参加しないって…
「次どこ行こっか?」
「そろそろ時間。向かった方がいいと思う。」
「そうね。中央広場だったかしら?」
「時間?」
中央広場って学園の入り口前の妙に広くなってるところだろ?
一部では学園前広場なんて言われていて、学園の門をぐぐってしまえば立派な噴水まである広場があったりしてそちらに見劣りしたりしなかったりする。
なのであんまり関心のない場所なのだが、学園生を対象として露店が開かれたりもしているので賑わってはいる。
屋台なんかも時々見るが、ギルドがある南側のものと比べると少々お高めだ。
「知らないの?この祭りって試練の開会式が行われるから開かれてるんだよ。」
「開会式では王女三人が試練の始まりを宣言するらしい。」
「昨日ティアと観に行くって約束してね。そのセレモニーが二時からなのよ。」
「え?だから昨日忙しいとか言ってたのか?」
全くもってそんなことは聞いていない。
あー、でも人多そうだな。いつも多いけど常識の範囲内での話だからなぁ。
人混みの中に突撃しに行きたくないかも…
「でもその間少しだけ離れ離れになるのよね。私達どうしてようかしら…」
「外側は大丈夫って話だった。問題ないはず。」
「何の話だ?」
「リルとレティは試練に参加しないから開会式に参加できないんだよ。開会式は試練を受ける人間だけが出られるみたいなの。」
「参加しないってどういうことだ?俺はてっきり全員参加するものだと思ってたんだけど。」
だって学園でも組み分けられたパーティに入ってたよな?
それに一言もそんなこと聞いてないんだが。
「試練は十六歳からというかまでというか、特例を除いて十六の年にしか受けられないのよ。」
「ここに来てまた年齢問題が顔を出してきた。私が受けられるのは二年後…」
な、なるほど。
ということはリルは
「なによ。こっち見ないでくれるかしら。」
「リル気にしてるのにコータ酷いんだよ。」
いや、待ってくれ!
俺なにも言ってないし、ただリルを見ただけだよな⁈
理不尽だがこういう時は話を有耶無耶にするに限る!
「で、でもさ、レティとリルも学園の授業でパーティ編成されたりしてただろ?あれは」
「授業なんだから参加しないといけないに決まってるでしょ?試練なんて一大イベント教員も殆どがつきっきりよ。たかだか生徒一人二人に避けるような人員はないと思うわ。」
「私達がいたパーティは強制的に五人一組になっていた。当日私達が抜けても人数が揃ってるように。」
いやぁ、ぐうの音も出ないとはこのことですな。
十六の年に受ける伝統的なことは聞いていたがまさか年齢制限があるとは。
でもそうか。前にこの期間中に受けられなかったら一年以内なら一度だけ受けられるとか聞いたような気がする。
そこから考えても十七になれば受けられないと導き出せるかもな。
「そうなのか。レティとリルは受けられないんだな…」
「気にしなくていい。応援してる。」
「そうよ。コータが約束を果たしてくれる姿、特等席で見てるから頑張ってきなさいよね。」
「そっか、そうだよな。リルと一緒に強くなるって証明するから見ててくれ!」
それが次の一歩へと繋がるはずだ。
今まで色々と言ってきたが、途中で止まってしまっている。
それを証明するための機会をリルは与えてくれたのだ。
ここで勝つことでリルとの約束への証明はもちろん、クオとの約束にも着実に前進していると証明出来る。
「なんだなんだ?」
「あんた邪魔するんじゃないよ!今度の試練を受ける学生みたいだね。しっかし若いっていいわねぇ…昔はわたしもあのくらい初々しかったんだがねぇ。」
「何言ってんだ、おまえ…昔から大雑把なせいかk」
「余計なこと言ってないで手を動かしな!」
いや、奥さん。あなたの声の方が余程邪魔になってると思うんですが…
それにその大きな声のせいでもっと注目を集めているようだ。
失敗した…俺の不用意な大声のせいで。
「は、早く行こうか。なんだか視線集めてるみたいだ。」
「それくらいクオにも熱く語って欲しいんだよ。」
「リルだけ卑怯。今度私も何か約束することにする。」
あー、今、人が多くなってることを完全に失念していた。
いつもだったら町の人も俺たちの言動に慣れてきたのか集られるほどにはならないのだが、今日は人が人を呼び凄いことになりそうな予感がする。
その前に離れないといけないな。
「学園まで少し走るぞ!」
この時は失念していたが転移を使えば一瞬だと思った。しかし、それもよく考えれば人の目を集めるのはさっきよりも分かりやすいのでそれも出来ない。
人の目を避けるために目立つことをしては本末転倒である。
「はぁ。やっと着いた…」
疲れた。主に精神的にな!
だってあの後、人混みをかき分けるように進んだんだが途中、ほぼ最後まで色々な声が届いてきた。
激励の言葉、からかいの言葉、時折妬み嫉みと聞こえてきたり、混乱の伝播もなかなか凄いが言葉の広がりようもかなりのものだと思った。
「ここからは俺とクオだけか。開会式とかって眠くなるイメージしかないよなぁ。」
「ほら、あそこの受付で名前言えば入れるはずなんだよ。」
おそらく会場と呼ばれているであろう場所は俺と同じくらい、いや同い年の少年少女で埋め尽くされていた。
いやいや。これだけの人数昨日までどこに隠れていたんだよ!
周りには簡単な隔たりのようなものがあり、受験者とそれ以外とに距離が設けられていた。
ということはあの場所にいるのが今年の主役たちということになるのだろう。
俺たちもそこへ入るために簡易的な受付に近づくと、
「お名前か証明証の提示をお願いいたします。」
「光太です。証明証ってなんですか?」
「クオだよ。」
「えーっと…はい、魔法学園の生徒さんですね。確認いたしました。証明証とはこの町の学生だったりで試練受験資格を証明することが出来ない人達が受験資格を証明するために発行してもらう紙のことです。」
ああ、そういうことか。
この町のどれかの学園の生徒だったりするなら年齢の証明も出来なくはないと思うけど、他の、特に辺境の村だったりした場合はその証明は難しいだろう。
そのためにステータスの年齢欄と照らし合わせて有効な証明証を発行してもらうということみたいだな。
「へぇ。でも光太だけで分かったのか?」
「他ではなかなか聞くことのない名前ですからね。それにこの巻物は聞いた名前に反応する魔法道具で点呼の場合には役に立つので。」
それはもってこいな魔法道具だな。
そのおかげで俺もすんなり入れて嬉しい限りだ。もっと人数も多くて混雑すると思ってたんだがな、そんなこともなかったようだ。
「たわいのない質問なのに答えてくれてありがとう。それじゃ俺たちは行くよ。」
「頑張ってくださいね。」
受付のお姉さんの応援を背に開会式会場へと足を踏み入れた。
時間潰せるようにどこかに知り合いとかいないものか。
「コータじゃねぇか。こんな人混みの中でよく会えたもんだ。」
「あまり動き回らないで。クレイとウィテラどこか行っちゃた。」
俺の思考に答えるようにパイロとブリーシアが現れた。
それはこっちのセリフだ。この人数の中、よく俺たちを見つけられたものだ。




