魔法とは思い込みが常識を凌駕するもの
「戻ってきてたのか。ってことはもう勝てるほどに仕上がったのか?」
「ああ。あの時は俺の力及ばずラディックを囮として使うことになってしまったけど、もうあんなことがないくらいには強くなったな。」
あの時とはフェリシアお姉様との戦闘の時のことだ。
力及ばずとか言っているが、ラディックを魔法の対象外にしたのはわざとなので特に内容のない返答になっている。
「どの口がそんなこと言ってるんだよ。ったく、俺たちだって少しくらい連携出来るようになってきたんだ。」
「へえ。てことはラディックが囮として機能してるってことか。やるな、ラディック!」
「誰が、いつ、そんなこと言ったんだよ!ちゃんとした連携だ!なあ、キャロル?」
「う、うん。ラディック君が前衛で、私がそれをサポートして時間を稼いで、セレスティア様が大きな魔法で勝負をつけるって役割分担してみたの。ど、どうかな?」
ちゃんとやっているようだ。
まあ、どうかなも何もそれをまったく見ずに返答するのはいささか無理があるがキャロルが心配そうにしているので仕方ない。
「いいんじゃないかな?ラディックを酷使しているならなお良しだな!」
「そ、そうだよね!」
「いや、そこは否定を入れてほしいような…」
ドンマイだな、ラディック。元気出せよ!
「で、本当のところどうなんだティア?」
「そうですね、相手が竜族でなければ普通のパーティとしてはアリだと思います。ですが、相手が竜族というところを鑑みてだと些か無理があると思いますね。」
「無理って?」
「まず決定打を打つ私の護衛が皆無だということです。いくら二人で時間を稼いでいるとはいえ、なんらかの方法で私が倒されてしまえばそれで終わりですから。」
なるほど。基本はできたけど応用に弱いってところか。
たしかに各々に役割があるのは良いことだと思うけど、互いに互いの領分を少しくらいカバー出来た方が動きやすくはなるかもな。
「それに、ラディックの独断専行が激しすぎます。キャロルがそれに合わせる形で成り立っていますが、もっとお互いのことを考えて動けるようになればもっと良くなると思いますね。」
「キャロル、大変じゃないのか?」
「そ、そんなことないよ?自由奔放に動けるところがラディック君の魅力だとお、思うから…で、でも、補助魔法をかける時くらい止まってほしい、かな。」
不満はあったようだ。
キャロルは内気な性格をしているからな。慣れるまでこういった場を設けることが大切なのかもしれない。
「そ、そうだったのか…自由に動いてても的確にサポートしてくれるから調子に乗ってたみたいだ。悪かったな、改めるよ。」
「よし、また一つ良くなったみたいだな。ティアの守りは俺が戻ったことで幾分か解決されるはずだし、結構良くなるんじゃないか?」
試練で絶対に勝ちはするが、このパーティで行けるところまでは行こうと思っている。
ポッと出の俺なんかより、この三人の方が試練を重要視しているはずだ。
そんな俺が私情でその意志を穢していいはずもないからな。
ということで新たに俺を含めたパーティで連携を確かめた結果、三人はこれまで通りで俺は魔法で牽制しつつ後衛二人を守る役目を担うことになった。そして隙あらば攻勢にも出る遊撃スタイル。
今のこの時間は、他のパーティとの模擬戦で互いの出来を確かめ合うことも許されている。
なので、それを利用してどこが良くてどこが駄目なのか、どこをどうすればもっと良くなるのかを詰めていく。
「もっと要所要所で魔法を使った方がいいんじゃないか?短期決戦だったら通用するかもしれないけど、特にずっと魔法を使ってるキャロルは魔力切れを起こす可能性だってあると思うぞ?」
「詠唱待機は細かいサポートには向いているかもしれませんが、その分魔力消費量も高くなりますからね。」
詠唱待機は、待機させている間は魔力を持っていかれるからな。
まだまだレベルが高いとはいえないキャロルにはキツイはずだ。
「で、でもそれだとラディック君に負担をかけてしまうんじゃ…」
「でも結果的にもっと負担をかけることになるかもしれないだろ?っていうか、ラディックは魔法使えよ。お前何学園の生徒だったっけ?戦闘時の補助くらい出来ないのか?」
「いやいや、無茶言うなよ。近接戦しながら魔法なんて俺に出来ると思ってるのか?」
偉そうに言うな、こいつ。
出来ないことを誇るんじゃねぇ!
「持続型の魔法でもなんでもあるだろ?戦闘に入る前に使っとけばいいじゃないか。」
「簡単に言うけどな、そんな魔法誰もが使えると思ったら大間違いだからな。」
「仕方ないなぁ。俺が構想段階の魔法のじっけ…ん体としてお前を採用してやる。」
「言い淀んだ挙句言い直さないってなんだよ!」
言葉を繕おうとしたがその必要性を感じなかったからな。
「まあ簡単に言うとだな、属性の鎧を纏う魔法だな。『雷鎧』こんな感じだ。」
「さらっと上位魔法使ってんじゃねぇよ…」
俺は今、雷で象った鎧を纏っている。
この魔法は属性を魔力として纏うのではなく、魔法として纏うことでエンチャントと差別化を図っている。
その効果は魔法への耐性を上げるだけでなく、近接戦なら接触するだけでダメージを与えたり、光だったらリジェネ効果を持たせたり出来る。はずである。
何度も言うがこれは構想段階で今の今まで試したことのなかった魔法だ。
大体、フレンドリーファイアなんて当たり前の世界で相手にダメージを与える魔法が自分に有効でないはずがないのだ。
今も雷鎧との間に魔力の膜を張っていなければチクチクとダメージを負っているところだ。
「うーん、やっぱり自分にもダメージがあるのが難点か。でも、間に魔力の膜さえ張れば大丈夫みたいだから、ほらやってみろよ。」
「やってみろって詠唱はなんなんだ?」
そ、そうか。人に教える時そこまで考えなければいけないってことなのか…
これは結構キツいんじゃないか?だって誰もが想像できるような内容を考えないといけないわけなんだから…
今まで詠唱をバカにしてきた節があるが、あの誰もが理解できる感じはなかなか出来るものじゃないんじゃないか?
「そ、そうだな。ラディックの得意属性は?」
「火だな。あとは風が少しと土が辛うじてって感じだな。」
「じゃあ先達に倣って、『魔力よ、炎の鎧となりて我が身を守り敵を拒め。ファイアアーマー』。こんな感じか?」
「適当なのかよ。でも少しでも役に立つならやるけどな。『魔力よ、炎の鎧となりて我が身を守り敵を拒め。ファイアアーマー』!」
おお、俺の雷鎧の炎バージョンだ。
にしてもよく熱くないな。
ラディックって意外と器用?魔力の膜を張るのは魔法の同時行使ほどじゃないにしろ結構難しいはずなんだけどな。
「出来てるみたいだけど…熱くないのか?」
「いや、我が身を守って敵を拒むんだろ?そんな魔法で自分が熱くなるはずなくないか?」
えっ?ちょっと待ってくれ…
ってことは魔法単体だけの起動で自分へのデメリットは排除されてるってことか?
「自分にダメージがあるから魔力の膜を張ってるとかでは…」
「そんなことしてないし出来ないな。俺はお前に言われた通りにやっただけだからな。」
うん、分かった。
魔法って思い込みが常識を凌駕するものなんだな!
風魔法以来、それを再認識させられた瞬間だった。
なんかラディックにそれを思わせられたことが悔しいな…




