お祭り
短いです
「なあ、昨日も思ったんだけど人多くなってないか?」
俺がここにやってきた時から少しずつ多くなってきていたような気もするが、この森に籠っていた二日間で増えたのは如実だと思う。
「だってほら、後三日もすれば試練が始まるからね。国中から試練を受けるために人が集まってくるし、その護衛の冒険者も、人が集まるところには商人だって寄ってくるんだよ。」
「あそこ。」
レティの指差した方を見る。
「もうお祭りムード。」
「そういや前に祭りみたいになるって聞いたな。あんまり気にして見ないから分からなかったけど、言われてみれば活気付いてるな。」
「今朝だって宿の食堂も若干混んでたじゃない。今更感があるわよ?」
うっ。
俺の最後の良心だったリルは何処かに行ってしまったのだろうか?
最近何かと辛辣な気がする。
それに若干って…朝早かったからだよな!うん。
エマの前で言うなよ、それ。
「でも、そういや明日って休みなんだよなぁ。一日行ったら休みってのが多い気がするな。」
「明日はみんなで出かける。それがいい。」
「せっかくのお祭りを楽しまないと損なんだよ!」
「これって本来祭りじゃないんじゃないのか?周りがそうしてるだけで。」
「小さなことを気にしたら駄目よ。楽しんだ者勝ちだと思うわよ?」
リルも楽しみそうな雰囲気を隠しきれていない様子だ。
まあ、久し振りにみんなで出かけるのも悪くないか。
でも祭りって友達と行ったことなんてないぞ?ましてや女の子と一緒だなんてあるはずもない。
行くと決まったら急に不安になってきたな。
「どんな食べ物があるか楽しみだね!」
「久し振りにリンゴ飴が食べたい。」
「人族の祭りってどんな風なのか楽しみね。」
おい、食べ物ばかりになってるぞ。
それにしてもリンゴ飴か。定番っちゃ定番だが食べたことないな。
それに細かいことを言うようだが、この世界のリンゴっぽいやつってリーゴじゃなかったか?
「クオはね、カキ氷が食べたい!」
「いや、もっとお祭りっぽいものがあるだろ…」
そりゃだんだん暑くなってきている今食べたくはあるが、それに祭りの屋台で無いところを見たことが無いほどたが。
それでもカキ氷のどこでも感は、他に祭りならではのものがあるじゃないかと思ってしまう。
「えー、それじゃあチョコバナナとクレープ、あとはふわふわのわた飴がいいんだよ!」
「…よくそんなに甘味ばかり思いつくな。」
「じゃあ、そういうコータは何が食べたいのか教えて欲しいんだよ!」
「俺か?そうだなぁ…」
たこ焼き、はカキ氷と同じ理由で駄目だろ?
うーん。あ、そうだ。
「イカ焼きとか食べたいな。」
「ここがどれだけ内陸にあると思ってるの?そんなの存在するわけないんだよ。」
「そうなのか。それなら、そうだな…」
今まで祭りにあまりいったことのない弊害か全然思いつかない。
祭りならではってなんだよ!自分で言っておいてなんだけどさ!
当たることのないクジ屋か?弱り果てて次の日には息絶えている金魚すくいか?
そんなこと言ったら、祭りだからと財布の紐が緩んでいるところにすかさずボッタクリにいく屋台全てが祭りの名物だと思う俺は心が病んでいるのか?
「クオ様、確か迷宮都市のダンジョン型の迷宮にクラーケンがいたはず。クラーケンならイカ焼きでもたこ焼きでも大丈夫。」
「そんな大物じゃなくてもピアススクイッドとかもいたはずよ?」
いや、そのイカも十分ヤバそうだから。
なんか色々と貫いてそうだぞ、そのイカ。
「ごめん、クオ。カキ氷って素晴らしいな。ってことで俺は焼きそばが食べたいな。」
「クラーケンも美味しいよ?」
違うんだ、違うんだよ。
そんな如何にもなやつを倒してまで食べたいとは思えないだけなんだ。
学園までの道中は明日の話で盛り上がり、いつのまにか教室に着いていた。
「おう、案外戻ってくるの早かったな。勝てそうか?」
「何言ってるんだよ。勝つに決まってるだろ?」
少し小細工はしてもらうつもりだがな。
だからそのニヤニヤ顔やめろ。パイロの癖に生意気だぞ!
「試練を前にしてそんな頼もしい言葉が言えるなんて凄いな。もちろん俺も勝つつもりだが、そんな当たり前のようにはいかないぞ。」
「あたしたちも頑張らないとね!」
「うん。超頑張る。」
こいつらいつも一緒にいるな。
まあ、歳も同じで家柄も似通っているから昔からの付き合いだろうから当たり前なのかもしれない。
「おい、お前ら席に付け!あ?なんだ、お早い帰還じゃないか。学園長の言葉がなければ今すぐ拳で語り合うところだが、学園長に感謝しとくんだな。」
「感謝?…嫌だよ。今までのことで帳消しだと思うな。」
俺が爺さんに感謝?まあ、今回だけなら…とか思ったがあり得ないな。
我慢すれば出来なくもないこともないな。つまり感謝なんて出来そうもない…
「まあいい。それで連絡事項だが特に…いや明後日だが一日訓練の時間だからそのつもりでな。今日の午後も同様に訓練の時間として与えられるだろう。有効活用しろよ?」
「「「はい!」」」
「といっても座学を疎かにしたりしていいわけではないからな。この後の授業も寝たりするんじゃないぞ?」
そうして朝のホームルームというべき時間は終わり、久し振りの座学は睡魔とのガチ戦闘へと移行した。
でも、眠いのって俺だけのせいか?




