末期
「では私も用事を済ませて帰るとするかな。」
「用事?」
冒険者ギルドに用事って依頼でも出すのだろうか?
護衛を雇うにしても騎士団を連れて来ているわけだし、町の案内役にしたって去年までここにいたって話だからな。
それに王族の依頼を完遂できるようなランクの冒険者は、ここのギルドは少ない数しかいない。
その少ない数も、唯一のAランクのクリフを筆頭に要塞亀攻略で手一杯なはずだから捕まるかどうか。
「なに、今朝の報酬を渡していなかっただろ?それを渡しに来ただけだ。結構時間が経っているからもう冒険者ギルドにはいないと思って預けておくだけのつもりだったんだがな。」
「ちょうど帰り際の私たちとすれ違いこの魔法道具でコータの居場所を突き止めたというわけです。」
なんだか嫌なところで効力を発揮したな。
それにしてもこのネックレス、服の下に隠していたからか、それとも色々ありすぎてそこに回す集中力を持ち合わせていなかったからか気づかなかった。
俺を強制転移させなかっただけマシと思っておこう。
「そうでしたか。でも、報酬なんて貰えませんよ。護衛なんてしていませんし、馬車の中で寛いでいただけじゃないですか。」
「そうか?私は元から話し相手として雇ったつもりだったんだがな。護衛なら騎士団、いやバート一人で事足りた話だ。」
まあ、一人で圧倒してたからな。
「つべこべ言わずに受け取っておけ。それとも何か?王女に足を運ばせた挙句、無駄足にさせるつもりなのか?これでも私は忙しいんだぞ。」
「分かりましたよ、受け取っておきます。ああ、ガレス。これは正式な依頼じゃないから間違ってもこれでランクを上げたりするなよ。」
「私はその話をする為にギルドマスターを呼んだのだがな。王族の依頼ともなれば結構ポイント高いがいいのか?」
「俺は地道にランク上げすると決めたんです。そんな一足飛びに上げるようなことは、目的でもない限りするようなことじゃないと思うんです。」
と言ってはいるが、結局まともな依頼をまだ受けていないという事実。
俺の冒険者カードには堂々たるFが未だ刻まれている。
「おい、いい加減にランクを上げろよ。お前登録してからまだ依頼をこなしてないことになっているんだぞ?そろそろ誤魔化しきれなくなる。」
「分かったよ。今度やるから適当なFランクの依頼を見繕っておいてくれ。」
転移とか色々駆使してやればEくらいには上げられるはずだ。
「もちろん四人分だからな。」
「お前達全員最低ランクなのか?アハハハハッ、面白いこともあるものだな!これは冒険者ギルドの怠慢だな!」
「そうですね。制度に問題があるように思います。改革を視野に入れた方がよろしいのでは?」
いや、やめてもらえますかね?
せっかく最初一足飛びでBかCまで上げられると言われたのを断ったのに、そんなことをされたら意味がなくなるじゃないか。
「いやいや、それは俺が断ったからなんですよ。自分だランク上げしたいってね。」
「ん?そうか?とことん面白い奴だな。冒険者とは普通高いランクの方が嬉しいんじゃないのか?そっちの方が報酬も高いだろう。比例して難易度は上がるとは思うが。」
「俺も高い方がそりゃ嬉しいですよ。でもですね、何故か最初から与えられたものよりも、自分で手に入れたものの方がその達成感といいますか、手に入れられる経験といいますか、全てが大きく違うと思うんです。」
それっぽいことを言ってみた。
今冒険者ランクが高い必要性を感じないどころか、これから目立つかもしれないという時にその前兆のごとく目立っていてはもっと目立つことになりかねない。
大体、もとはと言えば地に足をつける為の職としてこの世界で最もオーソドックスな冒険者を選んだのであって、今俺は学生をしているんだ。
お金もあるわけだし、バイト感覚で冒険者をやるにしてもそんなに甘い職場ではないと思う。
「お金もありますから。」
「なるほど、何故かは知らんがいきなりランクを上げたくないということだけは理解した。」
誤魔化そうとしていることがバレてる⁈
「なおってないぞ、その身振り手振り。」
「あっ。すっかり忘れてました。そういえば指摘されたんでしたね。」
いやぁ、まさか同じ日に二度も同じことを指摘されるとは。
これもさっきの不必要に濃い時間が問題だと思う。
「っと、クオ達は特に用事があったわけじゃないのか?」
「あるに決まってるじゃん。コータに早く会いたかったんだよ!」
ポフッ、って音がしそうなくらい綺麗に収まったな。
なんだか日に日に飛び込んで来るのが上手くなっているような気がするが気のせいだろうか?
だがクオよ。それは果たして用事と呼ぶほどのことなのか?
「光太は分かってない。これは何にも変えられない用事。紛うことなき用事。」
「用事かどうかは分からないけど早く会いたかったのは本当よ?」
俺と同じような言い回しをするレティの頭を撫で、リルの言葉に照れくさくなる。
も、もちろんクオの言葉にも照れくさくなったぞ?ただそれ以上に可愛さが勝ってほんわかと。
あっ、リルに可愛さがないとか言っているのではなく!
な、なんというジレンマ…
「そ、そっか。俺も早く会いたかったから早めに帰ろうと思って帰る直前だったんだよ。今日はなんで早く終わったんだ?」
「それは試練のためにパーティの練度を高めるなどの時間が設けられているからですわ。学内ではできないこともあるので、任意で二時間ほど早めの下校が可能なんですわ。」
「他の子達の面目もあるから今日も一時間くらいは残ってきたところでね。今からコータ君が戻って来るまで女子会ってところだったんだよ。」
それで下校時間が早かったのか。
さっきまで不運だのなんだの言っていたが、俺の過剰意識かミランダ様がいなくなったからかそうでもなくなった。
ただ偶然が重なった結果というだけになって本当に良かった。
まあ、初っ端に少しありはしたが。
「だからラヴィとディアナもいたのか。そういや、さっきまでアイリ達がいたんだけどな。連れて来ればよかったか?」
「何かあったら連絡あるだろうし、友達といる時に会ってもお互い困るだけだから大丈夫だよ。」
そりゃそうか。
アイリ達とディアナの関係はよく分からないが、それでも友達と遊んでいる時にバッタリ親戚に出くわしたくらいの感覚なのかもしれない。
「またアイリで遊んでたの?コータもそろそろ自重しないとダメだよ?」
「クオに自重を促される日が来るなんて…末期かも。」
「それすごく失礼って分かってるかな⁈」
えー。だって、クオって自重していての行動が自重が必要なほどなんだぞ?そんなクオに促されるなんて俺はどの方向に向かってるのかって感じなんだが。
「おい、ガレスとディアナ。お前達、同じ目をしてるぞ。ディアナはそれでいいのか?」
「だってアイリ…お姉様で遊ぶって。どうしたらそんなことが出来るのか甚だ疑問だよ。」
「あんな婆さん見たくなかったぞ。」
「なあ?」「ねえ?」
あ、意気投合している。
その間のカレン様とティアの会話だが、
「ティアは混ざらなくてもいいのか?あの桃色空間に。」
「はい。コータは見ているだけでも満足できますから。ああ、でも後からたっぷりとスキンシップを取る前提の話ですけどね。」
と。
一瞬でも一番自重できているのはティアなのかもしれないなんて思った自分を殴りたい。
後から何かする気満々じゃないか。
最近リルも少しずつ染まっていっているような気もするし、もうこのメンツが自重を覚えることはないのかもしれないな。
ティアが使った魔法道具は、コータが前に渡したネックレスです。




