祭り 1
「今度はアレがいいんだよ!」
「こっち。」
「やっぱりどれも美味しくて困ってしまうわね。ねぇねぇ、コータ。アレは何かしら?」
「いや、ちょっと!俺一人しかいないから同時には流石に無理だから順番だ、順番。今日一日時間もあるんだしゆっくり見て回ろう、な?」
いやー、もう少し力を抑えてくれないかな?
三方向から同時に超パワーで引っ張られて千切れるかと思ったぞ。比喩でなく本当に。
「そうね。ちょっと見るもの全てが新鮮ではしゃぎ過ぎてたかもしれないわ。」
「いいんだよ。祭りってはしゃぐものだと思うよ?クオは今すぐコータを引っ張ってでも見て回りたいもん。」
「ん。コータは三人に分かれるくらいしてみせるべき。」
「分かった分かった。じゃあどこかr」
「まさか本当に分裂しちゃうの⁈」
「するか!どれくらい楽しんでるのかが分かったってことだよ!」
アホか!なんか三人とかに分裂したらどうなるのか想像出来なさすぎて怖いわ!
俺の意思と関係なく分裂した個体が動き出したり…あれ?
分裂した俺なんだからそいつが自立して動くのは俺の意思なんじゃ…ああ、もう!こんがらがってきたじゃないか!
やめやめ。今日は楽しむって決めたじゃないか。
「決めた、ここからだ!すみませーん、何売ってるんですか?」
「はいはい、いらっしゃい。これは新進気鋭の玩具職人が作った最新の玩具でハンドスピ、おっと…回転する玩具です。」
「へぇ、なかなか面白いわね。あっ、これ凄いわよコータ。こっちに回したのに逆回転しているように見えるもの。」
知ってる、これ知ってるぞ。
恰幅のいいザ・商人!って感じのおっちゃんが出している露店に所狭しと飾られているのは俺も過去持っていたものと瓜二つ。
この世界に来る前しかしすごく最近の話しだ。俺が通販で買ったものにすご〜く似てる。
あれだろ?指の間とかで回したりしてすごいぞ、本当に止まらない!とか思ったりしたやつだろ?
しかしリルは淡々と驚くなぁ。俺はもっとはしゃいでいたような…なんか俺がものすごく幼稚に思えてきたのでやめよう。
「それはストロボ効果っていうんだ。詳細を聞かれても答えられないけどな。すみません、これ作った人ってどこの出身の方なんですか?」
「出身はかなり遠くですので言ってもわからないと思いますよ。それに個人情報はちょっと。」
まあ、そりゃそうか。
でもほぼ確実に最近召喚された勇者がいるってことだな。それもアビド王国の近隣国家の中のどこかだ。
神崎が召喚されたというのは一年近く前ということなので少し早いだろう。
これが流行ったのはもう少し後の話だからな。
でもあれか。ハンドスピ…この手で回すやつがはやったのは最近だったけど出来たのは二十年くらい前って話だから可能性はあるのか。
「何の店な…これハンドスヒ◯ナーだよね?なんでこんなところで売ってるの?」
「これってそんな名前だったのね。よく知ってるわね、クオ。新進気鋭の玩具職人の最新作らしいのに。」
「クオ様、この商人どこからどう見ても。」
「え?商人の顔なんて見てなかったんだよ………あー!何でこんなところにいるのかな⁈カマス!」
声!声大きいから!
ほら、視線を集めてるだろ⁈もう少しお静かに願いたい。
慌てて顔の口を押さえながら思う。楽しむならあまり目立たないようにしないと心労でそれどころじゃなくなりそうだ。
「んー!んんーん!んんー!ぷはーっ。急にこんなことしてどういうつもりなのかな、コータ!クオは今忙しいんだよ!」
「どういうつもりって視線集めてるから。頼むからもう少し静かにしてくれないか?」
はぁ。マカが名前を出した時点で怪しくは思っていたがまさか本当に現れるとは。
この人がカマスか。クオが何かと悪態をついている人物、その人なのか。
「また卑怯な手でお金を搾取している。いつ見ても同じことしてるけど飽きない?」
「おや、これはまた面白いことを仰いますね。商いと飽きないを掛けてらっしゃるのですか、腹を抱えて笑ってしまいそうですよ。」
ヤバいって、そんなことよくレティに言えたな!
おまけにそんなまったく面白くなさそうな顔で腹を抱えて笑ってしまいそうって、思いっきり馬鹿にしているだろ!
「レティ、我慢だ。こんなおっさんのこと相手にしないで、な?ほら、さっきレティが行きたがってたクレープ、あそこに行こう。ささ。」
「待って光太。カマスを二回くらいケルベロスの餌にしないと気が済まない。もしかするとこの国が更地になってしまうかもしれないけど人には危害を加えないから安心してほしい。」
これは本当にヤバいかもしれない…
レティが長文の構えだ。必要な時以外は特に長文を語ることのないレティが、言葉に感情を乗せて尚且つ長い言葉を紡いでいるのだ。
本当にそうなりかねないので止めないと!
「別にこの人を同行すること自体には反対しないけど、今は駄目だレティ。もうこの場所には知り合いが出来過ぎた。俺はそんな場所に危機が訪れているのなら見過ごせない。だから今は抑えてくれないか?」
「む。光太がそこまで頼むのなら仕方がない。カマス、命拾いした。でも次は必ず息の根を止める。」
こ、怖い…
レティが今までで一番怒っているかもしれない。
「次行こう。ここにいたらまた何か起こりそうだ。」
「そ、そうね。レティがここまで怒っているのを初めて見たわ。」
なんか勇者がもたらしたわけではなく、ただ神様が世界を超えて商売をしているだけみたいだったからな。
やり方がセコすぎるが、さっきから俺たちが揉めている横で子供達が楽しそうに手にとっている姿を見るとこういうものは万国共通なんだなと思う。
「コータ、少し待ってくれるかな。カマス、マカを送り込んできたのはカマスだよね?コータにあまりちょっかいをかけないでもらえるかな?」
「いくらクオリティア様のお頼みでも、こればかりは刻印神様からの依頼なので無理な相談ですね。」
依頼とか言っちゃっていいのか?
さっきと言ってること真逆だと思うんだが。
もっと言えば、依頼が分かりやすく別目的の隠れ蓑にされている感がひしひしと伝わってくる。
それにクオリティアとか刻印神とか堂々と話しているけど周りの人々は気にした様子もない。
もしかしたら何らかの魔法か結界に準ずる何かを使っているのかもしれない。
「本音は?何がしたくてこんなことをしているのかな?」
「上級神の方々は彼の事を知っているのかもしれませんが、私どもの様な下級神、最下級神は彼の事をほとんど知りません。」
「だから?」
「いきなり現れた自分達より上位の存在を見過ごしていられる者はそう多くないと理解されていると思いますが?メーティスがなぜ彼のような存在を許しているのかは分かりませんが、知っておいてほしい。我々もまた貴方方の行動を注視しているということを。」
警戒されるのも無理はないか。
クオ達が周りにいなければ過激な者達は均衡が崩れるとか言って殺しに来てもおかしくはない。
俺はそれほどの力を授けられているのだから。これがこの力の重みという事だろう。
「自分の目で見ないと信じられないのかもしれませんけど一応言っておきますよ?俺は別に神になったからどうこうしようなんて全く思ってません。」
「それはまだ自分の力に実感を持てていないからでしょう。貴方の力は貴方が思っているよりも何十倍、何百倍、いやそれ以上のものを秘めています。それを知った時貴方がどうするのかは誰も分かりません。」
カマスが言っているのは魔法が使えるようになったとか、超パワーが身についたとかそんな次元の話ではない。
彼が言っているのはその上で特別であるということを言っているのだと思う。
たしかに俺はまだ神としての力のその真価を知らない、知れていないと思う。
「そうかもしれませんね。ただ、俺の目的はクオが、レティが、リルが、今俺の周りにいる人達が笑っていてくれる事なんです。逆に言えば、その為だったら何かを成すこともあるかもしれませんけど。」
「それが世界を敵に回すことに繋がる可能性があるとしてもですか?」
「そんなの天秤にかけるまでもなく即答ですね。今後俺は色々な経験を積んでいくでしょう。その中で考えが変わっていくかも知れない。ですがこの前提としてある気持ちだけは変わらないと確信できます。」
人なんて弱い生き物だ。何かあればすぐ揺らいでしまう。
「まあ、いいでしょう。私が今日ここに来たのは貴方に我々も見ていると伝えに来ただけですので。これからも貴方がその力をどう扱っていくのかを見ています。」
「ええ。これからは、いやこれからも?神様に恥じることなき行動をしていかなければなりませんね。」
俺のその言葉を最後に街の喧騒は戻って来た。
さっきまでは無駄な雑音がなかったからな。
「いらっしゃい。手にもって遊んでみてください。おもしろいですよー!」
カマスは再び何事もなかったかのように客寄せを始めた。
俺たちはさっきの約束通りクレープの店でもいくかな。




