数日振りの宿での朝
どうも!憔悴気味だけど元気でやっていきたい光太です!………はぁ…。
無理矢理に元気を出してみても何も変わらないことを実感したな。
何故こんなことになっているのかというと、昨日冒険者ギルドを出た後は当然のごとくぞろぞろと宿に戻ったのだが、俺の帰還を歓迎してくれたのも束の間女子会なるものが始まってしまった。
俺が帰るまでの間に行う予定だったと聞いたが何故そこから始まってしまうのかが疑問で仕方なかった。
そして途中からついていけなくなり、それでも振り回された結果が今の俺である。
「寝ても取れない疲れってなんだよ…俺ってまだ十六だったよな?」
あのテンションについていける男がどれだけいるだろうか。
もしいたとしたらそれはもう才能だよな。
「まあ、剣を振ってたらそのうち忘れるだろ。」
昨日のあられもない俺を忘れようと、その記憶を切り刻むかのように一心不乱に剣を振る。
今日の日課は別の目的も兼ね備えることになった。
いつもの如く剣の鍛錬を終えた後、今日はこの為に少し早めに起きたので風呂に入る。
せっかく作ったのに自分ではまだ一回しか利用していないのだ。
もっと利用しないと勿体無い。
ただ、一回しか使ってないのは次の日には俺が丹精込めて作った愛おしいオンボロ小屋の姿はなくなって、なにやら豪華な建築物に早変わりしていたのと暖簾がね。今も変わらず、女湯の暖簾の下にはいらない文字が刻まれてますよ。
そんな気になることだらけで二日目は入るのを忘れていたというわけだ。
俺が作った風呂は一つの浴槽と着替えるためのスペースだけを兼ね備えたボロ小屋だった。
なので二回目といえど、このライオンの口からお湯が流れていたり、大小様々な風呂がいくつかあったりするこの空間では初めて入ると言った方が相応しいかもしれない。
かけ湯と書かれた場所で備え付けの桶で汗を流し、大きすぎる湯船は落ち着かないような気もするのでこの中では小さめの湯船に浸かる。
それでも余裕で三人くらいは入れそうだ。
「ぷはぁ。やっぱり風呂は気持ちがいいな。」
これだけ疲れが取れるなら森の中でも入ればよかった。
魔法という無遠慮な力があるのだ。それに神化した俺には無尽蔵といってもいいほどの魔力がある。
これは今更だが考えが足りてなかったみたいだな。
「しかし、これをやったのはクオかレティは知らないけど、こんなに大きくしてどうするつもりなんだか。」
別空間ではなく空間を拡張しているようだけど、市民プールでも作るのかってくらいの広さはある。
そんな考えがなんとなしに浮かんできたが、当初の疲れの原因はいつのまにか忘れることができていた。
「ふぁぁ。おはよ、コータ。」
「リル一人は珍しいな。眠そうなのは変わらずだけど。」
この眠そうなリルを見てると日常に戻ってきた感がする。
何気ない小さなことだが、そういうことの方が案外日常を感じ取れたりするものだ。
まあ戻ってきたなんて言っているが、ちょっと森にキャンプに行った程度なんだけどな。
「最近は慣れてきた方よ?宮殿にいた頃はこんなに早くなかったもの。クオとレティは今急いで身支度してるわ。昨日遅くまで起きてたみたいだから。」
「二人で?リルは先に寝たのか?」
大体そういう時は三人とも遅くまで起きていることが多い。というか殆どだ。
俺は先に寝るか、みんな一緒に寝るかのどちらかだ。
「昨日はみんな寝た後にロアさん?が来たみたいよ。クオがさっき、ロアが怒らないなんて珍し過ぎて雪が降るんじゃないかな?って言ってたから。」
「それってクオだけじゃないのか?俺はそんなイメージないけどな。」
怖い怖い言うから少しくらいそのイメージに流されているところはあるが、そんなガミガミ怒っているようなイメージはないな。
そんなヒステリックな感じではなく、見た目もイメージも厳格な女教師って感じがする。
「コータはロアの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだよ。ちょっとお腹が空いたから置いてあったお菓子をこっそり味見しただけで一週間もお菓子禁止にしたりするんだから!」
「ん。でも、クオ様。あまり大きな声で言わない方がいい。ロアはいつどこで聞いているかわからない。神界でも第二のメーティスと恐れられていた。」
クオ…
それは多分、大切なお菓子だったんだよ。うん。
人にあげる用とかな。
それに怒らせたのはクオの方じゃないのか、それ。
「それって恐ろしいのかしら?」
「リルは分かってない。ロアは法と秩序を司る神、そんなロアの与える罰が軽いはずがない。」
まあ軽くはないかもしれないが、秩序を司っているのだから過剰にもならないはずだ。
それを踏まえた上で今の一連の話を考えると、クオの例えが駄目だったんだろうな。
久しぶりにクオの残念な部分を垣間見た気がするな。
「ロアも悩んでいるみたいだし、ロアの気持ちも組んでやらないとな。」
「今度お願いしておくから、コータも怒られてみるといいんだよ。」
はあ⁈なんだよ、怒ってくださいってお願いするのか?
完全なマゾヒストじゃないか!やめてくれ。
「まあでも、ロアは俺の前に現れたがらないと思うぞ?」
「ロアに限ってそんなことよりないんだよ。」
「いや、レティが持ってるあれってロアからもらったって話だし。」
あの悪魔の書物を悪用しているのはレティだが、元々レティに渡したのはロアだ。
なぜあんな危険なものを渡したのかは知らないが、本当にやってくれたと思う。
あれをレティから奪い取ろうと策略するのにどれだけ頭を回していると思っているのか。
「これは正当な報酬。過去の借りを帳消しにする代わりに貰い受けた私の権利。これは誰がなんと言おうと私のもの。」
「いやいや、おかしいだろ⁈張本人の俺の意見をもっとだな!」
「残念ながら受理できない。それに前にも言ったけど、これには昔のことしか書かれていない。何か心配?」
もう心の底から心配ですね、はい。
だって今まで赴くままに暴露された話はほんの一部でしかないのだ。
これから俺の黒歴史が紐解かれていくとなれば居ても立っても居られないのは当たり前だと思う。
いくらこれからのことが記載されないとはいっても、それでは過去は清算されない。
「そんな当たり前のこと聞かないでくれ。俺は今すぐにでもあれを燃やし尽くしたいんだ。」
「お待たせしました、今日の朝食です。」
エマが朝食を運んできた。
仕方ない、今日のところはこれくらいで勘弁しといてやる。
だが、いつか必ずあの邪典を燃やし尽くしてやるからな!
と話が逸れてしまった。なんの話だったか…ああ、そうそう。
「で、結局ロアはどうしたんだ?」
「帝国が色々と画策しているから気をつけろって言われたんだよ。ただでさえ緊迫状態なのに、不穏分子を追加しないでくれってコータに伝言もあるよ。」
「不穏分子?」
「魔力譲渡での迷宮の活性化の件。今はまだ知っているのは一部のみ。あれが知れ渡ったら帝国が踏み出すキッカケになりかねない。」
あー、やっぱりかぁ。
何かと名前を聞く帝国だけど、正式名称なんだっけ?
ゼスティル帝国だったか?
せめて後百年くらい大人しくしていてくれませんかねぇ。
「あっ、そのことで怒られてくるといいんだよ!」
「はぁ。帝国がクオみたいに能天気な国柄だったらどれだけいいか…」
名案を思いついたみたいに言っているが、別にそんなことはないからな?
帝国のせいで不安でいっぱいだよ。
美味しいはずの朝食が味を感じることができないくらいには不安と責任を感じた。




