試練開会の儀
「これより竜の試練開会の儀を始めます!静粛に!」
ついに!ついに始まったみたいだ…
おお、神よ。なぜ私にこのような試練を与えるのでしょうか!
と叫びそうになったりならなかったりしたので助かったというのが俺の正直な感想だ。
それに、試練の正式名称が竜の試練だったことに驚きである。みんな試練試練としか言わないからな。
「あ。あの人見たことあるな。学園でしょっちゅう司会進行をしている生徒会書記君だろ?」
「本当だね。あの人も受験者だろうに大変そうだね。」
そっか。生徒会書記とか言うから勝手に上級生とばかり思ってたけど、よくよく考えればあの書記君もパーティ分けの時、…さん、と僕の四人的なことを言っていたような気がする。
「彼、宰相の息子だからね。ああいうの好きなんじゃないかな?」
「貴族子弟の開くパーティとかでもよく見かける。もちろん司会進行で。」
「それって宰相関係あるのか?」
無いような気がする。
宰相の仕事内容はよく知らないが、国王の一番近くで実務を行うような立場だぞ?
王族以外で国王に次ぐ権限を持っていてもおかしくない、そんな立場が司会進行好きと関係あるとは思えないのだが。
宰相って、総理大臣とか首相のことだろ?
関係あるようには全く思えない。
「国選会議の後のパーティーで宰相はいつも司会進行している。あの姿を見ると親子だと実感する。」
「そういや、あの時ばかりは晴れ晴れとした顔しているな。いつも難しい顔しているのに。」
「俺は飯にしか興味無いからな宰相の顔なんて見たことないな。知ってるか、コータ?あのパーティーで出される料理ってスゲェ美味いんだぜ?」
そんな仰々しい名前の会議の後にある国王主催っぽい会議に出される料理が美味しくないわけないだろう。
そうパイロに呆れた目を向けながら思う。
クレイはおめかしした美しい女の子達を見ながらムッツリを発動しているはずだぞ?
少しはクレイを見習った方がいいんじゃないのか?
「なあ、ムッツリ。少しはパイロもムッツリを見習うべきだよな?」
「そ、それは俺に言っているのか?だとしたらものすごく心外だな。」
あれ?少しどもったけど普通に返してきた。
これでは面白くない。
「ふーん。クレイはムッツリじゃなくてガッツリなんだな。なあ、ウィテラ。今度、その許嫁さんにクレイはムッツリじゃなくてガッツリだったって伝えといてくれ。」
「コータのお願いじゃ仕方ない。任せておいて!」
「なっ⁈や、やめろ!今そんなこと言われたら取り返しが!」
ハッハー!我、大勝利!
腰に片手を当てて足を大きく開いてドーン!とピースサインをかましてやりたいね。
「やめるのも取り返しがつかないのも今の貴方です!そこ!少し静かにしてもらえますか!」
「あ、すみません。」
怒られちった。
まあ、騒ぎ立てたのはクレイだが、ここは立派に大人な態度を取るべきだろうな。
なのですぐ謝りましたとも。
感謝しろよ、クレイ。お前と一緒に罪を被ってやるんだから。
俺って友達思いのいいやつだな!
「ほら、俺も一緒になって謝ってやってるんだからクレイも謝れよ、な?」
「はぁ?謝りはするがお前が主犯だと自覚しろよ!すみませんでした!」
ほら、周りから嘲笑の嵐だぞ。
どうしてくれるんだ、このアウェイ感。
そんな投げやりに謝ってもお母さん許しませんからね!
「これ以上騒がしくするようなら退場してもらいますよ?少し逸れましたが続いては、王女殿下方にお言葉を頂戴いたします。では、お願いします。」
「おう。こんなところでも元気そうだな、コータ。」
はあー、嫌だ嫌だ。
なんで今、初っ端から俺だけに向けて話しますかね?
マイクを受け取ったカレン様は俺に向かって皮肉を仰られたのだ。
俺たちがくっちゃべってる間にも流れは進んでいるのは当たり前とはいえ、いきなり来られると心臓に悪い。
今更ながらあのマイク、魔法道具なのだろうがどう言う仕組みなんだろうか?と現実逃避したい気分だ。
俺はこんな中でさらに状況悪化を招きたくないので、コータって誰だろう?の姿勢である。
「まあいい。私は、もう三年前になるか。三年前は皆が立っている場所にいたが、あの時は緊張したものだ。」
いやー、嬉々としている姿しか想像出来ないんだが。
緊張の二文字がこれほど似合わない人は珍しいと思う。
でも最近、カルディナ先生とか爺さんとかそういう人種を幾人か見ているから珍しさもあまりないような気がする。
「そんな時、ミラが私の頬をつつきニコリと笑いかけてくれてな。それで不思議と肩の力が抜けたよ。力の入り過ぎは大事なところでミスを招く、そこの男ほどとは言わないが少しは肩の力を抜いた方がいい。……」
また俺をダシにして!
「なあ、カレン様って俺に恨みでもあるのか?」
「そんなこと知らないんだよ。さっきコータが無視したからじゃないかな?」
もしそれが本当だったら、あの大胆不敵な王女様は、実は小さい王女様だったって言いふらしてやる!
でも、小心者の俺にはそんなこと出来ないんだがな!
「……この試練に伝統だからと嫌々参加しているものもいるかもしれない。しかし、そんなもの達も一度でいい。一度でいいから勇気を振り絞ってみてはどうだろうか?将来君達がどんな職を手にするのかは分からない。だか、その一度の勇気が必ず役に立つときが来る!その勇気は君の将来を明るくするとともに、王国の繁栄への一助となってくれることを確信している!以上だ。」
パチパチパチ
これがニコ◯だったら8が画面上を凄い勢いで、凄い数通り過ぎていっているんだろうなと思うくらいの拍手が鳴り響く。
「うーん。カレン様は絶対、死ぬ気で頑張れ!以上!とかで終わると思ってたんだけどなぁ。立派に王女だったな。」
「お前の中のカレン様はどうなってるんだ?カレン様は有事の際には軍を率いるほどのお方だぞ?」
ただの脳筋ではなかったみたいだ。
まあそれはあった時から分かっているがな。
次はミランダ様にマイクが渡される。さあ、今度はどう予想を裏切ってくれるのか。
「次は私ですね。私は昔から戦闘というものが苦手で、それは今でもそうです。私は王女として試練を受けないわけにはいかないので当然受けたのですが、その当日まで本当に憂鬱でした。」
護衛の騎士団がそれに配慮して敵を殺さないように気をつけるくらいだからな。
「ですが、先程のカレンの話にあったようにカレンの緊張している顔を見て思ったのです。こんなにも戦い好きな人を真剣にさせるほどのものがこの試練にあるのか、と。」
ほらね!ミランダ様まで驚いていたんじゃないか!
やっぱりカレン様が緊張するなんて本来はあり得ないことなんだ!
「カレンのその表情を見ていると、私も頑張ってみようという気持ちになれました。そのお陰で今は、ちょっとやそっとのことでは物怖じしないようになれたと思います。……」
ミランダ様の色々な伝説を聞いた後じゃなぁ…
元からな気もするが、あまり深くは突っ込まないでおこう。
「……皆さんも一歩踏み出すなら、機会があるときに踏み出したほうが楽だと思いますよ?終わります。」
予想通り無難っちゃ無難なんだが、やっぱり一回り二回り上を行くというか。
王女様の言葉を俺なんかが予想して当たるはずもないか。そりゃ当たり前だな。
そしてついにティアの番が来たみたいだ。
ティアがどんなことを話すのか楽しみだな。




