった。自分が稼いだ金でもないので強く言えなかったのだ。
そういう事にしとく。決して、嬉しいけど一応否定したとかではない。断じて否である。
「三人部屋ですね。キン」
「ちょっといいですか?」
クオが看板娘の言葉を遮り連れて行く。
あ、戻ってきた。
何だったのか気になるが、別にいいか。
「では、三人部屋で銀貨一枚です。はい、丁度ですね。食事はもうご用意できますがどうしますか?」
「部屋で少し休みたいので、その後でお願いします」
「わかりました。食事は右の食堂でお願いします。朝食は朝の最初の鐘が鳴ってから次の鐘が鳴るまでです。遅れないようにお願いしますね。では、お部屋までご案内します」
左手にある階段を登っていく。
笑顔眩しい看板娘の後についていくと、三階の一番奥の部屋に案内された。
「この部屋です。三人部屋は三階にしかないので、すみませんがご了承ください。では、食堂に来られましたら食事をお持ちしますのでお声掛け下さい。では、ごゆっくり」
看板娘の背中を見送ってから中に入る。
部屋の中は、クローゼットに机と椅子、ソファが一つずつにキングサイズのベッド。
あっれー?三人部屋ってベッド三つとかじゃないですか?フツー。
「まあ、俺はソファで寝ればいいか」
「三人で寝ればいいじゃん。ベッド広いんだし」
「ん。超広い。三人寝ても余る」
それはそうかもだが。俺の理性的な意味でですね。
「そんなに嫌なら変えてもらうけど」
「嫌じゃないけど、な。色々不味いだろ?」
色々耐性ないんですよ、俺。
よく聞く毒耐性とか麻痺耐性よりも、魅了耐性を最初に欲しくなってしまいそうな勢いですよ?
「ん。嫌じゃないなら無問題」
「じゃあ大丈夫だね。休憩してご飯食べよっか」
あっれ〜?話終わったよ?どうすれば...
ま、まあ、本当にやばそうだったらソファに移ればいいか。
「もう、なるようになれだ。そうだな、休んでご飯だな」
無理矢理気味に自分を納得させながら少し休憩した後、食堂にいった。
だって、よく考えれば俺的に役得なことしかないからね。




