エンドレスゲーム
「帰ろー、コータ!クオみぎー。」
「私は左。」
「え、えー…じゃ、じゃあ私は…もうっ!私は前よ、前!帰るわよ!」
ああ、リルがガキ大将の如く先頭で先導を始めた。
いやいや、リルよ。まだ、この姿を微笑ましく見守る正妻ポジションが空いてるぞ!
って俺は何を言ってるんだか…
「うふふ、微笑ましいですね。」
「そんなこと言ったってバレバレなんだよ。手が震えてるよ?」
あ、ティアの頬が今一瞬ピクッてなったな。
本当に正妻ポジが現れたなんてアホなこと思ったんだけどな。
出遅れただけみたいだ。
って、さっきから俺は何視点で語ってるんだか…
「扉の前でたむろしてたら邪魔になるから帰るぞ。」
「そうよ。早く帰って次はソファ争奪戦なんだから!」
なんだよ、それ。
大体、俺帰ったらベットが定位置だと思うんだが。
ソファにも時々座るが、宿の部屋にいるときは殆どベットの上だ。
別に怠惰に生活しているとかいう意味じゃないぞ。こうして学校にも来ているわけだし。
ただ暇な時間はエマに本を借りたりして寝転んで読んだりしているだけだ。
この世界はファンタジーがリアルなので、物語もラノベのような内容でも妙に現実味があって他人事のように思えない。
なんだか展開の一つ一つがいつか自分に降りかかりそうで軽んじられないというかなんというか…
特に傲慢な貴族がうんちゃらなんて展開はよくあるが、今の俺なら明日にでも同じことになりそうだ。
「私は膝の上でいい。両脇は譲る。」
「えー、コータは今日もベットだと思うよ?膝も隣もないんじゃないかな?」
「じゃあ私が膝枕する。きっと読書も捗るはず。」
「そ、それなら私は横でコータの顔でも眺めてるわ。」
アホか!読書の妨げにしかならないに決まってるだろ!
どれだけ鼓動が邪魔することか。
それにそんなこと言われたら読書に耽ることなんて出来なくなるだろ。
見ろよ、周りの目。
「こんなに可愛い子が周りにいて一人読書なんて。正気か?」
「側にいる理由を考えろよ。無視して読書するなんて考えられないな。」
と聞こえてきそう、というか聞こえてきた。
ああ、本当にそうなら考えたかもな。
だがな、実際のところいつも楽しそうに三人で遊んでいるんだよ!
そして結果的に俺も巻き込まれて夕食の頃にはヘロヘロになってるわ!
たしかに帰れば最初の定位置はベットだ。
だが十分、十五分もすればクオ達の遊び道具に早変わりしていない日なんて無いくらいだ。
まあ、聞こえの悪い言い方をしてしまったが、俺も別に本気で嫌なわけではないのでいいんだけどな。
前から言っているが俺はMじゃないぞ?
「そうだな。今日はそのソファ争奪戦を開催してくれて構わないぞ。その間ゆっくりソファで本読んでるから。」
「ダメだよ。コータも一緒に遊ぶんだからね?今日は何しよっかー。」
「そうねー。…」
そう。俺の意思なんてそこには殆ど介在しないのである。
遊びの内容なんかなら聞き入れてもらえるが、遊ばないのは論外みたいだ。
「今日は勇者コータが助けてくれるゲームがいい。」
「そうだね。最近はトランプとかジェンガとか普通のばかりだったもんね。たまにはいいんだよ。」
い、嫌だ…あの悪魔のゲームは二度とやりたくない!
「拒否す」
「何ですか、その希望に満ち溢れたゲーム名は⁈」
俺の心からの否定が掻き消されてしまった。
それにティア。ここはまだ学園の廊下だぞ、騒ぎすぎは厳禁だぞ。
「どんなシチュエーションで助けてもらいたいかを考えて、それをコータにやってもらうってシンプルなゲームね。最後に誰のが一番羨ましかったかを言い合って投票数の多い人が勝ちなのよ。」
「もちろん自分にも投票可能。勝てばもう一度助けてもらえるオマケ付き。」
何が悪魔かって?今レティの言った通りだからだよ!
みんな自分の望んだシチュエーションを言ってくるのだし、勝てばもう一度…それがどういうことを引き起こすかなんて想像に難くない。
みんな自分に投票するに決まってるのだ。
そして悪魔の言葉が聞こえてくる。全員一票、同率優勝!と…
そうなればどうなるか、もうお分かりだろう。
「嫌だ!あんなエンドレスゲーム二度とやりたくない、やらないからな!」
「ん?聞こえなかった。あ、手が滑った。」
そんなわざとらしい手の滑らせ方あるか!
それにしても紙?
なになに?二〇××年△月□日。急に叫び出した。俺は魔界の………
これは⁈
「わ、分かったから。やるから、手を滑らせるのだけはやめてくれないか?」
「そう?握力戻ったみたい、よかった。」
「そ、そうか。俺は今から夕食が楽しみだよ。」
俺が精神力を搾り取られることが確定した瞬間だった。
「大変興味深い遊びみたいですね。私も御一緒させてもらいたいのですけど、あいにく今日は無理そうなのでまた今度お願いしてもよろしいですか?」
「だーかーらー!俺は今日でも嫌な」
「大丈夫。それまでにいっぱい考えてくるといい。」
はぁ。なんで次回開催までも決まってしまってるんだ?
それにティアにこのゲームを知られたのは痛すぎる。妄想王女と呼んでいるだけあってこのゲームは相性が良いというか悪いというか…
もちろん俺にとっての場合は悪い方である。
「では私はこれで。明日は…次は明後日ですね。楽しみにしていますよ?」
「楽しみにされても困るんだけどな。明日は学園休みだし、そっか。次は明後日だったな、またな。」
カレン様やミランダ様が来ているから忙しいのかもな。
転移陣があるので校門までもなかなか早い。
いつのまにか校門に着いていたみたいだ。
「バイバーイ!」
「また明日。」
「バイバイ。」
レティ明日は学園休みって今確認したじゃないか。レティがうっかりを発動するなんて珍しい。
ティアは迎えの馬車が来ていたみたいで、その馬車に乗って帰っていった。
「俺たちも帰ろうか。嫌だけど帰らないと仕方ないし。」
「やっと観念した。偉い偉い。」
観念せざるを得なくしたのは誰だったか…
こっそりとエマに、夕食は早めにとお願いできないかな?
できるなら是非ともしてほしいな。
だってその分、苦悩の時間も減るってことだからな。
だがそれでも宿への足が重かったのは言うまでもない。
「おかえりなさい。今日はいつにも増して疲れたいそうだけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。明日になれば疲れも消えてるさ。」
まあ、新たな疲れの原因は発生するとは思うけどな。
今から俺の精神力が試されるのかと思うとすごい憂鬱だな…
部屋に戻りたくねぇ




